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チリにおける特許法の概要
2016年05月25日
■概要
(本記事は、2023/10/17に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/37508/
チリでは、特許出願がなされると、方式審査、実体審査を経て、新規性、進歩性、及び産業上利用可能性を有する発明に特許権が付与される。チリへの特許出願に際しては、スペイン語の明細書が必要である。
以下、チリにおける特許法の概要について説明する。
■詳細及び留意点
【詳細】
1.チリにおける特許法(チリ産業財産法)の概要
1-1.発明者および出願人
発明者、および、発明者からの譲受人(自然人であるか法人であるかを問わない)のいずれもが、特許出願の出願人となることができる(チリ産業財産法第2条)。
特許出願に際して、発明者の氏名の記載が必要である(チリ産業財産規則第11条)。
外国人およびチリに居住していないチリ国民は、特許出願に際して、チリに居住する代理人を指定しなければならない。外国人に与えられる保護は、チリ国民に与えられる保護と同一である(チリ産業財産法第2条)。
1-2.特許を受けることができる発明
発明とは、産業の分野において生じる技術的課題の解決手段をいう(チリ産業財産法第31条)。発明の対象は、製品および方法のいずれでもよい(チリ産業財産法第31条)。
発明は、新規性および進歩性を有し、産業上利用可能である場合に、特許を受けることができる(チリ産業財産法第32条)。
1-2-1.新規性
チリにおける特許出願日前に世界のいずれかの国で公衆に開示された先行技術がない場合、その発明は新規性を有する。先行技術には、出願日時点において公開されていない先行のチリ特許出願が含まれる(チリ産業財産法第33条)。
1-2-2.新規性喪失の例外
出願前の12ヶ月以内に行われた公衆への開示が、出願人自身に開示されたものである場合、出願人の許可に基づき開示されたものである場合、または、出願人自身による開示に基づいて更に開示されたものである場合、発明の新規性を判断する際にその開示は考慮されない(チリ産業財産法第42条)。
1-2-3.進歩性
当業者にとって発明が自明でない場合、その発明は進歩性を有する(チリ産業財産法第35条)。
1-2-4.産業上の利用可能性
発明に係る物または方法を何れかの産業分野において製造または使用できる場合、発明は産業上利用可能性を有する(チリ産業財産法第36条)。
1-2-5.特許保護の例外
以下のものは、特許を受けることができない(チリ産業財産法第37条)。
(1)発見、科学的理論および数学的方法
(2)植物または動物の品種。植物または動物を生産するための生物学的方法。ただし、微生物学的方法は特許を受けることができる。
(3)経済上、金融上、商業上の、制度、方法、原則、計画。精神的活動または知的活動をするための規則。ゲームをするための規則。
(4)外科または治療による人体または動物体の処置方法。人体または動物体に対して行う診断方法。ただし、これらの方法において処置や診断に使用する製品は、特許を受けることができる。
(5)既に使用されている物または要素の、新しい用途、形状の変更、寸法の変更、比率の変更、または、材質の変更。ただし、従来は解決策がなかった技術的問題を解決し、新規性および進歩性を有し、産業上利用可能でる場合、特許を受けることができる。
(6)自然界において見出される生命体の一部、自然界の生物学的過程、自然界に存在する生物学的材料または分離することのできる材料。これにはゲノムまたは生殖質が含まれ、ゲノムまたは生殖質は特許を受けることができない。一方、生物学的材料を使用する工程および生物学的材料を使用する工程から直接に得られた製品は、特許を受けることができる。
(7)法律、公の秩序および国家の安全に反する発明、道徳もしくは公正な慣行、人もしくは動物の健康もしくは生命、または植物もしくは環境の保全に反する発明。
2.出願時の書類
2-1.特許出願に必要な書類(チリ産業財産法第43条、チリ産業財産規則第11条)
(1)委任状(代理人にチリ工業所有権局への手続きを委任する場合)。委任状には、公証認証や領事認証は不要である。
(2)スペイン語の要約、明細書およびクレーム
(3)図面(必要な場合)
(4)優先権証明書(優先権を主張する場合)。優先権証明書の公証認証や領事認証は不要である。
一以上の必要書類が不足した状態でも特許出願を行うことができる。ただし、予備審査により不足書類が明らかになった場合、出願人は、60日以内(延長不可)に不足書類の補充を行う必要がある。不足書類が補充されない場合、出願はなかったものとみなされる(チリ産業財産法第45条)。
チリ工業所有権局に対する手続のための委任状には、公証認証や領事認証は不要である。一方、裁判所に対する手続のための委任状には、領事認証が必要である。このため、外国企業などがチリ特許出願時に使用する際に代理人への委任状にチリ領事の認証を受けておけば、出願後に裁判所に対する手続きが必要になった場合、裁判所に対してこの委任状を使用できる。
2-2. チリ工業所有権局を受理官庁とするPCT出願(国際段階)
