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シンガポールにおけるパリ条約ルートおよびPCTルートの特許出願の差異
2015年03月31日
■概要
(本記事は、2019/10/15に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17808/
シンガポールにおいては、2014年2月14日に施行された改正特許法により、パリ条約ルートおよびPCTルートの特許出願審査手続きの大部分が統一された。審査請求に関する重要な期限は両ルートとも同一である。しかしならが、両ルートの手続きには、依然として留意すべき差異が存在する。
■詳細及び留意点
【詳細】
パリ条約ルートおよびPCTルートの手続き上の差異の理解を図るため、まずシンガポール特許出願の審査オプションを紹介する。シンガポールでは特許出願の審査の進め方においていくつかの方法が存在する。
シンガポール特許出願の審査オプション
出願人が利用可能な審査オプションおよびそれぞれの期限を以下フローチャートに示し説明する。
(a)シンガポール特許庁での調査および審査
オプション(a)では、優先日または出願日(「所定日」)から13ヶ月以内に、調査報告書の請求を行うことができる(シンガポール特許法第29(1)(a)条、シンガポール特許規則第38(1)条;庁費用1,925シンガポールドル)。審査請求は、所定日から36ヶ月以内に行うことができる(特許法第29(3)条、特許規則第43(1)条;庁費用1,350シンガポールドル)。また、出願人は、所定日から36ヶ月以内に、調査と審査を同時に請求することができる(特許法第29(1)(b)条、特許規則第43(1)条;庁費用2,600シンガポールドル)。
(b)対応外国出願またはPCT出願の調査結果に基づく審査
オプション(b)では、対応外国出願の外国調査結果または対応PCT出願の国際調査報告書(International Search Report : ISR)を有する出願人は、所定日から36ヶ月以内に外国調査結果またはISRに基づく審査請求を行うことができる(特許法第29(1)(c)条、特許規則第43(1)条;庁費用1,350シンガポールドル)。
(c)補充審査
対応外国特許出願またはPCT出願において特許可能と判断された請求項に依拠しようとする出願人は、所定の日から54ヶ月以内に補充審査を請求(オプション(c))する必要がある(特許法第29(d)条、特許規則第43(3)条;庁費用なし)。補充審査の請求に際しては、審査の根拠となる対応外国出願またはPCT出願に関する所定書類を提出することが要求される。
所定書類とは、以下の形態であるものとする
(i)特許性に関する国際予備調査報告(International Preliminary Report on Patentability : IPRP)の写しおよびIPRPで言及された請求項の写し;または
(ii)対応外国出願における特許付与証の認証謄本;または
(iii)関連出願の調査および実体審査の最終結果を記載したその他文書、および当該最終結果で言及された請求項の写し;および
(iv)当該出願の各請求項が、新規性、進歩性および産業上の利用可能性について既に審査された対応外国出願またはPCT出願における少なくとも一つの請求項とどのように関連するかを記載した表;
オプション(c)では、審査官は、新規性、進歩性および産業上の利用可能性について検討することなく、当該シンガポール特許出願が審査される。
パリ条約およびPCTルートの手続き上の差異
シンガポール特許出願におけるパリ条約およびPCTルートの手続き上の差異は、以下の表に示す通りである。
パリ条約ルート | PCTルート | |
(1)出願段階 | ||
出願期限 | 優先日から12ヶ月以内 | 最先の特許出願日から30ヶ月以内 |
追加事項 | 認められる(追加事項は優先日が認められない) | 認められない |
優先権出願またはPCT特許出願が英語で出願されていない場合の明細書要件 | 英語で記載された明細書 | PCT特許出願の正確な英語訳および翻訳の確認証明書 |
出願フォームの様式 | 特許フォーム1 | 特許フォーム37 |
出願にかかる庁費用 | 160シンガポールドル | 200シンガポールドル |
(2)公開段階 | ||
公開 | 優先日から約18ヶ月で公開 | 国内段階が開始する時点で公開されたものと見なされ、PCT出願が英語で公開されていない場合は、仮保護の権利を得るためには英語訳の公開を請求する必要がある(庁費用は70シンガポールドル) |
(3)審査段階 | ||
審査オプション | 上述のすべての審査オプションを利用可能 | オプション(a)における調査報告請求後に審査請求を行うオプションは利用不可 |
(1)出願段階
PCTルートに基づくシンガポール特許出願は、最先の特許出願日から最大30ヶ月遅らせることができる。これにより、出願人は優先権主張日から12ヶ月以内に出願しなければならないパリ条約と比べて、シンガポールで特許を取得するか否かを判断するためにより長い時間的猶予を得ることができる。さらに、30ヶ月期限を逸した場合であっても、PCT出願は、延長一ヶ月あたり200シンガポールドルの延長費用を納付すれば、所定日から42ヶ月以内であればシンガポール国内段階へ移行することができる(特許規則第108(4)条)。
PCTルートに基づくシンガポール特許出願は、出願されたPCT出願の内容を超える事項を含むことはできない。一方、パリ条約ルートでは、シンガポール特許出願は、優先権出願に対する追加事項を含むことができるが、その場合は、追加事項については優先権を主張することができない。
PCTルートにおいて、PCT出願が英語で出願されなかった場合、当該PCT出願の正確な英訳文をシンガポールへの国内段階移行時に提出する必要がある(特許法第86条(3))。特許規則第112条で要求され、PCT(特許協力条約)に基づき規則第51条の2の1(d)により認められた証明付き翻訳文は、シンガポール国内段階への移行日から2ヶ月以内に提出しなければならない。
(2)公開段階
パリ条約ルートに基づく場合、特許出願は優先日から約18ヶ月で公開される(特許法第27(1)条、特許規則第29(1)条)。一方PCTルートに基づく特許出願は、その国内段階が開始するとき、またはそれより後にPCT(特許協力条約)に従って公開されるとき(早期国内移行の場合)、公開されたものとして取り扱う(特許法第87条(2))。
さらに、PCT出願が英語で公開されない場合(例えば日本語で公開される場合)、PCTルートに基づくシンガポール特許出願の出願人は仮保護の権利を得るためには、英訳文の公開をシンガポールの国内段階移行時または移行後に請求する必要がある(特許法第87(3)条)。
(3)審査段階
PCTルートでは時間的制限により、オプション(a)における調査請求後に審査請求を行うオプションは、利用することができない。したがって、PCTルートに基づくシンガポール特許出願の出願人は、シンガポール特許庁での調査および審査を希望する場合、調査および審査の同時請求を行うことしかできない。
さらに、調査および審査の同時請求、またはオプション(b)に基づく審査は、所定日から36ヶ月以内、すなわち、国内段階移行のため30ヶ月期限から6ヶ月以内に請求されなければならない。したがって、PCTルートに基づくシンガポール特許出願の出願人は、国内段階移行後の比較的短期間にどの審査オプションを利用するかを決定する必要がある。
■ソース
・シンガポール特許法・シンガポール特許規則
■本文書の作成者
Rodyk & Davidson LLP Lee Ai MingRodyk & Davidson LLP Mu Jun
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.01.13