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台湾における商標の使用証拠に関する知的財産裁判所判例

2015年03月31日

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■概要
台湾では、商標権者が実際に使用する態様と登録商標の態様に一部相違があるため、同一性を欠くと裁判所に判断された結果、登録商標が取り消されるという事態が度々発生していた。これを受けて、知的財産裁判所は、実際に係争商標を使用していると認定できる客観事実証拠を提出すればよいとの判断を下した。したがって商標の使用態様と登録商標の態様に若干の差異がある場合でも、商取引習慣に反していなければ商標の同一性を失っていないと認定され、その証拠が客観的事実により認められれば商標使用の事実が認められる可能性がある。
■詳細及び留意点

【詳細】

 台湾商標法第63条第1項第2号において「商標登録後、正当な事由なく使用せず、または使用を停止してから3年を経過した場合、商標主務官庁は職権で、または請求により、その登録を取り消さなければならない」と規定されている。商標の使用および使用態様の同一性は商標法第5条および第64条にそれぞれ規定されている。

 

 これまで商標権者が実際に使用する商標の態様と登録商標の態様に一部相違があるため同一性を欠くと裁判所に判断された結果、登録商標が取り消されるという事態が度々発生していたが、知的財産裁判所は102年度(2013年)行商訴字第102号行政判決で新たな見解を示した。

 

 知的財産裁判所の判決は、商標権者は実際に係争商標を使用していると認定できる客観的事実証拠を提出すればよいというものである。さらに、実際に使用している商標の使用態様が登録商標の態様と若干の相違がある、または商品に商標を表示する方法が登録商標と若干異なるが、現在の商業取引習慣に反していない場合、商標の同一性を失っていないと認定される可能性があることを示した。上記判例により、商標権者の登録商標は比較的安定的に維持されやすくなると思われる。

 

(1)事件の概要

 隆亮企業社は2000年10月20日、当時の指定商品役務区分第3類の「衣類・バストイレ・キッチン用洗剤」等を指定商品とする商標「柔情(および図)」を出願し、登録された(第988838号商標;以下「係争商標」)。その後、台湾智慧財産局(台湾特許庁)は、当該商標の商標権存続期間を2022年3月15日までとする更新登録出願を認め、係争商標は更新登録された。永豐餘投資控股股份有限公司は2011年4月28日、係争商標は、改正前の商標法第57条第1項第2号(現行商標法第63条第1項第2号)に違反しているとし、台湾特許庁へ取消審判を提起した。

 

 台湾特許庁は、係争商標の指定商品の一部「自動車およびカーコーティング剤・粉・水・石鹸・フェイスクリーム・シャンプー・香水・口紅・ボディ用ソープ」等(以下、「指定商品A」)において、係争商標は不使用であるとして現行商標法第63条第1項第2号の規定に該当するとし、登録を取り消した。一方、「衣類・バストイレ・キッチン用洗剤、カビ取り用洗剤・シミ取り用洗剤・バストイレ用洗剤・タイル用洗剤・床板カーペット用洗剤・漂白剤・洗濯粉・衣類用漂白剤…」等(以下、「指定商品B」)の指定商品については、商標取消を認めないとする処分を下した(以下、「原処分」)。

 

 永豐餘投資控股股份有限公司は、指定商品Bに係る商標取消不成立を不服とし訴願(日本における不服申立に相当)を提起したが、訴願審議委員会(日本における審判部に相当)により棄却されたため行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は永豐餘投資控股股份有限公司の訴えを認めず、永豐餘投資控股股份有限公司は敗訴した(102年(2013)年度商標訴訟第102号)。

係争商標登録第988838号

係争商標登録第988838号

 

(2)知的財産裁判所の見解

(i)商標法における「商標の使用」に関する規定

 

 商標法第63条第1項第2号において「商標登録後、正当な事由なく使用せず、または使用を停止してから3年が経過した場合、商標主務官庁は職権でまたは請求によりその登録を取り消さなければならない。」と規定されている。また、商標の使用とは、「販売を目的として、商品もしくは役務と関連する物品、または平面図、デジタルマルチメディア、電子メディア、もしくはその他媒介物に商標を用い、関連消費者にそれが商標であると認識させることができることをいう」と商標法第5条で規定されている。

 

 商標権者が販売を目的とし、テレビ広告またはその他の方法で商品の販売または役務の提供を行った結果、関連消費者にそれが該当商品または役務を示す商標であると認識させた場合は、実際の販売結果は問わず、商標の使用にあたると認定しなければならない。さらに、商標権者が実際に使用している商標が登録商標とは異なっているものの、社会の一般通念上、その同一性を失っていないならば、その登録商標を使用していると認めなければならない、と商標法第64条で規定されている。

 

(ii)「商標の使用」の証明は「証拠の優越」基準によって判断される

 

