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ロシアにおける特許のクレームの変更

2014年06月27日

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■概要
ロシアには、クレームを変更する手続として、日本と同様に、特許付与前の手続(補正)と特許付与後の手続(訂正)がある。しかし、補正及び訂正の時期的要件、並びに補正及び訂正によって変更できる範囲は、日本とは異なる。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1) 補正

 出願人は原則として、査定(特許査定又は拒絶査定)が行われるまで特許出願を補正することができる(民法第1378条第1項)。ただし、以下に示すとおり、特許出願の状況によって、補正の時期や補正によって変更できる範囲に一定の制限が課せられる。具体的には、次のとおりである。

 

(i) オフィスアクションが発行される前にする補正

 オフィスアクションが発行される前であれば、出願人は、いつでも特許出願を補正することができる。

 オフィスアクションが発行される前に行う補正では、出願時の明細書又はクレームに記載された事項の範囲内の変更が認められ(民法第1378条第1項)、出願時の明細書及びクレームの何れにも記載されていない事項(以下「新規事項」という)の追加は認められない。

 

(ii) オフィスアクションに対する応答時にする補正

 クレームに記載された発明が特許要件を具備しない場合、オフィスアクションが発行される(民法第1386条第1項)。オフィスアクションに対する応答期限までに出願人が応答しなかった場合、特許出願は取下擬制される。オフィスアクションに対する応答期限は、オフィスアクションの受領日から2ヶ月であり、最大10ヶ月の延長が認められる(民法第1386条第5項)。

 オフィスアクションに対する応答時にする補正は、オフィスアクションに対する応答期間内に限り認められる。

 オフィスアクションに対する応答時にする補正では、オフィスアクションが発行される前にする補正と同様に、出願時の明細書又はクレームに記載された事項の範囲内の変更は認められるが、新規事項の追加は認められない(民法第1378条第1項)。

 

(iii) 審査結果通知に対する応答時にする補正

 オフィスアクションに対する応答を考慮しても拒絶理由が解消しない場合、拒絶査定が行われる前に審査結果通知が発行される(民法第1387条第1項)。審査結果通知に対する応答期限までに出願人が応答しなかった場合、特許出願は取下擬制される。審査結果通知に対する応答期限は、審査結果通知の受領日から6ヶ月である。

 審査結果通知に対する応答時にする補正は、審査結果通知に対する応答期間内に限り認められる。

 審査結果通知に対する応答時にする補正では、オフィスアクションが発行される前にする補正と同様に、出願時の明細書又はクレームに記載された事項の範囲内の変更は認められるが、新規事項の追加は認められない。

 

(iv) 拒絶査定後にする補正

 審査結果通知に対する応答を考慮しても拒絶理由が解消しない場合、拒絶査定が行われ、拒絶査定書が送付される(民法第1387条第1項)。

 拒絶査定後の補正は、拒絶査定不服審判係属中に限り認められる。具体的には、拒絶査定不服審判の請求時だけでなく、拒絶査定不服審判の審理手続の一環として審判官の合議体により行われる口頭審理が終了するまで、補正が認められる。ただし、拒絶査定不服審判の請求後に補正を行うためには、審判官の合議体の承認を得る必要がある。

 拒絶査定後にする補正では、拒絶理由の解消を目的とする補正は認められるが、拒絶理由の解消を目的としない補正及び新規事項の追加は認められない。

 

(v) 特許査定後にする補正

 クレームに記載された発明が特許要件を具備する場合、特許査定が行われ、特許査定書が送付される(民法第1381条第1項)。登録料納付期限までに出願人が登録料を納付しなかった場合、特許出願が取下擬制される(民法第1393条第2項)。一方、登録料納付期限までに出願人が登録料を納付した場合、ロシア特許庁は、発明を登録して、特許を発行する(民法第1393条第1項)。

 原則として、特許査定後の補正は認められない。ただし、明らかな誤りの修正を目的とする場合、登録料の納付前に限り補正が認められる。

 

(2) 登録後のクレームの訂正

 登録後のクレームの訂正は、特許無効審判係属中に限り認められる。具体的には、特許無効審判の審理手続の一環として審判官の合議体により行われる口頭審理が終了するまで、訂正が認められる。ただし、特許無効審判係属中に訂正を行うためには、審判官の合議体の承認を得る必要がある。

 登録後のクレームの訂正では、登録されたクレームの範囲内の変更(登録されたクレームの削除を伴う変更を含む)は認められるが、登録されたクレーム(独立クレーム)の範囲の拡大及び新規事項の追加は認められない。

 

【留意事項】

  • 図面にのみ開示されている事項(出願時のクレームや明細書に開示されていない事項)をクレームに追加することはできない。
  • ロシアには、日本の限定的減縮(日本特許法第17条の2第5項第2号)に相当する要件はない。従って、拒絶査定後にクレームの範囲を拡大する補正が明示的に禁止されているわけではない。ただし、拒絶査定後の補正は「拒絶理由の解消を目的とする補正」に制限されるため、拒絶理由が新規性又は進歩性の欠如である場合、クレームの範囲の拡大は認められないと解されている。
  • ロシアには、日本の訂正審判(日本特許法第126条)に相当する手続(つまり、登録されたクレームを特許権者が自発的に変更する手続)はない。なお、規定上は、特許権者が自身の特許に対して特許無効審判を請求することにより、クレームを変更する機会を得ることはできるが、クレームの訂正を目的として特許無効審判を請求した事例は知られていない。
  • 拒絶査定後の補正及び特許無効審判が請求された後の訂正においては、従属クレームを独立クレームに変更する場合を除いて、クレーム(従属クレームを含む)を新たに追加することはできない。
■ソース
・ロシア民法典第4部
・模倣対策マニュアル ロシア編(2012年3月、日本貿易振興機構)41頁、42頁、53頁、55頁
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2013/09/b91f7f3b65c81f32e4c8610ed549ee17.pdf ・黒瀬雅志編著、伊藤武泰・谷口登・木本大介著『ロシア 知的財産制度と実務』(一般財団法人経済産業調査会、2013年)
■本文書の作成者
グローバル・アイピー特許業務法人 弁理士 木本大介
■協力
Patentica LLP ロシア特許弁理士・ユーラシア特許弁理士 Mr. Evgeny Enbert
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期

2014.01.20

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