アジア / 出願実務
シンガポールにおける意匠の登録事由と不登録事由
2014年06月17日
■概要
シンガポールにおいて意匠登録が認められるためには新規性が必要であるが、一定の要件を満たす場合にグレースピリオドが認められる。また、公序良俗に反する意匠、コンピュータ・プログラム、彫刻品等については、意匠登録が認められていない。なお、シンガポールにおける意匠出願の審査は方式審査のみであり、方式審査において審査されるのは方式要件のみのため、方式審査において新規性の有無や不登録事由該当性等に関する判断が行われるわけではない。ただし、出願書類上明らかに不登録事由に該当する場合等は登録が拒絶され得る。■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 登録事由
シンガポールにおいては、新規である意匠の所有者は、出願において明記する物品に関して意匠登録を受けることができる(シンガポール意匠法第5条(1))。意匠の登録事由として創作性は求められていない。ただし、先に出願・登録された意匠や出願日前にシンガポール又は他の場所で公表された意匠と同一又は細部においてのみ異なる意匠については、新規性は認められない(同条(2))。
なお、意匠の登録出願の審査は方式審査のみであり、方式審査ではあくまで方式要件についての審査が行われるため、方式審査において新規性を有しているか否かの判断が行われるわけではない。そのため、出願書類上、新規性欠如が明らかな場合には登録が拒絶される可能性はあるものの、瑕疵のある状態で登録されることもあり得るので、この場合は登録後の取消請求の対象となり得る。
ただし、以下の場合には、出願日前に意匠が公表されていたとしてもグレースピリオドが適用され、以下に該当する公表、開示の後(期間制限はない)又は博覧会閉会後6ヶ月以内に当該意匠を出願すれば、新規性は喪失しない(同法第8条(1)(2))。
(a) 所有者による第三者に対する意匠の開示で、その第三者による善意に反するとされるような状況でなされる意匠の使用又は公表
(b) 意匠の所有者以外の第三者による善意に反してなされた意匠の開示
(c) 登録することを意図した新規の又は独創的な織物の意匠の場合は,その意匠を付した商品に対する最初の秘密の注文の受領,又は
(d) 所有者による政府省庁若しくは庁への,又は政府省庁若しくは庁により意匠の価値を検討する権限を与えられた者への意匠の伝達,又はその伝達の結果なされた事項
(e) 意匠の所有者の同意を得て公式の国際博覧会で展示された場合
(f) 上記の公式の国際博覧会での展示後ないし博覧会の期間中に、意匠の所有者の同意を得ずに何人かによって展示された場合、又は、
(g) 上記(f)の公式の国際博覧会での展示の結果意匠が公表された場合
新規性喪失の例外規定における「公式の国際博覧会」については、パリ条約における定義に従うこととされている(同法第8条(3))。
グレースピリオドの適用を主張する場合には、願書において、グレースピリオドの適用を受けることを陳述しなければならない。陳述においては、根拠規定である意匠法第8条のどの規定の適用を主張するかを指定し、開示された日付等の開示された状況を記載する。なお、上記(e)(f)(g)を理由とする場合には、博覧会の名称、開会日、開催場所、意匠の最初の開示日を陳述する。出願人は、当該主張を裏付ける追加の情報又は書類を提出することができるが、上述の通り、シンガポールでは意匠出願について、実体審査は行われず方式審査のみのため、証拠資料の提出は必須ではないが、提出することはできる(シンガポール意匠規則17)。
(2) 不登録事由
(i) シンガポールにおいて、次のものは意匠登録が認められない。ただし、新規性要件と同様に、方式審査において以下のような事由に該当しているか否かの判断が行われるわけではない。そのため、出願書類上、以下の事由に該当していることが明らかな場合には登録が拒絶される可能性はあるものの、瑕疵のある状態で登録されることもあり得るので、この場合は登録後の取消請求の対象となり得る。
・構造についての方法又は原理(同法第2条(1))
・機能によってのみ特定される場合の物品の形状又は輪郭の特徴(同上)
・他の物品の外観に依拠し、意匠の創作者が当該他の物品の不可欠な部分を構成することを意図している物品の形状又は輪郭の特徴(同上)
・他の物品に接続するか、内部や周囲に配置することで機能を発揮できる物品の形状又は輪郭の特徴(同上)
・公序良俗に反する意匠(同法第6条)
・コンピュータ・プログラム(同法第7条)
・彫刻品(同規則9)
・記念銘板、メダル及び円形浮彫り(同上)
・本のカバー、カレンダー、証明書、クーポン、洋裁用型紙、グリーティングカード、ラベル、ちらし、地図、図面、遊戯用カード、葉書、切手、商業広告、業務用書式及びカード、転写画並びに類似の物品を含む、主として文学的又は芸術的性質の印刷物(同上)
(3) その他
出願された意匠が、いずれかの国家、居留地、市、自治都市、町、地方、会、法人、政府組織、法定委員会、機関又は人物の名称、頭文字、紋章、記章、騎士団勲章、勲章、旗又は図形の表示が表れる意匠の場合、登録官は、出願人に対して、国家等の名称等の使用について同意を与える権利を有すると考える公務員等による当該使用についての同意を提出するよう求めることができる。所定の期限内にこの同意が提出されなければ、当該意匠登録は拒絶される(同規則10)。
また、出願された意匠が、ある者の名称又は表示が出願された意匠に表れる場合には、登録官は、出願人に対して、意匠の登録を進める前に、その者又は最近死亡した者の場合は死亡者の法定代理人の同意を登録官に提出するよう求めることができる。所定の期限内にこの同意が提出されなければ、当該意匠登録は拒絶される(同規則11)。
【留意事項】
- シンガポールにおいて意匠出願の審査は方式審査のみのため、グレースピリオドの適用を受けたい場合、願書にその旨を記載しなかったとしても、出願書類等に不備が無ければ登録は認められ得る(瑕疵を帯びたまま登録される)。ただし、この場合、利害関係人による取消請求(意匠法第27条)の対象となり得るので注意が必要である。
- 優先権主張を伴う意匠出願の場合であって、基礎となる出願が新規性を欠き、かつ、新規性喪失の例外規定の適用を受けていない場合には、優先権主張に基づくシンガポールでの意匠出願も新規性を欠くことになる。既述の通り意匠出願については方式審査しか行われないため、実務的には、このような場合であっても当該出願にかかる意匠は登録され得る(瑕疵を帯びたまま登録される)と考えられ、この場合にも、利害関係人による取消請求(意匠法第27条)の対象となり得る。
■ソース
・シンガポール意匠法・シンガポール意匠規則
・パリ条約の国際博覧会に関する改正
http://www.bie-paris.org/site/en/component/content/article/9-organisation/23-convention-eng
■本文書の作成者
辻本法律特許事務所Donaldson & Burkinshaw LLP
■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2014.01.27