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台湾における異議申立制度

2016年05月19日

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■概要
審査の公平性を保つため、台湾も日本と同様に権利付与後異議申立制度を採用している。経済部知的財産局(以下、「知的財産局」が実体審査を行っていても、登録すべきでない商標が登録されてしまうこともあるため、商標異議申立制度が設けられている。異議申立は、適切な期間に適切な書面で、適切な官庁に対して手続を執らなければならない。
■詳細及び留意点

【詳細】

はじめに

 台湾も日本と同じく、権利付与後に異議申立制度を採用する国である。台湾の商標主務官庁である知的財産局に商標登録出願を行い、方式審査、実体審査に通れば登録査定が発行され、査定を受領した後の2ヶ月以内に登録料を納付すれば、商標権が付与されることになる。知的財産局は、商標登録出願につき、それが商標として登録されるべき要件を満たしているか否かについて審査を行う。出願書類の不備や手続きなどに関する形式的要件だけでなく、商標としての識別力、他人の権益または公益との衝突の有無などの実質的要件についても審査され、すべての要件を満たしていると認められた場合にのみ、登録査定となる。なお、知的財産局が実体審査を行っていても、登録すべきでない商標が登録されてしまうこともあるため、商標異議申立制度が設けられている。

 

異議申立制度

1.異議申立人の適格要件

異議申立人適格については、いかなる制限も設けられておらず、何人も異議申立を行うことができる。

 

2.審理機関および法的期間

2-1.異議申立

 商標異議申立は、申立の対象商標の登録公告日から3ヶ月以内に、知的財産局に対して請求する。この期限は延長できないが、実務上、期限までに形式上の異議申立を行っておき、その後、理由と証拠を追完することができるので、この形式上の異議を通じて、実質的に異議期間の延長を図ることができる。

 

2-2.審決に対する不服申立

 知的財産局の審理により、申立人の主張が認められず、商標登録が取り消されなかった場合、経済部訴願審議委員会に訴願(不服申立)を提起することができる。一方、商標登録が取消された場合、商標権者がこの登録取消の審決に対し、不服申立てを行うこともできる。不服の申立てをしようとする者は、商標登録の取消あるいは商標登録の維持する旨の審決書が送達された日の翌日から起算して30日以内に、訴願書をもって知的財産局経由で経済部へ提出することができる。

 

2-3.行政訴訟

 経済部が訴願を審理した結果、知的財産局の原処分を維持し、訴願を棄却する(商標登録を維持する)旨の決定を下した場合、申立人は訴願決定書の送達日の翌日から起算して2ヶ月以内に、知的財産裁判所に行政訴訟を提起することができる。一方、訴願審理の結果、訴願申立に理由ありと認められた場合、知的財産局の原処分が廃棄され、異議申立案件は知的財産局に差し戻され、知的財産局にて再審理されることとなる。

 

3.異議理由

 前述したとおり、商標登録を受けるための実質的要件を欠いたまま、商標が知的財産局により登録または公告された場合、当該商標に対して異議を申し立てることが可能である。また、すべての実質的要件のうち、それを異議理由とすることができるのは、商標法第48条により、同法第29条第1項、第30条第1項または第65条第3項に規定されているものである。商標の登録が上記条項のいずれかに違反した場合、それを理由として異議申立を請求することができる。すなわち、当該異議理由は、商標法第29条第1項第1号から3号(識別力を備えていないこと)、商標法第30条第1項第1号(機能性のみを備えること)、商標法第30条第1項第2号から8号(公益に反すること)、商標法第30条第1項第9号から15号(他人の権益と衝突すること)、または商標法第63条第1項第1号、第65条第3項(商標の変換使用により商標登録を取り消された後の登録)など五つに大分される。それぞれの概要は以下のとおりである。

3-1.識別力を備えていないもの。(商標法第29条第1項第1号から3号)

 (1)指定商品または指定役務の品質、用途、原料、産地もしくは関連特性に関する説明のみにより構成されたもの。

   例:「三効」「ケーキ」

   ※中国語の「三効」は、三つの効果を意味するため、「三効」の二文字のみにより構成された商標は、商品の効能を説明するものにほかならず、識別力に欠ける。

 (2)商品または役務の一般通用標章もしくは一般通用名称のみにより構成されたもの。

   例:サインポール

   ※サインポールは、理容店の共通マークであり、識別力のない通用標章に該当する。

 (3)その他の識別力のない標識のみにより構成されたもの。

   例:スローガン、アルファベットとアラビア数字の結合(MC-500など)

