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(中国)発明の三要素を明確に記載することの重要性(「洗浄容易な多機能豆乳機」に係る無効審判)

2014年07月01日

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■概要
計8回の無効審判を請求されながらも、有効性が維持されてきた特許「洗浄容易な多機能投入機」の明細書の記載、それに関する審決の内容等を参考に、出願書類に発明の三要素(解決しようとする課題、課題を解決するための技術手段(改良)、それによる有利な効果)を明確に記載することの重要性について紹介する。
■詳細及び留意点

【詳細】

 九陽股份有限公司が所有する特許「洗浄容易な多機能豆乳機」(特許番号CN1268263C、出願番号200410036418.4)(以下、「本件特許」という。)は、ヘッドユニット下蓋(2)に、その下口が開放している導流器(8)が一つ固定設置され、電気モータ軸(7)の前端に固定されたブレード(11)が前記導流器(8)の内部に位置しかつ水中に入り込み、前記導流器(8)に導流孔(9)が設置されているか、又は前記ヘッドユニット下蓋(2)に前記導流器(8)の内腔と連通する導流槽(6)が設置されている豆乳機であり、製乳用素材は筒体(10)と導流器(8)内で水と共に循環され、粉砕され、製乳される。従来の豆乳機は、粉砕ブレードがフィルターコップ内に位置しているため洗浄しにくいものであったが、従来の全閉型フィルターコップを下口が開放している導流器(8)としたことで、本件特許の多機能豆乳機は簡単に洗浄できるようになり、製乳の効果もより良くなっている。

特許番号CN1268263C

特許番号CN1268263C

 

 本件特許は、2007年から本稿作成時までに計8回無効審判を請求されている。これに対し、中国特許審判部(復審委員会)は、下記表の通り、特許権の有効性を維持する審決を6回下しており、本件特許の出願書類の作成レベルは高いと評価している(8回の無効審判申立のうち、1件はWX12244で併合(合併)審理され、もう1件は無効審判終了通知書が発行されている)。

請求人 審判請求人が主張した無効理由 審決
肖学宇 1.証拠1とダブルパテントに該当する。
2.請求項1、6は進歩性を有しない。
WX12244
佛山市順徳区欧科電器有限公司 1.請求項1は新規性を有しない。
2.請求項1~5は進歩性を有しない。
WX13373
張易萍 1.請求項1は新規性を有しない。
2.請求項1~5は進歩性を有しない。
WX19499
浙江蘇泊爾生活電器公司 1.請求項1、6は必須要件を欠いている。
2.請求項1、6及び明細書の補正は新規事項の追加に該当する。
3.実施可能要件違反に該当する。
4.請求項1、6は明細書によりサポートされていない。
5.請求項1、4、5は新規性を有しない。
6.請求項1~10は進歩性を有しない。
WX19505
珠海経済特区飛利浦家庭電器公司 1.請求項1~10の補正は新規事項の追加に該当する。
2.請求項1~10は必須要件を欠いている。
3.請求項1~10は明細書によりサポートされていない。
4.請求項1~10は進歩性を有しない。
WX19513
龔萍 1.請求項1は新規性を有しない。
2.請求項1~10は進歩性を有しない。
WX20421

 

(1) 進歩性

 以下の通り、本件特許の明細書には、解決しようとする課題、課題を解決するための技術的手段(改良)、それによる有利な効果という発明の三要素が明確に記載されており、この三要素は非常に厳密な論理構造を構築している。

  • 本発明が解決しようとする課題:従来の家庭用豆乳機における粉砕製乳装置がフィルターコップ内にあり、フィルターコップは洗浄しにくいことであると明確に記載されている。
  • 課題を解決するための技術的手段(改良):本発明の洗浄容易な多機能豆乳機の主な改良点は、一つの導流器で従来の豆乳機におけるフィルターコップを代替した点にあることが明確に記載されている(本件特許の公開公報の明細書第1頁下から第1段落を参照)。
  • 改良による有利な効果:上記の改良による有利な効果として、「本発明の洗浄容易な多機能豆乳機の導流器の下口は開放されている。また、導流孔が設置されているが、従来技術のフィルターコップの構造と本質的に異なっており、導流器の内外壁の洗浄が簡単にできる。そして、従来技術においてフィルターコップの内部で粉砕製乳するのとは異なって、製乳用素材は筒体と導流器内で水と共に広範囲内で循環され、粉砕され、製乳されるため、その粉砕製乳の効果はより良く、製乳用素材の栄養分がより十分に析出できる。」等と記載されており、進歩性に寄与できるような全ての構成について、それに対応する有利な効果が記載されている(本件特許の公開公報の明細書第2頁第2段落下から5~6行、9~10行、第3頁下から第4段落下から2~3行、7~10行を参照)。

 

 上記表のとおり、本件特許に対する無効審判請求において進歩性欠如が無効理由として挙げられているが、これらの無効審判請求に対して下された全ての審決において本件特許権の有効性を維持するという判断が下されており(12244号審決では、証拠2(ZL03225170.X)において導流器と類似する構造を有する導流コップが開示されていたが、両者の設置場所及び解決しようとする課題が異なっているとして本件特許の請求項1は進歩性を有すると認定している)、これらの審決において、進歩性の判断について、「ある請求項に記載された発明が先行技術に対して相違点に係る構成を有し、かつ先行技術には当該相違点に係る構成によりかかる課題を解決することに関する示唆がなく、当該相違点に係る構成が当業界の技術常識であることを証明できる証拠がなく、当該相違点に係る構成が当該請求項に記載された発明に有利な効果をもたらす場合に、当該請求項は進歩性を有する。」というほぼ同様の判断基準が示されている。

