アジア / 出願実務
韓国における特許出願時の留意事項
2015年03月31日
■概要
韓国における特許出願に際しては、医療行為に使用する機器や医薬品、一定の条件を満たす医療方法等については、産業上利用可能な発明と見なされるが、医療行為自体は産業上の利用可能性がない発明と見なされるため注意が必要である。また、請求項の作成にあたっては、請求項の多重引用が禁止されており、他の請求項を引用した結果として多重引用とならないよう注意が必要である。さらに、新規性喪失例外の適用については、事前に公開する際に、例外適用を受けるための手続きを踏まなければならない。■詳細及び留意点
【詳細】
○医療行為に関する発明
(1)関連規定
韓国特許法第29条(特許要件)第1項
産業上利用することができる発明であって、次の各号のいずれかに該当するものを除いて、その発明について特許を受けることができる。
特許法の目的が産業発展に寄与することにあるため(特許法第1条)、全ての発明は産業上の利用可能性がなければならないことは当然である。これにより特許法第29条第1項柱書では、産業上利用することができる発明に限り、特許を受けることができるよう規定している。特許法第29条第1項本文の「産業」は、最も広い意味の産業と解釈しなければならない。すなわち、産業は有用で実用的な技術に属する全ての活動を含む最も広義な概念と解釈される。
(2) 医療行為
(i)産業上利用することができる発明に該当しない類型
(a)人間を手術・治療したり、診断したりする方法の発明、すなわち、医療行為については、産業上利用することができる発明に該当しないものとする。医師(漢方医を含む)または医師の指示を受ける者の行為でなくとも、医療機器(例:メスなど)を利用して人間を手術したり、医薬品を使用して人間を治療したりする方法は医療行為に該当するものとみなす。また、理化学的な測定または分析、検査方法など各種データを収集する方法の発明において、その方法が疾病の診断に関するものであっても、その方法発明が臨床的判断を含まない場合には、産業上利用することができる発明として認められる。ただし、その発明の構成が人体に直接的で、一時的ではない影響を与える場合には、産業上の利用可能性がないものとして取り扱う。
(b)請求項に医療行為を少なくとも一つの段階、または不可分の構成要素として含んでいる方法の発明は、産業上利用可能なものと認められない(第2004HEO7142号判決参照)。
(c)人体を処置する方法が治療効果と非治療効果(例:美容効果)を同時に有する場合、治療効果と非治療効果を区別および分離することができない方法は、治療方法とみなされ、産業上利用可能なものと認められない(第2003HEO6104号判決参照)。
(ii)産業上利用することができる発明に該当する類型
(a)人間を手術・治療したり、診断したりする際に使用するための医療機器そのもの、医薬品そのものなどは、産業上利用することができる発明に該当する。
(b)新規な医療機器の発明に伴う医療機器の操作方法または医療機器を利用した測定方法の発明が、その構成上、人体と医療機器との間の相互作用または実質的な医療行為が含まれる場合を除いては、産業上利用可能なものとして取り扱う。
(c)人間から自然に排出されたもの(例:尿、便、胎盤、毛髪、爪)または採取されたもの(例:血液、皮膚、細胞、腫瘍、組織)を処理する方法が医療行為とは分離可能であるものである、または単純にデータを収集する方法である場合、産業上利用可能なものとして取り扱う。
(d)一般的に、人間を手術、治療、診断する方法に利用することができる発明の場合には、産業上の利用可能性がないものとみなすが、それが人間以外の動物のみに限定されるという事実が特許請求範囲に明示されていれば、産業上利用することができる発明として取り扱う(大法院1991年3月12日宣告第90HU250号判決を参照)。
○請求項の多重引用の禁止
(1)関連規定
韓国特許法第42条(特許出願)
(8)第2項による請求範囲の記載方法に関し必要な事項は大統領令にて定める。
特許法施行令第5条(特許請求範囲の記載方法)
(6)2つ以上の項を引用する請求項で、その請求項に引用された項は再び2つ以上の項を引用する方式を使用してはならない。2つ以上の項を引用した請求項で、その請求項の引用された項が再び一つの項を引用した後、その一つの項が結果的に2つ以上の項を引用する方式も同様である。
(2)2つ以上の項を引用する請求項は、2つ以上の項を引用した他の請求項を引用することができない。本規定の趣旨は、一つの請求項を解釈するにあたって多数の他の請求項を参照しなければならないという困難性を防止するためのものである。
(3)2つ以上の項を引用する請求項が2つ以上の項を引用した他の請求項を引用した場合。
(例(i))請求項4は、2つ以上の項を引用する従属項であって、2つ以上の項を引用した他の請求項(請求項3)を引用しており、請求範囲の記載方法に違反する。
