アジア / 出願実務
中国におけるコンピュータソフトウェア発明およびビジネスモデル発明の特許性
2025年02月27日
■概要
2017年の専利審査指南の改正により、中国において、コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明については、その出願内容に技術的特徴が含まれていれば、必ずしも専利法第25条第1項第2号を根拠に特許性を否定されるとは限らず、特許性を有するか否かを個別に審査される。さらに、2023年の専利審査指南の改正によって、コンピュータプログラムにかかる特許のカテゴリが追加され、いわゆるコンピュータプログラム製品も権利付与の対象と規定された。また、人工知能、インターネットプラス(インターネット等の情報技術の既存分野への応用)、ビッグデータおよびブロックチェーンに関する審査について、特別な規定が定められた。■詳細及び留意点
中国専利法(以下「専利法」という。)および関連規定に基づき発明が特許性を有するか否かを判断するには、通常、専利法第2条(特許の保護を受けることができる発明の範囲に関する一般規定)、専利法第5条(法律・公益に反する発明、法律・行政法規に違反して遺伝資源を取得または利用して完成された発明については特許権を付与しないとする規定)、専利法第22条(特許権が付与される発明が具備すべき実体的要件に関する規定)および専利法第25条(知的活動の法則および方法等については特許権が付与されないとする規定)など複数の観点から判断する必要がある。
以下、コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明について、専利審査指南の改正を中心に解説する。
1. 2017年の専利審査指南改正
1-1. コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明の発明適格性
コンピュータソフトウェアに関する発明およびビジネスモデルに関する発明については、従来、発明の改良の対象が方法である場合、その発明の属する技術分野にかかわらず、いずれも専利法上の特許性の要件を満たさず(専利法第2条、第5条、第22条、第25条)、権利付与されないこととなっていた。しかし、2017年の専利審査指南の改正によって、2017年4月1日から新しい判断基準が採用され、実務に変化が生じた。
中国の審査官は、審査対象の特許出願が専利法の特許性に関する規定に適合するか否かを判断する際、まず発明について保護を求める内容が専利法の保護対象に該当するか否かを判断している。その判断基準は、以下の三つの要件である。
特許出願に記載されているものが、
(1) 技術的課題を解決するためのものであるか否か
(2) 技術的手段を採用しているか否か
(3) 技術的効果を奏するか否か
上記三つの要件を全て満たしていれば、他の観点から特許出願において保護を求めるものが特許性を有するか否かを判断する。ビジネスモデルに関する特許出願を例にとれば、従来の審査においては、上述の「三つの要件」についての検討と論理付けが主な着眼点とされ、「知的活動の法則および方法」に該当することを理由として拒絶されていた。しかし、専利法、専利審査指南などの法律や規則においては、従来からビジネスモデルの特許性を明確に排除することは規定されておらず、純粋な知的活動の法則および方法のみがその特許性を排除されているにすぎない。
専利審査指南第2部第1章4.2は、例えば、組織、生産、商業の実施および経済等の分野における管理の方法や制度、コンピュータ言語および計算法則、各種ゲーム・娯楽のルール・方法、統計、会計および記帳の方法、コンピュータプログラム自体などの、知的活動の法則および方法のみに関係する請求項については、特許権を付与してはならないと規定している。
その一方で、請求項で特定されている中に、知的活動の法則および方法の内容が含まれていても、技術的特徴が含まれるのであれば、当該請求項が全体として知的活動の法則および方法にはならないため、専利法第25条第1項第2号を根拠にして特許権を取得する可能性を排除してはならないとも規定されている。
したがって、ビジネスモデルに関する特許出願については、次のように2種類に分けることができる。一つは、完全に自然人の行為によって実現されるビジネスモデル(すなわち、純粋なビジネスモデルに基づく特許出願)であり、もう一つは、コンピュータ、ネットワークなどの自動化手段を利用して実施されるビジネスモデル(すなわち、ビジネスモデル関連の特許出願)であるが、前者は、専利法第25条第1項第2号により特許性が否定されるべきだが、後者については、特許性を有するか否かは個別に判断されるべきである。
1-2. ビジネスモデルに関する特許出願の審査規定
