日本とインドにおける特許出願書類の比較
1. 日本における特許出願の出願書類(パリルート)
1-1. 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(1) 願書
願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。
(2) 明細書
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。
(3) 特許請求の範囲
特許請求の範囲には、請求項に区分して、請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。
(4) 要約書
要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。
1-2. 手続言語
書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条第1項)
1-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。
1-4. 優先権主張手続
外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に、優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。
<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
2. インドにおける特許出願の出願書類(パリルート)
2-1. 出願書類
特許法および特許規則にて規定された以下の書面を提出する(インド特許法第7条、インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
・願書(様式1)
・完全明細書(特許請求の範囲、要約および必要な図面含む)(様式2)
・外国出願に関する情報の陳述・宣誓(様式3)(インド出願日から6か月以内)
・発明者である旨の宣誓(様式5)
・出願人としての資格の証明(インド出願日から6か月以内)
・委任状(様式26)(特許代理人を通じて提出される場合)(インド出願日から3か月以内)
(1) 願書
願書は、様式1※1によって作成する(インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
※1 様式1は、インド特許規則の最後の「様式一覧」に掲載されている。以下の様式も同様である。
様式1(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_1.pdf
(2) 完全明細書
完全明細書は、様式2※2によって作成する(インド特許規則13(1))。
※2 様式2(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_2.pdf
完全明細書には、発明を記載して、発明に係る主題を十分に表示する名称を頭書しなければならない(インド特許法第10条(1))。
また、完全明細書は、発明に係る以下の内容を備えなければならない(インド特許法第10条(4))。
(a) 発明の作用または用途、およびその実施の方法を十分かつ詳細に記載する。
(b) 出願人が知り得ている、出願人が保護を請求する権利を有する発明を実施する、最善の方法を開示する。
(c) 保護を請求する発明の範囲を明確にする1または2以上の請求項をもって完結する。発明が図面による説明を必要とする場合、図面には明細書に記載される請求項中の構成要素の後に括弧で括った参照番号を記載しなければない(インド特許規則13(4))。
(d) 発明に関する技術情報を提供する要約を添付しなければならない。
要約書の冒頭に発明の名称を記載しなければならない(インド特許規則13(7)(a))。要約書中の、図面により明示される主要な特徴の各々に、括弧で括った参照番号を記載しなければならない(インド特許規則13(7)(d))。また、要約書は150語を超えてはならない(インド特許規則13(7)(c))。
なお、特許出願に仮明細書を添付したときは、完全明細書を出願日から12か月以内に提出しなければならない(インド特許法第9条(1))。自己の発明が論文で開示できる段階にはあるが、最終段階には達していないと認めた場合、出願人は、書面による説明の形式により発明の開示を準備し、発明を説明する仮明細書として文書をインド特許庁に提出することができる(インド特許庁実務及び手続マニュアル05.02)。
(3) 外国出願に関する情報の陳述・宣誓
外国出願に関する陳述書および宣誓書は、様式3※3により作成しなければならない(インド特許規則12(1))。
※3 様式3(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_3.pdf
外国出願に関する情報の陳述書と宣誓書は、以下の内容による(インド特許法第8条(1))。
(a) 特許出願に係る発明と同一または実質的に同一の発明を外国に特許出願している場合の、外国出願の明細事項を記載した陳述書。
(b) 陳述書の提出後、所定の期間内に外国にした、同一または実質的に同一の発明に係る他の各出願(ある場合)について、インドにおける特許付与日まで、必要とされる明細を書面で随時長官に通知し続ける旨の宣誓書。
陳述書および宣誓書を提出する期間は、出願日から6か月である(インド特許規則12(1A))。宣誓書に基づいて提出する、出願時に入手できなかった外国出願の明細事項は、従来、外国出願の出願時から6か月以内に提出するとされていたが、2024年のインド特許規則の改正によって、最初の拒絶理由通知の発送の日から3か月以内とされた(インド特許規則12(2))。
(4) 発明者である旨の宣誓
出願人が、出願に係る発明を所有している旨を明示しかつ、真正かつ最初の発明者である旨主張する者の宣誓を提出しなければならない(インド特許法第7条(3))。発明者である旨の宣誓書は、様式5※4による(インド特許規則13(6))。
※4 様式5(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_5.pdf
(5) 出願人としての資格の証明
出願が、発明についての特許出願権の譲渡によって行われるときは、出願とともにまたは出願後6か月以内に、出願権についての証拠を提出しなければならない(インド特許法第7条(2)、インド特許規則10)。この出願権の証拠は、様式1による出願書の末尾にされる裏書または別の譲渡証書とする(インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
(6) 委任状
代理人を通じて出願手続きを行う場合、出願人の署名による委任状(様式26※5)の提出が要求される。委任状は、出願日から3か月の期間内に提出しなければならない(インド特許規則135(1))。
※5 様式26(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_26.pdf
2-2. 手続言語
書類の作成は、ヒンディー語または英語による(インド特許規則9(1))。
2-3. 手続言語以外の明細書での出願日確保の可否
ヒンディー語または英語以外で書類を作成することはできない(インド特許規則第9(1))。
2-4. 優先権主張手続
外国に最初に出願をした日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴うインド特許出願をすることができる(インド特許法第135条(1))。優先権主張を行う場合は、特許出願に完全明細書を添付し、最初の出願の出願日および国名、その出願日よりも前に他国に出願していない旨を記載することが要求される(インド特許法第136条(1))。
出願人は、長官から要求されたときは、その通知の日から3か月以内に優先権証明書(またはDASコード)を提出しなければならない(インド特許法第138条(1)、インド特許規則121、長官通知2018/63)。優先権証明書が外国語で記載されている場合、優先権証明書の認証された英訳文を提出する必要がある(インド特許法第138条(2))。
日本とインドにおける特許出願書類・手続の比較
日本 | インド | |
---|---|---|
出願書類 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・明細書 ・特許請求の範囲 ・必要な図面 ・要約書 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・完全明細書 ・外国出願に関する情報の陳述・宣誓 ・発明者である旨の宣誓 ・出願⼈としての資格の証明 ・委任状 |
手続言語 | 日本語 | ヒンディー語または英語 |
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否 | 英語その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。 | 不可 |