 以上のことから、将来起こりうる進歩性欠如に関する主張に対抗するためには、出願書類の作成時に、本発明が解決しようとする課題、この課題を解決するための技術的手段(改良)、それによる有利な効果という三要素を明確にし、かつ、この三要素により厳密な論理構造を構築すべきであると言える。例えば、各構成について、それに対応する有利な効果を記載することが考えられる。

 

(ii) 実施可能性要件

 19505号審決において、請求人の「本件特許の明細書には、素材又は筒体内の乳原料の温度や圧力及び素材がどのような温度及び圧力条件下でブレードの回転の作用によって導流器の中で上方へ上げられ、水と共に循環され、導流孔、導流槽を経由して吐出されて筒体の内部へ戻ってくるのかについて明確に説明していない」という主張に対し、合議体は以下のように指摘している。

「本件特許発明の目的は、家庭用豆乳機の洗浄難の課題を解決し、洗浄容易な多機能豆乳機を提供することにある(本件特許の明細書第1頁11~12行を参照)。この目的を実現するために、本発明はヘッドユニット下蓋にその下部が水中に入り込み、その下口が開放している導流器が一つ固定設置され、電気モータ軸の前端に固定されたブレードが導流器の内部に位置し、かつ、水中に入り込み、導流器に導流孔が設置されているか、ヘッドユニット下蓋に導流器の内腔と連通する導流槽が設置されており、製乳用素材は筒体と導流器内で水と共に循環され、粉砕され、製乳されるという手段を採用した(本件特許の明細書第1頁14~17行、21~22行を参照)。また、本件特許発明の豆乳機の作動原理及び作動方法についても説明されている(本件特許の明細書第4頁3~15行、第5頁13~18行を参照)。このように、本件特許の明細書は、保護しようとする発明について明瞭かつ完全な説明を記載しており、当業者は明細書の記載に基づき本件特許発明を実施し、その課題を解決し、かつ所期の効果を得ることができる。」

 以上のことから、出願書類を作成するにあたっては、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための技術的手段(改良)、それによる有利な効果という三要素を明確にすると共に、図面を用いて発明の原理、実現方法、各構成(製品の部品又は方法プロセス)の実施の形態等を詳細に説明すべきであると言える。そうすることにより、将来起こりうる実施可能要件違反に関する主張に対して、有力に対抗することができる。

 

(iii) 独立請求項の必須要件

 19505号審決において、請求人は「本件特許の請求項1、6は「豆乳機における電気ヒーター又は筒体内の素材温度、圧力」及び「導流器ハンドル」の2つの必須要件を欠いており、請求項1は豆粕の濾過に関する構成を欠いている。」と主張し、19513号審決においては、請求人は「独立請求項1は「導流器の底部が開放している」との必須要件及び「導流孔の構造は、製乳用素材及び水が吐出されて筒体の内部へ戻れるように設置されている」との必須要件を欠いており、独立請求項6は「導流器底部が開放している」との必須要件及び「導流槽の構造は、製乳用素材及び水が吐出されて筒体の内部へ戻れるように設置されている」との必須要件を欠いている。」と主張していた。これらの主張について、合議体は以下のように見解を述べている。

「本件特許発明の目的は、家庭用豆乳機の洗浄難の課題を解決することにある。この目的を実現するために、本件特許発明は、フィルターコップなしで、ヘッドユニット下蓋に、その下口が開放している導流器を一つ固定設置し、導流器に導流孔を設置するか、又はヘッドユニット下蓋に導流器の内腔に連通する導流槽を設置するという手段を採用した。これらの構成は本件特許の独立請求項1及び6に明確に記載されている。」

「豆乳機における電気ヒーター又は筒体内の素材温度、圧力」、「導流器ハンドル」及び豆粕の濾過に関する構成も、豆乳機の作動、操作に関係しているが、本件特許が解決しようとする課題からすれば、これらの構成は必須要件とはいえない。独立請求項1、6に記載されたすべての構成は、本件特許発明の目的の実現に十分なので、独立請求項1、6は、その課題を解決するためのすべての構成を記載しているといえる。」

 上記からすると、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための技術的手段(改良)、それによる有利な効果という三要素を明確にすることは、発明を適切に記載した独立請求項を作成する基礎となり、必須要件を記載していないという理由により無効にされること、必須要件に該当しない要件を記載したことにより権利範囲が減縮されることを避けることができると言える。例えば、本件特許の独立請求項1、6は、「導流器の下口が開放している」及び「導流器に導流孔が設置されている」等の導流器の構造について明確に記載して特定しているだけではなく、「ヘッドユニット下蓋に、導流器が設置され」、「ブレードが導流器の内部に位置し」、「ヘッドユニット下蓋に導流器の内腔と連通する導流槽が設置されている」等の導流器とヘッドユニット下蓋、ブレード等との位置関係についても明確に記載しているが、本件特許発明における洗浄しにくいという課題を解決することに関係のないその他の構成を特定してはいない。

 

【留意事項】

 本件特許の出願書類および無効審判の経緯からみると、特許出願書類において、発明が解決しようとする課題、この課題を解決するための技術的手段(改良)、それによる有利な効果という三要素を明確にし、かつ、この三要素により厳密な論理構造を構築することが、当該発明に係る特許権を強い権利とするための基礎となる。

■ソース
・中国専利法
・12244号審決
http://app.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=WX12244&lx=2008/WX12244 ・13373号審決
http://app.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=WX13373&lx=2009/WX13373 ・19499号審決
・19505号審決
・19513号審決
・20421号審決
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期
2014.01.23
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