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中国における外国優先権を主張する権利の回復請求

2024年12月26日

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■概要
外国で出願した発明等について、外国での最初の出願日から起算される所定期間内に中国で特許出願または実用新案出願をする場合、その外国が中国と締結した協定または共同で加盟している国際条約に、もしくは優先権を相互に認める原則に準拠して、出願人は優先権(外国優先権)を享受することができる。優先権主張は、専利法第29条、第30条、専利法実施細則第34条から第37条、専利審査指南の関連規定、およびパリ条約の関連規定に合致していなければならず、審査の結果、規定に合致していないと判断された場合には優先権を主張していないものとみなされる。しかし、優先権を主張していないとみなされた場合でも、所定の要件を満たせば、優先権主張の回復を請求することができる。本稿は、2023年の専利法実施細則の改正によって、新たに設けられた優先権主張の回復に関する規定を踏まえて、特許および実用新案について解説する。
■詳細及び留意点

1. パリ条約による優先権を主張した中国への直接出願
1-1. 優先権を主張していないものとみなされる場合
 優先権主張の回復請求に先立って、手続の不備等により優先権を主張していないものとみなされる場合は、以下のとおりである。

(a) 優先権を主張する中国出願を、基礎出願の出願日から所定の期間(優先期間)内に行わなかった場合(専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.2、6.2.1.1)
 優先期間は、基礎出願の出願日から12か月以内である。ただし、基礎出願が2件以上ある場合、最も早い出願日から起算される。

(b) 願書において優先権主張の声明をしなかった場合(審査指南第1部第1章6.2.1.2)
 優先権を主張する場合、出願人は願書の提出と同時にその願書において優先権主張の声明をしなければならない。願書で優先権主張の声明をしていない場合は、優先権を主張していないものとみなされる。

(c) 願書における優先権主張の声明において、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称の記載に不備がある場合(審査指南第1部第1章6.2.1.2)
 基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち、1つまたは2つの内容が明記されていないかまたは正しく記載されており、所定の期限までに、基礎出願の出願書類の謄本(以下「優先権証明書」という。)が提出されている場合、審査官により、手続補正通知書(中国語「手续补正通知」)が発行され、出願人はこれを受けて補正することができる。補正しても規定事項に合致しない場合や、指定された期間内に手続補正通知書へ応答しない場合には、優先権を主張していないものとみなされる。

(d) 優先権証明書を提出期限までに提出しない場合(審査指南第1部第1章6.2.1.3)
 提出期限は、基礎出願の出願日(複数の優先権を主張する場合はその中で一番早い出願日)から16か月である。なお、複数の優先権を主張する場合は、すべての優先権証明書を提出期限までに提出しなければならない。この期限までに優先権証明書類を提出しなければ、優先権を主張していないものとみなされる。

(e) 優先権を主張する中国出願の出願人と優先権証明書に記載されている出願人が一致しない場合(審査指南第1部第1章6.2.1.4)
 優先権を主張する中国出願の出願人が、優先権証明書に記載されている出願人と完全に一致しなければ(優先権証書に記載されている出願人に中国出願のすべての出願人を含む場合を除く)、優先権譲渡証書類(中国語「优先权转让证明文件」)を提出する必要がある。所定の期限内(優先権証明書と同様)に優先権譲渡証明書類を提出しなければ、優先権を主張していないものとみなされる。

(f) 優先権主張費を期限までに納付しなかったか、または納付額が不足していた場合(実施細則第112条、審査指南第1部第1章6.2.5)。
 納付期限は、優先権を主張した中国出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)である。納付期限までに納付しなかったか、または納付額が不足していた場合には、優先権を主張していないものとみなされる。

1-2. 実施細則第6条(一般規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
 以下のいずれかの理由により、優先権を主張していないものとみなされた場合、所定の期限までに優先権主張の回復を請求することができる(実施細則第6条、審査指南第1部第1章6.2.6.1)。

