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中国における意匠の優先権主張について

2024年12月26日

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■概要
中国における意匠の優先権主張について、2021年6月1日に施行された第4回改正専利法の第29条第2項に規定が追加され、国内優先権の主張が可能となった。具体的には、「出願人は発明または実用新案を中国で最初に専利出願した日から12か月以内に、または意匠を中国で最初に意匠出願した日から6か月以内に国務院専利行政部門に同一の主題について専利出願するときは、優先権を享受することができる。」と定められている。中国では、第4次改正で新たな専利法が施行され、2024年1月20日より同専利法に適合した新たな専利法実施細則(以下「実施細則」という。)および専利審査指南(以下「審査指南」という。)が施行された。本稿では、これら最新の専利法、実施細則および審査指南に基づき、中国意匠出願の優先権主張に関する制度および手続を説明する。
■詳細及び留意点

1. 意匠の優先権主張(中国語「要求优先权」)の手続
1-1. 外国優先権
(1) 外国優先権について、出願人は、意匠を外国で最初に出願した日から6か月以内に、中国で同一の主題について意匠出願するときは、その外国と中国が締結した協定、共に加盟している国際条約、または優先権の相互承認原則に基づき、優先権を享受することができる(専利法第29条第1項)。外国特許出願および実用新案出願も、外国で初めて出願した日から6か月以内に、外国優先権を主張して中国に意匠出願をする際の基礎出願とすることができる(審査指南第1部第3章5.2.1.1)。

(2) 出願人が意匠の外国優先権を主張するときは、出願時にその旨の書面を提出し、後の出願から3か月以内に最初の出願時の出願書類の謄本を提出しなければならない。その旨の書面を提出しないか、または期間内に出願書類の謄本を提出しないときは、優先権を主張していないものとみなされる(専利法第30条第2項、第3項)。

(3) 外国優先権を主張する場合、出願人が提出する基礎出願の出願書類の謄本について、基礎出願の受理機関による証明を受けなければならない。国務院専利行政部門と受理機関とが締結した取り決めに従い、国務院専利行政部門が電子交換などの方法により基礎出願の出願書類の謄本を入手したときは、出願人は受理機関が証明した基礎出願の出願書類の謄本を提出したものとみなす(実施細則第34条第1項)。
 なお、中国では、意匠出願について、デジタルアクセスサービス(DAS)の利用が認められる。

(4) 外国優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致しない場合、中国出願に係る出願人が基礎出願の優先権の承継人であることを証するための証明資料(優先権譲渡証明書(中国語「优先权转让证明」)を提出しなければならない(審査指南第1部第3章5.2.1.4)。

(5) 出願人は、1つの意匠出願において、複数の外国優先権を主張することができる。複数の優先権を主張する場合、当該意匠出願の期限は、最も早い優先日から起算する(実施細則第35条第1項、審査指南第4部第5章9.5)。

(6) 外国優先権を主張する中国出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)に、出願費の納付と同時に優先権主張の費用を納付しなければならない(実施細則第112条第2項、審査指南第1部第1章6.2.5、第1部第3章5.2.4)。

1-2. 国内優先権
(1) 中国国内出願からの優先権について、出願人は、中国で最初に意匠出願した日から6か月以内に国務院専利行政部門に同一の主題について意匠出願するときは、国内優先権を享受することができる(専利法第29条第2項)。なお、2023年の実施細則の改正で、基礎出願が意匠出願の場合だけでなく、特許または実用新案の出願である場合も、図面に示された意匠と同一の主題について、中国で最初に出願した日から6か月以内に、国内優先権を主張して意匠出願できることが規定された(実施細則第35条第2項)。
 出願人が国内優先権を主張する場合、その先願は後願が提出された日から取り下げられたものとみなされる。ただし、意匠の出願人が特許または実用新案出願を基礎として優先権主張している場合は除く(実施細則第35条第3項)。

(2) 国内優先権を主張する場合、出願人が願書に基礎出願の出願日および出願番号を明記するときは、基礎出願の出願書類の謄本を提出したものとみなされる(実施細則第34条第1項)。

(3) 国内優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致しない場合、中国出願に係る出願人が基礎出願の優先権の承継人であることを立証するための証明資料(優先権譲渡証明書)を提出しなければならない(審査指南第1部第3章5.2.2.4)。

