アジア / 出願実務
中国における専利出願時等の委任状の取扱い
2024年11月26日
■概要
中国大陸に常時居住地もしくは営業所のない外国人、外国企業、または外国のその他の組織が中国で専利※出願およびその他の専利事務手続を取り扱う場合等には、法により設立された専利代理機構(パートナ形式または有限責任公司形式)に委任しなければならない。※ 専利には、日本の特許、実用新案、意匠が含まれる。
■詳細及び留意点
1. 委任が必要な場合
(1) 中国大陸に常時居住地もしくは営業所のない外国人、外国企業、または外国のその他の組織(香港、マカオ、台湾地区の出願人も含む)が、中国で専利出願およびその他の専利事務手続を行う場合、または先頭署名出願人(代表者)として、中国大陸の出願人と共同で専利出願およびその他の専利事務手続を行う場合、中国大陸の専利代理機構(中国語「专利代理机构」)※に委任しなければならない。なお、中国大陸の個人または企業等は、国内での専利出願およびその他の専利事務手続を行う際に、専利代理機構に委任することができる(中国専利法(以下「専利法」という。)第18条、中国専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.1.1)。
※ 専利代理機構とは、専利代理管理弁法に基づき設立されたパートナ形式または有限責任公司形式の代理機構をいう(専利代理管理弁法第9条)。
(2) 方式審査において、上記の中国大陸に常時居住地または営業所のない出願人が、専利出願およびその他専利事務手続を行うにあたって委任状を提出していないことが判明した場合、補正命令が出され、出願人が指定された期間内に応答しない場合には、その出願は取下げられたものとみなされる(中国専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第50条、審査指南第1部第1章6.1.1)。出願人が指定された期間内に意見を陳述し、あるいは補正をしても、専利法第18条第1項の規定に合致しない(専利代理機構に適切に委任されていない)場合には、その出願は拒絶される(審査指南第1部第1章6.1.1)。
2. 委任状の提出時期等
出願人は、専利代理機構に委任する場合、委任状の原本を国務院専利行政部門(国家知識産権局専利局)に提出しなければならない(審査指南第1部第1章6.1.2)。
通常、出願またはPCT出願の中国国内移行と同時に委任状を国務院専利行政部門(国家知識産権局専利局)へ提出する(実施細則第17条第2項、審査指南第3部第1章5.1.2)。
実務では、出願時またはPCT出願の中国国内移行時に提出できない場合は、委任状が未提出である旨の補正命令が発せられるまで、いつでも自発的に補充することが可能である。また、国務院専利行政部門から委任状が未提出である旨の補正命令を受領して2か月以内であれば補充することができる(実施細則44条第1項(5)、審査指南第1部第1章3.2、第5部第7章1.2)。
しかし、中国大陸に常時居住地または営業所のない出願人が、この補充期限を逃すと、当該専利出願は拒絶される(審査指南第1部第1章6.1.2)。
ただし、不可抗力の事由や正当な理由によって期限を徒過した場合は、この補充期限に対しては、最長2か月の期間延長を請求することができる(実施細則第6条第1項、審査指南第5部第7章4.)。
3. 委任状への署名または捺印
出願人が個人である場合、出願人は、委任状に署名または捺印しなければならない。
出願人が企業である場合、企業の公印を捺印するものとし、同時にその法定代表者の署名または捺印を付しても良い。
出願人が2名以上いる場合、出願人全員が署名または捺印しなければならない。
委任状に専利代理機構の公印を捺印しなければならない(審査指南第1部第1章6.1.2)。
4. 包括委任状
出願人は、専利出願等(無効審判請求を委任する場合は、別途委任状が必要である)に関する業務を包括的に専利代理機構に委任する場合、包括委任状を提出することができる。国務院専利行政部門は、規定に合致する包括委任状を受取った後、包括委任状に番号を付け、専利代理機構に通知しなければならない。包括委任状を交付済みである場合、専利出願を提出する時に、包括委任状番号を提示しなければならない(審査指南第1部第1章6.1.2)。なお、商標局が国家知識産権局の組織となった現在でも、専利と商標は異なる機関で受理・審査されるため、専利と商標とでは別個に包括委任状を提出する必要がある。
5. 出願人または専利権者自ら行うことができる手続
2023年の実施細則の改正によって、専利代理機構に委任した出願人または権利者が、自ら行える下記(i)~(iii)の手続が規定された。これにより、日本の出願人または権利者は、これらの手続を自ら国務院専利行政部門に対して直接行うことができる(実施細則第18条)。
(i) 優先権の主張を伴った専利出願において、最初に提出した専利出願の書類の副本を提出する場合
(ii) 費用を納付する場合
(iii) 国務院専利行政部門によって規定されたその他の業務
【留意事項】
中国以外の外国国籍の出願人が国務院専利行政部門に専利出願等の手続を行う場合、法により設立された中国の専利代理機構に委任しなければならず(専利法第18条)、外国国籍の出願人が代理人に委任せずに国務院専利行政部門に直接出願した場合、その出願が拒絶されることに留意すべきである。
出願人が企業の場合、委任状に企業の公印を捺印しなければならないが、企業の法定代表者の署名または捺印はなくても良い。委任状に公印の捺印などに関する形式的な不備がある場合、補正命令を受けてから2か月以内に委任状を再提出することが可能である。委任状の形式要件に関しては、基本的には現地代理人に任せておくことで差支えないだろう。
■ソース
・中国専利法(2020年改正)(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南2010(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
・専利代理管理弁法(2019年公布)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/section20190501_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20190501_1.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.08.05