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中国におけるADR(裁判外紛争解決手続)
2015年03月27日
■概要
中国における裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution : ADR)には、司法ADR、行政ADR、民間ADRの3種類がある。ADRを利用する際には、紛争の内容に応じて、これら3種類のADRを使い分けることになる。ADRのメリットとしては、訴訟と比べて、プロセスが非公開であること、短期間で済むこと、費用が安価であること、手続きに柔軟性があり、簡便であること等が挙げられる。■詳細及び留意点
【詳細】
中国における裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution : ADR)には、司法ADR、行政ADR、民間ADRの3種類がある。ADRを利用する際には、紛争の内容に応じて、これら3種類のADRを使い分けることになる。ADRのメリットとしては、訴訟と比べて、プロセスが非公開であること、短期間で済むこと、費用が安価であること、手続きに柔軟性があり、簡便であること等が挙げられる。
(1)ADRの定義
ADRはいわゆる裁判外紛争解決手続である。ADRはアメリカを発祥とし、今日では世界各国で幅広く利用されている手続きである。ADRの定義について中国の法曹界では、2つの解釈がある。一つは、ADRは第三者が介入する非訴訟型紛争解決手続の総称であると考え、仲裁をその範囲に含むとする解釈。もう一つは、ADRは訴訟と仲裁以外での紛争解決手段の総称であると考え、仲裁はADRに含まれないとする解釈である。
(2)ADRの種類
(i)司法ADR(司法調停):裁判所(人民法院)に属するADR(Court-Annexed ADR)である。裁判所に属するADRでは、裁判官もしくは弁護士が常に立ち会う。司法ADRを取り仕切る人物が裁判官の資格を有していても、裁判官として立ち会う訳ではないため、手続きの進行上、柔軟性があるのが特徴である。
(ii)行政ADR(行政調停):国家行政機関またはそれに準ずる行政機関(律師協会、消費者協会といった公認の非政府団体)で行われるADRである。行政ADRには行政不服申立、行政調停、労働紛争仲裁などが含まれる。
(iii)民間ADR(人民調停):民間団体または民間組織(中国作家協会著作権紛争調停委員会や地域に設立された知的財産権人民調停委員会、例えば上海市浦東新区知的財産権人民調停委員会等)により行われるADRである。民間ADRは様々な局面において、多様化してきており、実際の状況を踏まえつつ、自主的かつ自律的な解決方法が模索されている。
(3)ADRのメリット
(i)非公開
ADRのプロセスは非公開であり、紛争にかかわる企業秘密、ノウハウ、プライバシー等を第三者に知られることなく、手続きを進めることができる。したがって、企業秘密等に関する紛争においては、ADRは有効な手段であると言える。
(ii)迅速性(短期間)
解決に至るまでの期間が訴訟より短いのが特徴の一つである。訴訟においては、一審でも半年以上かかる上、上訴した場合には、さらに多くの時間を要することになる。これに対し、ADRは紛争解決までの時間が短く、早期解決が期待できる。
(iii)費用対効果
訴訟に比べ、費用が安く済むことが特徴の一つである。訴訟においては、多額の費用が掛かり、当事者にとって大きな負担となり得る。ADRを利用した場合には、訴訟のように多額の費用を掛けずに、紛争解決を図ることが可能となる。
(iv)柔軟性
ADRは当事者の意向を踏まえた紛争解決を目指すことができる。訴訟に比べ、ADRは非公式的であり、敵対的なものではない。そのため、当事者の関係を悪化させることなく、以後の取引関係を維持することも可能である。
(v)簡便性
ADRには訴訟のように厳密な手続法が存在しないため、ADRの手続は訴訟より簡便である。そのため、法律の許す範囲内で、臨機応変な対応が可能である。
(4)ADRのデメリット
(i)同意が必要
当事者は相手をADRに持ち込むことに、相手の同意が必要である。言い換えれば、相手がADRに参加する義務がないため、相手がそれに参加しないことがありうるである。その場合、ADRによる解決はできない。訴訟の場合、相手の同意がなくても裁判手続が効力を発するため、訴訟による解決には相手の同意が必要ではない。
(ii)協議の効力
当事者が民間ADRにより作成した協議書は契約に該当し、契約の効力を持つ。一方で、判決書のような強制的な執行力は持っていない。
(iii)費用の予想はできない
多くの場合、ADRによる紛争解決にかかる費用は事前に予想することはできない。それと引き換えに、裁判は訴訟費用について明確な計算方法が規定されているため、費用について事前に想定することができる。
(iv)裁判を排除する
仲裁契約または仲裁条項は訴訟を排除する効果を有する。すなわち、当事者は事前に仲裁による紛争解決を約定した場合、訴訟を選択することはできなくなる。
(5)ADRの法的拘束力
ADR単独での利用のほか、訴訟や仲裁と組み合わせて利用することもできる。ADRによってなされた合意や契約書には法的拘束力がある。その合意や契約書に言及された義務の履行を怠っている義務者に対しては、当事者が裁判所に申し立てをすることにより、裁判所が義務者に対して執行を命ずることになる。
■本文書の作成者
天達共和法律事務所 陳茜■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.01.06