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台湾における商標審判手続概要————取消審判
2012年12月07日
■概要
(本記事は、2021/6/17に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/20137/
登録商標を取り消すべき事由(商標法第63条第1項)があるとき、何人もいつでも台湾特許庁に取消審判を請求することができ、また台湾特許庁も職権により登録を取り消すことができる。台湾特許庁は、請求人と商標権者が提出した書状にて書面審査(*)し、最終的に「登録維持」若しくは「登録取消」とする審決を下す。
最も多い取消事由は、登録後に正当な事由なく未使用又は継続して3年間使用していないことによるものである(商標法第63条第1項第2号)。
なお、台湾特許庁の審決に対し、取消審判請求人又は商標権者は経済部に行政不服を申立てることができる。
(*)我が国では口頭審理を行う場合も希にあるが、台湾では常に書面審理のみである。
■詳細及び留意点
(1)取消事由
- 主な取消事由は以下の通りである:(商標法第63条、登録商標の使用における注意事項【中国語「註冊商標使用之注意事項」】4.2)
(a) 商標権者が自ら商標を変更し、又は付記を加え、当該取消審判請求時に取消対象とされた商標(即ち、係争商標)と他人が使用する同一又は類似の商品又は役務を指定する登録商標(即ち、根拠商標)と同一又は近似となり、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき。
例:
(b) 商標権者が正当な事由なしに未使用又は継続して3年間使用していないとき。但し、係争商標の商標権が権利許諾され、使用権者により使用されているときは、この限りでない。
(c) 商標が指定する商品若しくは役務の通用名称となっているとき。
(d) 商標を実際に使用するとき、その商品若しくは役務の性質、品質又は原産地について公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき。
- 前述の(a)の場合、もし取消審判請求人が提出した根拠商標が登録後3年が経過しているとき、取消審判請求人は根拠商標の(請求前3年間の)使用証拠を添付しなければならない。また、上記使用証拠は一般的商業取引慣習(**)に合致し、且つ、実際に使用されている必要がある。(商標法第67条第2項において準用する同法第57条第2、3項)。この規定は証拠の偽造を防止し(例えば、偽の領収書を作るなど)、商業取引にて商標の使用として認められないものを排除するために定められた(例えば:新聞の広告欄に求人広告若しくは取次業者等を募集する広告を刊載することは、経営している商品或いは役務の販売促進を目的としたものではないため、一般的商業取引慣習に合致する使用とは言えない)(登録商標の使用における注意事項3.5.3)。
(**)どのような商標の使用証拠が一般的商業取引慣習に合致するかについては、台湾実務では、状況がケース毎に異なるためケース毎に判断している。
- 取消審判は、各登録商標毎に個別に請求しなければならない。登録商標が指定使用する商品又は役務の一部について請求することができる(商標法第67条において準用する同法第48条第2項、第3項)。なお、補正による指定商品の追加については、法律に明文規定がないが、実務においては一定の証拠を提出し、且つ、追加にて取消請求を求める商品又は役務の分類の提出が遅すぎなければ、台湾特許庁は補正による指定商品の追加を認めている。但し、第67条は第48条第2項の規定を準用していることから、追加取消請求を求める商品又は役務については、別途取消請求することが望ましい。
(2)審判手続
- 取消審判が請求されたとき、台湾特許庁は商標権者に期限を指定して答弁をさせなければならない。商標権者が答弁書を提出するとき台湾特許庁はその答弁書の控えを請求人に送付し、期限を指定して意見を陳述させなければならない(商標法第65条)。登録商標未使用を理由に(商標法第63条第1項第2号に規定)、台湾特許庁に取消審判を請求する場合、商標権者は当該商標の使用証拠を提出し、答弁しなければならない(商標法第65条第2項)。その提出した使用資料は、商標が実際に使用されていることを証明するものであり、一般的商業取引慣習に合致していなければならない(商標法第67条第3項において準用する同法第57条第3項)。また、商標権者が実際に使用している商標が、登録商標と異なるものの、社会の一般通念上、その同一性を失っていないときは、その登録商標を使用しているとみなさなければならない(商標法第64条)。
- 商標の同一性(登録商標の使用における注意事項3.2.1.1及び3.2.1.2):
実際に使用している商標と登録商標が形式上多少異なるものの(例えば、英語の大文字と小文字の転換、横書き或いは縦書き等)、実質的に登録商標の主な識別特徴を変更することなく、消費者に与える印象が同じであり、消費者に同一商標として認識されるときは、同一性を備えていることとなる。実際に認定する際には、一般の社会通念や消費者の認識を参酌しなければならない。一方、商標中に消費者の注意を引く主要部分を使用せず、実際に使用している商標と登録商標が著しく異なる場合は、同一性を失うことになる。
(a) 同一性を備えている例
(b) 同一性を損なった例
- 取消事由が、登録商標が指定使用する商品又は役務の一部のみに存在するとき、台湾特許庁はその一部の商品又は役務のみについて、その登録を取消すことができる(商標法第63条第4項)。
- 登録商標を台湾特許庁により取消された商標権者は、取消されてから3年以内に、元の登録商標と同一又は類似の商標を、同一又は類似の商品もしくは役務について、登録、譲渡又は使用許諾により使用することはできない。台湾特許庁が処分を下す前に、商標権の放棄を声明したときも同様とする(商標法第65条第3項)。
- 取消審判の請求人は、取消審判の審決前に、請求を取り下げることができる。但し、同一の事実について、同一の証拠及び同一の理由により、再び無効審判請求をすることはできない(商標法第67条において準用する同法第53条第2項)。
(3)行政不服申立
- 台湾特許庁がなした「商標維持審決」或いは「商標取消審決」といった行政処分に対し、取消審判請求人又は商標権者は、審決書の送達後30日以内に、経済部に対し行政不服を申立てることができる。
■ソース
・台湾商標法・登録商標の使用における注意事項
http://www.tipo.gov.tw/ch/Download_DownloadPage.aspx?path=3564&Language=1&UID=8&ClsID=128&ClsTwoID=239&ClsThreeID=0
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦■本文書の作成時期
2012.10.03