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韓国の不正競争防止法について
2013年06月21日
■概要
(本記事は、2024/6/18に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/39331/
韓国での不正競争防止法の法律名は「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(以下、「不競法」という)といい、この法律は国内に広く知られた他人の商標・商号等を不正に使用する等の不正競争行為と他人の営業秘密を侵害する行為を防止して、健全な取引秩序を維持するために制定されたものである。主に未登録商標及び未登録意匠が他人に不正に使用された場合に、この法律を利用して対応することが可能である。
■詳細及び留意点
【詳細】
(1)「不正競争行為」の定義
未登録商標の場合、この法の適用を受けるためには、この法で定める不正競争行為がなされたことが必要である。この法で定める「不正競争行為」とは次のようなものをいう(不競法第2条)。
(ⅰ)国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他他人の商品であることを表示した標識と同一もしくは類似するものを使用し、又はこのようなものを使用した商品を販売・頒布又は輸入・輸出して他人の商品と混同させる行為
(ⅱ)国内に広く認識された他人の氏名、商号、標章、その他他人の営業であることを表示する標識と同一、又は類似するものを使用して、他人の営業上の施設又は活動と混同させる行為
(ⅲ)(ⅰ)又は(ⅱ)に規定する混同させる行為の外に非商業的使用等、大統領令で定める正当な事由なしに国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他他人の商品又は営業であることを表示した標識と同一か、又は類似するものを使用し、もしくはこのようなものを使用した商品を販売・頒布又は輸入・輸出して他人の標識の識別力や名声を損傷する行為
(ⅳ)商品やその広告によって又は公衆が分かり得る方法で取引上の書類又は通信に偽りの原産地の標識をしたり、このような標識をした商品を販売・頒布又は輸入・輸出して原産地を誤認させる行為
(ⅴ)商品やその広告によって又は公衆が分かり得る方法で取引上の書類又は通信にその商品が生産・製造又は加工された地域外の所で生産又は加工されたように誤認させる標識をしたり、このような標識をした商品を販売・頒布又は輸入・輸出する行為
(ⅵ)他人の商品を詐称し、又は商品もしくはその広告に商品の品質、内容、製造方法、用途又は数量を誤認させる宣伝又は標識をしたり、このような方法や標識として商品を販売・頒布又は輸入・輸出する行為
(ⅶ)パリ条約、世界貿易機構、商標法条約の締約国会員国のうちいずれか一つの国に登録された商標又はこれと類似する商標に関する権利を有した者の代理人や代表者又はその行為日前1年以内に代理人や代表者だった者が、正当な事由なしに該当の商標をその商標の指定商品と同一か類似する商品に使用したり、その商標を使用した商品を販売・頒布又は輸入・輸出する行為
(ⅷ)正当な権原がない者が、正当な権原がある者又は第三者に販売したり商業的利益を得る目的等で国内に広く認識された他人の氏名、商号、商標、その外の標識と同一か類似するドメイン名前を登録・保有・以前又は使用する行為
(ⅸ)他人が製作してから3年以内の商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸与又はこのため展示する若しくは輸入・輸出する行為。上記商品の形態は、商品の形状・模様・色彩・光沢又はこれらを結合したものをいい、試作品又は商品紹介書上の形態を含む。ただし、他人が製作した商品と同種の商品が通常的に有する形態を模倣した商品は除外される。
(2)「営業秘密」の定義
「営業秘密」とは、公然と知られておらず、独立した経済的価値を有するものであって、相当な努力によって秘密に維持された生産方法、販売方法、その他営業活動に有用な技術上又は経営上の情報をいう(不競法第2条第2項)
(3)「侵害行為」の定義
上記営業秘密の「侵害行為」とは、次のような行為をいう。
(ⅰ)竊取、欺罔、脅迫、その他不正な手段で営業秘密を取得する行為、又はその取得した営業秘密を使用し、もしくは公開する行為
(ⅱ)営業秘密に対して不正取得行為が介入された事実を知り、重大な過失であることを知らずにその営業秘密を取得する行為、又はその取得した営業秘密を使用したり公開する行為
(ⅲ)営業秘密を取得した後にその営業秘密に対して不正取得行為が介入された事実を知り、又は重大な過失であることを知らずにその営業秘密を使用したり公開する行為
(ⅳ)契約関係等によって営業秘密を秘密として維持すべき義務がある者が、不正な利益を得たりその営業秘密の保有者に損害を与える目的でその営業秘密を使用したり公開する行為
