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中国における新規性の審査基準(専利審査指南)に関する一般的な留意点(前編)
2023年02月16日
■概要
(本記事は、2024/10/15に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/40072/
中国の審査基準(専利審査指南)のうち新規性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の事項については省略する。本稿では、前編・後編に分けて専利審査基準の新規性の留意すべき点などを紹介する。前編では、法律や新規性に関する専利審査基準の記載箇所などの情報、新規性判断の基本的な考え方、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定について説明する。請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意点については「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/33755/)をご覧ください。
■詳細及び留意点
1.はじめに
1-1.法律について
日本の「特許法」に対応する中国の法律は「中華人民共和国専利法」(以下「専利法」という)である。ただし、専利法には、特許だけではなく、実用新案、意匠についても規定されている。
日本の新規性(特許法第29条第1項)に対応する規定は、専利法第22条に記載されている(下線部)。
第二十二条 専利権を付与する発明及び実用新案は、新規性及び創造性、実用性を具備していなければならない。 新規性とは、当該発明又は実用新案が既存技術に属さないこと、いかなる単位又は個人も同様の発明又は実用新案について、出願日以前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ出願日以降に公開された専利出願文書又は公告の専利文書において記載されていないことを指す。 創造性とは、既存技術と比べて当該発明に突出した実質的特徴及び顕著な進歩があり、当該実用新案に実質的特徴及び進歩があることを指す。 実用性とは、当該発明又は実用新案が製造又は使用に堪え、かつ積極的な効果を生むことができることを指す。 本法でいう既存技術とは、出願日以前に国内外において公然知られた技術を指す。 |
なお、中国でいう「新規性」には、日本でいう「新規性」以外に「抵触出願」(日本でいう「拡大先願」に類似したもの)を含むものであるが、ここでは、日本でいう「新規性」に対応する事項のみを取り扱う。
1-2.用語について
中国では、日本の「特許・実用新案審査基準」に対応するものは「専利審査指南」(专利审查指南)と呼ばれる。なお、「専利審査指南」は意匠の審査基準も含まれている。
1-3.記載個所
新規性(専利法第22条第2項)については、専利審査指南の第二部分第三章に記載されている。その概要(目次)は以下のとおり。
第三章 新規性 1. 序文 2. 新規性の概念 2.1 現有技術 2.1.1 時期の期限 2.1.2 公開方式 2.1.2.1 出版物による公開 2.1.2.1 使用による公開 2.1.2.3 他の方法による公開 2.2 抵触出願 2.3 対比文献 3. 新規性の審査 3.1 審査の原則 3.2 審査基準 3.2.1 同一内容による発明又は実用新案 3.2.2 具体的(下位)概念と一般的(上位)概念 3.2.3 慣用手段を直接置換えた場合 3.2.4 数値と数値範囲 3.2.5 性能、パラメータ、用途又は製造方法などの特徴を含む製品の請求項 4. 優先権(詳細部分は省略) 5. 新規性を喪失しない猶予期間(詳細部分は省略) 6. 同一の発明創造についての処理 (詳細部分は省略) |
2.新規性の判断の基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章3.1 審査の原則
(2) 異なる事項または留意点
日本の特許法と中国の専利法で規定された新規性の定義は基本的に同一であり、このため、基本的な考え方も同一であると考えられる。
ここで、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合であっても、請求項に係る発明が新規性を有していると判断されるとは限らない点に留意が必要である。すなわち、請求項に係る発明と引用発明とを対比し、技術分野、解決しようとする技術的問題、技術方案(発明の構成)および期待される効果が実質的に同一である場合には、新規性を有していないと判断される(同章3.1(1))。例えば、「構成の置換」が慣用手段を直接置換えただけの場合には、進歩性ではなく新規性を有していないと判断され(同章3.2.3)、「構成の置換」が進歩性だけではなく新規性においても判断される点に留意が必要である。
3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章3.1 審査の原則
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)には、次のように規定されている。
第二条 人民法院は、当業者が特許請求の範囲、明細書および図面を閲読した後に理解する通常の意味により請求項の用語の意味を画定する。請求項の用語が明細書および図面で明確に定義または説明されている場合、それにより画定する。 前項規定に基づき画定できない場合、属する技術分野の当業者が通常採用する技術辞書、技術マニュアル、参考書、教科書、国又は業界の技術基準等により画定する。 |
第二条の第二項には、請求項の用語について、明細書を参照しても特定できない場合には、属する技術分野の当業者が通常に採用する「技術辞書」、「技術マニュアル」、「参考書」、「教科書」または「国又は業界の技術基準等」を参照すると規定され、発明の認定に考慮すべき技術常識に係る文献について具体的に列挙されている。