2017年の専利審査指南の改正に伴って、国務院専利行政部門は、ビジネスモデルにかかる特許出願について審査を行う際の判断基準を改めた。特許の保護対象の判断については、技術的手段が採用されているか否かを重点的に考察するものとし、技術的手段が採用されていれば、技術の属性の要件を満たすものとされる。
専利審査指南第2部第1章2には、「技術的解決手段とは、解決しようとする技術的課題について採用する自然法則を利用した技術的手段の集合である。技術的手段は、通常、技術的特徴によって表される」と規定されているため、請求項中に技術的特徴が含まれていれば、技術的手段が採用されていることになる。この意味で、知的活動の法則および方法の内容が含まれるビジネスモデルに関する出願の内容に技術的特徴が含まれていれば、全体としては単なるビジネスモデルの特許出願にはあたらないため、専利法第2条第2項の規定に違反することを理由として特許性が否定されてはならないことになる。
逆に、ビジネスモデルに関する出願に何らの技術的手段も含まれていなければ、単なるビジネスモデルの特許出願にあたるため、特許の保護対象に該当せず、専利法第25条第1項第2号に規定する知的活動の法則および方法の範疇に該当し、また、技術的解決手段の要件(専利法第2条第2項)も満たさない。
1-3. コンピュータプログラムに関する特許出願の審査規定
ビジネスモデルに関する特許出願だけでなく、コンピュータプログラムに関する特許出願も類似した問題に直面する。2017年の改正前の専利審査指南第2部第9章2には、コンピュータプログラムに関する特許出願の審査基準が規定されており、当該特許出願がコンピュータプログラム自体のみに関係するか、または担持体(記録媒体)に記録しただけのコンピュータプログラムであれば、形態を問わず、すべて知的活動の法則に該当するとされていると規定されていた。しかし、2017年の専利審査指南の改正により、上記規定は、「当該特許出願がコンピュータプログラム自体のみに関係するか、または記録媒体に記録しただけのコンピュータプログラムそのものであれば、知的活動の法則または方法に該当する」※と従来の規定が改められた。
※ 2023年の専利審査指南の改正によってこの部分は削除された。しかし、実務上の変更はなく、改正の経緯を示すために当該規定を示した。
この改正の趣旨は、コンピュータプログラム自体、すなわち、コンピュータプログラムを表すコード、例えば、コンピュータ言語で記述されているソースコードまたはオブジェクトコードは、専利法の保護対象から排除される一方、コンピュータプログラムによって反映された技術思想は、知的活動の法則または方法に該当せず、専利法による保護を受けられるということである。さらに、2017年の専利審査指南の改正に伴って、審査実務において、記録媒体に記録されているコンピュータプログラムも、専利法によって保護を受けられると改められ、現在これに沿って審査実務が行われている。
すなわち、コンピュータプログラムに関する特許出願に技術的特徴が含まれていて技術的解決手段を構成する場合は、専利法の保護対象となる。コンピュータプログラムに関する特許出願が技術的課題を解決するためのもので、コンピュータで当該コンピュータプログラムを実行することにより外部または内部の装置等を制御または処理することに反映されているものが自然法則に従う技術的手段で、かつ、これによって自然法則に適合する技術的効果を得ているのであれば、当該特許出願がコンピュータプログラムに関係していることだけを理由にその特許性を否定してはならない。
2. 2023年の専利審査指南改正
2-1. コンピュータプログラムに関する発明の拡充
さらに、2023年の専利審査指南の改正により、コンピュータプログラムにかかる特許のカテゴリが追加され、専利審査指南第2部第9章5.2では、いわゆるコンピュータプログラム製品も権利付与の対象と規定している。また、改正された専利審査指南には、コンピュータプログラム製品を「主にコンピュータプログラムによりそのソリューションを実現させるソフトウェア製品として理解すべきである」と定義付けている。
この改正によって、コンピュータプログラムにかかる特許出願の請求項に、従来の方法、装置と記憶媒体の3つのカテゴリに加え、さらにコンピュータプログラム製品という新しいカテゴリを記載して権利取得をはかることができる。
なお、コンピュータプログラム製品のカテゴリの追加に関して、国務院専利行政部門は、インターネット技術の発展に伴い、益々大量のコンピュータソフトウェアが、従来の光ディスクや磁気ディスクなどといった有形記録媒体に依存せず、インターネットなど通信回線を介して信号の形で伝送、配信、ダウンロードを行うようになってきた状況において、コンピュータプログラムにかかる取引の実情に対応して権利保護の強化をはかるためと解説している。
