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(台湾)川上・川下企業の専利権侵害連鎖での損害賠償責任

2013年09月17日

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■概要
川上・川下企業がそれぞれ製造、販売行為により専利権を侵害したとき、権利侵害が連鎖した状態となる。このような状況において川上・川下企業は連帯して損害賠償責任を負わなければならないかという問題につき、現行台湾専利法では特に規定されておらず、台湾民法第185条の「共同権利侵害責任」に基づき、判断することになる。川上・川下企業における連帯した損害賠償責任と損害賠償の算定基準などは、専利権侵害連鎖訴訟の重要争点の一つである。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)専利法の損害賠償額の算定方法についての規定

(i)  2011年改正専利法(以下、「改正専利法」という)第97条

 損害賠償を請求する場合、次の各号の一つにより損害額を計算することができる。

一、民法第216条の規定による。但し、その損害を証明する証拠方法を提供できない場合、特許権者はその特許権を実施することにより通常得られたであろう推定利益から侵害後に同一の特許権を実施することにより得た利益を差し引いた差額を損害額とすることができる。

二、侵害者が侵害行為により得た利益。

三、特許が実施許諾される場合の実施料に相当する額を、特許権者が受けた損害とする。

 

(ii) 民法第185条

 複数の者が共同して他人の権利を侵害する不法行為を行った場合、それらの者は当該不法行為により生じた損害につき、連帯して賠償責任を負う。教唆者又は幇助者は、共同行為者とみなす。

 

(2)上述の法律規定である損害賠償の算定基準に関し、川上・川下企業が権利侵害品を製造又は販売したとき、当該企業は民法第185条により損害賠償責任を負わなければならないのか、又、原告が改正専利法第97条第2号をもって主張しようとする場合、損害賠償額の算定につき、川上・川下企業の得た利益を個々に算定するのか、或いは両者が得た利益を合算し、川上・川下企業が連帯して損害賠償責任を負うのかが主な争点になり、これらについて争われた近年の判例を紹介する。

 

(i)智慧財産法院2010年12月21日付民国第98年度民専訴字第136号判決

 本件において、裁判所は川上・川下企業双方には「行為に共同と関連する部分がない」と判断したため、両者は連帯して損害賠償責任を負うことはないと判示した。このため、川上・川下企業は専利法第97条第2号により、個々に得た利益を損害賠償額として算定することとなった

 判決概要は下記のとおりである。

 

(a)連帯責任についての解釈

 複数の者が共同して過失により他人の権利を侵害する不法行為を行った場合、法律により連帯して賠償責任を負う。各過失行為がどれも損害を生じさせる共通の原因となっていた場合、即ちその行為には共同と関連があるので、共同不法行為が成立する旨が、最高法院66年台上字第2115号、67年台上字第1737号判例に明記されている。したがって、専利権侵害事件では、各不法行為者の行為がどれも損害を生じさせる共通の原因によるものである場合、彼らの間で共同不法行為が成立するため、各不法行為者は連帯して損害賠償責任を負わなければならない。反対に、各不法行為者にそれぞれ不法行為が成立し、それらの行為が損害を生じさせる共通の原因によるものでない場合、当該行為者等に連帯して責任を負わせる必要はない。

 

(b)川上・川下企業に連帯責任はない。

 被告であるA社は、係争製品を製造販売した。係争製品を第三者に販売したとき、不法行為が既に成立しており、専利権侵害の損害賠償責任を負うべきことは言うまでもないが、その後、第三者が再び係争製品を他人に販売した場合、当行為は新たな不法行為を構成し、同一事由とはならない。このため、被告A社が係争製品を製造、販売した行為と第三者である被告B社及びC社が被告A社より係争製品を購入し、その後係争産品を関連消費者に販売した行為は、個々に係争専利を侵害する原因があるため、両者の権利侵害は同一事由によるものではない。したがって、損害を生じさせる共通の原因がないと言える。

 

(c)各自で得た利益を算定する。

・製造者

 被告であるA社が係争産品を販売した総額は計26万台湾ドル(内訳:2008年9,000台湾ドル+2008年92,750台湾ドル+2009年9,000台湾ドル+2009年110,250台湾ドル+2010年18,000台湾ドル+2010年21,000台湾ドル)。被告A社は、そのコストと必要な費用について立証しなかったため、係争製品の販売による収入(売上高)の全額を得た利益とみなす。