優先権主張手続 | 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書面を、最先の優先権主張日から1年4か月、またはその優先権主張を伴う出願から4か月の何れか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない。 優先権証明書を基礎出願の日から1年4か月以内に特許庁長官に提出しなければならない。 ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。 | 特許出願に完全明細書を添付し、最初の出願の出願日および国名、その出願日よりも前に他国に出願していない旨を記載しなければならない。 出願人は、長官から要求されたときは、その通知の日から3か月以内に優先権証明書(またはDASコード)を提出しなければならない)。また、優先権証明書が外国語で記載されている場合、優先権証明書の認証された英訳文を提出する必要がある。 |
日本とインドネシアにおける意匠権の権利期間および維持に関する比較
1. 日本における意匠権の権利期間
日本における意匠権の権利期間は、出願日から最長25年をもって終了する(意匠法第21条第1項)。ただし、平成19年3月31日までに出願された意匠権は、設定登録日から15年間、平成19年4月1日から令和2年3月31日までに出願された意匠権は、設定登録日から20年間である。
なお、関連意匠の意匠権の権利期間は、その基礎意匠の出願日から25年間である(意匠法第21条第2項)。ただし、本意匠および関連意匠の双方が、平成19年3月31日以前の出願の場合は、関連意匠の意匠権の権利期間は、その本意匠の意匠権の設定登録日から15年間であり、本意匠が平成19年3月31日以前の出願で、関連意匠が平成19年4月1日から令和2年3月31日までの出願の場合は、関連意匠の意匠権の権利期間は、その本意匠の意匠権の設定登録日から20年間である。
権利維持を希望する場合は、登録日を年金納付起算日として2年次分から毎年、年金を支払う必要がある(意匠法第42条第1項、第43条第2項)。
日本意匠法 第21条 存続期間 意匠権(関連意匠の意匠権を除く。)の存続期間は、意匠登録の出願の日から25年をもって終了する。 2 関連意匠の意匠権の存続期間は、その基礎意匠の意匠登録出願の日から25年をもって終了する。 |
意匠法第42条および第43条は、省略(【ソース】の「日本国意匠法」を参照されたい。)。
2. インドネシアにおける意匠権の権利期間
インドネシアにおける意匠権の権利期間は、出願日から最長10年をもって終了する(インドネシア意匠法第5条)。登録時には登録料の納付手続はなく、登録証が発行される。登録証は、出願日から有効となる(インドネシア意匠法第29条(2))。
権利期間の間に、年金納付や更新などの意匠権を存続させるための手続はない。
インドネシア意匠法 第5条 (1) 意匠の保護は、出願日から10年間与えられる。 (2) (1)の規定における保護の開始日は、意匠一般登録簿に記録され、意匠公報により公開される。 |
インドネシア意匠法第29条は、省略(【ソース】の「インドネシア意匠法」を参照されたい。)。
日本とインドネシアにおける意匠権の権利期間および維持に関する比較
日本 | インドネシア | |
---|---|---|
権利期間 | 出願日から25年 | 出願日から10年 |
権利維持 | 登録日を年金納付起算日として2年次分から毎年、年金の支払い要 | なし(更新不可) |
中国における画像意匠の保護制度
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日本と中国における特許出願書類の比較
1. 日本における特許出願の出願書類(パリルート)
1-1. 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(1) 願書
願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。
(2) 明細書
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)。
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。
(3) 特許請求の範囲
特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。
(4) 要約書
要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。
1-2. 手続言語
書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条1項)。
1-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。
1-4. 優先権主張手続
外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。
<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
2. 中国における特許出願の出願書類(パリルート)
2-1. 出願書類
専利法および実施細則にて規定された以下の文書を提出する(専利法第26条、専利法実施細則第17条)。
・願書
・明細書およびその要約
・権利要求書
・図面(必要な場合)
・委任状
(1) 願書
願書には、発明の名称、発明者の氏名、出願人の氏名または名称、住所およびその他の事項を明記しなければならない(専利法第26条第2項)。
(2) 明細書
明細書では、発明に対し、その所属技術分野の技術者が実現できることを基準とした明確かつ完全な説明を行い、必要時には図面を添付しなければならない(専利法第26条第3項)。
(3) 要約
要約は、発明の技術要点を簡潔に説明しなければならない(専利法第26条第3項)。
(4) 権利要求書
権利要求書は、明細書を根拠とし、専利保護請求の範囲について明確かつ簡潔に要求を特定しなければならない(専利法第26条第4項)。
2-2. 手続言語
専利法および専利法実施細則に基づいて提出する各種の書類は、中国語(簡体字)を使用しなければならない(専利法実施細則第3条第1項)。
2-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
外国政府部門から発行された書類、あるいは外国で作成された証明、または証拠資料を除き、中国語以外の外国語によって作成された出願書類等を提出することはできない(専利審査指南第5部分第1章3.1)。
2-4. 優先権主張手続
外国に最初に出願をした日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う中国専利出願をすることができる(専利法第29条第1項)。
書面による優先権主張を、出願と同時に行う。優先権証明書は、最初の特許出願日(優先日)から16か月以内に提出しなければならない(専利法第30条第1項)。
ただし、日本での特許出願を基礎とする中国特許出願の場合、デジタルアクセスサービス(DAS)を利用して日本国特許庁から優先権書類の電子データを取得するよう国務院専利行政部門に対して請求することにより、優先権書類の紙による提出を省略することが可能となる(専利法実施細則第34条第1項)。
2023年の専利法実施細則の改正により、出願人が優先権を主張した場合、優先日から16か月以内または出願日から4か月以内に、優先権主張の追加または補正を請求することが可能となった(専利法実施細則第37条)。
また、同改正によって、優先権を主張している場合には、優先権の範囲内で出願書類の誤りを補正する機会が設けられた。具体的には、専利保護請求の範囲、明細書もしくは専利保護請求の範囲、明細書の一部の内容に不足がある、または誤って提出されているものの、出願人がその提出日に優先権を主張していた場合、提出日から2か月以内または国務院専利行政部門が指定する期限内に、先願書類を援用する方式によって追加で提出することができる。追加で提出された書類が関連規定に合致する場合、最初に提出された書類の提出日が出願日と認定される(専利法実施細則第45条)。
2-5. その他の書類
出願人は、専利代理機構に委任して国務院専利行政部門に専利出願を行う場合、委任状の提出が求められる(専利法実施細則第17条第2項)。
また、出願人が専利代理機構に委任する場合、国務院専利行政部門に総委任状(包括委任状)を提出することができる。国務院専利行政部門は、規定に合致する総委任状を受け取った後に、総委任状に番号を付け、専利代理機構に通知する。総委任状を交付済みである場合、専利出願を提出する時に、出願人は総委任状番号を提示すればよい(審査指南第1部分第1章6.1.2)。
2-6. その他の留意点
2023年の専利法実施細則の改正により、優先期間(最先の優先日から12か月)を徒過した場合であっても、正当な理由があれば、国務院専利行政部門に同一の主題について出願を行う場合、優先期間の満了日から2か月以内に、優先権の回復を請求することが可能になった(専利法実施細則第36条)。
日本と中国の特許出願書類を比較すると、以下のようになる。
