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韓国における職務発明制度

2025年03月11日

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■概要
韓国における職務発明制度は、従前(2006年9月2日以前)は特許法と発明振興法でそれぞれ規定されていたが、現在は発明振興法においてのみ規定されている。韓国に籍を置く会社は、韓国発明振興法に定められている規定により職務発明を管理する必要がある。2024年に発明振興法および発明振興法施行令の職務発明関連規程が改正されたので、それを反映させた関連法条文および留意事項を説明する。
■詳細及び留意点

 職務発明について定めている韓国の発明振興法(韓国語「발명진흥법」)の主たる内容について紹介する(以下、特に断らない限り条文番号は「発明振興法」を指す。)。

1. 職務発明の定義
 職務発明とは、「従業員、法人の役員または公務員(以下「従業員等」という。)がその職務に関して発明したものが、性質上、使用者・法人または国家若しくは地方自治体(以下「使用者等」という。)の業務範囲に属し、その発明をするようになった行為が、従業員等の現在または過去の職務に属する発明をいう」(第2条)と定められている。これは職務発明とされるための成立要件と言われる。

2. 職務発明の対象
 特許・実用新案・デザイン(意匠)が対象(第10条)であり、商標は対象とされていない。

3. 職務発明に対する使用者等の通常実施権
 職務発明に対して従業員等が特許、実用新案登録、デザイン登録(以下「特許等」という。)を受けたり、特許等を受けることができる権利を承継した者が特許等を受けたりすると、使用者等はその特許権、実用新案権、デザイン権(以下「特許権等」という。)に対して通常実施権を有する(第10条第1項本文)。ただし、中小企業でない企業が職務発明に関する所定の契約・勤務規定を締結していない場合には、使用者等は通常実施権を有することができない(第10条第1項ただし書)。

4. 職務発明完成事実通知および権利承継
(1) 従業員等が職務発明を完成した場合には、遅滞なくその事実を使用者等に書面で知らせなければならない(第12条)。

(2) 職務発明の完成事実通知を受けた使用者等が、従業員等の職務発明に対してあらかじめ使用者等に特許等を受けることができる権利や特許権等を承継させる契約または勤務規定を定めていた場合には、その権利は発明を完成したときから使用者等へ承継される(第13条第1項本文)。
 使用者等が通知を受けた日から4か月内にその発明に対する権利を承継しないことで従業員等に通知する場合には、その権利は使用者等へ承継されない(第13条第1項ただし書、発明振興法施行令第7条)。

(3) 上記契約または勤務規定が全てない使用者等(国家や地方自治団体は除く)が職務発明完成事実通知を受けた場合には、通知を受けた日から4か月内にその発明に対する権利の承継可否を従業員等へ書面で知らせなければならない(第13条第2項、発明振興法施行令第7条)。この場合、使用者等は、従業員等の意思と異なって、その発明に対する権利の承継を主張することができない。
 使用者等が上記期間内に承継可否を知らせない場合には、使用者等はその発明に対する権利の承継を放棄したものとみなす。この場合、使用者等はその発明をした従業員等の同意を受けなければ通常実施権を有することができない(第13条第3項)。

5. 職務発明に対する補償
 従業員等は、職務発明に関する権利を使用者等に承継した場合、または専用実施権を設定した場合には、正当な補償を受ける権利を有する(第15条第1項)。

 下記の(ⅰ)から(iii)に従い、従業員等に補償した場合には正当な補償をしたものとみなす(第15条第6項)。補償額は職務発明による使用者等が得る利益とその発明の完成に使用者等と従業員等が貢献した程度を考慮しなければならない。

(i) 使用者等は補償に対して補償形態と補償額を決定するための基準、支給方法等が明示された補償規程を作成し従業員等に文書で知らせなければならない(第15条第2項)。

(ii) 使用者等は補償規程の作成または変更に関して従業員等と協議しなければならない。ただし、補償規程を従業員等に不利に変更する場合には、該当契約または規程の適用を受ける従業員等の過半数の同意を得なければならない(第15条第3項)。

(iii) 使用者等は補償を受ける従業員等に補償規程に基づいて決定された補償額等の補償の具体的事項を文書で知らせなければならない(第15条第4項)。

6. 出願保留時の補償
 使用者等が職務発明を承継した後、出願せず、または出願を放棄もしくは取下げた場合にも、従業員等が受けることができた経済的利益を考慮して正当な補償をしなければならない(第16条)。

7. 承継した権利の放棄および従業員等の譲受け
 「技術の移転および事業化の促進に関する法律」に定める公共研究機関が、国内または海外で職務発明に対して特許等を受けることができる権利または特許権等を従業員等から承継した後、これを放棄する場合、該当職務発明を完成した全ての従業員等は、その職務発明に対する権利を譲り受けることができる(第16条の2第1項)。
 ただし、公共研究機関の長は大統領令で定めるところにより、公共の利益のために特別に職務発明に対する権利を放棄する必要があると認める場合には、その権利を従業員等に譲渡しないことができる(第16条の2第2項)。職務発明に対する権利を従業員等に譲渡しようとしない場合には、職務発明審議委員会の審議を経なければならない(発明振興法施行令第7条の3第1項)。

8. 職務発明の審議機構
 使用者等は、職務発明に関して必要な事項を審議するために、職務発明審議委員会を設置、運営することができる(第17条)。審議委員会は使用者委員と従業員委員の各々3名以上で構成されなければならない(ただし、常時勤務する従業数が30名未満である場合は各々1名以上。)(発明振興法施行令第7条の4~第7条の5)。

9. 職務発明関連の紛争解決
 従業員等は職務発明に対する権利および補償等に関して使用者等に異議がある場合に、使用者等に審議委員会を構成し、審議するよう要求することができる(第18条第1項)。上記権利は事由が発生した日から30日以内に行使しなければならず、使用者等は要求を受けた場合に60日以内に審議委員会を構成し審議しなければならず、審議委員会は審議の結果を使用者等と従業員等に遅滞なく書面で通知しなければならない(第18条第2項~第4項)。審議委員会の審議の結果を不服とする使用者等または従業員等は産業財産権紛争調停委員会(韓国語「산업재산권분쟁조정위원회」)に調停を申請することができる(第18条第6項)。

10. 留意事項
 韓国の現地法人等に職務発明規程を設けていない場合や、日本の職務発明規定をそのまま用いた場合、そこで発生した知的財産権を会社が取得できなくなる、または従業員等から高額の報奨・報酬の請求を受ける等のリスクが高まるおそれがある。また、職務発明に対する補償は、技術流出の防止や優秀な人材の確保、技術革新の創出のための重要な要素である。したがって、韓国の法令を熟知して、適切な職務発明規定(特に、権利の承継や補償・報奨等の定め)を整えることが望ましい。

■ソース
・発明振興法
(韓国語)https://www.law.go.kr/법령/발명진흥법
(日本語)http://www.choipat.com/menu31.php?id=73
・発明振興法施行令
(韓国語)https://www.law.go.kr/법령/발명진흥법 시행령
(日本語)http://www.choipat.com/menu31.php?id=74
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.11.18

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