(ⅴ)営業秘密が上記(ⅳ)によって公開された事実もしくはそういう公開行為が介入された事実を知り、又は重大な過失であることを知らずにその営業秘密を取得する行為、又はその取得した営業秘密を使用したり公開する行為
(ⅵ)営業秘密を取得した後に、その営業秘密が上記(ⅳ)によって公開された事実、もしくはそういう公開行為が介入された事実を知り、又は重大な過失であることを知らずにその営業秘密を使用したり公開する行為
(4)不正競争行為等への対応
上記の不正競争行為や営業秘密の侵害行為等により自分の営業上の利益が侵害されたり侵害される恐れがある者は、裁判所にその行為の禁止又は予防を請求することができる。
裁判所は、故意又は過失による不正競争行為で他人の営業上の利益を侵害して損害を与えた者に対しては、損害賠償と共に営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。
(5)他の法に規定がある場合には、その法による。すなわち「特許法」、「実用新案法」、「意匠法(韓国語「디자인보호법(デザイン保護法)」)」、「商標法」でこの法で定める特定規定について定められた規定があれば、各法の規定が優先する(同法15条)。
【留意事項】
(1)商標法、意匠法等によって登録を受けていない知的財産が不正に使用された場合には、本法を用いて対応することが考えられる。例えば、商標法により登録を受けていない標章が他人に不正に使用された場合や、商品を製作して3年以内に当該商品の形状を第三者が模倣して販売したり輸出入した場合等である。しかしながら、「国内での広い認識」、「他人の商標との誤認混同」などの要件を満たしていることを立証することが難しいことが多い。したがって、確実に自己の権利を守り、行使するためには、不競法のみに頼るのではなく、商標法、意匠法等により権利を取得することが重要である。なお、不競法を用いて権利行使を考える場合は、弁理士は(相談は可能であるが)代理はできないので、弁護士に照会することが望ましい。
(2)不正競争行為の類型を日韓比較した場合、立法規定上の差異としては、日本の不競法で定める「技術的制限手段の解除装置の提供行為」や「信用毀損行為」のような規定が韓国の不競法には存在しないことがあげられる。その他の規定はほぼ類似する内容であるが、実務上特に留意すべきは、著名表示冒用行為に関する規定、すなわち日本の不競法第2条第1項第1号および第2号(以下、単に第1号、第2号とする)に対応する韓国不競法第2条第1項イ、ロ、ハ(以下、単にイ、ロ、ハとする)についてである。
一般に、韓国不競法イ、ロは日本の不競法第1号に対応し、韓国不競法ハは、日本不競法第2号に対応すると理解されている。韓国では、実務上、イを「商品主体混同行為」、ロを「営業主体混同行為」と呼んでいる。ハについては、一般的ではないが、アメリカ法の影響で、「反稀釈化行為」と呼ぶ見解もある。
日本の不競法は、第1号および第2号において、それぞれ、文言上も「国内に広く認識されている(第1号)」、または「著名(第2号)」という表現を用いて区別し、著名性は、周知性より広い概念として取り扱われているが、韓国不競法では、日本とは異なり、イ~ハのいずれにおいても「国内に広く認識されている」という表現のみを用いており、立法上は日本のような区別はしていない。しかし、大法院判例(2004年5月14日宣告2002다13782判決)において、「国内に広く認識されている」ことの解釈を巡って、ハにおける意味は、「周知の程度を超える」ものであるとして、イ及びロとハにおいては、解釈を通じてその区別を図っている。つまり、韓国のハは、日本の第2号と同様に解釈することができる。ただし、日本の同規定は、「自己の商品等表示」として用いることを要件としているのに対して、韓国のハは、これを要件としていない点が異なる。つまり、ある者が、他人の著名商標を「自己の商品等表示」としては用いないが、不正な目的で利用するような場合(例えば、自己商標を付している安物に、さらに著名表示を付ける場合)でも同法が適用される可能性がある。その意味では、韓国法のほうが、著名表示の冒用行為の規制範囲が少し広いと言える。
■ソース
・韓国不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律・総合法律情報のウェブサイト
http://glaw.scourt.go.kr/ 上記サイトにて、事件番号で上記に記載した各大法院判決が検索可能。同サイトの使い方については、本データベース内コンテンツ「韓国の判例の調べ方」参照。
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
帝塚山大学法学部教授 高榮洙一般財団法人比較法研究センター 菊本千秋
特許庁総務部企画調査課 山中隆幸
■本文書の作成時期
2013.1.8