日本 | 中国 | |
---|---|---|
出願書類 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・明細書 ・特許請求の範囲 ・必要な図面 ・要約書 | 専利法および実施細則にて規定された以下の文書を提出する。 ・願書 ・明細書およびその要約 ・権利要求書 ・図面(必要な場合) ・委任状 |
手続言語 | 日本語 | 中国語(簡体字) |
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否 | 英語その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。 | 不可 |
優先権主張手続 | 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書面を、最先の優先日から1年4か月、またはその優先権主張を伴う特許出願の日から4か月のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない。 また、優先権証明書を、最先の優先権主張日から1年4か月以内に、特許庁長官に提出しなければならない。 ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。 | 優先権主張を出願と同時に行う。優先権証明書を最初の特許出願日から16か月以内に提出しなければならない。 (日本特許出願を基礎とする場合には、特許庁間DAS利用可) (留意点) 日本特許出願を優先権主張の基礎として中国出願する場合、優先期間内に中国語で出願書類作成し出願を行わなければならない。ただし、優先期間の満了日から2か月以内に、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することができる。 |
中国における外国優先権を主張する権利の回復請求
1. パリ条約による優先権を主張した中国への直接出願
1-1. 優先権を主張していないものとみなされる場合
優先権主張の回復請求に先立って、手続の不備等により優先権を主張していないものとみなされる場合は、以下のとおりである。
(a) 優先権を主張する中国出願を、基礎出願の出願日から所定の期間(優先期間)内に行わなかった場合(専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.2、6.2.1.1)
優先期間は、基礎出願の出願日から12か月以内である。ただし、基礎出願が2件以上ある場合、最も早い出願日から起算される。
(b) 願書において優先権主張の声明をしなかった場合(審査指南第1部第1章6.2.1.2)
優先権を主張する場合、出願人は願書の提出と同時にその願書において優先権主張の声明をしなければならない。願書で優先権主張の声明をしていない場合は、優先権を主張していないものとみなされる。
(c) 願書における優先権主張の声明において、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称の記載に不備がある場合(審査指南第1部第1章6.2.1.2)
基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち、1つまたは2つの内容が明記されていないかまたは正しく記載されており、所定の期限までに、基礎出願の出願書類の謄本(以下「優先権証明書」という。)が提出されている場合、審査官により、手続補正通知書(中国語「手续补正通知」)が発行され、出願人はこれを受けて補正することができる。補正しても規定事項に合致しない場合や、指定された期間内に手続補正通知書へ応答しない場合には、優先権を主張していないものとみなされる。
(d) 優先権証明書を提出期限までに提出しない場合(審査指南第1部第1章6.2.1.3)
提出期限は、基礎出願の出願日(複数の優先権を主張する場合はその中で一番早い出願日)から16か月である。なお、複数の優先権を主張する場合は、すべての優先権証明書を提出期限までに提出しなければならない。この期限までに優先権証明書類を提出しなければ、優先権を主張していないものとみなされる。
(e) 優先権を主張する中国出願の出願人と優先権証明書に記載されている出願人が一致しない場合(審査指南第1部第1章6.2.1.4)
優先権を主張する中国出願の出願人が、優先権証明書に記載されている出願人と完全に一致しなければ(優先権証書に記載されている出願人に中国出願のすべての出願人を含む場合を除く)、優先権譲渡証書類(中国語「优先权转让证明文件」)を提出する必要がある。所定の期限内(優先権証明書と同様)に優先権譲渡証明書類を提出しなければ、優先権を主張していないものとみなされる。
(f) 優先権主張費を期限までに納付しなかったか、または納付額が不足していた場合(実施細則第112条、審査指南第1部第1章6.2.5)。
納付期限は、優先権を主張した中国出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)である。納付期限までに納付しなかったか、または納付額が不足していた場合には、優先権を主張していないものとみなされる。
1-2. 実施細則第6条(一般規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
以下のいずれかの理由により、優先権を主張していないものとみなされた場合、所定の期限までに優先権主張の回復を請求することができる(実施細則第6条、審査指南第1部第1章6.2.6.1)。
(a) 指定期間内に、審査官によって発行された手続補正通知書に応答していない。
(b) 優先権主張の声明に、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち少なくとも一つが正しく記載されているが、所定の期限までに優先権証明書または優先権譲渡証明書を提出していない。
(c) 優先権主張の声明に、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち少なくとも一つが正しく記載されているが、所定の期限までに優先権主張費を納付していないか、または納付額が不足している。
(a)から(c)の理由以外によって、優先権を主張していないものとみなされた場合は、優先権主張を回復することはできない。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
国務院専利行政部門より、優先権を主張していないものとみなされる通知書を受領した日から2か月以内に請求の手続をしなければならない(実施細則第6条第2項)。
権利回復請求書(場合によっては、正当な理由の証明資料を添付する必要がある)を提出して理由を説明するとともに、権利回復請求費を納付しなければならない(実施細則第6条第3項)。権利回復請求費(中国語「恢复权利请求费」)は、CNY1,000である(専利および集積回路設計に関する支払手続ガイド 付録2)。同時に、優先権を主張する権利を失った原因を解消するために、関係手続を行う(例えば、期限までに提出していない優先権証明書や優先権譲渡証書を補充提出する)。
1-3. 実施細則第36条(特別規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
2023年の実施細則の改正によって第36条が新設され、出願人が優先期間を徒過して出願した場合であっても、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することが可能となった。
基礎出願の出願日から12か月の期間が満了した後に後続出願を提出した場合、出願人は期間の満了日から2か月以内であれば優先権の回復を請求することができるが、その請求の手続は国務院専利行政部門が公開準備を行う前でなければならない(審査指南第1部第1章6.2.6.2)。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
優先権回復の請求書を提出し、理由を説明して、権利回復請求費、優先権主張費を納付しなければならない。同時に必要な手続(例えば、優先権証明書や優先権譲渡証明書類の提出)を行う。規定に合致する場合、優先権は回復し、審査官は権利回復請求審査および認可通知書を発行する。規定に合致しない場合、審査官は権利回復請求審査および認可通知書を発行し、かつ回復しない理由を説明する(審査指南第1部第1章6.2.6.2)。
2. PCTルートによる中国出願
2-1. 優先権を主張していないものとみなされる場合
PCTルートによる中国出願における手続の不備等により優先権を主張していないものとみなされる場合は、以下のとおりである。
(a) 出願人が国際段階において基礎出願の出願番号を明記しておらず、かつ、中国国内段階に移行する際の優先権主張の声明にも記載されていない場合、審査官は手続補正通知書を発行する。指定期間以内に手続補正通知書へ応答しない場合、または応答しても規定事項に合致しない場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.1)。
