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韓国の不正競争防止法について
2024年06月18日
■概要
韓国での不正競争防止法の法律名は「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(以下、「不正競争防止法」という。)といい、この法律は、国内に広く知られた他人の商標・商号等を不正に使用する等の不正競争行為と他人の営業秘密を侵害する行為を防止して、健全な取引秩序を維持するために制定されたものである。主に未登録商標、および未登録意匠が他人に不正に使用された場合に、この法律を利用して対応することが可能である。本稿では、不正競争防止法における不正競争行為と営業秘密行為の定義を扱い、これらの行為への対応と関連する裁判例を紹介する。■詳細及び留意点
1.「不正競争行為」の定義
不正競争防止法で定める「不正競争行為」とは、次のようなものをいう(不正競争防止法第2条第1項)。なお、以下の説明は規定内容の把握を容易にするために簡略化した記載としており、また、法律改正で条文が変わる可能性もあるため、最新情報は【ソース】記載の「韓国不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(日本語)を参照されたい。
(イ) 正当な事由なく国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他に他人の商品であることを表示した標識と同一もしくは類似するものを使用し、またはこのようなものを使用した商品を販売・頒布、または輸入・輸出して他人の商品と混同させる行為
(ロ) 正当な事由なく国内に広く認識された他人の氏名、商号、標章、その他に他人の営業であることを表示する標識と同一または類似するものを使用して、他人の営業上の施設または活動と混同させる行為(上記、営業であることを表示する標識は、商品販売・サービス提供方法または看板・外観・室内装飾等の営業提供場所の全体的な外観も含む。)
(ハ) (イ)または(ロ)に規定する混同させる行為の外に非商業的使用等、大統領令で定める正当な事由なしに国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他に他人の商品または営業であることを表示した標識と同一か、または類似するものを使用し、もしくはこのようなものを使用した商品を販売・頒布、または輸入・輸出して他人の標識の識別力や名声を損傷する行為
(ニ) 商品やその広告によって、または公衆が分かり得る方法で取引上の書類、または通信に偽りの原産地を標識し、このような標識をした商品を販売・頒布、または輸入・輸出して原産地を誤認させる行為
(ホ) 商品やその広告によって、または公衆が分かり得る方法で取引上の書類、または通信にその商品が生産・製造、または加工された地域外の所で生産、または加工されたように誤認させる標識をし、このような標識をした商品を販売・頒布、または輸入・輸出する行為
(ヘ) 他人の商品を詐称し、または商品もしくはその広告に商品の品質、内容、製造方法、用途、または数量を誤認させる宣伝、または標識、このような方法や標識として商品を販売・頒布、または輸入・輸出する行為
(ト) パリ条約同盟国、世界貿易機構加盟国、商標法条約締約国のうち、いずれか一つの国に登録された商標、またはこれと類似する商標に関する権利を有する者の代理人や代表者、またはその行為日前1年以内に代理人や代表者だった者が、正当な事由なしに該当の商標をその商標の指定商品と同一か類似する商品に使用し、その商標を使用した商品を販売・頒布または輸入・輸出する行為
(チ) 正当な権原がない者が、正当な権原がある者、または第三者に販売し、商業的利益を得る目的等で国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、その他の標識と同一か類似するドメイン名を登録・保有・移転または使用する行為
(リ) 他人が製作した商品の形態(形状・模様・色彩・光沢、またはこれらを結合したことをいい、試作品または商品紹介書上の形態を含む。)を模倣した商品を譲渡・貸与、またはこのための展示をしたり輸入・輸出する行為(ただし、商品の試作品製作など商品の形態が備えられた日から3年が過ぎた商品の形態、または他人が製作した商品と同種の商品が通常的に有する形態を模倣した商品を譲渡・貸与、または、このための展示をしたり輸入・輸出する行為は除外される。)
