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ベトナムにおける「.vn」ドメイン名紛争の解決
2015年03月31日
■概要
ベトナムでは、サイバースクワッティング(ドメイン名の占拠)は知的財産法に基づく不正競争行為とされている。ベトナムの国別コードのトップレベルドメイン(ccTLD)である「.vn」には統一ドメイン名紛争処理方針(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy:UDRP)に基づく手続は存在しない。ベトナムにおけるドメイン奪還の手続きについて解説している。■詳細及び留意点
【詳細】
(1)はじめに
ベトナムでは、サイバースクワッティング(ドメイン名の占拠)は知的財産法(「知財法」)に基づく不正競争行為とされている。
ドメイン名は、ベトナム・インターネット・ネットワーク情報センター(Vietnam Internet Network Information Center : VNNIC日本における「JPNIC」に相当。)により管理されている。VNNICは、情報通信省の管理下で、インターネットドメイン名の管理、割り当て、使用の監督および促進を担っている。「.vn」のドメイン名の取得は、先着順(first come, first served)で行われる。
VNNICには、ドメイン名をめぐる紛争において決定を下す権限はなく、適切な管轄権を有する機関の裁定(取消決定など)を受け、または当事者間の交渉による和解合意、仲裁機関による裁定、調停または裁判所判決などを受け、ドメイン名の取消しを行うことしかできない。
(2)紛争解決手続き
「.vn」のドメイン名には統一ドメイン名紛争処理方針(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy:UDRP)に基づく手続は存在しない。「.vn」ドメイン名をめぐる紛争を解決するために、法は4つのルートを定めている。
(i) 交渉および調停
(ii) 仲裁
(iii) 民事訴訟
(iv) 行政訴訟
○予備的観察
・2006年情報技術法は、ドメイン名をめぐる紛争を解決する方法として交渉、調停、仲裁および民事訴訟を規定している。
・2013年に発行された産業財産権における行政義務違反の制裁措置に関する政令99/2013/ND-CP(Decree 99/2013)は、ドメイン名をめぐる紛争に対応するための行政手続を定めている。
・仲裁および裁判所による判断、特にドメイン名をめぐる紛争に関する判断は、ベトナムにおいて極めて稀である。これは裁判所の知的財産に関する知識が不足していること、および結果が出るのが遅く、裁定及び判決結果自体が不確かであることが原因となっている。
よって、「.vn」ドメイン名をめぐる紛争を解決する最も一般的なルートとして、完全に満足いくものはないが、交渉と行政訴訟が実質的に残る選択肢である。
○交渉および行政的解決
ベトナムでは、侵害行為となるドメイン名の登録取り消しを求めて、訴訟を提起するには、事前に警告状を送付し、交渉を行っていることが求められる。
交渉が不調に終わった場合、中央または省レベルで科学技術省監査局経由での訴えを提起し、行政訴訟を開始することが推奨される。
行政訴訟は通常、次のように進められる。
・ステップ1:申立書の提出
第一ステップは、侵害のすべての証拠、たとえばドメイン名および登録の詳細、登録人に関する情報、関連ウェブサイトがある場合にはその所有者の情報、当該ウェブサイトのスクリーンショットなどを添えた申立書を適切な管轄権を有する執行機関に提出する。
知的財産権の所有者は、侵害されていると主張する当該知的財産権(主に商標)が、ベトナムで広く安定的に「使用されている(used)」こと、紛争対象のドメイン名が登録されるより前に、同国で周知となり名声を得ているという事実の証拠を提出するよう求められる。
周知の状況を裏付ける証拠に加え、知的財産権所有者は、次の要素を証明するよう求められる。
・ドメイン名が登録後一年を経過した時点で使用されていない場合には、第三者(登録者)が当該ドメイン名を再販により利益を得る目的で、あるいは、知的財産権所有者による当該ドメイン名の登録を妨害する目的で登録したものであること。
・ドメイン名がウェブサイトに関連して使用されている場合には、第三者(登録者)が当該ドメイン名を知的財産権所有者の商品またはサービスと同一であるか、類似するか、関連している商品またはサービスに関して使用していること、およびその使用により知的財産権所有者の名声または重大な利益が損なわれること。
上記の証拠には、登録人との交渉、警告状および登録人からの回答の詳細も含まれる。
・ステップ2:行政当局との面談または登録権者の施設における捜査
申立書が受理された場合、適切な管轄権を有する機関は法に基づき、権利を侵害されていると主張する者と登録者の直接の面談を設定し、まずは友好的に解決するよう両当事者の説得を試みる。執行機関は、協議のために登録人との面談を複数回にわたり試みる場合がある。当事務所はこのような面談に参加するよう要請されることがある。
登録人が面談の要請に応じないか、これを拒絶する場合、執行機関は、登録人の事業所の検査を手配する判断を下すことができる。
・ステップ3:通知および処分決定の発行
面談または検査の後、現在の登録人がドメイン名を所有する権利を有していないと判断し、その登録人が登録の取り下げまたは譲渡に応じない場合、執行機関は、(i)制裁決定を発行するか、(ii)当該ドメイン名が申立人の権利を侵害しているとの書面による結論を発行することができる。この場合、執行機関は当該結論を知的財産権所有者および登録人に通知し、両当事者が合意するための条件を定める(さらに、追加の説明を行う)。
両当事者が合意に達しない場合には執行機関が当該案件に対処するものとし、執行機関は処分決定を行うことができる。
処分決定の30日後、違反当事者が登録の取り下げを行っていない場合、処分決定を下した執行機関はVNNICに対し、ドメイン名の取消しを要請することができる(この30日間の期限設定は、Decree 99/2013において新たに規定された。旧Decree 97/2010においては当該期間が1年間であった。)
(3)コメント
手続は以前に比べ、特に行政訴訟によるドメイン名の取消しを求める処分決定に対し、登録人(違反者)が1月以内の対応を求められる点において、改善されている。しかしながら、知的財産権所有者は、当該紛争に対処するよう執行機関を説得し、同機関が相応の決定を下すよう働きかけるために、手続のすべての段階において自ら密接に関与する必要がある。一般的に、行政決定を得られるまで12~18ヶ月かかる。
さらに、不明確な点も残されている。ベトナムの制度において、行政訴訟による処分決定は、ベトナム国内に拠点を有しない外国人に対し発行することができない。よって、外国人が「.vn」ドメイン名を登録しても、行政訴訟による処分定は当該違反には適用されない。また、同制度は、ベトナムのサイバースクワッター(ドメイン占拠者)であっても「通知の送達」すなわち居所の特定ができない者に対しては無力である。行政機関は裁判所と異なり、「一方的な申立による(ex parte)」事件を扱わないからである。法律の規定には、申立人が、友好的な和解期間中に登録人の変更がなされるのを防いだり、当該ドメイン名が取り消されたり別の登録人に「譲渡」されるのを防いだりするための規定は存在しない。これらの状況を打開するための解決策が検討されており、より実効的な紛争解決の手段が示されることが期待される。
■本文書の作成者
Rouse & Co. International (Vietnam) Ltd■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.01.21