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ブラジルにおけるライセンス・オブ・ライト(実施許諾用意制度)
2023年04月27日
■概要
ブラジルでは、特許を実施許諾(ライセンス)することができるが、ライセンス・オブ・ライト制度(実施許諾用意制度)を利用すれば、ブラジル産業財産庁(Instituto Nacional da Propriedade Industrial:INPI)に支払う登録維持年金料を半額にすることができる。ブラジルにおける実施許諾用意制度について解説する。■詳細及び留意点
〔詳細〕
ライセンス・オブ・ライト(License of Right:LOR)と呼ばれる実施許諾用意制度とは、特許権者あるいは特許出願人が、当該特許について第三者への実施許諾を拒否しないことを宣言することによって、特許料の減額を受けられる制度である。ブラジル産業財産法(以下「産業財産法」という。)第64条から第67条に規定されており、LOR宣言を行えば、許諾用意の申出から最初のライセンス許諾までの期間について、登録維持年金料が半額になる。
(1)LORの流れ
LORの申請は、所定の申立書のフォーマット(FQ002)に従い、INPIに申請する。手数料は115レアル(約2,900円)となる(INPI料金表Code218:https://www.gov.br/inpi/en/costs-and-payment/TabelaPatentesinglsapsalteraesCGRECincpapelpct.pdf)。
LORの申請が提出されたら、INPIにより、様式について審査が行われる。様式についての審査では、様式およびその他の要件についても確認される。たとえば、専用実施権の対象となっている特許については、LORの対象とすることはできない(産業財産法第64条(3))。既に通常実施権の対象となっている特許の場合は、当該特許はLORの対象になり得るが、登録維持年金料の減額については認められない(ブラジル特許規則(以下「特許規則」という。)8.2)。また、特許権者がLORの申請をする際には、以下の必須事項を明確に説明しなければならない(特許規則8.4.1)。
(i) 実施料
(ii) 支払に関する時間的な条件
(iii) 支払に関するその他の条件
(iv) 実施権の範囲
(v) ノウハウの利用可能性
(vi) 技術的支援
(vii) その他の条件
様式についての審査が行われた結果、上記の必須情報が明確に記載され、その他の問題がなければ、INPIはLOR宣言を公告する(産業財産法第64条(1))。LOR宣言の公告は、少なくとも半年に一度行われる。公告の際に、「登録番号」、「登録人」、「存続期間」、「タイトル」、「実施許諾の期間」が記載される。公告が行われた後、公告日から最初のライセンスが結ばれるまでの期間、登録維持年金料が半額になる(産業財産法第66条)。
INPIは、第三者からライセンス提供の要求があった場合に、特許権者が提示したLOR宣言(上記の必須事項)の書類全てをライセンス要求者に提供し、要求があった旨を特許権者に通知する(特許規則8.7)。
(2)LORの条件について
ライセンスの条件は当事者の合意により定められる。
ライセンス提供の要求があった旨の通知から最大180日間(当初60日間、その後60日間の延長が2回可能)以内に交渉し、実施権の設定をするか否かをINPIに対して報告しなければならない。報告が無い場合には、登録維持年金料の減額を受けることができなくなる(特許規則8.7.1)。
また、特許権者は、ライセンスの申出者がLORの条件を受諾するまでは、何時でもそのLOR宣言を取り下げることができる(産業財産法第64条(4))。取り下げた場合には、登録維持年金料の減額を受けることができなくなる。
特許権者とライセンスの申出者との間で、対価についての合意が成立しなかったときは、両当事者はINPIに対し、その対価の裁定を求める申請をすることができる(産業財産法第65条、特許規則8.9)。裁定を行うために、INPIは委員会の設置を含めて必要な調査を行う。なお、当該委員会にはINPIに属さない専門家を含めることができる(産業財産法第73条(4))。
対価が設定されてから1年が経過したときは、それを改訂することができる。改訂について合意が成立しないときにはINPIに対し、その対価の裁定を求める申請をすることができる。(産業財産法第65項(2))
(3)LORの取消し
特許権者は、関係当事者が許諾用意の条件を明示的に受諾するまでは、何時でもその許諾用意を取り下げることができ、取り下げた場合は、第66条の規定(年金の減額に関する規定)は適用しない(産業財産法第64条(4))。
しかし、特許権者は実施権者がライセンス許諾日から1年以内に実施を開始しなかった場合、または実施が1年を超える期間中断された場合、あるいは実施条件が満たされなかった場合は、ライセンスの解除を請求することができる。(産業財産法第67条)
また、当事者の合意により、ライセンス契約を終了させることも可能である。
ブラジル産業財産法第8章第2節 第64条 特許の所有者は、INPIに対し、その特許の実施許諾用意を進めるよう求めることができる。 (1) INPIは、当該許諾用意を公告するものとする。 (2) 特許所有者が当該許諾用意を取り下げない限り、排他的任意ライセンスはINPIに登録することができない。 (3) 排他的任意ライセンスが締結されている特許は、実施許諾用意の対象とすることができない。 (4) 特許所有者は、関係当事者が許諾用意の条件を明示的に受諾するまでは、何時でもその許諾用意を取り下げることができ、取り下げた場合は、第66条の規定は適用しない。 第65条 特許所有者と実施権者との間で合意が成立しなかったときは、両当事者はINPIに対し、その対価の裁定を求める申請をすることができる。 (1) 本条の適用にあたっては、INPIは、第73条(4)の規定に従うものとする。 (2) 対価が設定されてから1年が経過したときは、それを改訂することができる。 第66条 許諾用意の対象である特許に対しては、許諾用意の申出から最初のライセンス許諾(ライセンスの方式を問わない。)までの期間について、その年金を半額に減額する。 第67条 特許所有者は、実施権者が許諾日から1年以内にライセンスの有効な実施を開始しなかった場合、または実施が1年を超える期間中断された場合、または実施条件が満たされなかった場合は、ライセンスの解除を請求することができる。 |
〔留意点〕
・既に通常実施権の対象となっている特許権については、当該特許はLORの対象になり得るが、登録維持年金料の減額は認められない。
・特許権者は毎年LORを更新し、LOR宣言に関わる条件(必須事項)を確認しなければならない(特許規則8.10)。
・ブラジルでのLORの利用は現時点でさほど多くない状況である。若干古いデータではあるが、2015年2月において、年間45~60件が公告されている。
■ソース
・ブラジル産業財産法(ポルトガル語)http://www.planalto.gov.br/ccivil_03/leis/l9279.htm ・ブラジル産業財産法(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf ・ブラジル特許規則(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-tokkyo_kisoku.pdf ・2013年第17号決議
https://wp.ufpel.edu.br/prppg/files/2013/10/Instrucao_Normativa_017_20133.pdf?file=2013/10/Instrucao_Normativa_017_20133.pdf ・申立書:FQ0002
https://www.gov.br/inpi/pt-br/assuntos/informacao/arquivos/dirpafq002_peticao_0.pdf/view
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■協力
カラペト・ホベルト(ブラジル弁護士)■本文書の作成時期
2022.12.07