中南米 / その他参考情報
ブラジル特許出願の期日管理の留意点
2022年07月26日
■概要
ブラジルでは、特許出願から登録までの間に、審査についての通知の応答期間、拒絶査定に対する不服審査請求期間など、手続上多くの定められた期日がある。延長が可能なものと不可のものがあるので、十分注意して期日管理を行う必要がある。■詳細及び留意点
以下に、特許出願に関する、手続上の重要な期日についてまとめる。なお、いずれも実用新案にも該当する。
(1)パリルートおよびPCTルートによる特許出願
パリ条約による優先権を主張する場合は、原出願国の出願日から1年以内に出願しなければならない(パリ条約第4条C)。優先権の主張は出願時に行わなければならず、また、出願後60日以内であれば優先権の主張の補正を行うことができる(産業財産法第16条第1項)。優先権の証拠書類は、出願日に提出しなかった場合、出願日から180日以内に提出しなければならない(産業財産法第16条第3項)。ブラジルでは全ての書類または証拠をポルトガル語で提出する必要があり、翻訳文は、国内手続の開始日から60日以内に提出しなければならない(産業財産法第16条第2項、第4項)。
PCT出願の国内移行手続の場合は、PCT出願の優先権主張日(優先権主張がない場合はPCT出願日)から30か月以内に翻訳文を提出しなければならない(特許協力条約第22条第1項)。その際には、ポルトガル語への翻訳の提出とともに、手数料も納付しなければならない。その他の翻訳文は、国内手続の開始日から60日以内に提出しなければならない(産業財産法第16条第2項、第4項)。
(2)委任状
委任状はポルトガル語で提出しなければならない(産業財産法第216条第1項)。委任状は、手続の当事者が最初に手続をした日から60日以内に提出する必要があり、提出しなかった場合、その手続は却下される(産業財産法第216条第2項)。
(3)新規性喪失の例外規定
新規性喪失の例外規定は、産業財産法第12条で規定されている。その内容は以下のとおりである。
発明の開示は、特許出願の出願日または優先日前12か月間に、次の者によってなされた場合は、技術水準の一部であるとみなされない。
(i)発明者によるもの
(ii)ブラジル産業財産庁(INPI)によるものであって、発明者から取得した情報に基づきまたは発明者が行った行為の結果として、発明者の同意を得ることなくなされた特許出願を公開したことによるもの
(iii)第三者によるものであって、発明者から直接もしくは間接に取得した情報に基づきまたは発明者が行った行為の結果として生じたもの
なお、INPIは、規則に定めた条件に基づき、発明者に対し、証拠添付の有無にかかわらず、開示に関する宣言書を提出するよう要求することができる(産業財産法第12条補項)。
(4)審査請求
ブラジルは審査請求制度を採用している。出願人またはその他の利害関係人は、出願日から36か月の期間内に特許出願の審査請求をしなければならず、請求をしなかった場合は、その出願は却下される(産業財産法第33条)。また、特許出願が却下されてから60日以内に出願人が回復の請求をし、特定の手数料を納付した場合は、回復させることができる(産業財産法第33条補項)。なお、請求項数が10を超えると追加の審査請求費用が発生する(ブラジル産業財産庁「特許サービス料金表」コード203)。
また、出願人は、審査請求日から60日の期間内に次のものを提出しなければならず、提出しなかった場合はその出願は却下される(産業財産法第34条)。
(i)優先権を主要している場合は、他国における対応する出願の特許付与に係る反論、先行技術調査および審査結果
(ii)出願に係る手続および審査を適正に行うために必要な書類
(iii)第16条第2項にいう適切な書類の簡単な翻訳は、同条第5項に規定された宣言書により置き換えられるものとする
(5)審査についての通知書
審査官は、実体審査をした場合、出願の特許性、クレームの保護内容についての出願の適応性、出願の再編成または分割、技術的要件について調査報告書および見解書を作成する(産業財産法第35条)。
この見解書が、出願の非特許性、クレームの内容に関する出願の不適応性を確認するものであるか、または何らかの要求が設定された場合は、出願人は、90日の期間内に意見書を提出するよう通知を受ける(産業財産法第36条第1項)。この要求に対する応答が提出されなかった場合、出願は最終的に却下される(産業財産法第36条第1項第1号)。
(6)拒絶査定
審査で拒絶査定を受けた場合は、60日以内に拒絶査定に対する不服審判を請求することができる(産業財産法第212条)。請求期間の延長はできない。また利害関係人には、審判請求に対する答弁書を提出する機会が60日間与えられる(産業財産法第213条)。
INPIは、審判請求書に述べられた議論を補足するために、要求事項を定めることができ、それらが60日の期間内に満たされるよう求める(産業財産法第214条)。その後、INPIは審判請求についての決定を行う(産業財産法第214条補項)。その決定に不服の場合は、行政手続上の不服申立は不可能なため(産業財産法第215条)、連邦裁判所に提訴する。
(7)特許査定
審査で出願が承認されると、出願承認後60日以内に手数料を納付し、その納付証明書をINPIに提出しなければならない(産業財産法第38条第1項)。この手数料は、通知の有無にかかわらず、出願承認後60日の期間の経過後30日以内に、特定手数料を納付し、その納付証明書をINPIに提出することができる。これらの手数料を納付しなかった場合は、出願は最終的に却下される(産業財産法第38条第2項)。
(8)留意点
ブラジルでは、期間の計算において初日は算入しない(産業財産法第222項)。そのため、例えば1月28日の官報で公表されたものは、翌日の1月29日からカウントされる。
INPIの閉庁日は、基本的に、ブラジル連邦とリオデジャネイロの休日に則っている。INPIの基本執務日は平日(月曜から金曜)で、執務時間は原則として午前10時から午後4時30分である。
■ソース
・ブラジル産業財産法(2013年3月18日に改正された1996年5月14日法律9.279号)http://www.planalto.gov.br/ccivil_03/leis/l9279.htm(ポルトガル語)
https://www.gov.br/inpi/pt-br/backup/legislacao-1/lei9279-ingles.pdf(英語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf(日本語)
・ブラジル産業財産庁「特許サービス料金表」
https://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/tabelas-de-retribuicao/TabelaPatentesapsalteraesCGRECincpapelpct.pdf
・ブラジル産業財産庁「機関の連絡先と住所」
https://www.gov.br/inpi/en/access-to-information/institutional/contacts-and-addresses
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■協力
2022.03.11■本文書の作成時期
2022.03.11