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韓国における商号の保護

2015年03月19日

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■概要
商号は、商人が営業に関して自己を表す名称であり、登記等の手続を経なくても使用事実だけで使用権は発生するが、登記することにより保護の範囲が広くなる。商号は、商標、特にサービスマーク(役務商標)と権利の衝突が発生する恐れが高い。韓国では、商号について主に商法の規律を受けるが、商標法、不正競争防止および営業秘密保護に関する法(日本における不正競争防止法に相当。以下、「不正競争防止法」)等に関連規定が散在している。
■詳細及び留意点

【詳細】

 商号は、商人が営業に関して自己を表す名称であり、登記等の手続を経なくても使用事実だけで使用権は発生するが、登記することにより保護の範囲が広くなる。商号は、商標、特にサービスマーク(役務商標)と権利の衝突が発生する恐れが高い。韓国では、商号について主に商法の規律を受けるが、商標法、不正競争防止および営業秘密保護に関する法(日本における不正競争防止法に相当。以下、「不正競争防止法」)等に関連規定が散在している。

 

(1)商法上の保護

 商号使用権は原則として登記なしでも使用事実に基づいて発生するが、登記された商号は、他人が同一の特別市・広域市・市・郡において同種営業の商号として登記できない(商法22条)。また、同一の特別市・広域市・市・郡において同種営業として他人が登記した商号を使用する者は不正の目的で使用するものと推定されるため(商法23条)、登記商号の保護範囲は広い。商号を登記した者が正当な理由なく二年間商号を使用しないときにはこれを廃止したものとみなされる(商法第26条)。

 

(2)商標法における保護

(i)商標権との衝突

 商標と商号は一応区別することはできるが、実取引社会においてはかなり密接な関連を有しているため、商号による商標権侵害、商標による商号権侵害等が発生する可能性が高い。

 

 商標と商号の衝突の問題として、他人が既に登記した商号を商標として登録して使用する場合や、他人が既に登録した商標を商号として使用する場合にどのような問題が起こるか留意する必要がある。

 

(ii)商標登録に対する商号の保護

 登記有無にかかわらず他人の商号を商標として登録することは原則許されるが、周知商号・著名商号は、商標法第7条第1項第6号、第9号、第10号、第12号に基づき、それと同一商標・類似商標の登録が禁止されている。

 

(iii)先使用商号の商標法上の保護

 商号権と商標権が衝突する場合、商標法第51条第1項第1号は「自己の氏名・名称または商号とこれらの著名な略称を普通に使用する方法で表示する商標については商標権の効力が及ばない」と規定することにより、商標権者と商号使用者との間に生じ得る衝突問題を解決するようにしている。

 

 ただし、本規定の趣旨は商標登録の前後を問わず商号の使用権を保証しようとするものであるが、商標権の設定登録後に不正競争を目的にこれらの商標を使用する場合には、それがたとえ登記して使用する場合であるとしても商標権の効力が及ぶようにしている(商標法第51条第3項)。

 

 これに関連して2013年改正商標法は、商号使用者を確実に保護するため、自己の氏名・商号等人格の同一性を表示する手段を商取引慣行に従い商標として使用する者であって、不正競争の目的なしに他人の商標登録出願前から商標を使用した結果、需要者に広く知られている場合には、当該商標をその使用する商品について継続使用する権利を有する(商標法第57条の3)と改正している。

 

(3)商号の不正競争防止法上の保護

 不正競争防止法第2条第1号は不正競争行為の一類型として、(i)「国内に広く認識された他人の氏名、商号、その他他人の商品であることを表示した標識と同一もしくはこれと類似したものを使用し、またはこうしたものを使用した商品を販売、頒布もしくは輸入、輸出して他人の商品と混同をさせる行為」(商品主体混同行為)と、(ii)「国内に広く認識された他人の氏名、商号、標章、その他他人の営業であることを表示する標識と同一もしくはこれと類似したものを使用して他人の営業上の施設または活動と混同をさせる行為」(営業主体混同行為)を規定している。

 

 このような不正競争行為による商号使用権の侵害により営業上の利益を侵害された者は、その禁止請求および損害賠償請求が可能である。

 

(4)商号のTRIPS協定上の保護

 TRIPS協定は特許権・意匠権・商標権・著作権等の知的財産権に関する多国間規範で、商号に関連して第16条第1項において「登録された商標の所有者は、すべての第三者が所有者の同意なく登録された商標の商品またはサービスと同一または類似の商品またはサービスについて同一または類似の標識の使用により混同の可能性がある場合、取引過程においてこの使用を禁止することができる排他的権利を有する。同一の商品またはサービスについての同一の標識の使用時混同が発生したものと推定される。上記の権利は、既存の権利を阻害することができず、使用に基づいて権利を獲得することができる可能性に影響を及ぼさない」と規定している。

 

 商標権はその商標権の発生前に存在していた権利、すなわち、商標権の登録時点よりも先に使用していた標識の使用についてその使用することができる権利を侵害することができず、商標権はそのような使用に基づいて権利を獲得することができる可能性の障害にならないという趣旨である。

 

 商号に関連して、先登録された商標と同一または類似の商号の商標的な使用は商標権侵害が成立し得るが、商号がその使用により発生した商号権が登録商標の登録前から存在していた場合には商号権に基づく商号の使用について商標権の効力が及ばないという趣旨と解釈される。

■ソース
・韓国商標法
・韓国商法
・韓国不正競争および営業秘密保護に関する法律
・TRIPS協定
■本文書の作成者
中央国際法律特許事務所 弁理士 孫英太
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期

2015.01.28

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