(ヌ) 事業提案、入札、公募等の取引交渉、または取引過程で経済的価値を有する他人の技術的、または営業上のアイディアが含まれた情報をその提供目的に違反して自身、または第三者の営業上の利益のために不正に使用したり、他人に提供して使用するような行為(ただし、アイディアの提供を受けた者が提供を受ける当時に既にそのアイディアを知っていたり、そのアイディアが同種業界で広く知られていた場合には、この限りでない。)
(ル) データ、つまり「データ産業振興および利用促進に関する基本法」第2条第1号によるデータのうち、業として特定人または特定多数に提供されるもので、電子的方法で相当量の蓄積・管理されており、秘密として管理されていない技術上または営業上の情報を不正に使用する行為
(ヲ) 国内に広く認識され経済的価値を持つ他人の声明、肖像、音声、署名等、その他人を識別できる表示を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為
(ワ) その他に、他人の多額の投資や努力で作られた成果等を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自己の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為
2.「営業秘密」の定義
「営業秘密」とは、「公然と知られておらず、独立した経済的価値を有するものであって、秘密に管理された生産方法、販売方法、その他営業活動に有用な技術上または経営上の情報をいう」と定めている(不正競争防止法第2条第2項)。
3.「営業秘密侵害行為」の定義
営業秘密の「侵害行為」とは、次のような行為をいう(不正競争防止法第2条第3項)。
(イ) 窃取、欺罔、脅迫、その他不正な手段で営業秘密を取得する行為、またはその取得した営業秘密を使用し、もしくは公開する行為
(ロ) 営業秘密に対して不正取得行為が介入された事実を知り、もしくは重大な過失により知らずにその営業秘密を取得する行為、またはその取得した営業秘密を使用し、公開する行為
(ハ) 営業秘密を取得した後にその営業秘密に対して不正取得行為が介入された事実を知り、または重大な過失により知らずにその営業秘密を使用し、公開する行為
(ニ) 契約関係等によって営業秘密を秘密として維持すべき義務がある者が、不正な利益を得たりその営業秘密の保有者に損害を与える目的でその営業秘密を使用したり公開する行為
(ホ) 営業秘密が上記(ニ)によって公開された事実、もしくはそういう公開行為が介入された事実を知り、または重大な過失により知らずにその営業秘密を取得する行為、またはその取得した営業秘密を使用し公開する行為
(ヘ) 営業秘密を取得した後に、その営業秘密が上記(二)によって公開された事実、もしくはそういう公開行為が介入された事実を知り、または重大な過失により知らずにその営業秘密を使用し公開する行為
4. 不正競争行為及び営業秘密侵害行為の民事上救済手段
(1) 侵害禁止請求権
・不正競争行為等の禁止請求権等
不正競争行為や「自由貿易協定により保護する地理的表示の使用禁止等」(第3条の2第1項または第2項)に違反する行為により自身の営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、違反する行為をしようとする者に対して、裁判所にその行為の禁止または予防を請求できる(不正競争防止法第4条)。
・営業秘密侵害行為に対する禁止請求権等
営業秘密の保有者は、営業秘密の侵害行為をしようとする者に対して、その行為によって営業上の利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合には、裁判所に侵害行為を造成した物の廃棄、侵害行為に提供された設備の除去、その他侵害行為の禁止または予防のために必要な処置とともに請求できる。(不正競争防止法第10条)
ただし、不正競争行為および営業秘密侵害行為の禁止または予防を請求できる権利は、その不正競争行為を行った者を知った日から3年間行使しなければ時効の成立により消滅し、その不正競争行為が始まった日から10年が過ぎたときも同じである(不正競争防止法第4条第3項、第14条)。
(2) 損害賠償責任
・不正競争行為等に対する損害賠償責任
故意または過失による不正競争行為や第3条の2第1項または第2項に違反した行為(第2条第1号ハの場合は、故意による不正競争行為のみをいう。)として他人の営業上の利益を侵害し、損害を被らせる者は、その損害を賠償する責任を負わなければならない(不正競争防止法第5条)。
・営業秘密侵害に対する損害賠償責任
故意または過失による営業秘密侵害行為で営業秘密保有者の営業上の利益を侵害し、損害を被らせる者は、その損害を賠償する責任を負わなければならない(不正競争防止法第11条)。
