アジア / 出願実務
シンガポールにおける特許出願書類
2025年03月18日
■概要
シンガポールでは、特許出願書類として、願書、明細書、クレーム、図面、要約書、配列表(該当する場合)が必要である。出願手続が英語以外の言語の場合は、英訳文を提出しなければならない。■詳細及び留意点
シンガポール特許法は、特許出願書類として、(1) 願書、(2) 明細書、(3) クレーム、(4) 図面、(5) 要約書を定めている(シンガポール特許法(以下「特許法」という。)第25条(3))。また、出願が配列を開示する場合は、出願書類に含めなければならない(シンガポール特許規則(以下「特許規則」という。)19A、方式審査マニュアル2.2.26)。
1. 願書
願書は、所定のフォーマット(様式1)により作成する。願書の記載事項には、以下のようなものが含まれる。
・発明の名称
・出願人の氏名および住所、国名等
・優先権に関する事項(番号、国、基礎出願日)
・発明者の氏名および住所、国名等
・発明者から出願人への権利譲渡の手段(雇用契約書、発明譲渡証)
・代理人の氏名およびシンガポールにおける送達用あて先
・宣誓書
2. 明細書
明細書は、当業者が発明を実施できるように、明確かつ完全に内容を開示するものでなければならず(特許法第25条(4))、次の順序で記載する(特許規則19(3))。
・発明の名称
・発明の説明
・クレーム
・図面(該当する場合)
このうち、発明の説明には、以下の内容を記載する(特許規則19(5))。
・発明の名称
・発明が関連する技術分野を明示
・発明の理解、調査および審査に有用と考えられる技術的背景を明示
・クレームされた発明の開示(関連する技術的課題および発明による解決方法を理解できるように記載し、技術的背景に関連して発明による有利な効果を述べる必要がある。)
・各図の簡単な説明(該当する場合)
・少なくとも1以上の発明の実施例(あれば図面を引用する。)
・発明の説明または内容から明白でない場合、産業上の利用可能性があることの明確な表示
・配列一覧(該当する場合)(特許規則19A)
発明の説明や説明であると認められる事項に英語以外の言語が含まれている場合は、英語の翻訳文を提出する必要がある。英語の翻訳文が提出されていない場合には、登録官により通知がなされ、当該通知日から2か月以内に提出しなければ当該出願は拒絶されるので(特許規則19(10)~(12))、必要があれば、前もって準備しておくと良い。
3. クレーム
クレーム作成に際しては、主に以下のような点に留意する(特許法第25条(5)、特許規則19(6)~(9))。
(1) クレームは、出願人が保護を求める事項を定義すること、明確かつ簡潔であること、発明の説明により裏付けられていることが求められ、1発明または単一の発明概念を形成するように連結された1群の発明に関わるものである必要がある。
(2) クレームは、発明の技術的特徴に関し、発明の説明または図面の参照に依拠してはならず(当該参照がクレームの理解のために必要である場合、クレームの明確性・簡潔性を高める場合は除く。)、クレームする発明の内容を考慮して適切な数である必要がある(クレームが複数ある場合はアラビア数字で通し番号をつける。)。
(3) クレームにおいて保護を求める事項は、構造的・機能的または数学的用語を用いて表現することができる当該発明の技術的特徴によって特定しなければならない。
(4) シンガポールでは、マルチマルチの従属クレームも認められている(審査ガイドライン2.46)。
例:請求項3.The method of claims 1 or 2, further comprising X.(マルチ)
請求項4.The process of any one of claims 1 to 4…, comprising Y(マルチマルチ)
その他の詳細については特許規則を参照されたい。
4. 図面
図面作成に際しては、主に以下のような点に留意する(特許規則21)。
(1) 図面は、国際A4サイズ(29.7cm×21cm)用紙を使用し、十分な複写ができるように彩色を行わず、かつ耐久性があり、黒色で十分な濃さを有し、均一な太さの鮮明な線および筆致により作成し、少なくとも上端2.5cm、左端2.5cm、右端1.5cm、下端1.0cmの余白を設ける。
(2) 図面上に記載される数字、文字、基準線は、単純かつ明確なものである必要があり、数字と文字については、括弧、丸および引用符は使わない。
(3) 図の各要素は、その図の他の各要素と同じ寸法比率で記載する。ただし、図を明瞭に示すために異なる比率を使用することが不可欠な場合は,この限りでない。
その他の詳細については特許規則を参照されたい。
5. 要約書
(1) 要約書には、明細書に開示されている当該発明の内容の概要を簡潔に記載しなければならない(通常は150語以内)。なお、概要には、発明が属する技術分野、発明が関係する技術的課題、発明による当該課題の解決方法の要旨および当該発明の主たる用途を明確に理解できるように記載する。
(2) 明細書に図面が含まれる場合であって、公表の時点で要約に添付するべきであると考える図面については、当該図(原則1図、例外的に複数とする場合も2を超えてはならない)を要約書で表示する。
(特許規則22)
6. その他の書類
出願人と発明者が完全に一致しない場合は、上記の出願書類のほか、「特許を受ける権利についての陳述書」(様式8)を優先日から16か月以内に提出する必要がある(特許法第24条(2)、特許規則18(1)および(1A))。
優先権主張を伴う特許出願において、優先権証明書は、登録官から提出を要求された場合、通知日から2か月以内に提出する必要がある(特許規則9B(4))。
7. 留意事項
(1) 願書、明細書、要約に記載する発明の名称は、簡潔かつ正確で、当該発明に関係する事項を表示するものである必要がある(特許規則19(4))。
(2) 上記出願書類が英語以外で提出されている場合は、出願人は通知日から2か月以内に英訳文を提出する必要がある(特許方式マニュアル2.2.40 )。
(3) 出願書類に不備があった場合、審査官が指定する期間内に意見を述べるか不備を補うことを求める通知が出される。所定の期間内に補正しなければ、出願は拒絶される(特許法第28条(4)、(5))。
■ソース
・シンガポール特許法(英語)https://sso.agc.gov.sg//Act/PA1994
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-tokkyo.pdf
・シンガポール特許規則
(英語)https://sso.agc.gov.sg//SL/PA1994-R1
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-tokkyo_kisoku.pdf
・特許出願願書フォーム(様式1)
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/patent-forms-and-fees/form-pf1_8---otc8ede1c77c2d0635fa1cdff0000abd271.pdf
・宣誓書フォーム(様式8)
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/patent-forms-and-fees/form-pf8---otcefde1c77c2d0635fa1cdff0000abd271.pdf
※様式1、8のword形式は、下記URLからダウンロードすることができます。
https://www.ipos.gov.sg/about-ip/form-fees
・審査ガイドライン(Examination Guidelines for Patent Applications at IPOS)
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/guidelines-and-useful-information/examination-guidelines-for-patent-applications.pdf?sfvrsn=47d67c59_15
・特許方式マニュアル(Patents Formalities Manual)
https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/guidelines-and-useful-information/patents-formalities-manual.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.10.28