アジア / 出願実務
ベトナムにおける意匠の新規性判断と新規性喪失の例外規定
2014年06月10日
■概要
ベトナムでは、出願した意匠が、ベトナム国内外を問わず、出願日(優先日がある場合は優先日)前の使用又は書面等により開示されている意匠と著しく異ならない場合は、新規性が否定される。但し、所定の要件を満たす場合は新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる。■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 新規性要件
ベトナムでは、出願された意匠が、出願日(優先日がある場合は優先日)前にベトナム国内外で既に使用又は書面、その他何らかの事情によって開示されている他の意匠と著しく異なる場合、当該出願意匠には新規性があると判断される。なお、出願された意匠が、目立ちにくく、記憶しにくい特徴及び全体として識別するのに役立つことができない特徴においてのみ他の意匠と異なっている場合には、「著しく異なる」ものとはみなされない。
他方、出願された意匠が、出願日(優先日がある場合は優先日)前にベトナム国内外で使用又は書面、その他何らかの事情によって類似の意匠が公然と知られている場合は、当該出願意匠は新規ではないと判断される。
また、秘密に保持する義務を有する限られた人数の者のみに知られているときは、未だ公然知られたとは評価されない(ベトナム知的財産法第65条)。
例えば、5つのカップ(1つは白/黒、4つは色彩付のカップ)について国家知的財産庁(NOIP)に意匠登録出願を行ったところ、出願前に公知となっていた以下の写真のカップと類似するとの理由で新規性を欠くとして拒絶理由通知を受けた例がある。
この事案では、NOIPからの拒絶理由通知に対し出願人は色彩やぼかしは出願意匠の特徴的要素であること等の意見を述べ、その結果、最終的に色彩付きの4つのカップについては登録が認められ、色彩のないもののみが拒絶査定を受けることとなった。
(2) 新規性喪失の例外規定
新規性の判断は上述の通りであるが、ベトナムでは、公開又は展示が以下のものに該当する場合は、公開又は展示の日から6か月以内に出願することにより、新規性喪失の例外規定の適用が認められる(同(4))。
・意匠登録を受ける権利を有する者の許可のない他の者による公開
・意匠登録を受ける権利を有する者による学術的発表の形態での公開
・意匠登録を受ける権利を有する者による、ベトナム国内博覧会又は公式若しくは公認の国際博覧会における展示
「ベトナム国内博覧会」、「公式若しくは公認の国際博覧会」のリストは公表されていない。ただし、「国内博覧会」については、「State Office」承認のもので州や市が関係しているものが含まれ得ると考えられる。
実務上、学術的発表及び博覧会における展示を理由に新規性喪失の例外規定の適用を求める場合は、出願時に新規性喪失の例外規定に該当することを述べる必要がある。意匠登録を受ける権利を有する者の許可のない他の者による公開の場合は、NOIP審査官から新規性欠如に基づく拒絶理由通知を受けたときに、開示に至った理由を説明する旨の意見書を拒絶理由通知から2ヶ月以内(さらに2-4ヶ月延長申請可能)に提出することで、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができる。
上記の新規性喪失の例外規定に該当することを主張したい場合には、次のような証明書類等を併せて提出すると良い。
・意匠を開示した者は開示が許されていなかったことを証する書面
・開示が学術的発表の形態であったことにつき、科学雑誌、会議等の代表者により証明された書面(学会のプログラム冊子、学会の案内のコピー等は証明書類のひとつとなり得ると考えられる)
・展示されたことについて、ベトナム国内博覧会又は公式若しくはベトナム政府公認の国際博覧会の組織により証明された書面(博覧会の開催案内やプログラム、出品物のカタログ、パンフレット、出品ブースで展示されていたことが分かる写真のコピー等は証明書類の一つとなり得ると考えられる)
【留意事項】
新規性喪失の例外規定が適用できる範囲は、日本に比べ、ベトナムの方が限定的である。日本において新規性喪失の例外規定の適用を受けられる意匠がベトナムでは新規性が認められないという事態が生じることも十分に考えられるため、日本に加えてベトナムにも意匠出願を検討する場合は、ベトナムでは新規性喪失の例外規定の適用を受けられない場合があることを前提に、出願戦略を進める必要がある。
■ソース
・ベトナム知的財産法■本文書の作成者
辻本法律特許事務所Banca Intellectual Property Law Firm
■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2013.11.25