 

3-2.機能性のみを備えるもの。(商標法第30条第1項第1号)

 ある商品または役務のデザインまたは特徴(商品の形状、商品包装、音、または匂いなど)がその商品または役務の用途もしくは使用に不可欠であり、または商品または役務の品質に影響する場合、当該デザインまたは特徴により構成される商標は機能性を有しているとし、かかる商標が機能を発揮するためのみに必要なものであれば、同業者間の公正な競争および社会の進歩の妨害となることを避けるため、商標登録は認められない。

 

3-3.公益に反するもの。(商標法第30条第1項第2号から8号)

 公益に反する状況は、以下に挙げられる。

 国旗、台湾の政府機関の標章などと同一または類似する場合、または国内外における著名かつ公益性のある機構の紋章などと同一または類似し、かつ、公衆に誤認混同させるおそれのある場合、公の秩序もしくは善良の風俗を害する場合、または公衆にその商品または役務の性質、品質もしくは産地を誤認混同させるおそれがある場合など。

   例:「啤兒」

   ※ビールの中国語である「啤酒」に類似する「啤兒」が「アルコール分を含まないドリンク、ソーダ水、ミネラルウォータ、スポーツドリンク」などの商品を指定して使用する場合、公衆にその商品の性質を誤認混同させる。

 

3-4.他人の権利と衝突するもの。(商標法第30条第1項第9号から15号)

 実務上、商標法第30条第1項第9号から第15号に定める他人の権利と衝突する各類型のうち、第10号、第11号、第12号は、異議理由として多く主張されている。それらを以下に列記する。

 【第10号】:他人が同一または類似の商品または役務において登録した、または先に出願した商標と同一または類似し、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれのある商標

 【第11号】:他人の著名商標もしくは標章と同一もしくは類似し、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある、または著名商標もしくは標章の識別力もしくは信用または名誉を減損するおそれがある商標

 【第12号】:他人が同一または類似の商品または役務において先に使用した商標と同一または類似し、かつ、出願人が当該他人との間に契約、地理、業務取引その他の関係を有することで他人の商標の存在を知り得て、剽窃の意図をもって登録出願した

 

 上記三号のうち、第10号と第11号が異議申立の根拠として最も多く主張されている。この第10号と第11号の要件においては、通常「消費者に誤認混同を生じさせるおそれの有無」が最大の争点となり、審決の結果に影響を与える。以下、誤認混同の判断にあたって実務上参酌される要素をまとめる。

 ・商標識別力の強弱

 ・商標が類似するか否か、およびその類似の度合い

 ・商品または役務が類似するか否か、およびその類似の度合い

 ・先の権利者による多角経営の状況

 ・実際に消費者に誤認混同を生じさせたか否か

 ・各商標に対する関連消費者の熟知度

 ・係争商標の出願が悪意によるものであるか否か

 ・その他(両商標の販売チャネルの違い等)

 

3-5.変更使用により登録を取り消された商標の再登録出願。(商標法第63条第1項第1号、第65条第3項)

 商標権者が自ら商標を変更し、または付記を加えることにより、他人の同一または類似の指定商品または指定役務における登録商標と同一または類似し、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるとして、知的財産局が登録を取り消した商標につき、商標権者は、取消日から3年以内に、元の登録商標と同一または類似する商標を同一または類似の指定商品または指定役務において再出願することはできない。また、他人が当該商標を登録した場合でも、譲り受けまたは使用許諾を受けることはできない。なお、これに違反した場合も、これを異議理由として異議を申し立てることができる。

 

むすび

 本稿では、台湾の商標法に基づいて、台湾における商標異議申立制度の概要を紹介したが、ここで特記しておくべきことは、台湾の異議申立制度が既に成熟段階に入り、関連問題が発生した場合には、同制度を活用し、商標法に基づく保護を求めることができるよう法整備が確立していることである。また、審判および裁判実務における見解も一定の程度または範囲において既に確立している。これは即ち、法の予見可能性があるということであり、台湾の法律事務所または商標事務所を利用すれば、問題点を事前に把握でき、商標の出願または管理戦略の策定または実行に有利になる。

■ソース
2012年7月1日施行台湾商標法
2012年7月1日公布の改正「誤認混同のおそれに関する審査基準」
2012年7月1日公布の改正「非伝統的商標に関する審査基準」
陳昭華「商標法之理論與實務」 元照出版会社 2013年2月初版
■本文書の作成者
理律法律事務所(Lee and Li, Attorneys-at-Law)
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期

2016.2.17

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