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マレーシアにおける優先権主張を伴う特許出願

2025年02月25日

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■概要
マレーシアにおける特許出願において優先権を主張する場合、出願時の願書において、優先権を主張する旨を宣誓する必要がある。基礎出願の出願書類の謄本は必ずしも出願時に提出する必要はないが、登録官から提出を求められた日から3か月以内に提出しなければならない。優先権主張の期間は基礎出願から12か月以内であり、部分優先や複数優先も認められる。2022年の特許法の改正で、優先権主張の期間が満了した後であっても、一定の要件の下に優先権主張の回復請求が可能となった。
■詳細及び留意点

(1) 優先権主張の方法
 マレーシアにおいて優先権主張を伴う特許出願を行う出願人は、特許出願の願書(「1983年特許法および1986年特許規則指令」:特許様式1)において、優先権を主張する旨を申立てなければならない(マレーシア特許法(以下「特許法」という。)第27条(1))。

 そのため、願書の「VII. 優先権主張」の欄において、優先権主張の基礎出願に関する情報、具体的には、出願番号、出願年月日、出願国名(基礎出願が地域出願・国際出願であった場合は、基礎出願に関して指定された国名および基礎出願が提出された官庁の名称。)、国際特許分類記号を記載する。複数の基礎出願について優先権を主張する場合、各基礎出願に関する情報を記載する(マレーシア特許規則(以下「特許規則」という。)21(1)、「1983年特許法および1986年特許規則指令」:特許様式1)。

 基礎になる出願の認証された謄本は、必ずしも願書提出時に添付する必要はないが、登録官による要求の日から3か月以内に提出しなければならない(特許規則22(1))。

 基礎出願がマレー語または英語以外で作成されている場合、登録官は出願人に対して当該基礎出願のマレー語または英語による翻訳文の提出を求めることができる。翻訳文は、この要求の日から3か月以内に提出しなければならない(特許規則22(3))。

 認証謄本が他の優先権主張出願において既に提出され、これと同じ優先権主張をして新たに特許出願を行う場合は、優先権証明書は再提出する必要はなく、過去に行った特許の出願番号等を願書に記載して援用すれば足りる(特許規則22(2))。

 認証謄本や翻訳文に不備があった場合については、3か月の期間内に補正するよう求められる。この求めに従わなければ、優先権主張が認められないこととなる(特許規則23)。

 なお、優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致していない場合には、特許を受ける権利が譲渡されたことを証する書面を提出しなければならない(特許規則10の解釈による。)。

特許規則10 出願人の特許を受ける権利
(1) 出願人が発明者である場合は、願書においてその事実を述べなければならない。
(2) 出願人が発明者でない場合は、出願人が当該特許を受ける権利を有することを正当化する旨の陳述書を添付しなければならない。
((3)省略)

 マレーシアにおいて優先権を主張する場合、出願費用と別に優先権主張の費用をマレーシア知的財産公社に納付する必要はない。

(2) 優先権主張の期間
 マレーシアでは、優先権主張は、基礎になる出願日から12か月以内に行う必要がある(特許法第27条(1))。この期間は延長することができない(特許法第27条(1A))。

 しかし、2022年3月18日に施行された改正特許法により、意図的ではなかったことを理由に上記期間の満了後に優先権の回復を請求することが可能となった(特許法第27条(1B))。優先権の回復請求の期限は、パリ条約に基づく直接出願では、優先期間の満了から2か月である(特許規則23A(1))。また、PCT国際出願に基づいて国内段階に移行する出願にあっては、国際出願日が優先期間の満了日から2か月以内であり、かつ、回復請求が下記のいずれかの日以前になされる必要がある(特許規則23A(2))。
 ・国際出願の優先日から30箇月の期間が経過した日から1か月
 ・審査請求から1か月

(3) 部分優先と複数優先
 マレーシアにおいても、優先権主張に際し、部分優先や複数優先が認められる(パリ条約第4条F、特許法第27条(3)、特許規則21(4))。

 部分優先とは、基礎になる出願に新たな内容を追加して出願することであり、基礎になる出願に含まれていた部分については基礎になる出願の出願日が優先日となり、追加した内容について優先日は認められない。

 複数優先とは、基礎になる複数の出願をまとめて優先権を主張することである。このとき、基礎になる複数の出願の双方に記載されている内容は早い方の出願日が優先日となるが、一方にしか記載されていない内容は各基礎出願の出願日が優先日となる。

【留意事項】
 優先権主張を伴う出願は、新規性・進歩性等の基準時が実際の出願日より早い優先日となる点で出願人に有利であり、大いに利用したいところである。さらに、改良発明を出願に加えたい場合や複数の出願を1つにまとめたい場合には、部分優先や複数優先の利用も検討に値する。

■ソース
・マレーシア特許法(2022年Act1649までの統合版)
(英語)https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/22647
・マレーシア特許法(2006年Act1264までの統合版)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/malaysia-tokkyo.pdf
・マレーシア特許規則(2022年PU(A)68により改正)
(英語)https://www.myipo.gov.my/wp-content/uploads/2022/03/PERATURAN-PERATURAN-PATEN-PINDAAN-2022.pdf
 ※ 66頁以降に改正部分についての説明が英語で掲載されている。
・マレーシア特許規則(2011年PU(A)48までの統合版)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/malaysia-tokkyo_kisoku.pdf
・1983年特許法および1986年特許規則指令:特許様式1(特許出願願書フォーマット)
(英語)https://www.myipo.gov.my/wp-content/uploads/2022/03/DIRECTIVE-OF-PATENTS-ACT-1983-AND-PATENTS-REGULATIONS-1981-17.03.2022.pdf
・パリ条約
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/chap1.html
■本文書の作成者
辻本法律特許事務所
■協力
Fabrice Mattei, Rouse
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.11.01

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