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マレーシア特許における職務発明

2014年06月17日

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■概要
マレーシアの職務発明制度は、使用者が特許を受ける権利を取得し、発明が利益を生み出した場合に従業者に報酬請求権が発生するという基本的枠組みに基づき制度設計されている。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1) 職務発明制度

 マレーシアにおいては、原則として、特許を受ける権利は発明者に属する(マレーシア特許法第18条(2))。

 しかし、雇用契約の履行又は業務遂行によって行われた発明は職務発明に該当し、雇用契約又は業務遂行契約に別段の規定がない場合は、その発明に関する特許を受ける権利は、使用者又は業務委託者に属する(同法第20条(1))。ただし、当該発明が、雇用契約又は業務遂行契約が締結されたときに当事者が合理的に予想できたものより遥かに大きな経済的価値を生じさせた場合、発明者は、公正な報酬を受ける権利を有する。当事者間に合意が成立しない場合は、裁判所がその報酬を定める。

 また、雇用契約上、発明活動に従事する義務を負わされていない従業者が、使用者から使用を委ねられている情報又は手段を使用して使用者の業務分野における発明をした場合も職務発明に該当し、その特許を受ける権利は、雇用契約に別段の規定がない場合は使用者に属する。ただし、従業者は公正な報酬を受ける権利を有し、この報酬は、当事者間に合意が成立しない場合は、裁判所が従業者の給与、その発明の経済的価値及び使用者がそれから得る利益を考慮して定める(同法第20条(2))。

 上記の発明者に与えられる権利は、契約によって制限されない(同法第20条(3))。

 なお、マレーシアにおいては、報酬額を雇用契約等において定める場合に最低限確保しなければならない額について定めた規定はない。実務上は、雇用契約等で定められた報酬額が合理的か否かは、雇用契約等で報酬額を定める場合、使用者が得た利益、従業員の地位、発明の価値等、種々の要因に基づき、事案ごとに判断される。

 

(2) 職務発明に係る事例

 マレーシアにおける職務発明に関する事例としては以下のようなものがある。

 

(i) Transachieve Sdn Bhd v. Econ PI Pile Sdn Bhd & anor[1997] MLJU 47

 本件は、くい打ちに用いられる装置に係る発明について、原告との雇用期間中に発明者(第2被告)が雇用契約の履行として開発したものであるから、原告自身が特許の正当な所有者であることの確認を求めた事案である。発明者(第2被告)は、発明時において原告の2名の株主のうちの1名であり、当該発明にかかる出願は、発明者(第2被告)から第1被告(first defendant)に譲渡されていたが、本件においては、第2被告が発明時に原告の従業員であったことを原告が証明できなかったため、原告の請求は棄却された。

 

(ii) Soon Seng Palm Oil Mill (Gemas) Sdn Bhd & Ors v Jang Kim Luang Yeo Kim Luang & Ors[2011] 9 MLJ 496

 本件は、アブラヤシの繊維を寸断する装置の発明について、第1被告が第2被告から第7被告と共同で不適法に特許出願を行ったこと等を理由に、当該出願にかかる発明に関する出願ないし特許権が原告に帰属することの確認と、当該特許の譲渡を求めた事案である。

 裁判所は、原告が特許法第20条(1)に基づく権利があることを主張するためには、第1被告が原告と雇用契約を締結していたこと、第1被告が発明をもたらした雇用契約の履行として種々の活動を行ったこと、第1被告が発明の所有者であると示唆するような事項が雇用契約に定められていないことが必要であるとした。その上で、第1被告が雇用契約の一部としてアブラヤシの分野における調査・開発につき原告企業の利益を促進する義務と責任を負っていた以上、第1被告は原告企業の利益のために活動を行う義務を負い、特許法第20条(1)が適用されると判示した。

 

【留意事項】

 マレーシアでは、雇用契約の履行又は業務遂行によって行われた発明だけでなく、雇用契約上、発明活動に従事する義務を負わされていない従業者が、使用者から使用を委ねられている情報又は手段を使用して使用者の業務分野における発明をした場合も、特許を受ける権利は使用者に帰属する点に留意が必要である。

 また、使用者と従業者の間で報酬額について合意が成立しない場合には最終的には裁判所が決定するから、この点において紛争リスクがあることにつき注意が必要である。

 さらに、職務発明であることを証明するための根拠としては、雇用契約の中で、業務範囲を明確にすることが考えられる。

■ソース
・マレーシア特許法
・Transachieve Sdn Bhd v. Econ PI Pile Sdn Bhd & anor[1997] MLJU 47
・Soon Seng Palm Oil Mill (Gemas) Sdn Bhd & Ors v Jang Kim Luang Yeo Kim Luang & Ors[2011] 9 MLJ 496
■本文書の作成者
辻本法律特許事務所
■協力
Fabrice Mattei, Rouse
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期

2014.01.29

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