アジア / 出願実務
マレーシアにおける登録商標の変更
2014年07月08日
■概要
マレーシアでは、商標の同一性に本質的な影響を与えない方法であれば、登録後においても商標の変更が可能であり、変更された商標は所定の方法で公告される。■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 登録商標の変更の申請
マレーシアにおいて、商標登録所有者は、当該商標の同一性に本質的な影響を与えない方法であれば、当該商標に付加又は変更を施すことについて、登録官に対して申請することができる。変更の申請は、所定の手数料を納付し、付加若しくは変更後の当該商標を表示して、所定のフォーマット(様式TM21)により行わなければならない(代理人を通じてこの申請を行う場合は、様式TM1も併せて提出する)。なお、変更後の商標の表示方法については、商標登録出願時と同様である(商標規則19、20、21、77)。
変更申請から変更許可を受けるまでの期間は約5ヶ月であり(2010年申請実績)、特許庁手数料は、ウェブを通じて行う場合には160マレーシア・リンギット、オンライン以外の場合には180マレーシア・リンギットである。
(2) 登録官による判断
登録官は、登録商標権者から登録商標の変更について申請があった場合、当該申請を拒絶するか、適当と考える条件及び制限を付して許可することができる(商標法第44条第1項)。
また、登録官は、適当と判断する場合には、登録商標権者よりなされた申請について、決定を行う前に官報で公告させることができる。当該公告について異議のある者は、公告の日から2ヵ月以内であれば、異議申立理由を示し、様式TM22を提出することで異議申立てを行うことができる。異議申立がなされた場合、登録官は、必要に応じて当事者に聴聞を行い、当該事項の決定を行う(同条第2項)。
登録商標への付加又は変更について登録官が許可した場合、変更された商標については所定の方法で公告される。ただし、同条第2項に基づき既に公告されている場合は除く(同条第4項)。
商標法第44条に基づく登録官の決定に対しては、裁判所に上訴することができる(同条第3項)。
(3) 商標変更が認められた事例
実際の事例として、マレーシアにおいて、登録商標
から
に変更を施す許可を登録官に対して申請したところ、何ら条件又は制限が付されることなく、また許可前に申請が公告に付されることなく、変更の許可を受けた例がある。
登録商標への付加又は変更が、商標の同一性に本質的な影響を与えない方法であるか否かの判断基準を一般的に示した条文等は見当たらない。しかし、上記の例につき、変更前の登録商標と変更後の登録商標を比べてみると、称呼は同一であるものの、変更前の登録商標は「tutuanna」と一連であるのに対し、変更後の登録商標は「tutu」と「anna」に分離されている点、また変更前の登録商標には「*」が商標の末尾に付されているのに対し、変更後の登録商標には付されていない点、さらには変更前の登録商標と変更後の登録商標ではデザインされた字体も異なる点において相違があるが、「商標の同一性に本質的な影響を与えない方法」による商標の変更にあたると登録官において判断されていることは、実務上参考になると思われる。
【留意事項】
- 登録になった商標の使用態様が若干でも変更されていれば不使用取消審判の対象となり得るので、登録商標の変更又は変更後の商標について別途出願を行うことが対応として考えられる。このような場合において、再度変更後の商標について別途出願を行うと、ウェブを通じて出願する場合で330マレーシア・リンギット、それ以外の場合は370マレーシア・リンギットの手数料が必要であり、出願から登録まで12ヵ月程度(早期審査の場合でも7ヵ月程度)を要する。そのため、登録商標の変更は、新規に出願するよりも低額かつ短期間で変更し得るという点で有用である。
- 登録商標の変更が「商標の同一性に本質的な影響を与えない方法」によるものか否かの判断は、上記事例によれば、マレーシアにおいては広く解釈されているようである。したがって、新規出願をする際には、既にマレーシアで取得している登録商標の中で新規出願商標と類似し、現在使用しておらず、かつ将来的にも使用予定のない商標があれば、当該商標の変更申請を行うことも考慮してみる価値はある。
- なお、変更後の登録商標の登録番号及び権利満了日については、変更前の登録商標と同一である。
■ソース
・マレーシア商標法・マレーシア商標規則
・マレーシア知的財産公社(MyIPO)ウェブサイト
http://www.myipo.gov.my/cap-dagangan http://www.myipo.gov.my/web/guest/borang-dan-fi-untuk-cap-dagangan-berdaftar (TM1)
http://www.myipo.gov.my/documents/10180/26329/TM1.pdf (TM21)
http://www.myipo.gov.my/documents/10180/26329/TM21.pdf (TM22)
http://www.myipo.gov.my/documents/10180/26329/TM22.pdf ・ASEAN IP Portal
http://www.aseanip.org/ipportal/index.php?option=com_content&view=category&layout=blog&id=82&Itemid=446
■本文書の作成者
辻本法律特許事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2014.01.30