アジア / 出願実務
ベトナムにおける特許出願に関する方式審査上の拒絶理由通知
2015年03月31日
■概要
ベトナムでは、特許出願後、公式な受理通知が発行される前に、方式審査が実施される。方式上の拒絶理由通知には、当該出願においてクレームされた発明が方式上受理を拒否された理由や、方式上具備しなければならない要件が記載される。方式上の拒絶理由通知に対し回答書を提出する期限は、当該拒絶理由通知の署名日から1ヶ月間であるが、この期間は延長できる。■詳細及び留意点
【詳細】
ベトナム知的財産法の下では、方式審査段階で特許出願に不備が認められた場合、方式上の拒絶理由通知が出願日から1ヶ月以内に発行される(省令01/2007/TT-BKHCN、規則13.8.a)。方式上の拒絶理由通知に対する応答期限は、当該拒絶理由通知の署名日から1ヶ月間である(省令01/2007/TT-BKHCN、規則13.3)。出願人が応答内容の検討にさらに長い時間を必要とする場合、1ヶ月の延長申請を書面により一度だけ行うことができる。実務上は、ベトナム国家知的財産庁(National Office Of Intellectual Property Of Vietnam : NOIP)副長官により承認されれば二度目の延長申請が認められる場合がある。出願人が期限内に応答しなかった場合、または応答によっても拒絶理由通知に示された要件が充足されなかった場合、NOIPは当該出願の受理を拒絶することができる。
方式審査は省令01/2007/TT-BKHCN、規則13.1に定める手続に従って行われる。方式審査では、出願に含まれる全ての書類の方式が審査され、それら書類の内容について予備審査が行われる。出願時に必要な書類、出願する権利、優先権、明細書の書式、クレームの書式等に関する様々な方式上の拒絶理由が存在する。
ここでは、出願時に必要な書類、明細書の書式、クレームの書式等、方式審査段階で通常取り上げられる主な内容について説明する。
(1)出願時の必要書類
特許出願時に求められる書類としては以下のものが挙げられる。
願書、明細書、要約、委任状、出願する権利を証明する書類もしくは(優先権を主張する場合には)優先権を証明する書類、出願費用の領収書(省令01/2007/TT-BKHCN、規則7.1、7.2.b、13.2、13.3)
提出される書類はベトナム語で作成されなければならない(出願する権利を証明する書類や優先権を証明する書類は例外であるが、審査官の要請によりこれら書類のベトナム語訳が要求されることがある)。
上記のいずれかの書類が不足している場合、または書類がベトナム語以外の言語で作成されている場合、審査官は出願人に対し、不足書類もしくはベトナム語訳の提出を要求する。
実務上は、委任状など複数の書類を出願後に提出することができる。特許協力条約に基づく出願(PCT出願)に関しては、最先の優先日から34ヶ月以内に委任状を提出する。その他の特許出願の場合、委任状は、委任状提出を要求する拒絶理由通知をNOIPの審査官が発行した日から起算して1ヶ月以内に提出しなければならない。
さらに、方式上の拒絶理由通知に記載されるその他の不備としては、出願人や発明者の名称や住所に関する誤記もしくは不明瞭性、書誌データに関わる不備等が挙げられる。このような不備は、情報の説明や訂正、追加書類の提出によって解消される。
(2)明細書の書式
ベトナム知的財産法および規則の下では、特許出願の明細書は発明の説明、クレーム一式、要約、図面(図面がある場合)から構成されていなければならない。
発明の説明には、次の事項が含まれていなければならない。
発明の名称、発明の技術分野、発明の背景技術(先行技術)、発明の要約、図面に関する簡潔な説明(図面がある場合)、実施形態に関する詳細な記述、発明の実施例および有益な効果(省令01/2007/TT-BKHCN、規則23.6)
上記事項のいずれかが発明の説明から欠落している場合、NOIPの審査官は方式上の拒絶理由通知を発行し、欠落している事項を追加するよう出願人に求める。
さらに、NOIPの審査官は発明の名称について異議を唱える場合が多い。ベトナム知的財産法によれば、発明の名称は特許出願の発明内容を簡潔に説明するものでなければならず、誇大な名称ないし宣伝的な名称であってはならない。発明の名称に関する異議を解消するためには、主たる発明内容を反映する名称に変更する必要がある。
(3)クレームの書式