 行政訴訟の目的は公益のみでなく当事者の私権をも保護することにあり、商標訴訟の多くは当事者個人の財産権に関わるものである。具体的事件の審理において、当事者双方が主張する事実および提出された証拠について比較した結果、一方当事者の提出した証拠がその信用性において他方当事者の証拠に優越し、争点となる事実につき蓋然性の高い心証の程度まで達した場合、裁判所は当該当事者が主張した事実を真実として認めなければならない。

 

(iii)商品ラベルはシールでボトルに貼り付けられているが、現在の商業取引上の習慣に違反していない

 

 永豐餘投資控股股份有限公司は、隆亮企業社の商品について調査したが、係争商標商品の市場における販売情報を見つけることができず、また「ガラス用洗剤」等の商品ラベルはいつでも印刷できる印刷物であり、その上部に意図的に「2011.3.25」と記されているが、これが本当の製造年月日であるとは認定しがたいと主張した。

 

 しかし裁判所は次のように判断した。

 「隆亮企業社より提出された「ガラス用洗剤」・「キッチン用洗剤」製品の実物写真を見ると、商品のラベルはボトル自身と一体にはなっていないが、シールをボトルに貼り付け、製造年月日をラベル上に印字している。しかし、現在市場で販売されている洗剤等商品では、製造業者や販売元が商品包装上または容器上に商品ラベルを貼り付ける、商品ラベル上に保存期限と製造年月日を印字するという方法はよく見かけるものであり、既に市場の習慣となっている。したがって、隆亮企業社が係争商標商品のラベルおよび期日を表示するのは、現在の商業取引上の習慣に違反しておらず、社会通念上における係争商標の使用との同一性を失ってはいない。」

 

(iv)実際に使用する商標と登録商標とはその使用態様が完全に同じではないが、商業取引上の習慣に基づけば、社会通念上における係争商標の使用との同一性を失っていない

 

 永豐餘投資ホールディングス株式会社は、隆亮企業社が提出した一部の指定商品の写真や輸出通関申告書等に用いられている係争商標には「柔情」という文字のみで、小さい羊の図が無い状態であり、これは後の訴訟に備えて作成された使用証拠等であることは明らかである、と主張した。

 

 しかし、裁判所は次のような見解を示した。

 「隆亮企業社は既に関連証拠を提出しており、かつその証拠はレシートや製品の実物写真、関税申告記録および輸出通関申告書等、一般販売製品状況を満たしており、本件取消審判請求日の三年前から係争商標を使用していたという事実を認めることができる。隆亮企業社は、係争商標の羊の図が無い「柔情」の文字を使用してはいるが、係争商標は既に登録されている。その輸出関連物品の使用方法は、商標使用について規定している現行商標法第5条に違反しておらず、その商標を商品に表示する位置、または商標の大きさ等、いずれも商標権者が自由に使用できる範囲に属し、社会通念上における係争商標の使用との同一性を失っていない。そして隆亮企業社は、生産した係争商標商品を他者へ販売し、さらに中国へ運送しており、その他の反対証拠で覆されることがないかぎり、隆亮企業社が係争商標を使用している事実は否定できない。」

 

 以上により、隆亮企業社は、永豐餘投資ホールディングス株式会社が係争商標に対して取消審判を請求した日の前三年以内に、「ガラス用洗剤」・「キッチン用洗剤」の指定商品に係争商標を使用したという事実が確かにあり、これら指定商品と同一または性質が同じである「衣類・バストイレ・キッチン用洗剤・衣類カビ用洗剤・衣類シミ用洗剤・バストイレ用洗剤・タイル用洗剤・床板カーペット用洗剤・漂白剤・洗濯粉・衣類用漂白剤…」等の一部の指定商品についても使用されていると思料されるため、係争商標の登録取消は不成立とされた。

 

【留意事項】

 近年の商標取消審判において、商標権者が実際に係争商標を使用していると認定できる客観的事実があれば、提出された見積書、出品書またはレシート等を総合的に比較調査した結果、系列または類似の商品を販売したと認定するに足りれば、裁判所が商標の使用を認めることが多い。

 

 使用態様の証明について厳格に要求した場合、商標権者は利害関係人による取消審判請求に備えて、商標の使用時に登録商標と同一の態様の使用証拠を常に残しておかなければならない。これでは社会一般通例に反し、逆に商取引の妨げとなりかねないからである。

 

 したがって、商標権者が実際に使用する商標の態様が登録商標の態様と少々差異があったとしても同一性を失っていない、または商品に商標を表示する方法が若干異なるが現在の商業取引習慣に反していないもので、その証拠が客観的事実により認められれば、市場取引経験に基づき商標使用の事実が認められ、商標権者の登録商標が安定維持されやすくなる状況が判例法により導かれている。

■ソース
・台湾専利法
・民国102年度(2013年)行商訴字第102号判決(下記URLで検索が可能)
http://jirs.judicial.gov.tw/Index.htm
■本文書の作成者
維新国際専利法律事務所 所長・弁護士・弁理士 黄 瑞賢
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期

2015.01.19

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