(a) 指定期間内に、審査官によって発行された手続補正通知書に応答していない。

(b) 優先権主張の声明に、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち少なくとも一つが正しく記載されているが、所定の期限までに優先権証明書または優先権譲渡証明書を提出していない。

(c) 優先権主張の声明に、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち少なくとも一つが正しく記載されているが、所定の期限までに優先権主張費を納付していないか、または納付額が不足している。

 (a)から(c)の理由以外によって、優先権を主張していないものとみなされた場合は、優先権主張を回復することはできない。

(2) 優先権主張の回復請求の手続
 国務院専利行政部門より、優先権を主張していないものとみなされる通知書を受領した日から2か月以内に請求の手続をしなければならない(実施細則第6条第2項)。

 権利回復請求書(場合によっては、正当な理由の証明資料を添付する必要がある)を提出して理由を説明するとともに、権利回復請求費を納付しなければならない(実施細則第6条第3項)。権利回復請求費(中国語「恢复权利请求费」)は、CNY1,000である(専利および集積回路設計に関する支払手続ガイド 付録2)。同時に、優先権を主張する権利を失った原因を解消するために、関係手続を行う(例えば、期限までに提出していない優先権証明書や優先権譲渡証書を補充提出する)。

1-3. 実施細則第36条(特別規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
 2023年の実施細則の改正によって第36条が新設され、出願人が優先期間を徒過して出願した場合であっても、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することが可能となった。
 基礎出願の出願日から12か月の期間が満了した後に後続出願を提出した場合、出願人は期間の満了日から2か月以内であれば優先権の回復を請求することができるが、その請求の手続は国務院専利行政部門が公開準備を行う前でなければならない(審査指南第1部第1章6.2.6.2)。

(2) 優先権主張の回復請求の手続
 優先権回復の請求書を提出し、理由を説明して、権利回復請求費、優先権主張費を納付しなければならない。同時に必要な手続(例えば、優先権証明書や優先権譲渡証明書類の提出)を行う。規定に合致する場合、優先権は回復し、審査官は権利回復請求審査および認可通知書を発行する。規定に合致しない場合、審査官は権利回復請求審査および認可通知書を発行し、かつ回復しない理由を説明する(審査指南第1部第1章6.2.6.2)。

2. PCTルートによる中国出願
2-1. 優先権を主張していないものとみなされる場合
 PCTルートによる中国出願における手続の不備等により優先権を主張していないものとみなされる場合は、以下のとおりである。

(a) 出願人が国際段階において基礎出願の出願番号を明記しておらず、かつ、中国国内段階に移行する際の優先権主張の声明にも記載されていない場合、審査官は手続補正通知書を発行する。指定期間以内に手続補正通知書へ応答しない場合、または応答しても規定事項に合致しない場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.1)。

(b) 国際出願の国際調査報告書において引用文献があれば、審査官はWIPO国際事務局に優先権証明書の転送を請求する。WIPO国際事務局より優先権証明書が提出されていないという通知を受取ると、出願人に優先権証明書の補充提出に係る手続補正通知書を発行する。出願人が、指定期間内に優先権証明書を提出していない場合、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第127条第3項、審査指南第3部第1章5.2.2)。

(c) 審査官は、優先権証明書の内容に基づいて、優先権主張の声明における各項目の内容を審査する。基礎出願の出願日、出願番号および受理機関の名称のうち、1つまたは2つの内容が一致しない場合、審査官は、手続補正通知書を発行する。期限内に応答がないか、あるいは補正後でも規定に合致しない場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.3.1)。

(d) 国際出願の出願人が、優先権主張にかかる先行出願の出願人と一致しない場合、審査官は、国際公開文書の中で基礎出願の優先権を主張する権利を有する旨の声明がなされているか否かを確認する。声明があり、かつ声明が信用できる真実なものと判断される場合を除き、審査官は、出願人に証明書類の提出または補正を要求する。期限内に応答がないか、または補正後も規定に合致しない場合、審査官は優先権を主張していないものとみなす(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。