上記司法解釈は、審決取消訴訟の審理に関して規定しているものではあるが、実務上、審査官から用語の意味が不明確であると指摘された際、教科書などを用いてその用語の意味を説明できることに留意するべきである。
4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章2.1 現有技術
(2) 異なる事項または留意点
現有技術とは、出願日以前に国内外で公然知られた技術を指す(専利法第22条第5項)。現有技術は、出願日(優先権がある場合には、優先権日を指す)以前に国内外の出版物における公式な発表、国内外における公式な使用、あるいはその他の方式により公然知られた技術を含む(専利審査指南第2部分第三章2.1)。
出願日当日に開示された技術的内容は現有技術の範囲には含まれないことに注意が必要である(同章2.1.1 時期の期限)。また、現有技術になるか否かの判断は、「日」を単位として行われ、時分秒は考慮されない(専利法第22条第5項)。
4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1 出版物による公開
(2) 異なる事項または留意点
特になし。
4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1 出版物による公開
(2) 異なる事項または留意点
出版物の印刷日(*)を公開日とみなすが、その他の証拠により公開日を証明している場合は除く。印刷日は、年月あるいは年しか明記していない場合には、記された月の末日、もしくは記された年の12月31日を公開日とする。
(*)日本の出版物(書籍など)には「発行日」が記載されるが、中国の出版物には「印刷日」が記載される。
4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1 出版物による公開
(2) 異なる事項または留意点
現有技術の公開方式には、出版物による公開、使用による公開、その他の方式による公開の3種が含まれている(専利審査指南第2部分第三章2.1.1)。ここで、インターネットやその他オンラインデータベースにある資料などは、「出版物による公開」に含まれる(専利審査指南第2部分第三章2.1.2.1)。
無効審判の段階では、https://archive.org/のようなウェブ上のアーカイブの情報も無効証拠として利用できる。
下記のガイドラインには、インターネット証拠の審査認定についての規定があり、参考にできる。
・専利侵害紛争行政裁決案件処理ガイドライン(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20191227.pdf#page=125
4-1-5.公然知られた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章2.1.2.3 他の方法による公開
(2) 異なる事項または留意点
口頭での公開(口頭による話し合い、報告、討論会での発言、放送、テレビ、映画など)は、「他の方法による公開」に含まれる(専利審査指南2.1.2.3)。
なお、専利法第22条に「本法所称现有技术,是指申请日以前在国内外为公众所知的技术」(本法でいう既存技術とは、出願日以前に国内外において公然知られた技術を指す)と記載があるとおり、中国でいう「公众所知的」(公然知られた)は、日本の特許法第29条第1項第1号でいう「公然知られた」よりも広い概念(公知技術全般)を指す。
4-1-6.公然実施をされた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応する専利審査指南の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された専利審査指南の場所
専利審査指南第2部分第三章2.1.2.2 使用による公開
(2) 異なる事項または留意点
使用された製品または装置を破壊した時に限ってその構造および機能を知るものであっても、使用による公開(公然実施)に該当する。
なお、ポスター、カタログについては、公式な発表または出版の時期を証明できる場合、出版物(刊行物)に該当するが、その使用により技術方案(発明の構成)が公開された場合には、図面、写真と同様に、使用による公開(公然実施)にも該当する。
請求項に係る発明と引用発明との対比、特定の表現を有する請求項についての取扱い、その他の留意点については「中国における新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。
■ソース
専利審査指南2010(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf
※第二部分第三章については2010年版から改定されていない。
専利審査指南2010(原文)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/section20100201.pdf
最高人民法院による専利権の付与・確認の行政案件を審理することに関する司法解釈(一)
https://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-254761.html
https://zh.wikisource.org/wiki/最高人民法院关于审理专利授权确权行政案件适用法律若干问题的规定(一)
専利法(2021年6月1日施行)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
特許・実用新案審査基準(日本)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
■本文書の作成者
北京銀龍知識産権代理有限公司■本文書の作成時期
2022.8.29