アジア / 出願実務
マレーシアにおける商標登録の予備的助言制度
2014年09月09日
■概要
マレーシアでは、出願予定の商標が識別力を有しているかについて、登録官に対し、予備的助言を求めることができる。商標の識別力について登録官から肯定的な助言を受け、その助言を受けてから3ヶ月以内に出願人が商標登録出願を行ったものの、識別力を否定する拒絶理由通知を受け取った場合は、登録官の拒絶理由通知の受領日から1ヶ月以内に出願取下げを行うことにより、納付済みの出願手数料の返還を受けることができる。■詳細及び留意点
【詳細】
マレーシアでは、商標の登録要件として、識別力を有していることが求められる。商標が、その所有者が業として関係している又は関係する可能性のある商品若しくはサービスを、当該関係が存在しない他の商品又はサービスから識別する能力を有している(当該登録されたか若しくは登録される予定の商標の場合は、その登録の範囲内における使用に関係する条件、補正、修正又は制限に従うことを条件とする)場合、当該商標は識別力を有しているものとされる(マレーシア商標法第10条(2A))。識別力を有するか否かを判断する際、当該商標が本質的に識別力を有する程度、当該商標の使用又はその他の事情により当該商標が実際に識別力を有する程度が考慮される(同法第10条(2B))。
マレーシアでは、出願予定の商標が識別力を有していると一応考えられるかについて、登録官に予備的助言を求めることができる(同法第73条)。
(1) 予備的助言制度
マレーシアでは、商品若しくはサービスに関する商標の登録を出願しようとする者は、出願予定の商標が対象の商品若しくはサービスに関して商標法第10条の意味における固有の識別力を有していると一応推定されるか否かについて、予備的助言を登録官に求めることができる(同法第73条第1項)。
登録官の予備的助言を得るには、所定のフォーマット(様式TM4)による申請書を提出する(マレーシア商標規則17(1))。その際、申請書と併せて当該商標の写しを提出する必要があり、当該申請に係る手数料は、100マレーシア・リンギッドである。
商標の識別力について予備的助言を求める申請があった場合、登録官は商標法第10条に基づいて当該商標が識別力を有しているかを検討し、識別力を有していると考えられる場合には“The proposed mark for registration should be inherently distinctive under the Trade Mark Act […]”という肯定的な助言が出される。当該商標が商品やサービスの性質や品質に直接言及するような場合等には“the proposed mark for registration lacks of inherent distinctiveness under the Trade Mark Act due to the following reasons […]”という否定的な報告書が発行される。
登録官の予備的助言が得られるまでの期間は、事案にもよるが、平均して申請から2カ月程度である。
(2) 肯定的助言を得た商標の登録出願が拒絶された場合の手数料返還
商標の識別力について登録官が肯定的な助言を与え、当該助言を受けてから3ヶ月以内に出願を行ったものの、当該商標に識別力はないとの拒絶理由通知が出された場合、出願人は拒絶理由通知を受けてから1ヵ月以内に出願を取下げることによって、納付済みの出願手数料の返還を受けることができる(同規則17(3))。
商標の識別力の肯定的助言を受けてから3ヵ月以内に当該商標の登録出願を行わなかった場合は、識別力を欠くとする拒絶理由通知を受けても、出願手数料の返還を受けることはできない。
【留意事項】
- 約9割のケースにおいて登録官による予備的助言と最初のオフィスアクションの内容は一致する。また、識別力につき肯定的な助言を受けたにもかかわらず拒絶理由通知を受けた場合は出願手数料の返還を受けることができるので、識別力に疑義がある商標の出願については、登録官の予備的助言制度を利用することは検討に値する。ただし、出願手数料の返還を受けるためには、上述した商標出願の期限、出願取下げの期限を守る必要があるので、注意を要する。
- マレーシアでは、拒絶理由通知が届いた後2ヵ月間は補正することができる。肯定的な助言を得た商標について拒絶理由通知が届いたためすぐに補正したものの、登録官がやはり拒絶査定を維持した場合、その時点で拒絶理由通知が届いてから1ヵ月経過していなければ、出願を取下ることで手数料の返還を受けることができる。
■ソース
・マレーシア商標法・マレーシア商標規則
・マレーシア知的財産公社(MyIPO)ウェブサイト
http://www.myipo.gov.my/web/guest/cap-borang
■本文書の作成者
辻本法律特許事務所■協力
Fabrice Mattei, Rouse一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期
2014.02.05