(e) 優先権主張費を移行日から2か月以内に納付しなかったか、または納付額が不足した場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.4)。

2-2. 実施細則第6条(一般規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
 以下のいずれかの理由により、優先権を主張していないものとみなされた場合、所定の期限までに優先権主張の回復を請求することができる(実施細則第6条、審査指南第3部第1章5.2.5.2)。

(a) 出願人が国際段階で基礎出願の出願番号を明記しておらず、中国国内段階に移行する際の移行声明にも基礎出願の出願番号を明記していない。

(b) 優先権主張の声明は規定事項に合致しているが、指定期間以内に優先権証明書、または優先権譲渡証書を提出していない。

(c) 優先権主張の声明において、基礎出願の出願日、出願番号、受理官庁の名称のうち、1つまたは2つが優先権証明書の記載と一致していない。

(d) 優先権主張の声明の記載は規定に合致しているが、所定の期限までに優先権主張費を納付していないか、または納付額が不足している。

 (a)から(d)の理由以外によって、優先権を主張していないものとみなされた場合は、優先権主張を回復することはできない。

(2) 優先権主張の回復請求の手続
 上記1-2.(2)のパリ条約による優先権主張の場合と同様である(実施細則第6条第2項)。

2-3. 実施細則第128条(特別規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
 2023年の実施細則の改正によって第128条が新設され、優先期間を徒過して国際出願した場合であっても、優先権主張の回復が可能となった。
 国際出願日が、優先期間満了後の2か月以内であり、国際段階で受理官庁が優先権の回復を承認している場合は、優先権回復の請求を既に提出したものとみなされる。国際段階で出願人が優先権の回復を請求しなかったか、または優先権回復の請求を提出したが受理官庁によって承認されなかった場合、出願人に正当な理由があれば、移行日から2か月以内に優先権の回復を請求することができる(実施細則第128条)。

(2) 優先権主張の回復請求の手続
 国際出願において優先権を主張し、国際出願日が優先権期間満了後の2か月以内であって、国際段階において既に受理官庁が優先権の回復を承認している場合、国務院専利行政部門は通常疑問を提示せず優先権の回復を認めるので、国内段階へ移行する時に、出願人は再度回復手続を行う必要はない(審査指南第3部第1章5.2.5.1)。

 国際段階において出願人が優先権回復請求を行っていないか、または回復請求を提出したが受理官庁が承認していない場合、優先権回復請求書を提出し、理由を説明するとともに、権利回復請求費、優先権主張費を納付する。また、優先権証明書を国際事務局に提出していない場合は、同時に優先権証明書を添付しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.5.1)。

【留意事項】
 中国における外国優先権を主張する権利の回復請求は、指定期限の徒過の一般的な救済措置(実施細則第6条)に基づく回復と、優先権主張の回復に関する特別規定(実施細則第36条、第128条)との2つの規定を利用できる。
 優先権主張の回復に関する特別規定(実施細則第36条、第128条)は、2024年1月20日から施行された実施細則および審査指南に新たに設けられた規定であり、優先日から12か月以内に優先権を主張して出願するのが原則ではあるが、正当な理由があれば、実質的には優先日から14か月以内に優先権主張することが可能となった。

■ソース
・中国専利法(2020年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
・中国国務院専利行政部門ウェブサイト 専利および集積回路設計に関する支払手続ガイド(料金表)
(中国語)https://www.cnipa.gov.cn/module/download/down.jsp?i_ID=171803&colID=1518
(上記URLがつながらない場合、下記サイトより「专利和集成电路布图设计缴费服务指南」をクリックして料金表にアクセスすることも可能。)
(中国語)https://www.cnipa.gov.cn/col/col1518/index.html
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■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.09.17

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