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中国における優先権主張の手続(外国優先権)

2024年12月12日

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■概要
中国において特許出願または実用新案出願において優先権を主張する場合、出願時に願書においてその旨を声明しなければならない。また、優先日から16か月以内に基礎出願の出願書類の謄本(以下「優先権証明書」という。)を提出しなければならない。出願時に提出する願書において声明をせず、または期限内に優先権証明書を提出しないときは、優先権を主張していないものとみなされる。
■詳細及び留意点

 外国での基礎出願と同じ主題の特許または実用新案について、外国での最初の出願日から起算される所定期間内に中国に出願する場合、その外国が中国と締結した協定または共同で加盟している国際条約に準拠し、もしくは優先権(中国語「优先权」)を相互に認める原則に準拠して、優先権(外国優先権)を享受することができる(中国専利法(以下「専利法」という。)第29条)。

1. パリ条約を利用した優先権主張(特許、実用新案)
1-1. 優先期間
 出願人が、特許または実用新案を外国で初めて出願した日から12か月以内に、中国で再び同一の主題について出願する場合、優先権を享受できる(専利法第29条)。

 優先期間の経過後、国務院専利行政部門に同一の主題について特許または実用新案の出願を行った場合に、正当な理由があれば、期限の満了日から起算して2か月以内に優先権の回復を請求することができる(中国専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第36条、専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.2.6.2)。

1-2. 優先権を主張する旨の声明
 優先権を主張する出願人は、出願時に提出する願書に、優先権を主張する旨を声明しなければならない(専利法第30条、審査指南第1部第1章6.2.1.2)。願書において優先権を主張する旨を声明していない場合には、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第1部第1章6.2.1.2)。

 特許または実用新案の出願人は、優先権を主張した場合、優先日から16か月以内または出願日から4か月以内に、優先権主張の追加または訂正をすることができる(実施細則第37条、審査指南第1部第1章6.2.3)。

1-3. 出願願書への基礎出願の出願日等の明記
 優先権を主張する場合、出願人は、優先権の基礎出願の出願日、出願番号、受理機関の名称を願書に明記しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.2)。

 規定された期間内に優先権証明書(中国語「优先权证明」)が提出されていても、基礎出願の出願日、出願番号、受理機関の名称のうちの1項目もしくは2項目を願書に明記していないか、あるいは誤記がある場合、審査官は手続補正通知書(中国語「手续补正通知书」)を出さなければならない。期間内に応答しない場合、または補正しても規定に合致しない場合は、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第34条第2項、審査指南第1部第1章6.2.1.2)。

1-4. 優先権証明書の提出
(1) 優先権証明書の提出方式
(a) 紙媒体の提出
 優先権証明書は、優先権の基礎となる基礎出願の受理機関の証明を受けたものでなければならない(実施細則第34条第1項、審査指南第1部第1章6.2.1.3)。優先権証明書の様式は、国際慣行に合致するものとし、少なくとも、受理機関の名称、出願人、出願日、出願番号が明記されていなければならない。複数の優先権を主張する場合、それぞれの優先権証明書を提出しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.3)。

(b) デジタルアクセスサービス(DAS)による提出
 国務院専利行政部門と基礎出願の受理機関とで締結した協定に従い、国務院専利行政部門が電子交換などの方法を通じて、受理機関から優先権証明書を取得できる場合、出願人は優先権証明書を提出したものとみなされる(実施細則第34条第1項、審査指南第1部第1章6.2.1.3)。日本および中国はともにWIPOのデジタルアクセスサービス(DAS)の参加国なので、DASを利用することができる

※ WIPOのデジタルアクセスサービス(DAS)については、下記の関連記事を参照されたい。
関連記事:「中国における優先権書類の提出方法―デジタルアクセスサービス(DAS)について」(2022.01.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/21331/

(c) 共有声明
 同じ優先権を複数の出願で主張する場合(例えば、特許、実用新案の同日併願においてそれぞれ同じ優先権を主張する場合)、国務院専利行政部門に提出済の優先権証明書を再び提出する必要はなく、当該優先権証明書の書誌的事項の中国語翻訳文だけ提出すればよいが、優先権証明書の原本を保存してある出願の出願番号は明記しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.3)。

(2) 優先権証明書の提出時期
 優先権証明書は、優先日(複数の優先権を主張する場合、その一番早い優先日を指す)から16か月以内に提出しなければならない。期限内に提出しなかった場合には優先権主張をしていないものとみなされ、審査官は優先権を主張していないとみなす通知書を発行しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.3)。

1-5. 出願人
 優先権を主張する出願人は、優先権証明書に記載した出願人と一致している者か、または優先権証明書に記載された出願人のうちの一人でなければならない。出願人が一致していない場合、優先日(複数の優先権を主張する場合、その一番早い優先日を指す)から16か月以内に、基礎出願の出願人全員が署名または捺印した優先権譲渡証明書(中国語「优先权转让证明」)を提出しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.4)。

1-6. 費用
 優先権を主張する場合、出願日から2か月以内または受理通知書を受取った日から15日以内に、出願費用とあわせて優先権主張の費用も納付しなければならない(実施細則第112条)。期限内に納付しない場合または納付額が不足する場合、審査官は優先権を主張していないものとみなす通知書を発行する(審査指南第1部第1章6.2.5)。

