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中国における意匠出願の補正

2025年03月06日

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■概要
意匠の出願人は、出願日から2か月以内に意匠出願書類を自発補正することができる。また、出願人は、拒絶理由通知または補正指令を受けた場合、それらに応答する際にも出願書類を補正することができる。ただし、いずれの場合にも、出願時に提出した図面に現れた範囲を超えてはならない。2021年6月1日施行の改正中国専利法において、部分意匠が導入されたため、部分意匠に関連した補正についても本稿で説明する。
■詳細及び留意点

1. 出願日から2か月以内の自発補正
 出願人は、出願日から2か月以内に意匠出願書類を自発補正することができる(専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第57条第2項)。ただし、出願時に提出した図面に表れた事項の範囲を超えてはならない(中国専利法(以下「専利法」という。)第33条)。また、出願日から2か月を超えた場合の自発補正は、当初の出願における不備を解消するものであり、かつ意匠登録の見込みがある場合に認められる。
 ただし、以下の補正については、当初の出願書類に存在した不備を解消するためのものとは認められず、出願日から2か月を超えているため、自発補正を行っていないものとみなす旨の通知書が発行される(専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第3章10.1)。
(i) 全体意匠を部分意匠に変更する補正
(ⅱ) 部分意匠を全体意匠に変更する補正
(ⅲ) 部分意匠の意匠登録を受けようとする部分を変更する補正

 すなわち、審査指南において、出願日から2か月を超えた場合の上記3つの補正は認められないという明確な制限があるものの、出願日から2か月以内にこれらの補正が認められるか、否かについては明確に規定されていない。中国の実務上の運用からすれば、出願日から2か月以内であれば、上記3つの補正が認められると考えられる。
 なお、補正書が提出されていたにもかかわらず審査官が補正前の書面で登録査定をした場合のように、自発補正にかかる不備が審査官によるものである場合を除き、登録査定後に自発補正書が届いた場合は、その補正は通常認められない。

2. 拒絶理由通知または補正指令への応答時の補正
 中国では、意匠については無審査登録制度が採られているため、意匠出願に対して公知意匠を調査した上での実体審査は行われず、原則的には方式審査のみとなるが、意匠権付与のための要件を明らかに満たしていない場合には、実質要件欠如の審査が行われることがある(実施細則第50条、審査指南第1部第3章3.3)。その結果として拒絶理由通知または補正指令が出された場合、これらに応答する際に、出願人は出願書類を補正することができるが、通常、拒絶理由通知または補正指令を受け取った日から指定期限である2か月以内に応答しなければならない(審査指南第1部第3章3.4、第5部第7章1.2)。

 拒絶理由通知または補正指令に指摘された不備と無関係の補正をした場合は、その補正が、出願時に提出した図面に表れた事項の範囲を超えておらず、かつ、出願時の不備を解消するもので、意匠登録の見込みがある場合、一般的には認められている。ただし、下記のいずれかに該当する場合、補正が当初の図面に表れた事項の範囲を超えていなくても、通知書に指摘された不備を解消するための補正とは認められないとして受理されない(審査指南第1部第3章10.2)。
(i) 全体意匠を部分意匠に変更する補正
(ⅱ) 部分意匠を全体意匠に変更する補正
(ⅲ) 部分意匠の意匠登録を受けようとする部分を変更する補正

 補正が出願時に提出した図面に表れた事項の範囲を超えているか否か(新規事項追加に該当するか否か)は、願書に添付の図面に表れた事項の範囲に基づいて判断される。なお、優先権主張に係る書類の提出があっても、その優先権主張に係る書類は判断材料にはならないとされている。

3. 物品名、図面、意匠の簡単な説明の補正
 次に、補正(専利法第33条)に関する実務上の経験に基づき、「(1) 物品名の補正」、「(2) 図面の補正」、「(3) 意匠の簡単な説明の補正」について説明する。

(1) 物品名の補正
 補正後の物品名が、図面に表された物品に一致すれば、出願時に提出した図面に表された事項の範囲内の補正であると認められる。例えば、図面に家屋が表されている場合、これを「おもちゃ」と認識することができれば、物品名を「家屋」から「家屋おもちゃ」に変更することができる。また、部分意匠において、物品名の欄に全体物品の名称のみが記載されていた場合、出願時に提出した図面に表れた意匠登録を受けようとする部分に一致する名称への補正は認められる。例えば、物品名を「自動車」とした自動車ドアの部分意匠出願の場合、物品名を「自動車ドア」に変更する補正は認められる。

