アジア / 出願実務
中国への特許出願における誤訳訂正の機会
2024年11月14日
■概要
外国から中国への特許出願は、パリ優先権を主張して出願するルート(以下「パリルート出願」という。)とPCT出願を中国国内段階に移行して出願するルート(以下「PCTルート出願」という。)がある。外国語明細書を中国語明細書に翻訳する際に生じた誤訳については、PCTルート出願の場合、PCT出願書類を根拠に誤訳訂正ができるが、パリルート出願の場合、国務院専利行政部門へ提出した中国語明細書のみが根拠となるため、基礎出願の外国語明細書に正しい記載があっても、当該外国語明細書に基づく誤訳訂正は認められない。■詳細及び留意点
1. PCTルート出願
PCTルート出願について、出願人は、提出した明細書、クレームおよび図面の中国語翻訳文に誤訳があると発見した場合、PCT出願書類を根拠として誤訳訂正ができる(中国専利実施細則(以下「実施細則」という。)第131条、中国専利審査指南(以下「審査指南」という。)第3部第1章5.8、第3部第2章5.7)。
(1) 誤訳訂正可能な時期
実施細則第131条に定められた以下の2つの場合に誤訳訂正ができる。
(a) PCT出願が中国国内段階に移行してから、国務院専利行政部門が公開に関する準備作業を完了する前(実務上は、移行日からおよそ3か月以内を目安としている。)
(b) 出願が実体審査に入った旨の通知を受領した日から3か月以内
(c) 拒絶理由通知において審査官に誤訳があると指摘された場合、その拒絶理由通知に応答するとき。
また、実務上は、上記の場合に加えて、次の2つの場合にも誤訳訂正は可能と考えられている。ただし、これらについては、実施細則第131条に明確な規定がないため、誤訳訂正が認められるか否かは審査官の裁量に委ねられる。
(d) 出願人が拒絶理由通知を検討する際に自ら誤訳があると発見した場合であって、その拒絶理由通知に応答するとき。
(e) PCTルート出願の分割出願に関し、出願人が実体審査において、親出願の誤訳によって分割出願にも誤訳があると自ら発見したとき。
(2) 誤訳訂正可能な範囲
PCT出願書類(クレーム、明細書、図面)に基づいて誤訳訂正ができる(実施細則第131条第1項)。
(3) 手続
書面により(誤訳訂正専用のフォームがある)誤訳訂正の請求を行い、誤訳箇所を訂正したクレームまたは明細書を提出するとともに、訳文訂正費の納付が必要となる(実施細則第131条第2項)。
2. パリルート出願
パリルート出願では、パリ優先権を主張して中国へ出願する時に提出した中国語明細書が基礎となるので、第一国出願書類に基づく誤訳訂正はできない。しかし、自発補正することができる機会を利用して、中国専利法第33条の要件をみたすような中国語明細書に記載の範囲内での(つまり、新規事項の追加に該当しない範囲内なら)訂正であれば可能であると考えられる。自発補正の手続と同様、意見陳述に誤訳訂正の理由を明記して補正書を提出すればよく、官庁手数料は発生しない。中国において、自発補正は次の場合に可能である(実施細則第57条第1項)。
(a) 実体審査請求時
(b) 実体審査移行通知を受領した日から3か月以内
なお、拒絶理由通知への応答の機会を利用して訂正することも可能であるが、その場合、出願人は拒絶理由通知に指摘された欠陥に対し補正を行わなければならない(実施細則第57条第3項)。審査官に指摘されていない内容の補正も、原明細書に記載された範囲を超えないで、原明細書に存在している欠陥のみを削除すればよい補正であって、かつそのように補正すれば権利付与の見通しを有する場合は、このような補正は認められるとされている(中国専利審査指南第2部第8章5.2.1.3)。
【留意事項】
PCTルート出願の場合、出願から登録までの間に誤訳訂正の機会はあるが(実施細則第131条)、一旦出願が登録、公告されると、中国には日本の訂正審判(日本国特許法第126条)に対応する制度が存在しないため、誤訳の訂正はできなくなることに留意する必要がある。
また、パリルート出願の場合も、自発補正の機会を利用した訂正は可能であると考えられるが、「誤訳訂正」ではなく、あくまで原明細書に記載された範囲を超えない補正が可能である点に留意する必要がある。
■ソース
・中国専利法(2020年改正)(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南2010(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.08.05