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(台湾)数字の記載違いが誤訳・誤記と認められなかった事例

2012年08月09日

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■概要
特許権者が、特許公告後に、英文明細書の記載に基づき、特許クレーム中の「少なくとも1重量%の架橋モノマー」(中国語「可共聚合交聯單体」)は「少なくとも0.1重量%の架橋モノマー」(中国語「可共聚合交聯單体」)の誤記・誤訳であると主張したが、認められなかった。
■詳細及び留意点

 特許権者が、特許公告後に、特許権者が外国語明細書の記載に基づき、特許請求の範囲中の「少なくとも1重量%の架橋モノマー」は「少なくとも0.1重量%の架橋モノマー」の誤記・誤訳である等と主張し、台湾特許庁に訂正審判を行ったところ、台湾特許庁はこのような特許請求の範囲の訂正を認めなかった。

 

 特許権者はこのような台湾特許庁の決定を不服として台北高等行政法院へ訴えを提起したが、台北高等行政法院は、専利法第64条第1項により公告後の特許範囲の拡大を認めなかった。

 

 裁判所はまた、専利法第26条第3項の特許請求範囲明確記載義務を挙げ、特許権者が提出した中国語の訳文に不一致があるのは内部作業における問題であり、単なる誤訳ではなく、特許請求範囲の訂正に係わると認定した。そして、専利法第64条第1項を適用すべきであり、旧審査基準第4章第16ページの判断基準(即ち、「誤訳であるかどうかは、発明の実質的内容の理解にどのような影響を与えるかにより決定する。」)を適用しないとした。

 

その後、上告も行われたが、最高行政法院も台湾特許庁及び台北高等行政法院の判断を支持した。

 

参考(台北高等行政法院判決の判決理由より抜粋):

原告固稱,系爭專利範圍得否准予更正,應視誤譯原文說明書部分是否影響核准專利之發明實質而定,並引被告舊基準第4 章第16頁規定:「審定公告核准專利之中文本專利說明書與原文說明書有發生整段文意不符,或該中文本有漏譯原文說明書整段文意時,得否認係『誤記事項』?應視其情形是否會左右影響了解核准專利之發明實質內容而定。...」惟查,系爭專利原文說明書有關「該可共聚合交聯單體」重量% ,縱有原告所稱「至少0.3 重量﹪至1 重量%可共聚合交聯單體」等之記載,然有關系爭專利範圍之認定,仍以公告之中文版本為據,原告於系爭專利申請專利之際,本應依法提出中譯本說明書,其將外文版本譯成中文版本時,自負有依專利法第26條第3 項規定:「申請專利範圍應明確記載申請專利之發明,各請求項應以簡潔之方式記載,...」提出明確記載申請專利範圍之義務,其因解讀外文版本而譯成不同版本之中譯本,以致形成其專利範圍之減縮,並經公告確定,乃原告內部作業所致,顯非原告所指之單純漏譯或誤譯之情形,可以比擬,本件並無原告所稱舊基準第4 章第16頁規定之適用,原告容有誤解,並不足採取。

(日本語訳「原告は、本件特許請求の範囲について補正が認められるかどうかは、原文明細書の部分の誤訳が特許発明の実質に影響を与えるか否かを見るべきであると言い、『特許査定され公告された特許の中国語の特許明細書で原文明細書の意味とが全体として符合しない場合、或いは当該中国語明細書で原文明細書の文章全体の翻訳漏れがある場合に、『誤記事項』に関すると認められるかどうかは、その形が特許発明の実質的内容の理解にどのような影響を与えるかにより決定する、・・・』という被告(台湾特許庁)の旧基準第4章第16ページの記載を引用している。ただし本件特許の原文明細書に『該架橋モノマー』の重量%に関して、たとえ原告の言う通り『少なくとも0.3重量%乃至1重量%の架橋モノマー』等の記載があるにしても、本件特許請求の範囲の認定に関しては、公告された中国語版によるべきであり、原告は本件特許の特許出願の際、もとより法に基づきこの中国語訳明細書を提出すべきであり、その外国語版から中国語版を作成した時に、おのずと専利法第26条第3項の規定の『出願の特許請求の範囲は出願する発明を明確に記載し、各請求項は簡潔な形式で記載しなければならない、・・・』という出願の特許請求の範囲を明確に記載する義務を負っている。その外国語版の解釈から異なる中国語翻訳文が作られていたことから、特許請求の範囲の減縮になってしまい、公告確定された場合、それは原告の内部作業の問題であって、原告が言うところの単純な翻訳漏れ又は誤訳の問題になぞえることができず、よって、本件は原告が持ち出した旧基準第4章第16ページの記載の適用はなく、原告の主張には誤りがあり、採用できない。」)

 

【留意事項】

クレーム中の数字に関しては、例え外国語明細書中に別の記載があるとしても、誤記・誤訳と認められないことも多いと考えられ、元々専利法第26条第3項に(外国語を中国語に翻訳した後の記載について)明確且つ簡潔に記載すべきという義務が規定されており、特に注意する必要がある。

 

 特許出願が許可された後、もし誤訳があったとしたら、台湾専利法第64条に該当する場合に限り訂正審判を請求することができる。裁判所は台湾専利法第64条の規定を基準として、訂正を許可するかどうかを判断する。

■ソース
台北高等行政法院判決2007年4月19日付民国95年度訴第2012号
台湾最高行政法院裁定2008年1月10日付民国97年度裁字第257号
■本文書の作成者
特許庁総務課企画調査課 古田敦浩
聖島国際特許法律事務所
■協力
特許業務法人深見特許事務所 仲村義平
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2012.08.01

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