日系の現地企業以外、日本企業が使うことは基本的にないと思われるが、もしチリ工業所有権局を受理官庁とする国際特許出願(PCT出願)をする際には、出願書類としてスペイン語で作成した要約書、明細書、クレーム、図面(必要な場合)が必要である。
チリ工業所有権局を受理官庁とする国際特許出願では、チリ工業所有権局、欧州特許庁、スペイン特許商標庁または米国特許商標庁を国際調査機関として選択可能である。国際調査機関として欧州特許庁または米国特許商標庁を選択する場合、要約書、明細書、クレーム、図面の英語訳を、PCT出願日から1ヶ月以内に提出しなければならない。
2-3. PCT出願のチリへの国内移行
PCT出願のチリへの国内移行期限は、優先日から30ヶ月である。
国際出願がスペイン語以外の言語で記載されている場合、チリへの国内移行に際してスペイン語翻訳文が必要である。具体的には、明細書、クレーム、図面のテキスト部分、要約書のスペイン語翻訳が必要である。
3.審査の流れ
審査に際して、方式審査および実体審査が実施される。
3-1.方式審査
出願されると、方式審査(予備審査)が行われ、実務上、出願日から6~8ヶ月で予備審査通知が発行される。出願人は、予備審査において指摘された方式要件の不備に対して、予備審査通知から60日以内に応答する必要がある(チリ産業財産法第45条)。すべての方式要件が満たされると、出願は受理される。出願受理から60日以内に出願(出願番号、出願人、要約書)が官報に公告されるよう、出願人(若しくは代理人)自らが、チリ官報局に手配しなければならない(チリ産業財産規則第14条)。チリ工業所有権局は、官報における公告まで出願を秘密に保てる。
3-2.出願の公告
官報に出願が公告されると、出願は公衆の閲覧に供される。公告日から45営業日以内に、第三者は異議申立が可能である(チリ産業財産法第5条)。異議申立がない場合、実体審査を進めるために審査官が指名される。
3-3.実体審査
審査官は、技術水準、産業上の利用可能性、発明の新規性および進歩性について、実体審査を行い、審査報告書を発行する。発明に拒絶理由があった場合に出願人が審査報告書で指摘された拒絶理由に対して応答することができる期限は、審査報告書の発行から60日である。一方、拒絶理由がない場合に特許付与が決定されると、出願人は、特許付与の決定から60日以内に手数料を納付しなければならない。
3-4.分割出願
出願人は、第一回の審査報告書が発行される前であれば、自発的に分割出願を行うことができる(チリ産業財産規則第49条)。第一回の審査報告書が発行された後は、審査官による発明の単一性不備の指摘に対してのみ、分割出願を行うことができる(チリ産業財産規則第40条)。
4. 特許付与および保護
4-1.存続期間
特許権の存続期間は、出願日から20年である。
4-2.追加の保護
(1)特許付与に際して不当な行政上の遅延(例えば、チリ工業所有権局による審査手続の遅延)があり、かつ出願日から起算して5年以上または審査請求から3年以上にわたって審査が行われた場合、特許権者は特許権の追加の保護期間を請求することができる。追加の保護期間の請求期限は、特許付与後6ヶ月である(チリ産業財産法第53条の21)。
(2)医薬品の承認手続において不当な行政上の遅延が(例えば、チリ公衆衛生局による医薬品の承認手続の遅延)あった場合、特許権者は特許権の追加の保護期間を請求することができる。追加の保護期間の請求期限は、医薬品の承認日から6ヶ月である(チリ産業財産法第53条の22)。
なお、特許出願または医薬品の承認手続に影響を及ぼす以下の事情は、不当な遅延とはみなされない(チリ産業財産法第53条の23)。
(1)異議申立または司法手続
(2)審査に必要とされる国内もしくは国際機関からの報告書の受領に要した期間
(3)出願人の行為または怠慢。
4-3.特許表示
特許に係る発明を実施している商品には、「Patente de Invención(発明特許)」または「P.I.」という記載、および、特許番号が付されなければならない(チリ産業財産法第53条)。この要件を満たさなくても特許の有効性に影響を与えることはないが、この要件を満たしていない場合、特許侵害者を刑事訴追することができない。
4-4.特許権
特許権者は、特許製品または方法を、製造、販売、販売の申出、輸入、またはその他の方法で商業的に利用する排他的権利を享受する(チリ産業財産法第49条)。方法の特許にあっては、方法から直接得られた製品にも特許権による保護が及ぶ。
一方、医薬品の承認を取得する目的のためであれば、第三者は、発明特許の対象を輸入、輸出または製造することができる。ただし、特許権者の許可なく販売することはできない(チリ産業財産法第49条)。
4-5.無効または取消手続
利害関係人は、特許の登録日から5年以内に、特許の取消を請求することができる。(チリ産業財産法第18条の2G、50条)。
■本文書の作成者
ESTUDIO VILLASECA, Intellectual Property Attorneys (チリ知的財産法律事務所)■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2016.01.23