特許出願におけるクレームの書式がベトナム知的財産法および規則に適合しているか否かを判断するにあたり、審査官はクレーム一式を吟味し、以下のいずれかに該当するクレームがある場合には、当該クレームについて方式上の拒絶理由通知を発行する。
・以下の不特許事由に関連するクレーム。
(1)科学的な発見もしくは理論、数学的方法、(2)精神活動の遂行、ペットの訓練、ゲームの実行および事業の遂行に関する計画、規格、規則および方法、コンピュータプログラム、(3)情報の提示、(4)審美的特徴のみの解決、(5)植物および動物の品種、(6)植物および動物の生産方法であって主として生物学的な性質を有するもの(微生物学的な方法を除く)、(7)ヒトおよび動物の疾病予防、診断および治療に関する方法(知的財産法第59条)
これらの不特許事由を含むクレームは、適宜形式を変更する、または削除する必要がある。
不特許事由について実務上、論議の的になるのは、「用途」および「疾病の治療に関わる方法」に関するクレームである。これらクレームの問題を回避するため、クレームを別の形式に書き換えることが考えられる。たとえば、「用途(use)」に関するクレームは「用途のための化合物(a compound for use)」に関するクレームに書き換えることができ、「疾病の治療方法(method of treatment disease)」に関するクレームは「治療に使用される化合物(a compound for use in treating)」に関するクレームに書き換えることができる。ただし、「用途のための化合物」ないし「治療に使用される化合物」という形式への書き換えにより既存のクレームとの重複が生じる場合には、不特許事由を含むクレームを削除すべきである。このような補正は方式審査上では認められるが、実体審査においては書き換えられた用途クレームが拒絶される可能性もあるので注意が必要である。
クレームの技術的解決手段が政府の規制に反している(麻薬使用のための機器、偽造通貨製造のための装置等)、社会道徳および公の秩序に反しており、公共の利益にとって有害である(クローニングによる複製方法等)、または国防もしくは安全保障を損なうものである(知的財産法第8条(1))として拒絶された場合、これを解消することはできず、これらに該当するクレームを全面的または部分的に削除する必要がある。
クレームに関するその他の拒絶理由としては、1つのクレームに複数の発明が含まれているという指摘がある(省令01/2007/TT-BKHCN、規則23.6.k)。このような拒絶理由を解消するためには、1クレーム1発明となるように問題のクレームを分割すべきである。
さらに、クレームが発明の説明や図面に言及している場合、当該クレームは拒絶される(ただし、ヌクレオチドとアミノ酸の配列表、屈折率チャート、状態フローチャートなど言語では正確に説明できない部分について言及がなされている場合を除く)(省令01/2007/TT-BKHCN、規則23.6.g)。このような拒絶を解消するためには、発明の説明および図面に言及したクレームを削除すべきである。
方式上の拒絶理由がすべて解消されると、方式上の受理決定が発行される。方式上の受理決定の受領により、方式審査段階は終結する。その後、(パリ条約に基づいて提出された特許出願の場合には)最先の優先日もしくは(優先日が存在しない場合には)出願日から19ヶ月以内、もしくは(PCT出願の場合には)当該出願が正式に受理された日から2ヶ月以内のいずれか遅い方の期間内に、特許出願は「工業所有権官報」に公開される(省令01/2007/TT-BKHCN、規則14.2)。その後、実体審査請求がされると、当該特許出願について実体審査が行われる。
■ソース
・ベトナム国家知的財産庁ウェブサイトhttp://www.noip.gov.vn/ ・ベトナム知的財産法
・科学技術省・省令第01/2007/BKHCN号
■本文書の作成者
Investip International Intellectual Property Law Firm Do Tuyet NhungInvestip International Intellectual Property Law Firm Nguyen Thanh Quang
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.02.09