アジア / 出願実務
台湾における社名に関する商標登録出願の識別性有無の判断事例
2015年03月05日
■概要
営業主体の表示として用いられる社名と商品または役務の出所を識別する標識として用いられる商標とを組み合わせて使用される場合がある。社名自体は商標識別性を有さない。一般的な社名を含む商標全体が識別性を有する場合、社名部分についてディスクレーム(権利不要求)することにより登録されるが、その使用方法によっては、社名を含む商標が識別性を有するとして登録される場合もある。以下、台湾における社名に関する商標登録出願の拒絶事例と登録事例を紹介する。■詳細及び留意点
【詳細】
社名は、その一般的使用形態及び社会通念に基づき、商品メーカーまたは役務提供者を示すために通常は営業主体の表示として用いられる。表示位置は、会社の住所、電話番号と隣り合うことが多い。また、会社は特徴的な命名部分と同一または異なる商標を用いて商品または役務の顕著な場所に表示し、商品または役務の出所を識別する標識として用いることも多い。
両者はいずれも出所を識別する機能を備えているが、消費者からすれば、前者は営業主体を識別する表示であり、後者は商品または役務の出所を識別する標識であり、両者が識別する機能及び目的は異なる。一般的に商品または役務は、社名ではなく商標によって商品または役務の出所が識別される。よって、社名そのものは商標識別性を有しない。
仮に特殊なデザインが施されていない社名が商標の一部であり商標全体として識別性を有する場合、社名部分についてディスクレーム(権利不要求)をしない限り、商標登録されない。ただし、出願人が関連証拠を提出し、社名を商標として使用し、その使用方法により当該商標は出所を示す標識であると一般消費者が認識できることを証明すれば、登録される可能性がある。
事業者は、市場において社名の特徴的な部分を商標として使用することが多いが、その特徴的な部分が商標として登録されている場合、原則として識別性を有する。また、会社名そのものを商標登録出願したものの、その特徴的な部分に特殊なデザインが施されており、全体として営業主体を標示する意義から離脱され、出願人が商標として使用する意思が顕著であり、かつ消費者も当該標識が商標として使用されていると認識している場合は、識別性を有することになる。識別性がなく商標権の範囲に疑義が生じる恐れがある部分については、出願人がディスクレーム(権利不要求)すれば、登録される可能性がある。以下、社名を含む拒絶事例と登録事例を紹介する。
拒絶事例
・「馥立株式会社」
化粧品・美容品を指定商品とする社名。商標識別性を有しない。
登録事例
ウェブデザイン・ネットワークケーブル機器輸入代理・ネットワークケーブル機器の小売等を指定役務とする。商標全体として識別性を有し、特別なデザインが施されていない中国語・英語の社名「菖飛科技股份有限公司」と「ARISTO Technology Corp.」は出願人の中国語・英語の社名であるため、両部分についてディスクレーム(権利不要求)がされた後、登録された。
各種書籍・雑誌・文献の出版・発行等を指定役務とする。商標全体として識別性を有し、特別なデザインが施されていない社名「先驗文化事業股份有限公司」は出願人の中国語社名であるため、ディスクレーム(権利不要求)がされた後、登録された。
職業紹介・人材派遣・人員募集受託・人員募集等を指定役務とする。「101科学技術管理顧問会社」は社名であり、「101」はその他の部分と分離しており、また「0」はストップウォッチ図としてデザインされている。また、「1」を赤色で強調し、「101」は特殊デザインにより目立つようになされ、消費者に当該標識は商標として使用しているという印象を与えている。「科学技術管理顧問株式会社」は業務種類及び会社組織の説明であり、商標権の範囲に疑義を生じさせる恐れはないため、ディスクレーム(権利不要求)することなく、登録された。
■本文書の作成者
維新国際専利法律事務所 黄 瑞賢■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2014.12.29