(2) 図面の補正
(a) 新規事項追加に該当する補正
・出願時に提出した図面に表されておらず、かつ、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できないものを示す図面を追加する補正は、新規事項追加に該当する。
・該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できない形状を、図面に追加する補正は、新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に表された物品の一面に、存在しなかった模様を追加する補正は、新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に表された物品の形状または模様が完全ではなく、補正後の図面における形状および模様が完全に表される場合、追加分が、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できなければ、補正は新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に、物品の透明性により可視的になったデザインが表れておらず、補正後の図面にそのデザインが表れた場合、当該デザインが、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できなければ、補正は新規事項追加に該当する。
・補正後の物品形状(全体の形状および部分の形状を含め)が出願時に提出した図面と明らかに異なる場合、補正は新規事項追加に該当する。
・補正後の模様が出願時に提出した図面と明らかに異なる場合、補正は新規事項追加に該当する。
・色彩の保護を求める場合、図面に表れた意匠の色彩を大幅に変更する補正は、新規事項追加に該当する。
・物品の視認性に乏しい面、他の面と同一の面または対称の面を示すもの以外の図面を削除する補正は、新規事項追加に該当する。
・出願時に提出した図面に物品の透明性により可視的になった意匠が表れており、補正後の図面にその意匠が表れていない場合、補正は新規事項追加に該当する。

(b) 新規事項追加に該当しない補正
・出願時に提出した図面に表された意匠を示す単独図面を追加する補正は、新規事項追加に該当しない。
・該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できるものを示す図面を追加する補正は、新規事項追加に該当しない。
・意匠への微細な追加または削除する補正の場合、その意匠が出願時に提出した図面に表れていなくても、直ちに新規事項追加に該当する補正であるとみなされない場合もある。例えば、下記のような補正は、新規事項追加に該当しない。

・出願時に提出した図面に図面の不一致などの形式的不備があり、このような不備を解消するための補正は、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できるものであれば、新規事項追加に該当しない。
・図面名称の補正は、通常、新規事項追加に該当しない。
・物品の視認性に乏しい面、他の面と同一の面または対称の面を示す図面を削除する補正は、新規事項追加に該当しない。
・内部の構造を示す破線、R(ラウンド)線、陰影線などの不必要な線を削除する補正は、新規事項追加に該当しない。
・意匠に係る物品以外の物品を削除し、この物品の削除により露出した部分の意匠が、該当する分野の創作の常識から直接的、一義的に特定できるものであれば、この補正は新規事項追加に該当しない。

(3) 意匠の簡単な説明の補正
・意匠の簡単な説明の補正が新規事項追加に該当するかどうかは、図面に基づいて判断される。物品名、用途、創作要点、公報公告用指定図面、多意匠一出願の基本意匠、物品の透明な部分、意匠の構成単位の連続形態に関する説明、細長い物品の中間省略、物品が透明材料または特殊材料からなること、色彩請求、組物意匠に関する説明、部分意匠に関する説明などの内容は、図面に基づくものであれば、いくら追加・削除・変更しても、新規事項追加にならない。
・出願時に提出した図面から、意匠の簡単な説明に誤りがあると直接的、一義的に判断できれば、その誤りを訂正するための補正は新規事項追加にならない。

【留意事項】
 中国意匠出願における図面の取り扱いは、日本出願の場合と比べると厳しいので注意を要する。

 例えば、出願図面の正面図に表わされている一本の線が、左側面図において表わされていないような場合、その不一致が、日本の意匠法第3条第1項柱書における工業上利用できる意匠を構成しない程度のものであっても、図面が一致していることが求められる。その一本の線が必須の線(例えば明らかに稜線を示すもの)であれば、左側面図を正面図に一致させる方向での補正が求められ、その一本の線について出願人の選択に委ねられるものであるならば、補正を選択して不一致を解消することが求められる。

 図面の不一致が是正不能と判断され、補正却下されるケースが増加しつつあり、一方、その後の権利行使の際に発見された図面の不一致等の不備が登録の無効理由となることも予想されるため、中国意匠出願を行う際には、出願人の主張したい意匠的要部が正しく表現されているか否かも含め、出願図面の慎重な取扱いが必要である。

 なお、現在の運用では、意匠登録を受けようとする部分が、相対的に完全な構成単位(比較的完全なデザインユニット)であるか(勝手に決定された範囲ではないか)についての審査が厳しい(審査指南第1部第3章7.4(10))。そして、前述の「2.拒絶理由通知または補正指令への応答時の補正」にも述べたように、審査段階で意匠登録を受けようとする部分を変更する補正は認められないため、「相対的に完全な構成単位(比較的完全なデザインユニット)ではない」と判断された場合、意匠登録を受けようとする範囲を変更するような補正もできず、その結果、権利化できないというリスクがある。したがって、中国に部分意匠出願する場合、意匠登録を受けようとする部分が中国の実務要件を満たすかどうかなどについて、中国の現地事務所に確認すべきである。

■ソース
・中国専利法(2020年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2024年1月20日施行)
(中国語)https://www.cnipa.gov.cn/art/2023/12/21/art_98_189197.html
(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.11.15

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