アジア / 審判・訴訟実務 | その他参考情報
(台湾)企業が注意すべきインターネット上での著作権問題
2013年07月26日
■概要
企業活動の中でインターネットの活用が不可欠になってきているため、台湾においても、インターネット上の著作権について十分に理解し、権利侵害とならないよう留意することが重要である。また、企業において創作される著作物については、権利帰属が不明確となることで不要な争いが生じやすいことから、規定を設けるなどして著作権の帰属を明確にすることが望ましい。■詳細及び留意点
【詳細】
(1) インターネットでの著作権侵害に該当するおそれのある行為
(i) ダウンロード(download)/ アップロード(upload)/ 転載(repost)/ 転送(forward)する行為
これらの行為には、個人が著作権の保護対象たる著作物を含むメールを転送し、第三者の利用に供すること、又は直接これらの内容をインターネットからダウンロードすること、或いは個人のブログ等にアップロードすることも含まれる。権利者は、当該著作物について複製権を専有することから、当該ファイルが不特定多数の者がダウンロードできる状態であれば(例えば、ファイルを個人のFTPまたはオンラインストレージまでアップロードし、他人がダウンロードできるようにさせる場合)、公衆送信権の侵害に該当するおそれがある。
(ii) 著作物をデジタル化する行為
この行為には利用者がアクセス又は保存を容易にするために、著作物をデジタルスキャンし、ハードディスク又はコンパクトディスクである記録媒体などに保存する行為が含まれる。当該行為は、著作物の複製或いは著作物の編集行為に該当するとみなされ、著作権者が有する複製権と翻案権を侵害するおそれがある。
(iii) 他人の著作物を編集する行為
一部のウェブサイトでは、他の会員が使用又は閲覧できるように、会員のメッセージや再投稿の内容をまとめたり、編集し直したりして保存されている。これは著作物の複製、変更、編集に該当し複製権又は翻案権を侵害しているおそれがある。
(iv) ファイル共有ソフトを第三者に提供する行為
ファイル共有ソフト(例えばP2Pのコンピューター・ソフトウェア)を提供する行為そのものが当該ファイル共有ソフトの複製権又は公衆送信権の侵害に該当する。
(2) 企業が注意すべきインターネット上の著作権問題
(i) 利用許諾権限の合法性について
(a) 著作権法第88条、第91条、第92条により、著作権者の同意を得ずに著作物をダウンロード又はアップロードする者、又は企業のオンラインストレージに保存し、不特定多数の閲覧者に供する者は、フェアユースを主張できる場合を除き、民事或いは刑事責任を負うことになる。
(b) 企業は、他人の著作物を取得又は利用する場合、利用許諾に注意を払うべきである。著作権法第37条により、著作者は他人に権利許諾し、その著作物を利用させることができる。許諾地域、時間、内容、利用の方法またはその他の事項については、当事者の契約に依り、契約が不明確な部分については許諾されないと推定する。この他、智慧財産法院2012年12月21日付民国101年度民著訴字第33号民事判決でも、企業は権利許諾する相手が合法的な権限を持っているか否かについて、善良なる管理者の注意をもって調べなければならないと説明している。したがって、著作財産権の利用許諾時には、必ずしも書面で行う必要はないものの、企業が利用許諾を受けるときは、書面でこれを行い、利用許諾契約中に利用許諾の範囲(複製、翻案、公衆送信等)を明確にし、保証責任についての条文(許諾者が合法的な利用許諾権限を持っていることの根拠条文)を盛り込むことが望ましい。将来争議が起こった際は、これを善良なる管理者の注意をもって調べたこと根拠として主張することができる。
(ii) 会社所有の著作物の複製
社員が業務遂行のために、会社所有の著作物を複製する必要がある場合
実務上では、社員が業務遂行のために、会社所有の文書(例えば製品のカタログ或いは技術マニュアル)或いは資料(例えばコンピュータプログラム)を直接社員個人のノートパソコン又はUSBメモリにダウンロードするケースがよく見られる。智慧財産法院2009年8月24日付民国98年度民著訴字第9号民事判決によると、裁判所は、会社と社員が特約により当該行為を禁止しない限り、業務のために会社所有の著作物を複製することは違法複製行為には該当しないとする傾向がみられる。このため、社員が退社するときは、まず当該社員が業務上会社所有の文書或いは資料を取得したことがあるかどうかを確認し、取得したことがあるときは、資料の返還と廃棄を促す(例えば、当該社員に対して誓約書への署名を促す)ことが必要である。そうでなければ、将来当該社員に対して著作権侵害を主張するとき、損害の発生について被害者側にも過失があると裁判所に判断されかねない。
(iii) 著作権の帰属についての争議
(a) 著作権法第12条では、「他人に依頼又は出資し、完成された著作については、前条の状況を除き、受託者が著作者となる。但し契約により依頼主を著作者とする場合には、その定めによるものとする。前項の規定により、受託者が著作者である場合、その著作権は、契約により受託者或いは依頼主が享有する。著作権の帰属について規定がない場合、その著作権は、受託者が享有する。前項の規定をもって著作権を受託者が享有する場合、依頼主は当該著作を利用することができる」と規定されている。
(b) 著作権法第12条につき、実務においてよく見られる問題は、会社が出資し、他人に著作の作成を依頼したが(例えば、ホームページ制作会社に会社のホームページ制作を依頼する等)、著作権の帰属について定めず、制作者が著作者として著作権を享有する場合、依頼主(即ち会社)はどの範囲において当該著作物を利用することができるか、ということである。智慧財産法院2011年4月27日付民国99年度民著訴字第86号民事判決の見解によると、依頼主が利用できる範囲は、「出資の目的及びその他の事情により総合的に判断する」としている。したがって、会社は社内の財務管理のために他人に会計管理のコンピュータプログラムの作成を依頼し出資する場合、当該会社は、出資範囲において合法的に当該コンピュータプログラムを利用(例えば複製)できる。但し、当該会社がそのコンピュータプログラムを販売する場合は、もはや元来の出資目的の範囲から外れるため、著作権侵害に該当する可能性がある。無用な争議を回避するため、書面にて著作権の帰属について明確に規定することが望ましい。