(b) 国際出願の国際調査報告書において引用文献があれば、審査官はWIPO国際事務局に優先権証明書の転送を請求する。WIPO国際事務局より優先権証明書が提出されていないという通知を受取ると、出願人に優先権証明書の補充提出に係る手続補正通知書を発行する。出願人が、指定期間内に優先権証明書を提出していない場合、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第127条第3項、審査指南第3部第1章5.2.2)。
(c) 審査官は、優先権証明書の内容に基づいて、優先権主張の声明における各項目の内容を審査する。基礎出願の出願日、出願番号および受理機関の名称のうち、1つまたは2つの内容が一致しない場合、審査官は、手続補正通知書を発行する。期限内に応答がないか、あるいは補正後でも規定に合致しない場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.3.1)。
(d) 国際出願の出願人が、優先権主張にかかる先行出願の出願人と一致しない場合、審査官は、国際公開文書の中で基礎出願の優先権を主張する権利を有する旨の声明がなされているか否かを確認する。声明があり、かつ声明が信用できる真実なものと判断される場合を除き、審査官は、出願人に証明書類の提出または補正を要求する。期限内に応答がないか、または補正後も規定に合致しない場合、審査官は優先権を主張していないものとみなす(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。
(e) 優先権主張費を移行日から2か月以内に納付しなかったか、または納付額が不足した場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.4)。
2-2. 実施細則第6条(一般規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
以下のいずれかの理由により、優先権を主張していないものとみなされた場合、所定の期限までに優先権主張の回復を請求することができる(実施細則第6条、審査指南第3部第1章5.2.5.2)。
(a) 出願人が国際段階で基礎出願の出願番号を明記しておらず、中国国内段階に移行する際の移行声明にも基礎出願の出願番号を明記していない。
(b) 優先権主張の声明は規定事項に合致しているが、指定期間以内に優先権証明書、または優先権譲渡証書を提出していない。
(c) 優先権主張の声明において、基礎出願の出願日、出願番号、受理官庁の名称のうち、1つまたは2つが優先権証明書の記載と一致していない。
(d) 優先権主張の声明の記載は規定に合致しているが、所定の期限までに優先権主張費を納付していないか、または納付額が不足している。
(a)から(d)の理由以外によって、優先権を主張していないものとみなされた場合は、優先権主張を回復することはできない。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
上記1-2.(2)のパリ条約による優先権主張の場合と同様である(実施細則第6条第2項)。
2-3. 実施細則第128条(特別規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
2023年の実施細則の改正によって第128条が新設され、優先期間を徒過して国際出願した場合であっても、優先権主張の回復が可能となった。
国際出願日が、優先期間満了後の2か月以内であり、国際段階で受理官庁が優先権の回復を承認している場合は、優先権回復の請求を既に提出したものとみなされる。国際段階で出願人が優先権の回復を請求しなかったか、または優先権回復の請求を提出したが受理官庁によって承認されなかった場合、出願人に正当な理由があれば、移行日から2か月以内に優先権の回復を請求することができる(実施細則第128条)。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
国際出願において優先権を主張し、国際出願日が優先権期間満了後の2か月以内であって、国際段階において既に受理官庁が優先権の回復を承認している場合、国務院専利行政部門は通常疑問を提示せず優先権の回復を認めるので、国内段階へ移行する時に、出願人は再度回復手続を行う必要はない(審査指南第3部第1章5.2.5.1)。
国際段階において出願人が優先権回復請求を行っていないか、または回復請求を提出したが受理官庁が承認していない場合、優先権回復請求書を提出し、理由を説明するとともに、権利回復請求費、優先権主張費を納付する。また、優先権証明書を国際事務局に提出していない場合は、同時に優先権証明書を添付しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.5.1)。
【留意事項】
中国における外国優先権を主張する権利の回復請求は、指定期限の徒過の一般的な救済措置(実施細則第6条)に基づく回復と、優先権主張の回復に関する特別規定(実施細則第36条、第128条)との2つの規定を利用できる。
優先権主張の回復に関する特別規定(実施細則第36条、第128条)は、2024年1月20日から施行された実施細則および審査指南に新たに設けられた規定であり、優先日から12か月以内に優先権を主張して出願するのが原則ではあるが、正当な理由があれば、実質的には優先日から14か月以内に優先権主張することが可能となった。
中国における意匠の優先権主張について
1. 意匠の優先権主張(中国語「要求优先权」)の手続
1-1. 外国優先権
(1) 外国優先権について、出願人は、意匠を外国で最初に出願した日から6か月以内に、中国で同一の主題について意匠出願するときは、その外国と中国が締結した協定、共に加盟している国際条約、または優先権の相互承認原則に基づき、優先権を享受することができる(専利法第29条第1項)。外国特許出願および実用新案出願も、外国で初めて出願した日から6か月以内に、外国優先権を主張して中国に意匠出願をする際の基礎出願とすることができる(審査指南第1部第3章5.2.1.1)。
(2) 出願人が意匠の外国優先権を主張するときは、出願時にその旨の書面を提出し、後の出願から3か月以内に最初の出願時の出願書類の謄本を提出しなければならない。その旨の書面を提出しないか、または期間内に出願書類の謄本を提出しないときは、優先権を主張していないものとみなされる(専利法第30条第2項、第3項)。
(3) 外国優先権を主張する場合、出願人が提出する基礎出願の出願書類の謄本について、基礎出願の受理機関による証明を受けなければならない。国務院専利行政部門と受理機関とが締結した取り決めに従い、国務院専利行政部門が電子交換などの方法により基礎出願の出願書類の謄本を入手したときは、出願人は受理機関が証明した基礎出願の出願書類の謄本を提出したものとみなす(実施細則第34条第1項)。
なお、中国では、意匠出願について、デジタルアクセスサービス(DAS)の利用が認められる。
(4) 外国優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致しない場合、中国出願に係る出願人が基礎出願の優先権の承継人であることを証するための証明資料(優先権譲渡証明書(中国語「优先权转让证明」)を提出しなければならない(審査指南第1部第3章5.2.1.4)。
(5) 出願人は、1つの意匠出願において、複数の外国優先権を主張することができる。複数の優先権を主張する場合、当該意匠出願の期限は、最も早い優先日から起算する(実施細則第35条第1項、審査指南第4部第5章9.5)。
(6) 外国優先権を主張する中国出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)に、出願費の納付と同時に優先権主張の費用を納付しなければならない(実施細則第112条第2項、審査指南第1部第1章6.2.5、第1部第3章5.2.4)。
1-2. 国内優先権
(1) 中国国内出願からの優先権について、出願人は、中国で最初に意匠出願した日から6か月以内に国務院専利行政部門に同一の主題について意匠出願するときは、国内優先権を享受することができる(専利法第29条第2項)。なお、2023年の実施細則の改正で、基礎出願が意匠出願の場合だけでなく、特許または実用新案の出願である場合も、図面に示された意匠と同一の主題について、中国で最初に出願した日から6か月以内に、国内優先権を主張して意匠出願できることが規定された(実施細則第35条第2項)。
出願人が国内優先権を主張する場合、その先願は後願が提出された日から取り下げられたものとみなされる。ただし、意匠の出願人が特許または実用新案出願を基礎として優先権主張している場合は除く(実施細則第35条第3項)。
(2) 国内優先権を主張する場合、出願人が願書に基礎出願の出願日および出願番号を明記するときは、基礎出願の出願書類の謄本を提出したものとみなされる(実施細則第34条第1項)。
(3) 国内優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致しない場合、中国出願に係る出願人が基礎出願の優先権の承継人であることを立証するための証明資料(優先権譲渡証明書)を提出しなければならない(審査指南第1部第3章5.2.2.4)。
