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(中国)訳語の順序等を間違えるようなケアレスミスに基づく誤訳の事例
2012年08月09日
■概要
翻訳において、例えば、「○○○から×××へ」というような語順が問題となる文型において、語順を間違えて「×××から○○○へ」と訳してしまうようなケアレスミスや、用語の直訳から「多孔構造」を「多芯構造」と訳してしまうようなケアレスミスが発生し得る。翻訳においてはケアレスミスにも十分に注意する必要がある。■詳細及び留意点
中国特許庁審判部無効審決2010年6月23日付第15093号のケースにおいて、本件特許に対する無効理由の証拠文献(米国特許第4170262号)の翻訳が問題となっている。この翻訳において、無効審判請求人は、「the pore size is graded to diminish from the condenser region to the evaporator region」(日本語の意味:「孔径は凝縮部から蒸発部へ向かって次第に減少する」)を「孔径尺寸沿蒸发区往凝结区,越来越小」(日本語の意味:「孔径は蒸発部から凝結部にかけて、減少して行く」)と訳していたが、これは方向を間違えた誤訳であり、「孔径尺寸沿凝结区往蒸发区,越来越小」あるいは「孔径尺寸从凝结区到蒸发区越来越小」とするのが正しく、審判手続きにおいても、そのように認められている。
また、この審決の上訴判決である北京市高級人民法院判決2011年12月12日付(2011)高行終字第1443号では、十分な証拠の提示がなかったため認められていないが、上訴人(特許権者)が1つの証拠(日本国公報特開2002-22379号)の翻訳文「导热体(20)和芯结构(21)都是多芯结构」(日本語の意味:「導熱体及び芯構造はともに多芯構造からなる」)中の訳語「多芯结构」は「多孔结构体」の誤りである旨主張している。ここで、この日本国公報特開2002-22379号の対応する部分の記載は「前記熱伝達体(20)およびウィック(21)はいずれも多孔性構造体である」となっている。このウィック(英語:「wick」、日本語の意味:「芯」)という言葉から、訳語として「多芯结构」を選んだものと思われるが、この「多孔性構造体」の訳語としてはやはり「多孔结构体」の方が妥当であると思われる。
参考1(中国特許庁審判部無効審決2010年6月23日付第15093号より抜粋):
附件1为中国专利文献,附件2、4-6为美国专利文献,附件7-8为日本专利文献,专利权人对上述附件的真实性均没有异议,合议组经核实对上述附件的真实性予以确认,且上述附件的公开日期均在本专利的优先权日之前,因此均可以作为本专利的现有技术使用。
附件3为在国外出版发行的外文出版物的复印件,其属于域外证据,根据《审查指南》第四部分第八章第2.2.2节的规定,对于域外证据,应当经所在国公证机关予以证明、并经我国驻该国使领馆予以认证,或者已履行了中国人民共和国与该所在国订立的有关条约中规定的证明手续。请求人在口头审理辩论终结前没有提供附件3的原件,也没有提供能证明附件3已履行了上述证明手续的相应证据,或者能够从除香港、澳门、台湾地区外的国内公共渠道获得该附件的相应证据,或者足以证明附件3真实性的其他证据。因此,本案合议组对附件3的真实性不予认可,其不能作为本案的证据使用,对于涉及附件3的无效理由,本案合议组不予审理。
专利权人对附件2-8的中文译文的准确性基本没有异议,仅对个别词语有异议,但未提交中文译文。请求人当庭表示附件6的中文译文第2页的“孔径尺寸沿蒸发区往凝结区,越来越小”为翻译错误,将其更正为“孔径尺寸沿凝结区往蒸发区,越来越小”,专利权人仅认为请求人口审当庭修改译文应不予接受,但没有对该处内容的正确译法发表意见。合议组经审查后认为:首先,请求人当庭更正译文明显错误并未违反专利法、专利法实施细则和《审查指南》的相关规定;其次,合议组经核实,附件6的英文原文该处(第3栏第46-47行)内容为“the pore size is graded to diminish from the condenser region to the evaporator region”,其中文译文应为“孔径尺寸从凝结区到蒸发区越来越小”,即请求人修改后的译文为准确的译文。因此,对于请求人当庭更正译文的明显错误合议组予以接受,附件6该处的中文译文以请求人当庭修改后的为准,即为“孔径尺寸沿凝结区往蒸发区,越来越小”,附件6的其他部分以及附件2-5、7-8公开的内容以请求人提交的中文译文为准。
(日本語訳:添付資料1は中国特許文献、添付資料2、4~6は米国特許文献、添付資料7、8は日本特許文献であり、特許権者は上述の添付資料の真実性をすべて認めている。合議体は確認した上で上述の添付資料の真実性を認めた。また、上述の添付資料はいずれも、公開日が本件特許の優先日より前であるため、本件特許の公知技術として使用できる。