裁判所は、第2条第1号ヌの行為および営業秘密侵害行為が故意によるものと認められる場合には、損害として認められた金額の3倍を超えない範囲で賠償額が決められる(不正競争防止法第14条の2第6項)。
(3) 信用の回復
・不正競争行為等で失墜された信用の回復
裁判所は、故意(または過失)による不正競争行為や自由貿易協定により保護する地理的名称等(不正競争防止法第3条の2第1項または第2項)に違反した行為により他人の営業上の信用を失墜させた者には、不正競争行為等違反した行為により、自身の営業上の利益が侵害された者の請求による損害賠償に代え、または損害賠償とともに営業上の信用を回復するのに必要な措置を命じることができる(不正競争防止法第6条)。
・営業秘密保有者の信用回復
裁判所は、故意または過失による営業秘密侵害行為で営業秘密保有者の営業上の信用を失墜させた者には、営業秘密保有者の請求により損害賠償に代え、または損害賠償とともに営業上の信用を回復するのに必要な措置を命じることができる(不正競争防止法第12条)。
5. 不正競争行為及び営業秘密の刑事上処罰
(1) 不正競争行為(ドメインネーム等一部除外)を行なった者、または国旗・国章等の使用禁止(不正競争防止法第3条)の規定に違反してパリ条約同盟国、世界貿易機構加盟国、または商標法条約締約国の国旗・国章その他の徽章、国際機構の標識と同一であるか類似するものを商標として使用した者は、3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処する(不正競争防止法第18条第4項)。
(2) 営業秘密を無断で流出する行為、不正な手段で取得使用する行為をした者は、10年以下の懲役または5億ウォン以下の罰金に処する。または、営業秘密を外国で使用し、外国で使用されるものであることを知りながら上記の該当する行為をした者は、15年以下の懲役または15億ウォン以下の罰金に処する。ただし、罰金刑に処する場合、違反行為による財産上の利益額の10倍に該当する金額が5億ウォンを超過する場合は、その財産上の利益額の2倍以上10倍以下の罰金に処する(不正競争防止法第18条第1項、第2項)。
(3) 法人の代表者、法人または個人の代理人、使用人、その他の従業員が、その法人または個人の業務に関して法則(第18条第1項から第4項)のうちいずれか一つに該当する違反行為を行ったときば、その行為者を罰するほかに、その法人または個人にも該当条文の罰金刑を科する。ただし、法人または個人がその違反行為を防止するために該当業務に関して相当な注意と監督を怠らなかった場合には、この限りでない(不正競争防止法第19条)。
6. 裁判例紹介
日本企業が韓国でビジネスを行おうとする際に、第三者の侵害行為の排除、あるいは他人の権利に対する侵害を回避する観点から参考になると考えられる近年の裁判例を以下に紹介する。
(1) デザイン権侵害禁止等
[特許法院2020.12.11.宣告、2020ナ1018判決:(確定)]
デザイン権者の甲が乙株式会社等を相手に、甲の製品形態を模倣した製品を輸入・販売し、不正競争防止法第2条第1号リで定める不正競争行為をしたとして、製品の生産禁止、廃棄等と損害賠償を求めた事案である。登録デザインの登録を無効にするという審決が確定したため、甲のデザイン権は、デザイン保護法第121条第3項本文により最初から無かったものと見なければならず、甲の製品は、その形態的特徴が同種商品において従来から採用されてきた形態あるいは同種の商品であれば、多くある個性がない形態等に該当するので、不正競争防止法第2条第1号リによって保護される商品形態に該当すると見ることはできないという理由で、裁判所は甲の主張を全て排斥した。
(2) 標章使用禁止請求
[ソウル高法2020.6.18.宣告、2019ナ2047941判決:(確定)]
登録商標権者である甲会社が、乙会社を相手に、登録商標の「VIVID」部分が分離観察・認識が可能な要素であり、乙会社が甲会社の登録商標と同一の標章を使用して商品を販売した行為が不正競争防止法第2条第1項イで定める不正競争行為に該当するという理由から標章使用禁止を求めた事案において、「VIVID」が甲会社の商品標識として独自の周知性を獲得したとみなし難いため、乙会社の行為が不正競争行為に該当しないとした事例である。
(3) 標章使用禁止等
[特許法院2018.10.26.宣告、2017ナ2677判決:(上告取下げ)]
乙会社が、国内に広く知られた標識である登録商標と類似した標章を紅参製品に表示して製造・販売する行為は、需要者や取引者にとって甲会社の商品と混同させる行為として、不正競争防止法第2条第1号イに定める不正競争行為に該当するとした事例である。