(4) 出願人は1つの意匠出願において、複数の国内優先権を主張することができる。複数の優先権を主張する場合、当該意匠出願の期限は、最も早い優先日から起算する(実施細則第35条第1項、審査指南第4部第5章9.5)。
(5) 国内優先権を主張する出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)に、出願費の納付と同時に優先権主張の費用を納付しなければならない(実施細則第112条第2項、審査指南第1部第3章5.2.4、第1部第1章6.2.5)。
2. 意匠の優先権主張成立の要件
(審査指南第4部第5章9.1)
2-1. 外国優先権
(1) 意匠の同一主題の認定は、後願意匠とその最初の外国出願に示した内容に基づいて判断する。同一主題に該当する意匠は以下の二つの条件を同時に満たさなければならない(審査指南第4部第5章9.2)。
(a) 同一製品における意匠に該当すること。
(b) 後願で保護を求める意匠が、その最初の出願に明確に示されていること。
例えば、最初の外国出願に斜視図、正面図、背面図、左側面図のみがあり、後願に平面図と右側面図を追加した場合、後願の正面図、背面図、左側面図および斜視図が最初の外国出願のものと同一であり、かつ平面図および右側面図の形態が最初の外国出願の斜視図に明瞭に表れているのであれば、優先権主張は成立する(審査指南第4部第5章9.2)。
また、最初の外国出願において、意匠の簡単な説明(中国語「简要说明」)を備えていない場合でも、実施細則第31条の規定に則して提出した意匠の簡単な説明*が、基礎出願書類における図面または写真に示される範囲を超えていなければ、優先権の主張には影響しない(実施細則第34条第4項)。
* 実施細則第31条
意匠の簡単な説明において、意匠物品の名称、用途および意匠の設計要点を明記し、かつ設計要点が最も明瞭に示されている図面または写真を一枚指定しなければならない。正投影図を省略するまたは色の保護を求める場合は、簡単な説明にその旨を明記しなければならない。
同一の物品における複数の類似意匠を一つの意匠専利として出願する場合、簡単な説明の中で、そのうちの一つを基本設計に指定しなければならない。
(2) 2021年6月1日以前は、外国基礎意匠出願が部分意匠であったとしても、中国出願時に当該部分意匠の点線を実線に変更して全体意匠として出願する場合には、優先権を主張できると認めていた。2021年6月1日より、中国では、部分意匠制度が導入されたが、全体意匠の出願に基づいて優先権を主張して部分意匠の出願をする場合、あるいは、部分意匠の出願に基づいて優先権を主張して全体意匠の出願をする場合、このような優先権を享有できるかどうかという点について、最新の実施細則および審査指南に明確な規定はない。しかし、実務では、全体意匠の出願に基づいた部分意匠の出願における優先権の主張、部分意匠の出願に基づいた全体意匠の出願における優先権の主張、同一の全体物品のうちの一部に係る部分意匠の出願に基づいた別の部分に係る部分意匠の出願における優先権の主張、が許されている。また、意匠の優先権主張成立の要件の同一主題の判断においても、先願と後願の保護範囲が完全に一致することは要求されておらず、後願で保護を求める意匠が、先願において明確に表示されていることが求められている。例えば、先願において破線で表示されていた部分が、後願で実線に変更された場合でも、実務上、意匠の内容に実質的な変更がなく、線の形式的な変更に過ぎないと捉えられ、後願と先願が同一主題に属すると通常見なされ、優先権主張は認められる。
(3) 実務上、中国出願と最初の外国出願の意匠の物品名は、完全に同一でなくてもよい。例えば、基礎出願が自動車用タイヤである場合、中国出願時に「タイヤ」としてもよい。また、最初の外国出願の意匠がタイヤトレッドの部分意匠である場合、中国出願時に点線を実線に変更してタイヤ全体の意匠として出願し、これに合わせて「タイヤトレッド」という物品の名称を、「タイヤ」という名称に変更することができる。
(4) また、実務上、中国出願と最初の外国出願との図面は、異なる製図方法により作成したものであってもよいが、表現する意匠は同一でなければならない。
2-2. 国内優先権
意匠の国内優先権主張の成立の要件については明確な規定はないが、基本的には外国優先権についてと同じであり、上記第2項の「2-1. 外国優先権」の内容が、国内優先権主張の成立の要件となる。
インドにおける「商標の使用」と使用証拠
1. 「商標の使用」の定義および使用証拠について
インドでは、商標法第2条(2)(c)において、「商標の使用」が定義されている。
インド商標法第2条(2)(c)
標章の使用というときは、
(i)商品に関しては、物理的関係であるかまたはその他いかなる関係であるかを問わず、当該商品についての標章の使用をいうものと解釈する。
(ii)役務に関しては、当該役務の利用可能性、提供、または実施についての記述もしくはその一部としての当該標章の使用をいうものと解釈する。
商標は、商品または役務上で物理的に使用される必要があるが、商品や商品の包装に貼付するなどの物理的使用以外の関係でも使用することができる。例えば、請求書、カタログおよび商品資料の中での「商標の使用」も、実際に市場に商品が存在することを前提とする商品に関係した使用とみなされる。
なお、広告中で商標を使用することは、商品が市場において、少なくとも販売の申出が行われていることを条件として、「商標の使用」とみなされる。すなわち、商品が市場における販売の申出もなしに広告中において商標が使用されているだけの場合、商標法上の定義にいう「商標の使用」を構成しない。
使用証拠は、権限を有する者からの当該使用を確認、署名する宣誓供述書によって提出されるのが一般的である。宣誓供述書によって確認される主な事項は、商標が使用されている事業、当該商標の使用開始日、当該商標が使用される商品のリスト、当該商標に関する広告活動の性質とそれに関連して発生した経費、インド国内における当該商標が使用される商品の販売業者と配給業者の名称であり、当該商標が使用されてきた代表的な分野が記載されることもある。
売上高と広告に関する数値は、年単位で示す必要がある。顧客に発行した請求書、伝票、領収書および/またはそれらの写しは、裏付書類となる。新聞、雑誌、定期刊行物その他の広告媒体に表示された広告の見本はすべて、その商標の知名度を示す証拠となる。これらの書類は、すべて、宣誓供述書の添付書類となり、証拠として提出する。この宣誓供述書に加えて、商品と役務の販売業者、配給業者および消費者からの宣誓供述書を提出することも、具体的な顧客の存在を示し、登録官による確認をさらに強化することになるため望ましい。
個別案件において要求される使用証拠の水準は、商標法における「商標」の要件に照らして、一般則としての商標の識別性等が不適切である程、高くなる。例えば、記述的な語句は不適切であるため、その識別性を立証するには強力な使用証拠が要求される。これは、地理的表示を有する名称または語句やその原産地である商品の製造場所を記述する名称または語句にも当てはまる。姓の場合は、稀な姓であれば、それが識別性を有するに至ったことを示す強力な使用証拠を要求されることはない。
2. 使用中の商標に関する願書における「商標の使用」の陳述
商標規則25(1)において、商標登録願書は、当該商標を今後使用しようとするのでない限り、当該商標が願書に記載のすべての商品または役務に関して使用された期間および使用者についての陳述を含まなければならないことが明記されており、規則25(2)には、出願日前の「商標の使用」を主張する場合、出願人は、裏付けとなる書類とともに、当該使用について証言する宣誓供述書を提出することが求められている。
なお、同様に、出願人または商標権者が出願商標または登録商標の使用を裏付ける書類を提出し、当該使用の宣誓を陳述する場合としては、第三者から不使用取消審判請求を受け登録商標の使用証拠を提出する場合や、被異議申立人(出願人)が異議申立の反駁時に自己の出願を支持するために陳述する場合などが挙げられるが、更新時に「商標の使用」の陳述や使用証拠を要求する規定はない。
インドにおける特許新規性喪失の例外
1. 新規性喪失の例外の類型
インド特許法(以下「特許法」という。)第VI章の第29条から第33条において、先に開示または公表された発明が、後の発明の新規性を喪失させることはない様々な新規性喪失例外の類型が規定されている。
1-1. 先行開示による新規性喪失
(1) 意に反する開示
発明の特許権者または出願人(以下「特許権者/出願人」と表記する。)が、次の(i)から(iii)を証明する場合には、先行開示によりその発明の新規性は喪失しない(特許法29条(2)(a),(b))。
(i) 先行開示された内容が、特許権者/出願人またはこれらの者が真正かつ最初の発明者でない場合は、正当な権限を有する前権利者から入手されたものであること。
(ii) この内容が、特許権者/出願人またはその前権利者の同意を得ずに開示されていること。
