アジア / 出願実務 | 審決例・判例
(台湾)わずかな漢字の違いで特定する物質が異なってくることがあることに注意すべきことを示す事例
2012年08月21日
■概要
英語等を介して翻訳した場合発生し得る誤訳として、例えば、一級アミンについて、「第一胺」とするようなことがあるが、正しくは「一級胺」としなければならない。また、シクロペンタノールは、「環成醇」ではなく「環戊醇」である。なお、「苯基縮水甘油」(フェニルグリシドール)と「苯甘胺醇」(フェニルグリシノール)も別物である。■詳細及び留意点
化学物質について「一級」及び「第一」としたり、「二級」を「第二」と記載したりすること、及び「苯基縮水甘油」(フェニルグリシドール)を「苯甘胺醇」(フェニルグリシノール)とする誤訳が起こることがある。
中国語は読み方若しくは字形で入力することが多いため、「環成醇」を「環戊醇」とすることもあり得る。
また、補正する時期にも注意が必要である。本件の出願人は拒絶査定を受け訴訟の段階になってから拒絶理由で指摘された部分について補正請求をしようとしたが、これについて、台湾特許庁と経済部、並びに裁判所は、出願審査及び再審査の段階において台湾特許庁が既に拒絶理由通知書を発送し、出願人に補正の機会を与えていたにもかかわらず、出願人がそれをせず、行政不服(中国語「訴願))又は訴訟の段階において初めて補正請求をすることはできないと判断し、実質的にその内容を斟酌しなかった。
参考(台北高等行政法院の判決理由より抜粋):
四、本件被告於八十九年四月二十日(八九)智專三(四)0一0五五字第0八九八二00一七八三號再審查核駁理由先行通知書上業已通知原告應依其指明之部分對胺及酯作必要之限定,否則難謂具新穎性,該通知書第二項至第六項並就應刪除及限定部分詳明記載,但原告於提出之申請專利範圍修正本,僅將說明書及申請專利範圍「第一」及「第二」之敘述改為「一級」及「二級」,修正申請專利範圍誤譯之「苯基縮水甘油」為「苯甘胺醇」,及誤繕之「順式─2─胺基環成醇」為「順式─2─胺基環戊醇」,刪除申請專利範圍中不當之「一」之敘述,而就被告其餘再審查核駁理由先行通知書所指有應修正、刪除部分,則以系爭案較被告引證資料具新穎性及進步性,系爭案發明方法所使用之胺不應界定為一級胺,申請專利範圍第一至第三、第六項之胺及酯應無範圍過廣之問題,並未依被告通知修正、刪除,而主張其所請求範圍符合專利法之要求(原告八十九年六月十六日(八九)理專化二一五五字第一二六三九號函附申復理由及申請專利範圍修正本參照)。依前述說明,被告已於再審查核駁理由先行通知書通知原告修正其申請專利範圍,並非未予原告及時採取相應補正措施機會,原告既不同意依被告再審查核駁先行通知書之內容修正申請專利範圍,自不得於經被告據以核駁後之訴願或行政訴訟階段再就被告前已指明應修正部分修正其申請專利範圍,而請求就其所提出之修正本實質上予以審查是否合於發明專利要件。又發明專利申請之補充、修正其說明書或圖式,應於被告機關審查階段為之,係屬修正前專利法第四十四條第一項之明文規定。被告如於核駁原告專利申請前,已於核駁理由先行通知書通知被告修正其申請專利範圍,並非未予被告及時採取相應補正措施機會,則被告就原告於訴願階段所提之申請專利範圍修正本未予審查,於法並無不合,已如前述,原告主張被告擴張解釋該專利法第四十四條規定之適用範圍,而以之限制專利申請人限縮其申請專利範圍之權利,違反行政程序法第一條規定之依法行政原則及中央法規標準法第五條關於人民之權利義務應以法律定之規定一節,亦非可採。
(日本語訳「四、本件被告は民国89年(2000年)4月20日付(89)智専(4)01055字第08982001783号再審査拒絶理由先行通知書において、既に原告にその指示する部分に関してアミン(『胺』)」及びエステル(『酯』)について必要な限定を行うこと、そうしなければ新規性を有していると言うことは難しい旨通知しており、当該通知書は第2項から第6項について並びに削除及び限定すべき部分について詳細に記載したが、原告が提出した特許請求の範囲の補正書は、明細書及び特許請求の範囲の『第一』及び『第二』の記載を『一級』及び『二級』に改め、「苯基縮水甘油」(フェニルグリシドール)を「苯甘胺醇」(フェニルグリシノール)に補正し、「順式─2─胺基環成醇」という誤訳を「順式─2─胺基環戊醇」(シス─2─シクロペンタノール)に訂正し、特許請求の範囲中の不適切な『一』の記載を削除しているのみで、再審査拒絶理由通知書において指摘されているその他の修正、削除すべき部分については、本件は引用文献より新規性及び進歩性を有しており、本件の発明の方法で使用されるアミンは一級アミンのみに限られるものではなく、特許請求の範囲の第1から3項及び第6項のアミン及びエステルには範囲が過大に広いという問題はないとして、通知の修正、削除をせず、その特許請求の範囲は専利法の要件を満たしていると主張した(原告民国89年6月16日(89)理専化2155字第12639号函付意見書及び特許範囲補正書参照)。前述の通り、被告は既に再審査拒絶理由先行通知書において原告にその特許請求の範囲を補正することを通知しており、相応の補正を適時行う機会を原告に与えていないということはない。原告は再審査拒絶理由先行通知書の内容に従い特許請求の範囲を修正しようとしない以上、再審査拒絶査定の後の行政不服(中国語「訴願」)又は行政訴訟の段階で被告が前に指摘した補正すべき部分についてその特許請求の範囲を修正し、その補正案が実質的に特許要件を満たすかどうかの審査を請求することはできない。また、特許出願の明細書又は図面を補充、補正する場合には、被告である機関の審査段階においてそうするべきであり、そのことは改正前の専利法第44条第1項に明文で規定されている。被告は原告の特許出願を拒絶する前に、既に拒絶理由先行通知書において被告にその特許請求の範囲を補正するように通知しており、被告に相応の補正を適時行う機会を与えていないということはなく、原告が行政不服の段階で提示した特許請求の範囲の補正案を被告が審査していなかったことについて、違法性はないということは既に、前述の通りである。専利法第44条の規定の適用範囲を拡大解釈して特許出願人が特許請求の範囲を減縮する権利を制限することは行政手続法第1条の規定に規定される法律による行政の原則及び国民の権利義務は法律の規定によらなければならないとする中央法規標準法第5条に違反するとの原告の主張は採用できない。)
【留意事項】
化合物については、漢字一文字の違いで物質が全く異なることがあるため、正しい訳語となっているかどうかについて特にチェックしておくべきである。
もし出願後に誤りを発見した場合は、補正する時期を理解しておかなければならない。台湾特許庁が特許出願に拒絶すべき理由があると認めたとき、一般的には先ず「拒絶理由通知書」を送付し、出願人に補正すべき旨を通知する。そのため、出願人は、この段階で総合的に検討し、関連用語をチェックしておくことが重要である。一旦台湾特許庁が拒絶査定を行い、訴訟段階まで進んでしまった場合には、出願人が元の請求の範囲に対して補正請求をすることはできないからである。
■ソース
台北高等行政法院判決2002年12月12日付民国90年度訴第4025号■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩聖島国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦■本文書の作成時期
2012.08.04