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台湾における無限に連続する図案または幾何図形から成る商標の識別力に関する判例

2015年03月31日

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■概要
連続的で無限に延伸可能な図案または幾何図形から成る図案は、それが装飾図案であると消費者に誤認させやすいため、識別性を欠くことが多い。しかし、ブランド業者は市場における独占的地位を確保するため、この種の商標を出願することが多い。本事件において、智慧財産局(台湾特許庁)、訴願審議委員会(日本における審判部に相当)および知的財産裁判所の何れもが、複数の異なる単一図形より構成される商標は、たとえ個別の単一図形そのものに識別力を有していたとしても、組み合わせた後に必ずしも識別力を有するとは言えない、という見解で一致した。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)事案の概要

 松本澤国際有限公司は2013年1月7日、第18類の「革財布;革バッグ;財布;リュックサック;ウエストバッグ;靴袋;手提げ袋;旅行バッグ;買い物袋;スーツケース;キーケース;化粧ポーチ;手提げ鞄;名刺入れ;クレジットカードケース;身分証入れ;ズックリュックサック;雨傘;傘;ランドセル」を指定商品とする係争商標を台湾特許庁に出願した。

 

 台湾特許庁の審査において、係争商標は数種類の図で構成され、上記の商品を指定商品とした場合、人々に与える認知は商標外観の柄の装飾図のみであり、識別力は無いとされた。また、松本澤国際有限公司が提出した証拠資料では、係争商標が既に後天的識別力を得ているとは認めがたく、登録できないとされた。

 

 松本澤国際有限公司はこれを不服とし、訴願審議委員会に対して不服申立を行ったが、訴願審議委員会により棄却されたため、行政訴訟を提起した。その結果、知的財産裁判所は松本澤国際有限公司の訴えを認めないという103年(2014)年度行商訴字第29号判決を下し、松本澤国際有限公司の敗訴は確定した。

係争商標

係争商標

 

商標が使用されたカバン

商標が使用されたカバン

 

(2)知的財産裁判所の見解

(i)係争商標には識別力がない

 係争商標は、菱形にデザインされた柄の図4つが上下左右にそれぞれ配置され一つの大きな菱形となり、それが多数組み合わさったものである。左の柄は黒地で白色の図であり、その他は白地で黒色の図であり、上下の柄は同じである。商標全体の図はデザインが施された装飾性の図形となっており、指定商品は「革財布;革バッグ;財布;リュックサック;ウエストバッグ;靴袋;手提げ袋;旅行バッグ;買い物袋;スーツケース;キーケース;化粧ポーチ;手提げ鞄;名刺入れ;クレジットカードケース;身分証入れ;ズックリュックサック;雨傘;傘;ランドセル」である。

 

 革商品または雨傘は、線(ストライプ)、幾何学模様または柄図形を外観デザインとしていることはよく見られ、消費者は通常これを当該商品外観の装飾である柄または背景と見なし、商品を表彰する標識とは認識することはできず、他者の商品または役務と区別することはできないため、識別力を有しない。

 

 松本澤国際有限公司は、「関連企業である伊澤田國際股份有限公司は、係争商標の一部である図形を指定商品第18類とし出願し、登録されている(登録番号第1066756号、1066757号および1066758号)。係争商標は上記の図の組み合わせであるため、係争商標も識別力は備えている」等と主張した。

 

 しかし、商標に識別力があるか否かは、当該商標全体の外観が消費者に与える印象により総合判断すべきであり、商標が複数の異なる単一図形で構成され、たとえ個別の単一図形そのものに識別力があったとしても、組み合わせた後の商標は必ずしも識別力があるというわけではなく、逆もまた然りである。

 

 例えば、識別力のある単一の柄の図形複数個を、連続して無制限に並べることで組み合わせた商標を登録出願した場合、たとえ単一の柄図形に識別力があったとしても、組み合わせた後の柄は商品外観の装飾である柄または背景と消費者に見なされる可能性があるため、識別力を有しない。係争商標の一部である図形が商標登録査定されていたという証拠は、その一部の図が組み合わされた係争商標には識別力がないという判断の妨げにはならない。

 

(ii)係争商標に後天的識別力もない

 松本澤国際有限公司は、係争商標の個別の図形はいずれも独自に創作したもので、早くから登録されており、指定商品上でも大量の宣伝広告・商品販売を通じ使用してきているため、消費者に商品または役務の出所を示す識別標識であると認識させるに十分足りるなどと主張した。

 

 しかし、裁判所は「松本澤国際有限公司が提出した資料を見ると、商標が使用される手提げ袋等の指定商品の外観の柄は、係争商標だけでなく、他の柄の図形も存在することがわかる。言い換えれば、係争商標は実際に使用される革商品等の指定商品の外観模様の一部分でしかなく、他の部分と比較すると、係争商標が主要部分であるとは認め難い。松本澤国際有限公司が提出した使用資料および販売資料は、実際に使用している柄の図形と関連があるのみである。よって、松本澤国際有限公司が実際に使用している図形模様の一部分のみである係争商標は、関連消費者に深く唯一無二な印象を与え商品の出所を区別する標識であると認識させうるため、使用による識別性を獲得した、とは証明できない。例えば、消費者がある柄は有名ブランド「GUCCI」の商標であると認識したとしても、その一部分の「G」を見ただけで当該商品の出所が「GUCCI」であると連想できるわけではない。」との見解を示した。

 

 松本澤国際有限公司はさらに、「LV・GUCCI、COACH、BURBERRYはいずれも特定の柄または図形で商標登録されており、提出された使用証拠の数量も多くない」と主張した。しかし、裁判所は、「松本澤国際有限公司が挙げた例はいずれも長い歴史を有する世界的有名ブランドであり、消費者の当該ブランドに対する注目度は係争商標とは異なり、関連使用証拠が消費者に抱かせる印象および関連使用証拠とブランドの相関程度も異なる」とした。使用による識別性を獲得したと証明できるか否かは、証拠の数量により論じ得るほど簡単ではない。

 

【留意事項】

 識別性は商品または役務の出所を表示し、他人の商品または役務と区別(識別)する特性である。商標の識別性は先天的識別性と後天的識別性に分けられ、前者は商標固有のものであり、使用されることで識別性を獲得する必要はない。一方、後天的識別性を有するとは、本来識別性を有していなかったが、市場で使用された結果、それが商品または役務の出所を表示する標識であると関連消費者が認識できるようになり、識別性を獲得したことを指す。

 

 台湾特許庁公布の「商標識別性審査基準」の規定によれば、各種連続的で無限に延伸可能な図案または幾何図形から成る図案は、消費者が商品の装飾柄または商品包装の背景もしくは装飾図案であると認識するものであり、それを商品または役務の出所を表示、識別する標識とは見なさないため、識別性を欠く。しかし、出願人が当該商標を商品または役務上で長期間にわたり大量に使用した結果、それが商品または役務の出所を表示する標識であると関連消費者が認識できれば、後天的識別性を獲得する。

 

 よって、現在本件商標は未だ登録されていないが、松本澤国際有限公司が将来当該商標を指定商品上で長期間にわたり大量に使用し、当該商標が関連消費者に生じさせる印象はその出所と連結されるため後天的識別性を有するとの立証が可能な台湾での使用証拠を提出できる場合、再度当該商標登録出願を行うことができる。

■ソース
・台湾専利法
・民国103年度行商訴字第29号判決(下記URLで検索が可能)
http://jirs.judicial.gov.tw/Index.htm
■本文書の作成者
維新国際専利法律事務所 所長・弁護士・弁理士 黄 瑞賢
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期

2015.01.20

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