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台湾における「商標の使用」の証拠について

2013年05月28日

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■概要
(本記事は、2021/6/3に更新しています。)
 URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/20077/

現行商標法の施行(2012年7月1日)後、「商標の使用」の重要性が高まる中で、裁判所における取消審判等の使用証拠の認定がますます厳格化する傾向がある。2008年設立以来、知的財産裁判所が示してきた商標使用の証拠(例えば雑誌の見開き広告、商品の包裝、商品カタログ、国内外の販売レシート、国外で発行された雑誌の広告資料、世界のウェブサイト資料等)についての見解等を紹介する。
■詳細及び留意点

(1)2011年商標法改正(2012年7月1日施行)前は、無効審判については使用証拠の提出は求められておらず、取消審判については、取消審判を申し立てられた商標権者が取消審判申立以前の使用証拠を提出しなければならなかった(旧商標法第59条第2項)。

一方、現行の2011年改正商標法においては、無効審判・取消審判の申立人は、それぞれ下記規定を理由として審判を申し立てる場合であって、登録後3年以上経過している登録商標を引用するときは、引用登録商標の使用を立証しなければならないこととされている。なお、その証拠は、申立までの3年間における使用証拠又は未使用であった正当な事由を証明する証拠でなければならない(商標法第57条第2項、商標法第67条第2項)。

(i)無効審判:商標法第30条第1項第10号

同一又は類似の商品・役務における他人の登録商標が同一又は類似しており、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの。ただし、当該登録商標または先に出願された商標の所有者の同意を得て出願し、且つ明らかに不当でない場合はこの限りではない。

(ii)取消審判:商標法第63条第1項第1号

(商標登録後、)勝手に商標を変更し又は付記を加えたことにより、同一又は類似の商品・役務において他人が使用する登録商標と同一又は類似させ、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの。

 

以下、台湾知的財産裁判所の「商標の使用」に関する重要な実務上の見解を紹介する。

 

(2)裁判所の「商標の使用」に関する見解

台湾の実務において、「商標の使用」は一般的に以下のように理解されている(知的財産裁判所2011年11月25日付民国99年度行商訴字第111号判決でも同様の見解が示されている)。

(i)   商標の使用とは、販売目的により画像、デジタル影像・音声、電子メディア、インターネット又はその他のメディアを介する方法によって商標の使用し、関連消費者にそれが商標であると認識させ得ること(旧商標法第6条)。

(ii)  商標権者がその使用事実を証明する場合、商業取引習慣に合致していなければならない。

(iii) 「販売」とは、商業取引として市場に向けて販売することを指し、販売地は国内法及び属地採用主義の精神が参酌されるので、台湾領域内の地域を指すと思われる。このため、商標登録の使用は商標権者自身又は被権利許諾使用者が台湾の市場における販売を目的として、商標を指定の商品又は役務若しくは関連物に使用する行為、又は媒介物を利用した行為でなければならない。また当該行為によって使用者が商業取引の過程において実際に商標を使用していると認められ、且つ、その使用が関連消費者にその出所を認識させられるものでなければならない。

 

(3)裁判所による使用証拠の認定

(i)使用証拠の日付

眼鏡、サングラス等の商品に指定された第932980号「Chrome Hearts plus the horse Design」登録商標取消審判の行政訴訟では、使用証拠の日付は、取消審判申立日以前でなければならず、当該日付が申立日以降であるときは、係争商標が当該日以前に使用していた事実を根拠とすることができないとする見解が示された(智慧財産法院2010年11月25日付民国99年度行商訴字第111号判決)。

 

(ii)雑誌の見開き広告、商品の包装、封筒写真及び一部の商品の商品カタログ等資料

当該資料に係争商標の図案が表示されていたかどうか、また表示されていた場合、その表示が係争商標の指定使用とされている商品になされたものかどうかに留意しなければならない。なお、日付の表記のないものは使用日を確認することができない

