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韓国における職務発明制度について
2019年05月16日
■概要
(本記事は、2023/4/4に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/34137/
韓国での職務発明制度は、従前(2006年9月2日以前)は特許法と発明振興法でそれぞれ規定されていたが、現在は発明振興法にのみ規定されている。韓国に籍を置く会社は、韓国発明振興法で定めている規定により職務発明を管理する必要がある。発明振興法の職務発明関連規程が2013年に改正があり、それを反映して関連法条文及び留意事項を説明する。
■詳細及び留意点
職務発明について定めている韓国の発明振興法(韓国語「발명진흥법」)の主たる内容について紹介する(以下、特に断らない限り条文番号は発明振興法のそれを指す)。
(1) 職務発明の定義
職務発明とは、従業員等が職務に関して発明したものが、使用者等の業務範囲に属し、その発明をするようになった行為が従業員の現在または過去に職務に属する発明をいう(第2条)と定められている。これは職務発明になるための成立要件と言われる。
(2) 職務発明の対象
特許・実用新案・意匠が対象であり、商標は対象外である(第10条)。
(3) 使用者による契約・勤務規定等の整備
使用者は、職務発明の承継をするためにはその旨を定める契約か勤務規定を用意しなければならず、勤務規定等がない場合には、使用者は従業員の意思に反して当該発明の承継を主張することはできない(第13条)。
(4) 職務発明完成事実及び承継に関する通知
従業員等は、使用者に職務発明の完成事実を遅滞なく文書で通知しなければならず(第12条)、通知を受けた使用者等は、大統領令で定める期間内(通知を受けた日から4か月以内)に承継するか否かにつき従業員等に文書で通知しなければならない(第12条、第13条、発明振興法施行令第7条)。
使用者等が前記期間内に通知をしなかったときは、使用者等はその発明についての権利を放棄したものとみなす。また、使用者等が承継を放棄した時には、追って従業員等の同意を受けなければ通常実施権を持つことはできない(第13条第3項)。
(5) 職務発明に対する補償
従業員等は職務発明に関する権利を使用者に承継した場合、または専用実施権を設定した場合には、正当な補償を受ける権利を有する(第15条第1項)。
下記のⅰ)からⅲ)に従い、従業員等に補償した場合には正当な補償をしたものとみなす(第15条第6項)。補償額は職務発明による使用者等が得る利益とその発明の完成に使用者等と従業員等が貢献した程度を考慮しなければならない。
ⅰ) 使用者等は補償に対して補償形態と補償額を決定するための基準、支給方法等が明示された補償規程を作成し従業員等に文書で知らせなければならない(第15条第2項)。
ⅱ) 使用者等は補償規程の作成または変更に関して従業員等と協議しなければならない。ただし、補償規程を従業員等に不利に変更する場合には、該当契約または規程の適用を受ける従業員等の過半数の同意を受けなければならない(第15条第3項)。
ⅲ) 使用者等は補償を受ける従業員等に補償規程に基づいて決定された補償額等の補償の具体的事項を文書で知らせなければならない(第15条第4項)。
(6) 出願保留時の補償
使用者が職務発明を承継した後、出願せず、または出願を放棄若しくは取り下げた場合にも、従業員が受けることができた経済的利益を考慮して正当な補償をしなければならない(第16条)。
(7) 職務発明の審議機構
使用者は、職務発明に関する職務発明審議委員会を設置、運営することができる(第17条)。審議委員会は使用者委員と従業員委員の各々3名以上で構成されなければならない(ただし、常時勤務する従業数が30名未満である場合は各々1名以上)(施行令第7条の3~5)。
(8) 職務発明関連の紛争解決
従業員等は職務発明に対する権利および補償等に関して使用者等と異議がある場合に、使用者等に審議委員会を構成し、審議するよう要求することができる(第18条第1項)。上記権利は事由が発生した日から30日以内に行使しなければならず、使用者等は要求を受けた場合に60日以内に審議委員会を構成し審議しなければならず、審議委員会は審議の結果を使用者等と従業員等に遅滞なく書面で通知しなければならない(第18条第2項乃至第4項)。審議委員会の審議の結果を不服とする使用者等または従業員等は産業財産権紛争調停委員会(韓国語「산업재산권분쟁조정위원회」)に調停を申請することができる(第18条第6項)。
【留意事項】
韓国の現地法人等に職務発明規程を置かない場合や、日本の職務発明規定をそのまま用いた場合、そこで発生した知的財産権を会社が取得できなくなるおそれ、または従業員から高額の報奨・報酬の請求を受ける等のリスクが高まるおそれもある。また、職務発明に対する補償は、技術流出の防止や優秀な人材の確保、技術革新の創出のための重要な要素である。したがって、韓国の法令を熟知して、適切な職務発明規定(特に、権利の承継や補償・報奨等の定め)を整えることが望ましい。
■ソース
・韓国発明振興法http://www.choipat.com/menu31.php?id=73 ・韓国発明振興法施行令
http://www.choipat.com/menu31.php?id=74 ・JETROソウル知的財産チームウェブサイトの「判例データベース」
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/case/ (フリーワード枠にて「職務発明」「発明振興法」を検索)
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2018.07.24