2-2. アルゴリズムの特徴、またはビジネスルールおよび方法的特徴を含む発明に関する特許出願の審査規定
さらに、2023年の改正によって専利審査指南第2部第9章に、「アルゴリズムの特徴又はビジネスルール及び方法的特徴を含む発明専利出願の審査関連規定」と題する第6節が追加された。この節において、人口知能、インターネットプラス、ビッグデータおよびブロックチェーンなどに関する特許出願には、通常アルゴリズムまたはビジネスルールと方法など知的活動の法則と方法の特徴を含むため、これらの出願の審査について特別な規定を定めると記している。以下に具体的な規定の概要を紹介する。
審査の原則として、請求項によって限定されたソリューションを対象とし、技術的特徴とアルゴリズムまたはビジネスルールと方法的特徴を分けて審査すべきではなく、請求項に記載のすべて内容を一体として、それにかかる技術手段、解決しようとする技術課題および得られる技術効果について解析すべきである(専利審査指南第2部第9章6.1)。
そして、請求項にアルゴリズムおよびビジネスルールと方法的特徴以外に技術的特徴も含まれている場合、当該請求項全体として知的活動の法則と方法に該当せず、専利法第25条第1項第2号によって特許を受ける権利を排除してはならないと規定している(専利審査指南第2部第9章6.1.1)。さらに、請求項に記載の発明が、技術問題を解決するために自然法則を利用する技術手段を採用し、技術効果を得ることができれば、請求項によって限定されたソリューションは専利法第2条第2項に規定の技術的解決手段に該当すると規定している(専利審査指南第2部9章6.1.2)。
アルゴリズムおよびビジネスルールと方法的特徴を含む発明について、新規性と進歩性審査において、請求項に記載されたすべての特徴、即ち、技術的特徴とアルゴリズムの特徴およびビジネスルールと方法的特徴をすべて考慮して審査すべきであると規定している(専利審査指南第2部第9章6.1.3)。特に進歩性の審査において、技術的特徴と相互に支え合い、相互作用をするアルゴリズムの特徴またはビジネスルールと方法的特徴を当該技術的特徴と一つのものとして全体的に考慮すべきであり、アルゴリズムの特徴の技術的解決手段への貢献も考慮すべきである。
また、ここで注意すべきなのは、進歩性の審査において、発明の解決手段がユーザ体験の改善をもたらし、かつユーザ体験の改善が、技術的特徴によってもたらされたか、あるいは技術的特徴とアルゴリズムの特徴、またはビジネスルールと方法的特徴の共同によりもたらされた場合には、ユーザ体験の改善は進歩性の審査において考慮されるべきである。
3. まとめ
上述の通り、2017年に行われた専利審査指南の改正は、出願人の要望を反映し、出願および審査実務に即した形で行われた。これまでに審査の実務で時折物議をかもしたビジネスモデルおよびコンピュータプログラムに関する特許出願の審査基準をより明確に規定し、出願および審査の実情に即し、技術の進歩に寄与できるよう審査基準を改定した。さらにその後行われた専利法第4次改正に伴う2023年の専利審査指南の改正により、コンピュータプログラム製品という新しいカテゴリが追加され、コンピュータプログラムに対する保護を強化するとともに、アルゴリズムの特徴またはビジネスルールと方法的特徴を含む出願の審査に関する規定も新たに盛り込まれた。これによって、人工知能、インターネットプラス、ビッグデータおよびブロックチェーンなどに関わるいわゆるビジネスモデル関連の特許出願の審査基準を明確化し、近年関連技術の進歩に伴う出願の増加傾向に対応している。
新しい専利審査指南の施行に伴う発明の保護対象についての審査基準の緩和により、中国の特許審査の実務において、専利法第22条および第25条第1項第2号に基づく拒絶理由の適用の機会が少なくなり、技術的手段を含み知的活動の法則にも関係する特許出願に対しても、先行技術文献を用いて新規性、進歩性を判断する審査がなされるように変化している。このような審査実務の変化によって、出願人には、審査対象技術が従来技術に対して実質的に顕著な進歩があるか否かについて、より十分な意思表示と釈明の機会が与えられる。これにより、技術の発展に寄与する専利法の立法趣旨に則した審査が促進され、優れた発明に適切な保護を与えられると期待される。
■ソース
・中国専利法(2020年改正)(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
■本文書の作成者
北京三友知識産権代理有限公司■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.11.11