(4) 産業技術の流出防止及び保護に関する法律違反・業務上の背任
[大法院2018.7.12.宣告、2015ド464判決]
旧不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(2013.7.30.法律第11963号に改正される前のもので、以下、「旧不正競争防止法」という。)違反に対する上告理由において、旧不正競争防止法第18条第1項違反の罪は、故意の他に「不正な利益を得て企業に損害を加える目的」を犯罪成立要件とする目的犯であることが主張された。裁判所は、その目的があったかどうかは、被告人の職業、経歴、行為の動機及び経緯と手段、方法、そして営業秘密保有企業と営業秘密を取得した第三者との関係等、様々な事情を総合して社会通念に照らし合理的に判断しなければならないとした(大法院2007.4.26.宣告、2006ド5080判決、大法院2017.11.14.宣告、2014ド8710判決等参照)。
(5) 不正競争行為禁止請求の訴え
[大法院2016.10.27.宣告、2015ダ240454判決]
透明なカップまたはコーンに盛られたソフトアイスクリームの上に蜂巣蜜(蜂の巣そのままの状態である蜜)を乗せたかたちをした甲株式会社の製品が、不正競争防止法第2条第1号リによる保護対象であるのかが問題になった事案において、裁判所は、甲会社の製品は、個別製品ごとに商品形態が異なり一定の商品形態を常に有していると見るのが難しく、上記規定による保護対象になり得ないとした事例である。
不正競争防止法第2条第1号リに規定する模倣の対象としての「商品の形態」の意味、およびこれを備えるための要件/商品の形態を構成するアイディアや着想または特徴的模様や機能等の同一性はあるが、商品に一貫した定型性がない場合、「商品の形態」を模倣した不正競争行為の保護対象に該当できないと裁判所は判断した。
7. 留意事項
(1) 商標法、意匠法等によって登録を受けていない知的財産が不正に使用された場合には、本法を用いて対応することが考えられる。例えば、商標法により登録を受けていない標章が他人に不正に使用された場合や、商品を製作して3年以内に当該商品の形状を第三者が模倣して販売し、輸出入した場合等である。しかしながら、「国内での広い認識」、「他人の商標との誤認混同」などの要件を満たしていることを立証することが難しいことが多い。したがって、確実に自己の権利を守り、行使するためには、不正競争防止法のみに頼るのではなく、商標法、意匠法等により権利を取得することが重要である。
(2) ここでは、韓国の不正競争防止法における不正競争行為と営業秘密行為の定義を扱い、これらの行為への対応のみを簡単に紹介したもので、内容の詳細については、【ソース】に掲載した「営業秘密管理マニュアル(JETRO)」(下記の関連記事も参照)を参考にされたい。
関連記事:「韓国における営業秘密管理マニュアル」(2023.08.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/34706/
■ソース
・韓国不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律https://www.choipat.com/menu31.php?id=20(日本語)
https://www.law.go.kr/법령/부정경쟁방지및영업비밀보호에관한법률(韓国語)
・韓国不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律施行令
https://www.choipat.com/menu31.php?id=21(日本語)
https://www.law.go.kr/법령/부정경쟁방지및영업비밀보호에관한법률시행령(韓国語)
・営業秘密管理マニュアル(2022年2月、日本貿易振興機構(JETRO))
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/notice/2021/49071df8d62c689c.html
・総合法律情報
http://glaw.scourt.go.kr/
※上記サイトにて、本稿中に事件番号で記載した各大法院判決が検索可能である。このサイトの使い方については、下記の関連記事を参照されたい。
韓国の判例の調べ方
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/precedent/13872/
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.02.01