例えば、第928284号登録商標取消審判の行政訴訟においては、商標権者が商品の写真及び雑誌の広告を提出し、また見開き広告に確かに係争商標の指定使用とされている商品が掲載されてはいるが、当該写真には日付がなく、広告にも係争商標が見当たらなかったため、いずれも使用証拠とはみなされないと判断された(智慧財産法院2010年12月16日付民国99年度行商訴字第130号判決)。

 

(iii)国内外で発行されたレシートの控え

レシートは、商品と係争商標を参照できるものでなければならない。

例えば、第236948号登録商標取消審判の行政訴訟において、知的財産裁判所は、商標権者がレシートの控えを提出したが、商品欄には「DP05」と記載されているのみであり、これが係争商標の指定使用商品であるかどうか、また係争商標の図案が表示されていたかどうか全く確認することができないため、使用証拠とはみなされないと判断した(智慧財産法院2012年1月5日付民国100年度行商訴字第102号判決)

 

(iv)海外で発行された雑誌

海外で発行された雑誌は、現時点では使用証拠として認められる可能性が低い。

眼鏡、サングラス等の商品に指定された第932980号「Chrome Hearts plus the horse Design」登録商標取消審判の行政訴訟において、商標権者は紀伊国屋書店で販売された「CHROME HEARTS」雑誌、「WE東西雑誌」、「WE‧MEN東西男人」、「WE:PEOPLE東西名人」等雑誌の表紙及び誌面等の広告資料を提出したが、裁判所は上記の雑誌が海外で発行された雑誌であるため、仮に第三者が上記雑誌を輸入し、国内で販売したとしても、商標権者が国内での販売において係争商標を使用したことを確認するのは困難であると判断した(智慧財産法院2010年11月25日付民国99年度行商訴字第111号判決、智慧財産法院2010年12月16日付民国99年度行商訴字第130号判決)。

 

(v)ウェブサイト

ウェブサイトについては、日付が表示されていることが最も重要である。当該ウェブサイト内容から日付が特定できるかどうか、また当該ウェブサイトの内容に係争商標及び係争商標の指定使用となっている商品が明らかに示されているかどうかに留意しなければならない。

第787724号登録商標取消審判の行政訴訟においては、商標権者が台湾でのインターネットにおける広告カタログを提出し、台湾特許庁が取消審判審決の段階で「PRODUCTS」をクリックしたところ、確かに提出された広告カタログが掲載されており、係争商標の指定使用商品に係争商標が表示されていたほか、当該広告カタログに記された日付も取消審判請求日以前であることが確認できたため、裁判所は、商標権者が確かに取消審判請求日以前から係争商標を使用していたと認定している(智慧財産法院2012年2月23日付民国100年度行商訴字第142号判決)。

 

【留意事項】

現行法のもとで、無効審判又は取消審判を請求し、または請求される場合、商標の使用証拠を添付し、行政機関又台湾特許庁に提出する際には、例えば、販売証拠に係争商標の指定使用された区分の商品を用意すること、商品に係争商標が表示されていること、当該販売証拠に日付がなくてはならないこと、海外で発行された雑誌はたとえ台湾で販売されていても、台湾国内での使用証拠として認められないかもしれないことなど、実務的視点から検証した上で商標戦略を立てることが望ましい。

■ソース
・台湾商標法
・智慧財産法院2010年11月25日付民国99年度行商訴字第111号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=99%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c111%2c20101125%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=A&jyear=99&jcase=%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4&jno=111&jdate=991125&jcheck=2 ・智慧財産法院2010年12月16日付民国99年度行商訴字第130号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=99%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c130%2c20101216%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=A&jyear=99&jcase=%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4&jno=130&jdate=991216&jcheck=2 ・智慧財産法院2012年1月5日付民国100年度行商訴字第102号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=100%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c102%2c20120105%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=A&jyear=100&jcase=%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4&jno=102&jdate=1010105&jcheck=2 ・智慧財産法院2012年2月23日付民国100年度行商訴字第142号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=100%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c142%2c20120223%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=A&jyear=100&jcase=%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4&jno=142&jdate=1010223&jcheck=2
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2012.12.28

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