【留意事項】
実務上、ある作品が著作権法上の著作物に該当するかどうかを認定する際の基準はそれほど厳密ではない。知的財産裁判所の見解によると、当該作品が独創性を備えている場合は保護に値し、著作権法でいう独創性とは、「独立して創作し、他人の著作物を踏襲せずに創作したものであればこれに該当する…」(台湾智慧財産法院2012年12月6日付民国101年度民著訴字第26号民事判決)としている。このため、一般的に著作者が創作した作品は著作権法の保護対象たる著作物に該当すると思われることから、企業において創作された著作物については、その帰属を書面により明確にすると共に、インターネット上でのダウンロード、送信又は著作物をオンラインストレージに保存し、不特定多数の者に閲覧する際には、侵害行為に該当しないよう著作物の出所等を確認することが重要である。
■ソース
・台湾著作権法・経済部台湾特許庁,網路著作権の関連問題
http://www.tipo.gov.tw/ch/AllInOne_Show.aspx?path=3486&guid=c97d6af0-7f27-486a-96dc-ad3c2a1d2262&lang=zh-tw ・馮震宇,デジタル環境の下で著作権侵害の認定及び相關ケースの研究,著作権侵害の認定及び相關ケースを研究するゼミナール
http://www.judicial.gov.tw/work/work12/%E6%95%B8%E4%BD%8D%E7%92%B0%E5%A2%83%E4%B8%8B%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%AC%8A%E4%BE%B5%E5%AE%B3%E4%B9%8B%E8%AA%8D%E5%AE%9A%E5%8F%8A%E7%9B%B8%E9%97%9C%E6%A1%88%E4%BE%8B%E7%A0%94%E8%A8%8E.pdf ・經濟部台湾特許庁,インターネット上の著作権相関知識
http://www.lib.ndhu.edu.tw/public/Attachment/07813415899.pdf ・經濟部台湾特許庁,インターネットサービス業者はクライアントの著作権侵害行為に法律上責任を負うべきかどうかについて
http://www.tipo.gov.tw/ch/AllInOne_Show.aspx?path=3489&guid=7dbb43b2-8282-498a-b567-2b25cac73f04&lang=zh-tw ・智慧財産法院2012年12月21日付民国101年度民著訴字第33号民事判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=101%2c%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4%2c33%2c20121221%2c1&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=101&jcase=%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4&jno=33&jdate=1011221&jcheck=1 ・智慧財産法院2009年8月24日付民国98年度民著訴字第9号民事判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=98%2c%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4%2c9%2c20090824%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=98&jcase=%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4&jno=9&jdate=980824&jcheck=2 ・智慧財産法院2011年4月27日付民国99年度民著訴字第86号民事判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=99%2c%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4%2c86%2c20110427%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=99&jcase=%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4&jno=86&jdate=1000427&jcheck=2 ・台湾智慧財産法院2012年12月6日付民国101年度民著訴字第26号民事判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=101%2c%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4%2c26%2c20121206%2c1&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=101&jcase=%e6%b0%91%e8%91%97%e8%a8%b4&jno=26&jdate=1011206&jcheck=1
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦■本文書の作成時期
2013.1.12