(iii) 特許権者/出願人が、このような自己の発明の開示を知った後、可能な限り速やかに特許出願を提出したこと。
ただし、適切な試験目的以外の目的で、特許権者/出願人の発明が、その優先日より前に、特許権者/出願人もしくはその前権利者により、または特許権者/出願人もしくはその前権利者の同意を得た他の者により、インドにおいて商業的に実施された場合には、この規定に基づく恩恵は適用されない。
(2) 権利に違反して提出された出願
正当な出願人の同意を得ずに違反して提出された特許出願の出願人によって、あるいは違反して提出された特許出願の出願人による発明の開示の結果として第三者によって、開示または実施されたという事実によっては、後の正当な権限を有する者による特許出願の新規性が喪失することはない(特許法第29条(3))。
「(1) 意に反する開示(特許法29条(2)(a),(b))」が正当な出願人による特許出願よりも前の、他人の意に反する「開示」を対象としているのに対して、「(2) 権利に違反して提出された出願(特許法第29条(3))」は、不正な出願人による「特許出願」やそのような「特許出願」の結果による第三者の実施、開示を対象としている。
1-2. 政府への先行伝達による新規性喪失
発明の内容またはその価値に関する調査のために、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達は、その発明の新規性には影響を及ぼさない(特許法第30条)。
なお、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達から、その発明の特許出願の提出までの期限は特に定められていない。
1-3. 公共の展示などによる新規性喪失
一定の条件に基づき、博覧会または学会における真正かつ最初の発明者またはその者から権限を取得した者による発明の展示、実施または開示の日から12か月以内にその発明の特許出願をする場合には、このような展示、実施または開示によっては、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条)。詳しい説明を以下に示す。
(1) 真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者の同意を得て発明が、展覧会で展示される場合、中央政府が官報における告示により特許法第31条の恩恵を適用した展覧会に限り、このような展覧会のための発明の実施および開示に対して、この例外が適用される(特許法第31条(a))。また、博覧会における発明の展示または実施の結果としての発明の説明の公開によっても、新規性は喪失しない(特許法第31条(b))。
(2) (1)の博覧会において展示もしくは実施された後、あるいは博覧会の期間中に、真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者による同意を得ないで何人かが行う発明の実施によっても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(c))。
(3) 学会において発表された論文における、真正かつ最初の発明者による発明の記載、または真正かつ最初の発明者の同意を得て学会の会報においてなされた論文の公表は、たとえかかる行為の後に特許出願が提出されたとしても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(d))。
なお、学会における発表は、真正かつ最初の発明者による場合だけであって、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による発表ではないことに注意すべきである。ただし、学会の会報における論文の公表は、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による行為であってもよい。
1-4. 公然実施による新規性喪失
発明がその優先日前の12か月以内にインドにおいて公然実施されたが、そのような実施が適切な試験のためだけに行われ、その発明の内容に照らしてその試験が合理的に必要であった場合には、そのような実施は発明の新規性を喪失させない。ただし、かかる公然実施は、出願人/特許権者自身により、または出願人から必要な同意を得た第三者により行われなければならない(特許法第32条)。
1-5. 仮明細書の提出後における実施または開示による新規性喪失
仮明細書に従い提出された完全明細書は、仮明細書に開示された発明が仮明細書の提出日の後にインドその他の場所において開示または実施された場合には、新規性を喪失しない(特許法第33条(1))。同様の規定が、仮明細書の優先権を主張するPCT出願にも適用される(特許法第33条(2))。
2. 新規性喪失の例外の適用を受けるための手続
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、審査報告書における拒絶や第三者からの無効化手続において引例による新規性の欠如が指摘された段階で、それに対する反論として新規性喪失の例外規定に該当することを主張することが可能である。なお、特許出願の審査において、特許法第29条から第33条までの規定により新規性を喪失させるものとはみなされない先行技術が、審査報告書において当該発明の新規性を喪失させるものとして引用されたときに、新規性を喪失しないという立証責任は出願人にある(インド特許庁実務及び手続マニュアル09.03.02 10.)。
2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって第29Aが新設され、特許法第31条に規定された猶予期間(上記1-3項記載の展覧会での展示等)を利用するためには、申請様式31により所定の手数料と合わせて申請することが規定された。
《参考》申請様式31
申請様式31 1970年特許法および2003年特許規則 猶予期間(GRACE PERIOD) (法第31条および規則第29A) | ||
1. 氏名、住所、国籍、出願番号 | 私/私たち、出願人…………は、…………に提出された出願番号………に関して、第31条に規定された猶予期間の利益を主張する。 | |
2. 適用条文 | □ 第31条(a) □ 第31条(b) □ 第31条(c) □ 第31条(d) | |
3. 証拠として提出する書類 注: 証拠には宣誓供述書も含まれる場合がある | (i)第31条(a) | a) 最初に展示または実施された日付(枠内に日/月/年の形式で記入) b) 展示は、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意を得て行われたか(YESまたはNOを選択) c) 当該展示は、中央政府が官報で告示することにより本条の規定を適用した産業展示会またはその他の展示会において行われたか 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… |
(ii)第31条(b) | a) 最初に公表または実施された日付 b) 上記第31条(a)に関する文書証拠 c) 発明の説明の公表が、第31条(b)に規定する発明の展示または実施の結果として行われたことを示す証拠書類 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… | |
(iii)第31条(c) | a) 最初に実施された日付 b) 上記の第31条(a)または第31条(b)に関する証拠書類 c) 第31条(c)に規定する発明の実施に関する証拠書類 d) 発明の実施が、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意なしに行われたことを示す文書による証拠または宣誓供述書 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… | |
(iv)第31条(d) | a) 最初に記述または公表された日付 b) 真正かつ最初の発明者が学会で発表した論文における発明の記述 c) 真正かつ最初の発明者またはその同意を得た者により学会の論文集に公表された発明の記述 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… | |
4. 保証 | この発明は_年/_月/_日からパブリックドメインであり、この申請はその日(第31条(a)、第31条(b)、第31条(c)、または第31条(d)に関して上記で述べた最も早い日付である)から12か月以内に行われた。 | |
上記の事実および事項は、私/私たちの知る限りの情報および誠意に基づいて真実である。 日付:__年__月__日 | ||
5. 出願人/権限のある代理人による署名 注:宣誓供述書がある場合は、出願人による署名 | 署名 ________________ 特許庁特許管理官 宛 |
アルゼンチンにおける商標の使用と使用証拠
1. 商標の使用