(4) 出願人は1つの意匠出願において、複数の国内優先権を主張することができる。複数の優先権を主張する場合、当該意匠出願の期限は、最も早い優先日から起算する(実施細則第35条第1項、審査指南第4部第5章9.5)。

(5) 国内優先権を主張する出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)に、出願費の納付と同時に優先権主張の費用を納付しなければならない(実施細則第112条第2項、審査指南第1部第3章5.2.4、第1部第1章6.2.5)。

2. 意匠の優先権主張成立の要件
 (審査指南第4部第5章9.1)

2-1. 外国優先権
(1) 意匠の同一主題の認定は、後願意匠とその最初の外国出願に示した内容に基づいて判断する。同一主題に該当する意匠は以下の二つの条件を同時に満たさなければならない(審査指南第4部第5章9.2)。

 (a) 同一製品における意匠に該当すること。
 (b) 後願で保護を求める意匠が、その最初の出願に明確に示されていること。

 例えば、最初の外国出願に斜視図、正面図、背面図、左側面図のみがあり、後願に平面図と右側面図を追加した場合、後願の正面図、背面図、左側面図および斜視図が最初の外国出願のものと同一であり、かつ平面図および右側面図の形態が最初の外国出願の斜視図に明瞭に表れているのであれば、優先権主張は成立する(審査指南第4部第5章9.2)。

 また、最初の外国出願において、意匠の簡単な説明(中国語「简要说明」)を備えていない場合でも、実施細則第31条の規定に則して提出した意匠の簡単な説明*が、基礎出願書類における図面または写真に示される範囲を超えていなければ、優先権の主張には影響しない(実施細則第34条第4項)。

* 実施細則第31条
 意匠の簡単な説明において、意匠物品の名称、用途および意匠の設計要点を明記し、かつ設計要点が最も明瞭に示されている図面または写真を一枚指定しなければならない。正投影図を省略するまたは色の保護を求める場合は、簡単な説明にその旨を明記しなければならない。
 同一の物品における複数の類似意匠を一つの意匠専利として出願する場合、簡単な説明の中で、そのうちの一つを基本設計に指定しなければならない。

(2) 2021年6月1日以前は、外国基礎意匠出願が部分意匠であったとしても、中国出願時に当該部分意匠の点線を実線に変更して全体意匠として出願する場合には、優先権を主張できると認めていた。2021年6月1日より、中国では、部分意匠制度が導入されたが、全体意匠の出願に基づいて優先権を主張して部分意匠の出願をする場合、あるいは、部分意匠の出願に基づいて優先権を主張して全体意匠の出願をする場合、このような優先権を享有できるかどうかという点について、最新の実施細則および審査指南に明確な規定はない。しかし、実務では、全体意匠の出願に基づいた部分意匠の出願における優先権の主張、部分意匠の出願に基づいた全体意匠の出願における優先権の主張、同一の全体物品のうちの一部に係る部分意匠の出願に基づいた別の部分に係る部分意匠の出願における優先権の主張、が許されている。また、意匠の優先権主張成立の要件の同一主題の判断においても、先願と後願の保護範囲が完全に一致することは要求されておらず、後願で保護を求める意匠が、先願において明確に表示されていることが求められている。例えば、先願において破線で表示されていた部分が、後願で実線に変更された場合でも、実務上、意匠の内容に実質的な変更がなく、線の形式的な変更に過ぎないと捉えられ、後願と先願が同一主題に属すると通常見なされ、優先権主張は認められる。

(3) 実務上、中国出願と最初の外国出願の意匠の物品名は、完全に同一でなくてもよい。例えば、基礎出願が自動車用タイヤである場合、中国出願時に「タイヤ」としてもよい。また、最初の外国出願の意匠がタイヤトレッドの部分意匠である場合、中国出願時に点線を実線に変更してタイヤ全体の意匠として出願し、これに合わせて「タイヤトレッド」という物品の名称を、「タイヤ」という名称に変更することができる。

(4) また、実務上、中国出願と最初の外国出願との図面は、異なる製図方法により作成したものであってもよいが、表現する意匠は同一でなければならない。

2-2. 国内優先権
 意匠の国内優先権主張の成立の要件については明確な規定はないが、基本的には外国優先権についてと同じであり、上記第2項の「2-1. 外国優先権」の内容が、国内優先権主張の成立の要件となる。

■ソース
・中国専利法(2020年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.09.17

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