2. PCTルートによる中国特許出願(特許・実用新案)
2-1. 優先権主張の声明
(1) 出願人が、国際段階において既に一つまたは複数の優先権を主張し、かつ国内段階移行時に当該優先権主張が継続して有効である場合、専利法第30条(優先権を主張する旨の声明)の規定に基づいて書面声明を提出したものとみなされる(実施細則第127条第1項、審査指南第3部第1章5.2.1)。

(2) 国際出願日が、優先期間の満了から2か月以内である国際出願について、国際段階において受理官庁が優先権の回復を認めた場合には、優先権の回復請求を行ったものとみなす。出願人が国際段階において優先権の回復を請求しなかったか、または回復請求が受理官庁に認められなかった場合、出願人は正当な理由があれば、移行日から2か月以内に国務院専利行政部門に優先権の回復を請求することができる(実施細則第128条)。

(3) 出願人は、国内段階移行手続の際に提出する移行声明に先の出願の出願日、出願番号および受理官庁の名称を明記しなければならない。また、下記の場合を除き、明記される内容は国際公開公報のフロントページの記載と一致しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.1)。

※ 国際事務局がかつて国務院専利行政部門に伝送した「優先権主張取り下げ通知書」(様式PCT/IB/317)または「優先権を主張していないとみなされる通知書」(様式PCT/IB/318)に関連している優先権主張は、既に効力を喪失したものであるため、移行時の声明に記載してはならない。

(4) 出願人が、国際段階において基礎出願の出願番号を提供していない場合、移行時の声明にこれを明記しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.1)。

(5) 出願人は、国際段階において提出した優先権の書面声明のうち、ある事項に記載ミスがあると判断した場合、国内段階移行手続と同時に、あるいは移行日から2か月以内に訂正請求を提出することができる(審査指南第3部第1章5.2.1)。

2-2. 優先権証明書の提出
 国際段階において特許協力条約の規定に基づき出願人が既に優先権証明書を提出していた場合、出願人は優先権証明書の提供は要求されない。優先権証明書は、国務院専利行政部門がWIPO国際事務局に対して請求する(実施細則第127条第3項、審査指南第3部第1章5.2.2)。

 なお、例えば、国際調査報告書における関連書類の欄に、「PX」、「PY」書類などがあるか、国際調査機関の審査官が検索したが見つからず、国務院専利行政部門の実体審査の担当審査官が追加検索において「PX」、「PY」などの書類を見つけたか、もしくは国際段階において引用による追加の項目またはその一部分が存在する場合等、優先権証明書を精査する必要があると判断した場合には、国務院専利行政部門の審査官は、WIPO国際事務局に対して出願の優先権証明書の送付を請求する(審査指南第3部第1章5.2.2)。

 WIPO国際事務局が、国務院専利行政部門に対して出願人が国際段階において規定に基づいて優先権証明書を提出していないことを通知した場合、他に規定されてあった場合を除き、審査官は手続補正通知書を発行し、出願人に指定期間内に提出するよう通知する(審査指南第3部第1章5.2.2)。

2-3. 優先権を享受する証明の提供
 審査官は、国際出願の出願人が出願日の時点で先の出願の優先権を主張する権利を有するか否かをチェックするが、先の出願が中国以外の国で提出されたものである場合において、以下の何れか一つに該当すれば、出願人が優先権主張の権利を有することを認める(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。

(a) 中国出願の出願人が、基礎出願の出願人と同一人である場合
(b) 中国出願の出願人が、基礎出願の出願人のうちの一人である場合
(c) 中国出願の出願人が、基礎出願の出願人から譲渡、贈与またはその他の方式によってなされた権利移転によって、優先権を享有する場合

 上記(c)の場合、出願人が国際段階において要求に適合した優先権享受声明を行った場合を除き、出願人は適切な証明書類を提出しなければならない。譲渡人は、証明書類に署名または捺印をしなければならない。また、証明書類は原本、あるいは公証されたコピーでなければならない(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。

 基礎出願が中国で提出された場合、優先権を主張する出願の出願人は基礎出願の出願人と完全に一致するか、もしくは基礎出願の出願人全員が、優先権を主張する出願の出願人に優先権を譲渡していなければならない(審査指南第3部第1章5.2.3.2、第3部第1章5.2.6)。

2-4. 優先権主張費用
 優先権を主張している場合、出願人は、移行日から2か月以内に優先権主張費用を納付しなければならない。期間内に納付しない場合または納付額が不足する場合、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第127条第2項、審査指南第3部第1章5.2.4)。

【留意事項】
 中国出願の出願人と優先権を主張する基礎出願の出願人とが完全に一致していないケースは珍しくなく、中国出願の出願人が基礎出願の出願人とまったく別人である場合は、優先権譲渡証明書を必要とする。

 また、実務上の慣行として、基礎出願の出願人に新たな出願人が追加されている場合は、追加された者に譲渡されているという優先権譲渡証明書が必要で、人数が削減されている場合には、証明は不要である。

■ソース
・中国専利法(2020年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.08.28

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