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シンガポールにおける特許法改正の概要(2014年2月14日施行)

2014年07月11日

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■概要
(本記事は、2019/10/15に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17810/

シンガポールでは、改正特許法が2012年7月10日に成立し、2014年2月14日に施行された。同改正により、自己査定型の特許制度(self-assessment patent system)から肯定的結果に基づく付与制度(positive grant system)へシフトし、シンガポール特許庁が発行する審査内容に関する報告書が肯定的な出願のみが特許を付与されることになった。
■詳細及び留意点

【詳細】

シンガポールでは改正特許法が2012年7月10日に成立し、シンガポール特許庁によって草案は公告され、2014年2月14日から施行された。

 

(1) 重要な改正点

重要な改正点は、自己査定型の特許制度(self-assessment patent system)から肯定的結果に基づく付与制度(positive grant system)へシフトしたことである。

改正前は、出願した発明が新規性等の特許要件を満たしているかの判断は審査官ではなく、出願人が自ら行って登録が認められる自己査定型の特許制度であったため、実際には新規性等の特許要件を具備しない発明にも特許が付与されていた。これは、シンガポール特許庁が独自の調査及び審査能力を有していなかったという事情からである。

改正特許法においては、出願人の請求に基づいてシンガポール特許庁が発行する審査内容に関する報告書が肯定的な出願にのみ、特許を付与することになった。また、「スロー/ファストトラック」システム(“slow/fast-track” prosecution system)も改正され、「ファスト」又は「スロー」の選択肢のない単一のトラックシステムに統合された。

 

同時に、シンガポール特許庁は上記改正を考慮して、有効な調査及び審査能力の構築を提案した。

 

(i) 「肯定的結果に基づく付与制度」及び新たなタイムライン

改正特許法の下で出願人が利用可能な審査手続は、以下の4つである(シンガポール特許法第29条(1)、特許規則38(2)、43)。

 

(a) 調査とその後の審査

この場合、出願日(優先日)から13ヵ月以内に調査を請求し、調査報告書に基づいて出願日(優先日)から36ヵ月以内に審査請求を行う。

(b) 調査及び審査

この場合、出願日(優先日)から36ヵ月以内に調査及び審査の請求を行う。

(c) 対応する出願(corresponding application)、対応する国際出願(corresponding international application)、関連する国内段階の出願(related national phase application)の調査報告書を基礎とした審査

この場合、出願日(優先日)から36ヵ月以内に審査請求を行う。

なお、「対応する出願」及び「対応する国際出願」とは、オーストラリア、カナダ(英語による出願のみ)、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国の特許庁及び欧州特許庁(英語による出願のみ)へなされた出願又は特許協力条約に基づきなされた出願であり、(ア)出願人のシンガポールにおける出願の優先権の主張の基礎となる出願、(イ)出願人のシンガポールにおける出願に基づき優先権を主張する出願、(ウ)出願人のシンガポールにおける出願と同じ出願を基礎として優先権を主張する出願をいう。「関連する国内段階の出願」とは、「対応する出願」と同様の国の特許庁等へなされたPCT出願に基づく出願であり、シンガポール国内段階へ移行した出願をいう(同法第2条(1)、特許規則41)。

(d) 対応する出願、対応する国際出願、関連する国内段階の出願の最終審査結果を基礎とした補充審査(supplementary examination)

改正前は、対応する出願の最終審査結果に依拠することを選択することができたが、今回の改正により、対応する出願の最終審査結果を利用する場合についても、シンガポール特許庁における審査(補充審査)が行われることとなった。この場合、出願日(優先日)から54ヵ月以内に補充審査の請求を行う。

 

上記(a)~(d)について、審査官による審査内容(判断結果)に関する報告書((a)(b)(c)の場合は審査報告書(examination report)、(d)の場合は補充審査報告書(supplementary examination report)と呼ばれる)が拒絶理由を含んでいない場合に、登録官により「適格性通知(Notice of Eligibility)」が発行される。その後、出願人は特許付与に関する費用の支払手続に入る。

審査報告書又は補充審査報告書が1又はそれ以上の拒絶理由を含んでいる場合は、登録官により「出願拒絶を意図する通知」が発行される。この場合、出願人は拒絶理由を克服する提案を記載した書面を含む所定の書式を提出し、可能な場合には同時に修正し、審査報告書又は補充審査報告書の再審理を要求する。その後、再審理が完了し、登録官により拒絶理由がないと判断された場合は「適格性通知」が発行される。再審理を経ても拒絶理由があると判断された場合は、「拒絶通知」が発行される。

 

(ii) 現在のシステムとの手続上の相違点

  • 上記に記載した(a)から(d)の審査の選択肢は、これまでの自己査定型システムにおいても既に利用できたものである。このうち、選択肢(a)~(c)は、審査報告書に加えて「適格性通知」も発行されるようになったこと以外、大部分は同様のシステムが残っている。これに対し、選択肢(d)については、上記(1)(i)(d)で述べた通り、新しいシステムに移行したことで、「適格性通知」発行のために、補充審査の申請を新たに行うことが必要になった。
  • PCT出願に基づき所定の特許庁(上記(1)(i)(c)記載の特許庁)の国内段階に移行した出願/特許は、シンガポールに国内移行した出願/特許に対して「関連する国内段階の出願/特許」と定義されるに至った。これにより、改正前は共通する優先権主張によって関連づけられた「対応する出願」、「対応する国際出願」の調査報告書及び審査報告書のみが上記の選択肢(c)及び(d)において使用されていたが、当該「関連する国内段階の出願」から得られた調査報告書も、上記の選択肢(c)において利用可能となった。また、当該「関連する国内段階の出願」から得られた審査報告書も、上記の選択肢(d)において利用可能となった(同法第29条(1)(c)、(d)、規則41)。

 

(2) その他の留意すべき改正

(i) 付与後調査及び審査の削除

付与後調査及び審査の規定(改正前第38A条)が削除された。

 

(ii) 失効した特許の回復のための基準の引き下げ

失効した特許について、更新料の支払いを失念したことにつき故意がないと登録官が認めた場合に、回復され得ることとされた(第39条)。改正前は、登録官は権利者が更新料の支払いにつき「所定の期間内に納付されるよう適切な注意を払っていた」と認められることが必要であった。

 

【留意事項】

  • 同改正法は、2014年2月14日以降に出願される特許に適用される。
  • シンガポールでは、改正前は、自己査定型の特許制度であったため、実際は特許要件を満たさないものでも特許が付与されていたが、今回の改正によって、シンガポール特許庁が発行する審査内容に関する報告書が肯定的な出願のみが特許を付与されることになった点に、留意が必要である。
  • また、対応する出願の最終審査結果を基礎とした出願の場合についても、補充審査の請求が必要になっている点にも留意すべきである。
■ソース
・シンガポール特許法等の改正案について(IPOSウェブサイト)
http://www.ipos.gov.sg/Portals/0/ProposedAmendmentstothePatentsActandOtherIPRelated.pdf ・改正シンガポール特許規則(2014年2月14日施行)について(IPOSウェブサイト)
http://www.ipos.gov.sg/Portals/0/IP%20legislation/Patents%20(Amendment)%20Rules%202014%20(draft%20version).pdf ・模倣対策マニュアル シンガポール編(2012年3月、日本貿易振興機構)7頁
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2013/09/1a888e0d4e8da846dd617f27ccbf9614.pdf
■本文書の作成者
辻本法律特許事務所
■協力
Donaldson & Burkinshaw LLP
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期

2014.01.27

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