アルゼンチン商標法(以下「法」という。)第26条の規定に従い、商標権者は登録付与後の5年後の翌日から6年後までの1年間に、登録商標の使用に関する宣誓供述書を提出しなければならない。この宣誓供述書は、少なくとも1つの指定商品または役務に関する使用について宣誓すれば良く、宣誓した使用を裏づける証拠を添付することは求められていない。また、改正商標規則242/2019号(以下「規則」という。)第26条の規定によれば、宣誓供述書が提出されなければ、反証がない限り、商標は使用されていないと推定される。
また、法第20条および規則第26条の規定に従い、登録商標を更新する際、商標権者は、当該商標の10年の存続期間満了日前の5年以内に商取引において、商標を使用していた商品、役務または営業活動を表示した使用に関する宣誓供述書を提出しなければならない。なお、規則第26条の規定により、使用に関する宣誓供述書が提出されなければ、更新申請は処理されない。
1-1. 不使用取消
法第26条および商標登録の有効期限に関する行政決議279/2019号付録II(以下「決議」という。)第1条の規定によれば、登録から5年以上経過した商標に対して、利害関係者の請求により、または庁の職権により、不使用および/または使用に関する宣誓供述書の未提出を理由に、庁は失効日を設定する手続(日本でいう不使用取消手続)を開始することが定められており、現在、確認されている限りでは、利害関係者の請求により当該手続が開始されている。その際、利害関係者は、自らが利害関係を有する主体的権利者であること、および、請求の根拠となる証拠を提出しなければならない(決議第3条、第5条)。
商標権者は、庁からの当該手続の通知から15就業日以内に応答することができる(決議第3条、第5条)。
庁は、上記の応答の有無にかかわらず、利害関係者による請求日前の5年以内に、登録商標がアルゼンチン国内において使用されていない商品または役務について、登録の取消を宣言する。ただし、指定された国際分類または指定された商品もしくは役務に使用されていない登録商標は、同一の商標が関連または類似の商品を販売する、または役務を提供するために使用されている場合には、たとえ、その商品または役務が他の分類に包含されるものであっても、取り消されない。また、指定された商品もしくは役務に関連する活動において名称の一部に同一の商標が使用される場合も、取り消されない。なお、登録の取消に関する宣言に不服がある場合は、宣言通知後30就業日以内に連邦民事商事審判所へ審判請求することができ、当該審判請求は、庁宛てに提出する(法第26条)。
不使用による登録の取消は、指定された商品・役務の全部取消に加え、2018年の法改正により、使用されなかった商品または役務に関してのみ一部取消を請求することができることとなった(法第26条)。一部取消請求について、請求が認められた商品または役務に関してのみ商標登録が取り消されることとなり、この場合、取り消されなかった商品や役務に関しては、引き続き登録として存続する(規則第5条)。
なお、一部取消は、2023年6月12日から請求可能となっている(決議第1条)。
また、法第26条の規定に基づき、商標の使用はアルゼンチン国内で行われていなければならず、かかる商品または役務が、国内市場に存在しなければならない。
このことから、インターネットサイトにおいて商標を表示し、当該商標を付した商品・役務について国内から海外に納品、海外から国内に納品または国内間の納品など国内での商取引を示すことができれば、当該商標の有効な使用として認められることになる。
1-2. 使用証拠
法、規則および決議に、商標の使用とみなされる行為を定義づける規定は見当たらないが、実務上、商標の広告における使用が有効な商標の使用とみなされるには、市場における当該商品または役務の実際の提供が広告後に行われなければならない。販売を伴わない単なる広告における使用は、有効な商標の使用として十分ではない。
一般的な使用証拠は、依頼人、顧客または販売店に対して発行された当該商標が明確に表示されている請求書、または表示されている商品番号等から当該商標を容易に特定できる請求書である。ただし、このような使用が有効であるとみなされるためには、現地での商取引、すなわち、アルゼンチン市場内で行われた取引であることが必要である。
証拠としてよく用いられる手段として、権利者の商業帳簿を見て明確に使用を判断できる会計処理の専門家証人による宣言書がある。これは請求書と共に、最も効果的な手段である。
さらに、使用見本としては、登録商標を提出することが好ましい。なお、商標権者が識別性に影響を及ぼさない方法で、自己の登録商標を軽微に変更し、かつ実質的な変更が無い方法で使用する場合には、登録商標の使用とみなされる(パリ条約第5条(C)(2))。
取消請求または審判において、商標権者により主張された使用証拠が不十分であった場合、当該商標は取り消され、登録簿から削除されることになる(法第26条)。
2. 未登録商標
アルゼンチンにおいて、使用する商標の登録を義務づける規定はない。未登録の商標を商取引において継続的に使用し、相当の期間にわたり当該商標を付した商品または役務に関する顧客を生み出している場合、当該商標は事実上の商標(de facto trademark)とされ、これに基づいて、出願の異議申立や、無効請求など、第三者に対する権利行使を行える可能性がある。なお、権利行使可能な当該商標の要件は、個々の事例に応じて判断されることになる。
中国における商標の調べ方—中国商標網ウェブサイト
1. 詳細
1-1. 初めて、「国家知識産権局商標局 中国商标网」(日本語「国家知識産権局商標局 中国商標網」;以下、「中国商標網」という)において、商標検索を利用する場合は、中国商標網のウェブサイト(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/index.html)(図1)にアクセスし、JETROが公開している「中国商標網のユーザー登録マニュアル」(JETROの「知的財産に関する情報」→「マニュアル」ページ参照)(https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/)にしたがって、ユーザー登録をする必要がある(なお、ユーザー登録に際し、パスワードは、英字の大小文字、数字、特殊文字全てを含む必要がある点に注意が必要である。)。
ユーザー登録が完了したら、改めて中国商標網のウェブサイトにアクセスし、図1下方に赤枠で示している「商标网上查询」をクリックすると、図2に示す画面に遷移する。
1-2. 次に、画面(図2)下方の「我接受」をクリックすると、画面(図3)に遷移する。
1-3. 図3の画面は、ユーザー登録を行った際に入力した画面であるが、改めて、以下の番号順にしたがって必要事項を入力する。当該番号は図3右端の番号と一致する。
(1) 「非大陆地区用户(中国大陸以外のユーザー)」をクリック。
(2) ユーザー登録したメールアドレスを入力。
(3) ユーザー登録したパスワードを入力。
(4) 「获取验证码(確認コードを取得)」をクリック。
→「60s后重试」から60秒のタイマーがスタート。60秒程度で確認コードが送られてくる。つまり、60秒以内に入力することを意味している訳ではない。確認コードは、shangbiaoyanzheng@cnipa.gov.cnから、以下のようなメールが送られてくる。
「请输入验证码627204完成邮箱验证(5分钟内有效)。如非本人操作请忽略。」
上記のメールは、到着してから5分以内に、同じIPアドレスから、(4)の左空欄にメール中の6桁数字(確認コード)を入力することを意味する。制限時間については30分などに変更される場合もあるので留意されたい。
→月曜日朝などの混雑時や、何度も「获取验证码」をクリックすると、返信が遅れる場合がある。2分を超えて返信がなければ、日時を変えて、1)から4)の手順を最初から再度行うことをお勧めする。
(5) 右に表示された4桁の英数字を左空欄に入力する。
(6)「记住账号(アカウントを記憶する)」をチェック。
(7) (8)(「我已阅读并接受(読んで同意します)」)をチェックしてから(7)「登录(ログイン)」をクリック。
1-4. ログイン後、最初の画面として、図4の画面が表示される場合がある。その場合は、画面上部の赤枠で示す「head zhCN 」をクリックすると、図5が表示される。
なお、2回目以降のログインでは、図4が表示されることなく、図5が表示される。
1-5.図5の画面には、以下の5種類の検索用のアイコンが表示される。
(1) 「商标近似查询」(日本語「類似商標検索」)(以下、「中国語・簡体字(日本語)」で表記する。)
(2) 「商标综合查询(商標総合検索)」
(3) 「商标状态查询(商標経過情報検索)」
(4) 「商标公告查询(商標公告検索)」
(5) 「商品/服务项目(商品/役務表示)」
それぞれの検索方法の詳細は、以下のとおりである。
なお、左下の「错误信息反馈」をクリックすると、エラー情報をフィードバックする画面が表示される。
1-6. 類似商標検索
図5の画面の「商标近似查询(類似商標検索)」のアイコンをクリックすると、図6の画面が表示される。
(i) 「自动查询(自動検索)」と「选择查询(選択検索)」の2つの検索方法がある。「自動検索」がデフォルト設定され、「選択検索」は、「自動検索」と比べて「查询类型(検索類型)」の項目が設けられているところが相違する。以下、「自動検索」を例として説明する。