(注記:2011年改正前の専利法第85条第1項第2号では、侵害者が侵害行為により得た利益について、「そのコスト又は必要経費について立証できない場合、当該物品の販売による収入の全額を利益とみなす」旨が定められていたが、2011年の法改正(2013年1月1日施行)により削除された)。

 

・販売者

 被告であるB社が係争製品を販売して得た利益よりコストを差し引いた差額、即ち係争専利権侵害行為により得た利益は5,357台湾ドルである(内訳:19,757台湾ドル-14,400台湾ドル)。

 

(ii)智慧財産法院2010年5月20日付民国第98年度民専上字第6号判決

 本件では、被告等が同一のサプライ・チェーンの川上・川下に属し、係争専利権を侵害する製品を製造、販売し、これらの「製造、販売行為に共同関連する部分」があることから、連帯して損害賠償責任を負わなければいけないと判示された。また、連帯損害賠償額を算定する際は、製造者及び販売者が各自得た利益を「合算」すべきであり、ここで、製造者の得た利益とは、製造者が被告以外の販売者に実施許諾したときに得た利益も含むとされた。

判決内容は下記のとおりである。

 

(a)連帯責任についての解釈

 川上・川下の両社は異なる専利権侵害行為を行っているものの、各社の行為はいずれも損害を生じさせる共通の原因によるものであり、共同不法行為が成立する。このため、民法第185条第1項前段により、被害者に対し、連帯して損害賠償責任を負わなければならない。

 

(b)川上・川下企業に連帯責任がある。

 本件では、被上訴人であるD社が注文を受け、同じく被上訴人であるE社が係争権利侵害製品の製造を担当しており、本件被上訴人D社とE社は製造、販売行為に共同と関連する部分があり、上訴人に対し、連帯して損害賠償責任を負わなければならない。

 

(c)川上・川下企業の得た利益を合算する。

 本件の被上訴人であるD社(販売者)、E社(製造者)の係争権利侵害製品の販売金額は、それぞれ30,010台湾ドルと455,461台湾ドルであり、同業の利潤基準表に示めされた10%の純利益により計算すると、上訴人が被上訴人の不法行為により喪失した利益の損害額は48,547台湾ドルである(内訳:[30,010+455,461]×10%=48,547台湾ドル)。また、本裁判所は、被上訴人D社、E社の権利侵害の具体的な状況により、専利法第108条に同法第85条第3項を準用した規定に従い、損害賠償額を2.5倍と定めた。よって上訴人が被上訴人D社とE社に請求できる損害賠償額は121,368台湾ドルとなった(内訳:48,547×2.5=121,368台湾ドル)。

 

【留意事項】

(1)上述の二件の判例は、権利侵害行為を行った業者の損害賠償額の計算方法が異なる。前者の損害賠償額は権利侵害者に比較的有利で、後者は反対に権利侵害者に不利である。今日の台湾の実務においては、未だ確定する見解はないが、専利権侵害を理由に訴えられた場合は、前者の防御方法により損害賠償額を少なくする戦略も考えられる。

 

(2)例えば材料とパーツの輸入購入時、又は製品の購入時の各段階で、川上側と権利非侵害保証の契約を締結することによって、当該企業が訴えられた場合に、製造者或いは販売者が連帯して川上・川下の得た利益の全額の賠償をすることを回避し、専利権者に対する損害賠償責任の負担を軽減させることができる。

■ソース
・台湾民法
・台湾専利法
・智慧財産法院2010年12月21日付民国第98年度民専訴字第136号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=98%2c%e6%b0%91%e5%b0%88%e8%a8%b4%2c136%2c20101221%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=98&jcase=%e6%b0%91%e5%b0%88%e8%a8%b4&jno=136&jdate=991221&jcheck=2 ・智慧財産法院判決2010年5月20日付民国第98年度民専上字第6号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=98%2c%e6%b0%91%e5%b0%88%e4%b8%8a%2c6%2c20100520%2c3&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=98&jcase=%e6%b0%91%e5%b0%88%e4%b8%8a&jno=6&jdate=990520&jcheck=3
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2013.1.25

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