添付資料3は外国で出版・刊行された外国語刊行物のコピーであり、外国証拠に該当する。審査指南第四部分第8章第2.2.2節の規定によれば、外国証拠の場合、所在国の公証機関による証明及び当該国の中国大使館による認証、または中華人民共和国と当該所在国とが締結した条約に定める証明手続きの履行が必要となる。請求人は口頭審理の弁論終了までに添付資料3の原本を提示しておらず、添付資料3について上述の証明手続きを行ったことを証明できる証拠、または香港、マカオ、台湾以外の中国国内公共ルートにより当該資料を入手できる証明、または添付資料3の真実性を十分に証明できるその他の証拠も提出していない。よって、本合議体は添付資料3の真実性を認めない。添付資料3に係る無効理由について、本合議体は審理しない。
特許権者は添付資料2~8の中国語訳の正確性を大体認め、いくつかの言葉について異議を持っているが、中国語訳を提出していない。請求人は口頭審理において、添付資料6の中国語訳第2頁の「孔径尺寸沿蒸发区往凝结区,越来越小」は誤訳であり、「孔径尺寸沿凝结区往蒸发区,越来越小」に訂正すると説明した。特許権者は、請求人が口頭審理において翻訳文を訂正することを認めないとしたが、この文章の正しい訳し方について意見を発表していない。合議体は審理した上で以下のとおり判断している。第一に、請求人が口頭審理において明らかな誤訳を訂正することは、専利法、専利法実施細則及び審査基準の関係規定に違反していない。第二に、合議体が確認した結果、添付資料6の英文原文の同箇所(第3欄第46~47行目)の記載は「the pore size is graded to diminish from the condenser region to the evaporator region」であり、その中国語訳は「孔径尺寸从凝结区到蒸发区越来越小」と翻訳すべきである。つまり、請求人の訂正版のほうが正しい翻訳である。したがって、合議体としては、請求人が口頭審理において明らかな誤訳を訂正することを認める。添付資料6の当該箇所の中国語訳は、請求人が口頭審理において説明した訂正版、すなわち、「孔径尺寸沿凝结区往蒸发区,越来越小」を採用する。添付資料6のそれ以外の部分及び添付資料2~5、7~8に開示される内容は、請求人が提出した中国語訳によるものとする。)
参考2(北京市高級人民法院行政判決2011年12月12日付(2011)高行終字第1443号より抜粋):
嘉合公司上诉主张该技术特征为本专利权利要求1与附件7的区别技术特征,无事实依据,本院不予支持。嘉合公司上诉主张附件7的中文译文中“导热体(20)和芯结构(21)都是多芯结构”这一表述中的“多芯结构”应翻译成“多孔结构体”,但其在无效程序中对于该译文的正确性并未提出异议,且在本案一审庭审中对于位于附件7其他部分的相同英文单词翻译为“多芯结构”并未表示异议,同时亦未提交充分证据证明该翻译错误,故该项上诉主张无事实依据,本院不予支持。
(日本語訳:嘉合公司は上訴において、当該構成要件が本件特許の請求項1と添付資料7との相違点であると主張しているが、この主張は事実の根拠がないため、本裁判所はこれを支持しない。嘉合公司は上訴において添付資料7の中国語訳における「导热体(20)和芯结构(21)都是多芯结构」(日本語の意味:「導熱体及び芯構造はともに多芯構造からなる」)中の訳語「多芯结构」は「多孔结构体」の誤訳である旨主張しているが、無効審判においては当該翻訳の正確性について異議を主張しておらず、かつ本件の第1審の開廷審理においても添付資料7の他の部分における同じ英単語が「多芯结构」に翻訳されていることに異議を示しておらず、また、この翻訳が誤訳であることを証明する十分な証拠も提出していないので、この上訴の主張は事実根拠がなく、本裁判所はこれを支持しない。)
【留意事項】
翻訳においては、意味のある語順の間違えや、用語を直訳したことによる誤訳のようなケアレスミスにも十分に注意する必要がある。
また、本件審決中でも述べられているように、中国外の証拠が無効審判における証拠として認められるためには、当該国の公証機関の証明及び当該国の中国大使館の認証が必要となることにも留意する必要がある。
■ソース
中国特許庁審判部無効審決2010年6月23日付第15093号http://www.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=WX15093&lx=WX 北京市高級人民法院行政判決2011年12月12日付(2011)高行終字第1443号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=829897 日本国公開特許公報 特開2002-22379号
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 古田敦浩■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2012.07.30