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中国における税関による差押え事例
2014年07月15日
■概要
中国で輸出入されている商品の中に知的財産権侵害製品も含まれており、中国から侵害品が国際市場に流出することが避けられない状況にある。このような状況において、手続の迅速性、有効性から、税関による知的財産権の保護がますます重視されるようになってきている。本稿では差押え事例を2件紹介し、税関による知的財産保護の役目とその効果について概観する。■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 上海税関が「PHILIPS」商標権を侵害する車両用ハロゲンランプを摘発した事例
常州市明皓国際貿易有限公司(以下、明皓国際社という)は2010年12月15日、1ロットの車両用ハロゲンランプの輸出について税関に申告した。
税関は、当該ロット貨物のうち、107箱25,948個の車両用ハロゲンランプに「PHILIPS」商標と類似した「PHILIPS Materials」標章が使用されていることを発見し、ロイヤルフィリップスエレクトロニクス(以下、フィリップス社という)が税関総署に登録していた「PHILIPS」商標権を侵害している疑いがあると判断し、同年12月17日、当該ロット貨物の通関を中止し、かつ、この状況について書面でフィリップス社に通知した。
フィリップス社は税関からの通知を受領した後、当該車両用ハロゲンランプが自社の商標権を侵害していると判断し、同年12月22日に、上海税関に対して貨物差押えを申請した。上海税関は2011年1月18日、当該ロット貨物を差押えた。
税関は、調査を経て、明皓国際社が商標登録人の許諾を得ずに自社が輸出する車両用ハロゲンランプにフィリップス社の登録商標と類似する標章を使用した行為は、他人の商標権を侵害している貨物の輸出行為に該当すると認定し、中国商標法第52条第(1)号と中国税関行政処罰実施条例第25条第1項に基づいて、2011年9月19日に、当該ロット侵害貨物を没収すると同時に、明皓国際社に罰金7,000元を科すことを決定した。
(2) 青島税関が偽造「VIAGRA」、「CIALIS」薬品を郵送ルートで差押えた事例
青島税関に従属している煙台税関郵便局出張所の担当者は、EMS国際郵便物を監督・管理した際に、申告品名が「プラスチック製品」で荷受人住所が米国である6箱の物品の中に、「VIAGRA」、「CIALIS」等の標章が印字された2口の18,852粒の顆粒状の薬品が入っているものを発見し、仮差押えを行った。
そして、権利者の確認により、差押えられた薬品はいずれも登録商標を詐称する製品であることが判明した。
当該事件の発生後、青島税関は、煙台市公安局に通報の上、本件を移送した。その結果、公安機関は、税関との緊密な連携によって、容疑者1名が逮捕された。2012年1月17日、煙台市芝罘区裁判所は、法に基づき被告人周某氏に対して、偽造登録商標の商品販売罪を認定し、懲役1年、執行猶予1年及び罰金6万元を科す判決を下した。
【留意事項】
税関による知的財産権の保護の範囲は中国全土の各地方税関に及んでおり、かつ、保護申請の手続が比較的簡単で時間もかからないうえに一定の効果があることから、国内外の知的財産権者による利用が増えてきている。侵害製品の輸出入が増大するにつれて知的財産権者が受ける損害もますます拡大していることから、税関による知的財産権の保護を強化すると同時に、税関による摘発を通して侵害製品の輸出入を効果的に抑止することは、知的財産権者の権利を保護するために重大な意義を有すると言える。
税関の差押え手続には、請求による差押え手続(侵害を発見した権利者が税関に請求して行われる差押え)と職権による差押え手続(権利者により税関登録が行われている知的財産権を侵害すると税関が判断した場合に権利者に通知し、これを受けた権利者による申請により行われる差押え)があるが、より効果的に税関による知的財産の保護を受けるためには、中国税関総署に保護を受けたい知的財産権の登録を行うことが必要である。
また、企業が直接、税関職員に真贋判定方法や模倣品取扱業者等を伝える機会(真贋判定セミナー)も設けられている。登録を行うだけでなく、積極的にこのようなセミナーを利用することも、税関における模倣品取締り効果を高めるために有効である。
なお、両差押え手続、税関登録の手続、必要書類等については、本データバンク掲載コンテンツ「中国における模倣品の行政的救済の概要」を参照いただきたい。
■ソース
・中国商標法・中国税関行政処罰実施条例
・中国税関知識産権保護状况及備案名録(2012年版)
・模倣対策マニュアル 中国編(2013年、日本貿易振興機構)129頁
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2013/12/1b48f661f1dfa86022e02a8ee91555dd.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2014.01.23