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中国における外国語証拠・参考資料の提出
2025年01月23日
■概要
中国における特許出願の実体審査請求時や情報提供時に提出する参考資料、無効審判請求時に提出する証拠等は、中国語以外の言語のものも認められている。実体審査請求時や情報提供時に提出する外国語参考資料については、関連部分または全文の中国語訳を提出するか否かは出願人の自由裁量に委ねられているが、無効審判請求時に提出する外国語証拠については、中国語訳を提出しなければ、その外国語証拠は提出しなかったものとみなされる。従来は、無効審判手続で提出する中国域外で作成された証拠は、一律に当該国の公証および認証が必要とされていたが、2023年の専利審査指南の改正によって、当該国の公証(またはこれに代わる条約に規定された証明手続の履行)のみでよいとされた。さらに所定の条件を満たす場合は、当該国の公証や条約に規定された証明手続の履行も不要とされた。■詳細及び留意点
1. 審査請求時に提出する参考資料
特許(中国語「发明专利」)の出願人は、実体審査(中国語「实质审查」)を請求する際、その発明に関係する出願日前の参考資料を提出しなければならない(中国専利法(以下「専利法」という。)第36条第1項)。また、特許が既に外国で出願されており、審査官から、その国が当該出願の審査のために行った検索または審査結果の参考資料の提出を求められた場合には、出願人は指定期間内にその審査結果の参考資料を提出しなければならない。正当な理由なく提出しない場合、当該出願は取下げられたものとみなされる(専利法第36条第2項)。なお、正当な理由がある場合には、その旨を国務院専利行政部門へ申し出、関係資料を入手した後に追加で提出する必要がある(専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第55条)。
実務では、提出する参考資料等については、外国語資料も認められている。外国語資料の中国語訳の提出は出願人の自由裁量に委ねられているが、審査官に外国語資料の内容をより理解しやすいよう、英語以外の外国語(日本語、韓国語、ドイツ語など)資料については、関連部分または全文の中国語訳を提出した方がよい。
2. 情報提供(中国語「提公众意见」)時に提出する先行文献、参考資料
出願公開日から公告日までの間に、特許出願に対して情報提供する際(実施細則第54条)、外国語の公報や刊行物等を先行技術文献として提出することも可能であるが、この場合も、上記第1項と同様、審査官が提出された文献の内容をより理解しやすいよう、英語以外の外国語(日本語、韓国語、ドイツ語など)文献については、関連部分または全文の中国語訳を提出した方がよい。
3. 無効審判請求(中国語「无效宣告请求」)時に提出する証拠、参考資料
中国では、登録された特許、実用新案、意匠に対して無効審判請求を行う際、外国語証拠(特許公報、刊行物、雑誌、カタログなど)を提出することが認められているが、提出された外国語証拠について、立証期間内(無効請求人の場合:無効審判請求日より1か月以内、被請求人の場合:無効審判請求された旨の通知を受け取った日より1か月以内)にその外国語証拠の全文または部分的な中国語訳を提出しなければならない。立証期間内に中国語訳を提出しない場合には、当該外国語証拠は提出していないものとみなされる(実施細則第3条第2項、審査指南第4部第3章3.8(3)、4.3、第8章2.2.1)。
部分訳を提出する場合、当該外国語証拠における中国語に訳されていない部分は、証拠として採用されない。ただし、当事者が合議体の要求に応じて当該外国語の証拠のその他の部分の中国語訳文を後から提出する場合は除く(審査指南第4部第8章2.2.1)。
外国語証拠の中国語訳に異議がある場合、指定期間内(1か月)にその外国語証拠の中国語訳を提出する必要がある。当事者双方が互いに相手方の外国語証拠の中国語訳に異議がある場合、復審・無効審理部(中国語「复审和无效审理部」)は、翻訳機関を指定し、改めてその外国語証拠の中国語訳を依頼することができる。翻訳費用は当事者双方が折半して負担し、翻訳機構の指定や費用の納付を拒否する場合、相手側が提供した翻訳文に異議がないとみなされる(審査指南第4部第3章4.4.1、第8章2.2.1)。
外国語証拠(例えば、刊行物、雑誌、カタログ等)であって、その外国語証拠が中国以外の国、地域(香港、マカオ、台湾も含む)で形成されたものである場合には、従来は、証拠形成地の国の機関による公証とその国の中国領事館による認証が必要とされていたが、2023年の審査指南の改正によって、当該国の公証機関による証明または中国と当該所在国で締結した関連条約に規定された証明手続を履行したものでよいとされ、認証は不要となった(審査指南第4部第8章2.2.2)。
さらに、2023年の審査指南の改正によって、以下の場合には当該国の公証機関による証明または中国と当該所在国で締結した関連条約に規定された証明手続の履行も不要となった。
(1) 当該証拠は、香港・マカオ・台湾地区以外の中国国内における公式ルートから取得できる場合、例えば、国務院専利行政部門から取得できる外国の専利書類、または公共図書館から取得できる外国の文献資料など。
(2) 相手側当事者が当該証拠の真実性を認可する場合。
(3) 当該証拠がすでに効力発生しており、人民法院の裁判、行政機関の決定または仲裁機構の裁判によって判断される場合。
(4) 当該証拠の真実性を証明するに足るその他証拠がある場合。
4. 留意事項
審査請求時に提出する参考資料に関する専利法第36条の規定は、アメリカのIDS情報開示義務に類似する規定であるが、実務上、アメリカのように厳しく要求されていない。明細書に従来技術がすでに記載されているため、審査請求時に出願日前の明細書に記載されていない他の参考資料を改めて提出する必要はなく、対応外国出願の審査に関連する資料の提出については、審査官に資料の提出が求められた場合にのみ提出すれば足りる。
無効審判請求に用いる外国語証拠については、上記第3項で述べた立証期間内に中国語訳を提出しなければならないことに留意すべきである。また、無効審判の当事者双方は、互いに証拠調べ、翻訳文のチェックを行うため、外国語証拠の中国語訳は原文の意味通りに正しく翻訳されている必要がある。
無効審判請求に用いる外国語証拠の数が多い場合、翻訳費用を考慮して、全文翻訳に限らず、部分翻訳で対応することも可能である。ただしこの場合、翻訳されていない部分の内容は証拠能力がなくなるため、翻訳要否の判断は、慎重に検討するべきである。
■ソース
・中国専利法(2020年改正)(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.09.10