(ii) 「国际分类(国際分類)」:国際分類の1~45類の中から1つを入力する。また、右側の「拡大鏡アイコン」をクリックすると、類見出しを含むリストが現れ、国際分類を選択できる。国際分類を省略して検索することはできない。
(iii) 「类似群(類似群)」:国際分類入力の上、特定したい(中国の)類似群を入力して検索できる。図6「类似群(類似群)」右端の「拡大鏡アイコン」をクリックして表示されるリスト(図7)から4桁の類似群コードにレ点を入れて「加入检索」をクリックすると選択できる。なお、類似群は、入力必須項目ではない。
(iv) 「查询方式(検索方式)」:「汉字(漢字)」、「拼音(ピンイン)」、「英文(英語)」(3~20文字のアルファベットで検索)、「数字」、「字头(イニシャル)」(最初の1または2文字のアルファベットで検索)、「图形(図形)」から適切なものを選択しなければならない。次項の(v) 商標要素と矛盾すると検索できない。
(v) 「检索要素(商標要素の入力)」:調査対象である商標の漢字(簡体字に限る)、ピンイン、英語、数字、最初の文字(英語3文字まで)を入力する。図形の場合、右側の「拡大鏡アイコン」をクリックして、適切な図形コードを選択する。
(vi) 「查询(検索)」:クリックとすると、検索結果が画面に表示される。例えば、漢字商標「富士山」を第3類において調査する場合、図8のように関連情報を入力し、「查询(検索)」をクリックすると、結果が図9のように表示される。
図9の画面上部の「打印(印刷)」をクリックすると、検索結果を印刷できる。
検索結果の一覧表の項目は、左から「序号(番号)」、「申请/注册号(出願/登録番号)*1」、「申请日期(出願日)」、「商标(商標)」、「申请人名称(出願人の名称)」である。「申请/注册号(出願/登録番号)」列の青字または「商标(商標)」列の商標をクリックすると、具体的な商標情報を閲覧できる。
*1:1つの出願に付与される出願番号と登録番号は同一で、登録されるまでは「出願番号」、登録後は「登録番号」となる。
1-7. 商標総合検索
図5の画面の「商标综合查询(商標の総合的検索)」のアイコンをクリックすると、図10の画面が表示される。
検索項目は、(i)「国际分类(国際分類)」、(ii)「申请/注册号(出願/登録番号)」、(iii)「检索要素(商標要素の入力)」、(iv)「申请人名称(中文)」、(v)「申请人名称(英文)」の5つである。(i)「国際分類」は右側の「拡大鏡アイコン」をクリックして、表示されるリストから分類を選択することができる。(ii)~(v)のいずれか1か所入力すれば検索できる。
例えば、(iii)「检索要素(商標要素の入力)」に「富士山」を入力し、「查询(検索)」をクリックすると図11の画面が表示される。
図11の画面の「申请/注册号(出願/登録番号)」列の青字、または「商标(商標)」列の商標をクリックすると、具体的な商標情報を閲覧することができる。
1-8. 商標経過情報検索
図5の画面の「商标状态查询(商標経過情報検索)」のアイコンをクリックすると、図12の画面が表示される。
「申请/注册号(出願/登録番号)」に番号(例えば、「43096221」)を入力し、「查询(検索)」をクリックすると図13の画面が表示される。
一覧表の項目は、左から「序号(番号)」、「申请/注册号(出願/登録番号)」、「国际分类(国際分類)」、「申请日期(出願日)」、「商标(商標)」、「申请人名称(出願人名称)」である。「申请/注册号(出願/登録番号)」列の青字または「商标(商標)」列の商標をクリックすると、商標の審査経過(図14)を閲覧することができる。
図14の画面から、当該商標は2020年12月23日に商標登録証が発行されたことが確認できる。「打印(印刷)」をクリックすると、同画面を印刷できる。
また、画面上部の「商标详情(商標詳細)」のタブをクリックすると、商標の詳細(図15)を閲覧することができる。
1-9. 商標公告検索
図5の画面の「商标公告查询(商標公告検索)」のアイコンをクリックすると図16の画面が表示される。
図16の画面の上部は、直近12期の商標公告が表示される。その上には「公告期号(公告の発行番号)」による検索フィールドが設けられており、中国に直接出願した商標が「公告期号(公告の発行番号)」ごとに検索できるようになっている。
例えば1行目「第1909期 初步审定(初歩査定)公告日期:2024年10月27日、异议申请截止日期(異議申立期限日):2025年01月27日」をクリックすると、図17の画面が表示される。
図17の画面上部に「检索条件(検索条件)」フィールドが表示される。
1行目:左から「公告期号(公告の発行番号)」、「公告类型(公告の種類)」、「商标名称(商標名称」)、「类别(区分)」
2行目:左から、「注册号(登録番号)」、「申请人(出願人)」、「代理人」、「申请日期~到(検索対象とする期間の出願日の開始日~終了日)」
3行目:左から「商标形式(商標の形式)」、「商标类型(商標の種類)」、「共有人(共同出願人)」
公告の種類には、「商标初步审定公告:登録査定された公告」、「商标注册公告(一):異議なく登録となった公告」、「商标注册公告(二):(一)以外の登録公告」などが選択可能で、例えば、公告期号(公告の発行番号)を入力し、公告类型(公告の種類)で「商标初步审定公告(登録査定となった公告)」を選択すれば、当該公告期号における異議申立可能な案件をリスト化することができる。
さらに、公告内容を閲覧する場合、例えば、番号12040860の公告を調べる場合、図17の同案件画面右端の「查看(確認)」をクリックすると、図18の公告画面が表示される。
なお、図16左下「马德里国际注册公告」をクリックすると、図19のWIPOのマドリッド・モニター画面に遷移する。
(詳細は「Madrid Monitor の活用方法」を参照。)
1-10. 商品/役務表示検索
図5の画面の「商品/服务项目(商品/役務)」のアイコンをクリックすると、図20の画面が表示される。
検索項目の入力については、以下のとおり。
(i)「国际分类(国際分類)」:国際分類の1~45類のうち一つの分類を入力。
(ii)「类似群(類似群)」:特定したい類似群を入力。
なお、(i)と(ii)は、「拡大鏡アイコン」をクリックして、リストから選択することもできる。
(iii)「商品类型(商品類型)」:プルダウンリストから、「尼斯商品(ニース商品)」、「国内标C(中国国内特有のCで始まる商品)」を選択することができる。右側に「五方(TM5*1)」に該当するか否か、「是(該当する)」、「否(該当しない)」も選択することができる。なお、選択しないと、特定しないとみなされる。
(iv)「商品名称(商品名称)」:商品名称のキーワードまたは名称を簡体字で入力。
(v)「商品编码(商品番号)」:国際分類表に掲載されている商品の特定の固有番号。
*1:TM5:商標五庁(日本国特許庁(JPO)、米国特許商標庁(USPTO)、欧州連合知的財産庁(EUIPO)、韓国特許庁(KIPO)および中国国家知識産権局(CNIPA))で認容が確約された商品・役務リスト。
例えば、「纸巾(紙製タオル)」(簡体字で入力)を(iv)「商品名称」に入力して、「查询(検索)」をクリックすると、図21の画面が表示される。
検索結果の一覧表の項目は、左から「国际分类(国際分類)」、「类似群(類似群)」、「商品/服务项目(商品/役務の名称)」、「五方(TM5)」、「商品编码(商品番号)」、「商品类型(商品類型)」。
国際分類表および商標局が審査において採用を認める商品として公表している商品は、全て検索できるが、採用を公表していない商品は検出されない。
例えば、図21の商品名称に「电子器具(電子器具)」を入力、検索してみると、検索結果である図22には「没有检索到结果!(結果が取得されません!)」と表示される。このことは、出願時に「电子器具(電子器具)」を指定した場合、審査において認められない可能性が高いことを示している。
日中韓類似群コード対応表には、既に認容した商品として公表されている商品名称が、中国語(簡体字)とともに日本語、英語、韓国語で表記されているので活用されたい。
2. 留意点
図23に示す、図5の画面上部の赤い楕円形の枠で囲ってある箇所をクリックしても各検索画面に直接アクセスできる。
また、中国商標網のウェブサイトは、中国語版および英語版がある。画面最上行の「English」をクリックすると英語版に切り替わり、図5の画面および各検索項目の表記が英語になる。もちろん、公告画面などの検索結果は中国語版しか表示されない。
なお、中国商標網のウェブサイトは、メンテナンス中の場合や、多くの人が同時にアクセスした場合、一時的にアクセスできないことがある。アクセスエラーとなる場合は、時間帯や利用端末を変えて接続を試みると接続できる場合がある。さらに、不正常な検索と認められた場合、検索者のIPアドレスとともに「Your current behavior is detected as abnormal. Please try again later.」のメッセージが送られ、一時的にアクセスできなくなる場合がある。不十分な検索条件や同一検索の繰り返しなどの不正常な検索は、避けることが必要である。