【請求項1】……装置
【請求項2】請求項1に記載の……装置
【請求項3】請求項1または請求項2に記載の……装置
【請求項4】請求項2または請求項3に記載の……装置
(4)2つ以上の項を引用した請求項でその請求項の引用された項が再び一つの請求項を引用した後にその一つの項が結果的に2つ以上の項を引用した場合。
(例(ii))請求項5は2つ以上の項を引用する従属項であって、2つ以上の項を引用している請求項3を引用した請求項4を引用しており、請求範囲の記載方法に違反する。
【請求項1】……装置
【請求項2】請求項1に記載の……装置
【請求項3】請求項1または請求項2に記載の……装置
【請求項4】請求項3に記載の……装置
【請求項5】請求項2または請求項4に記載の……装置
【請求項6】請求項5に記載の……装置
上記のような場合、請求項4は請求項3のみ引用しているとしても、請求項3が2つ以上の請求項を引用しており、実質的に2つ以上の項を引用する場合と同じであるため、請求項5について特許法第42条第8項違反で拒絶理由を通知する。一方、特許法施行令第5条第6項は「2つ以上の項を引用する請求項」を対象としており、1つの請求項のみを引用する請求項については、適用することができない点に注意しなければならない。
上記例(ii)で請求項6は特許法施行令第5条第6項を違反する請求項5を引用しており、実質的に多数の他の請求項を参照して解釈しなければならない難しさはあるが、2つ以上の項を引用する請求項ではないため、特許法施行令第5条第6項の違反とはならない(第2001HEO1433号判決)。
○新規性喪失の例外の適用
(1)関連規定
韓国特許法第30条(新規性が喪失していない発明とみなす場合)
特許を受けることができる権利を有する者の発明が次の各号のいずれかに該当する場合には、その日から12ヶ月以内に特許出願をすれば、その特許出願された発明に対して第29条第1項または第2項を適用する際には、その発明は第29条第1項各号のいずれかに該当しないものとみなす。
1.特許を受けることができる権利を有する者によって、その発明が第29条第1項各号のいずれかに該当することになった場合。ただし、条約または法律により韓国国内外で出願公開または登録公告となった場合を除く。
2.特許を受けることができる権利を有する者の意思に反して、その発明が第29条第1項各号の1に該当することになった場合
(2)留意点
(i)特許を受けることができる権利を有する者が特許出願前に該当発明を複数回に渡って公開した場合、全ての公開行為について新規性喪失の例外の適用を受けるためには、原則的にそれぞれの公開行為について特許法第30条規定の適用を受けるための手続きを踏まなければならない(第99HEO5418号判決)。
(ii)条約による優先権主張を伴う出願において特許法第30条規定を受けるためには、特許法第30条規定の適用対象となる行為をした日から12か月以内に韓国に出願をしなければならない(特許法第30条第1項、特許法第54条)。すなわち、実質的に条約優先権の期間が短縮される。
(iii)韓国に出願されたとみなす国際出願(PCT出願)は、国際出願日に新規性喪失の例外主張に関する手続きを踏んでいなくても、特許法第200条により基準日経過後30日以内に新規性喪失の例外主張の旨を記載した書面と証明書類を提出すれば、同法第30条規定の適用を受けることができる(特許法第200条、特許法施行規則第111条)。韓国国内段階に移行した国際特許出願に対して上記旨の記載書面と証明書類が法定期間内に提出された場合には、特別な事情がない限り新規性喪失の例外主張が第30条第2項の要件を備えたものと認められ、通常の新規性喪失の例外主張と同じく方式審査と実体審査を行う。
○その他の留意点
(1)出願期限
出願期限は、国際特許出願(PCT出願)を行う場合と、一般の特許出願とで大きく異なる。国際出願を行う場合、韓国出願は国際出願日から31か月の猶予があるが、一般の特許出願の場合には、パリ条約による優先権を主張する必要があるため、出願から12か月の猶予しかない。
(2)翻訳文
韓国では、日本語出願が認められていないため、出願時までに翻訳文を準備しなければならない。翻訳文の作成には時間を要するため、準備期間は実質的に数か月短縮されると考えなければならない。
(3)外国語(英語)出願
外国語(現在、英語のみ可能)での出願が可能であり、特に英語論文などを提出して迅速に出願日の確保することが可能である。ただし、出願日までに提出された内容のうち韓国語明細書の形式を備えるように補正しなければならず、出願日までに発明の内容について忠実に記載する必要がある。
■ソース
・韓国特許法・韓国特許審査指針書
■本文書の作成者
河合同特許法律事務所■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.01.16