アジア / 出願実務
中国における特許・実用新案の分割出願
2024年12月03日
■概要
中国では、特許・実用新案出願が2つ以上の発明/実用新案を含む場合、所定の時期であれば、出願人は、自発的にまたは審査官の審査意見に従い、分割出願を行うことができる。ただし、分割出願は、原出願の種別(発明/実用新案)を変えてはならず、かつ、原出願に記載された範囲を超えてはならないなどの制約がある。■詳細及び留意点
1. 分割出願(中国語「分案申请」)の時期についての要件
(条文等根拠:専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第48条第1項、専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章5.1.1(3)、第1部第2章10.)
(1) 特許権、実用新案権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月(登録手続期間)を期限として、出願後この期限まで、出願人はいつでも分割出願をすることができる。したがって、審査中でも分割出願は可能である。ただし、出願が既に拒絶され、取り下げされた、または取り下げられたものとみなされた場合は、分割出願をすることができない。
(2) 拒絶査定を受けた出願については、不服審判請求の有無を問わず、拒絶査定の通知書を受領してから3か月以内であれば、分割出願を行うことができる。また、不服審判の係属中、審決日から3か月以内、および不服審判の審決に対する審決取消訴訟係属中においても、分割出願を行うことができる。
(3) 既に出願された分割出願(一次分割出願)について、出願人が更に分割出願(二次分割出願)する場合、二次分割出願は、原出願に基づいて分割出願ができる期間にしなければならない(審査指南第1部分第1章5.1.1.(3))。
ただし、一次分割出願の単一性の欠陥を審査意見通知書(日本の拒絶理由通知に相当。)で指摘されて分割出願をする場合は(審査指南第2部第6章3.1(2))、二次分割出願は、一次分割出願に基づいて分割出願ができる期間にすることができる(審査指南第1部分第1章5.1.1.(3))。よって、一次分割出願の単一性の欠陥を指摘した審査意見通知書を受領後、一次分割出願について専利権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月の期限まで、二次分割出願をすることができる。
2. 分割出願の内容についての要件
(条文等根拠:実施細則第48条、第49条、審査指南第1部第1章5.1.1)
2-1. 必要な書類
(1) 分割出願の願書、特許請求の範囲、明細書、図面、要約など。分割出願は、「専利法および実施細則の規定に基づいて関係手続を取らなければならない」とされているので、通常の特許・実用新案出願に必要な書類を提出しなければならない。
(2) 従前は、分割出願の際に、原出願書類の謄本、原出願の優先権書類の謄本等を提出しなければならないとされていたが、2023年の実施細則の改正によりこれらの要件が削除された(実施細則第49条第3項)。
したがって、優先権出願書類の謄本、生物材料寄託証明書および生存証明書など、原出願で既に提出された分割出願に関連する各種の証明書類は、既に提出されたものとみなされる。
2-2. 記載事項
分割出願は原出願に基づき行わなければならない。すなわち、原出願に記載された範囲を超えてはならない。
(1) 分割出願は、原出願の種別(特許/実用新案)を変更してはならない。
(2) 分割出願の願書には、原出願の出願番号と出願日を記載しなければならない。
(3) 二次分割出願を提出する場合は、一次分割出願の出願番号も記載しなければならない。
(4) 分割出願の出願人は、原出願を提出した際の原出願の出願人と同一でなければならない。また、一次分割出願に対して二次分割出願を提出する出願人は、一次分割出願の出願人と同一でなければならない。
(5) 分割出願の発明者は、原出願の発明者、またはそのメンバーの一部でなければならない。また、一次分割出願に対して提出する二次分割出願の発明者は、一次分割出願の発明者、またはそのメンバーの一部でなければならない。
3. 分割出願の効果
(条文等根拠:実施細則第49条)
分割出願は、原出願の出願日を維持し、優先権を有するものについては、優先日を維持することができる。
4. 分割出願の審査
(条文等根拠:実施細則第48条、第49条、審査指南第1部第1章5.1.1、第2部第6章3.)
4-1. 初歩審査
審査官は、分割出願について、主に上記「2. 分割出願の内容についての要件」に記載した事項に関し、法令に従って出願書類およびその他の書類を審査する他にも、特に、原出願に基づいて下記の内容を確認する。
(1) 願書に記載された原出願の出願日
原出願の出願日の記載に誤りがあった場合、審査官は補正通知書を発行し、出願人に補正するよう通知する。期間内に補正しなかった場合、審査官は分割出願を取り下げられたものとみなす通知書を発行する。補正が規定に適合する場合、審査官は出願日再確定通知書を発行する。
(2) 願書に記載された原出願の出願番号
原出願の出願番号が正確に記載されていない場合、審査官は補正通知書を発行し、出願人に補正するよう通知する。期間内に補正しなかった場合、審査官は分割出願が取り下げられたものとみなす通知書を発行する。
(3) 分割出願の提出日
初歩審査において、分割出願の提出日が上記「1. 分割出願(中国語「分案申请」)の時期についての要件」を満たさない場合、審査官は分割出願が行われていないものとみなす通知書を発行し、終了処理をする。
(4) 分割出願の出願人と発明者
分割出願の出願人が、上記「2-2. 記載事項(4)」の要件を満たしていない場合、審査官は分割出願が行われていないものとみなす通知書を発行する。
分割出願の発明者が、上記「2-2. 記載事項(5)」の要件を満たしていない場合、審査官は補正通知書を発行し、出願人に補正するよう通知する。期限内に補正が行われない場合、審査官は分割出願を取下げたものとみなす通知書を発行する。
4-2. 実体審査
特許(発明専利)に関する分割出願については、実体審査が行われる(専利法第39条)。
分割の適否に関する審査は、実施細則第48条および第49条に規定される下記(1)、(2)について行わなければならない。また、それ以外の審査は、一般の出願審査と同じである。
(1) 分割出願の内容が、原出願の記載範囲を超えているときは、審査官は出願人に補正するよう要求する。出願人が補正を行わない場合、または補正した内容が原出願の明細書と請求の範囲の記載範囲を超えている場合は、審査官はその分割出願を拒絶することができる。
(2) 1つの特許出願が、単一性の要件を満たしていない場合、審査官は、出願人に出願書類を補正(分割出願を含む)することで、単一性の要件に適合させるように要求する。
例えば、当初に提出した請求の範囲に、一体的な発明の概念に属さない2つ以上の発明が含まれている場合、出願人に当該請求の範囲をその中の1つの発明、または一体的な発明の概念に属する2つ以上の発明に制限するよう要求しなければならず、残りの発明について、出願人は分割出願を行うことができる※。
※ 出願の単一性違反に関する審査およびその対応についてではあるが、分割出願について規定する実施細則第48条第2項、および審査指南第2部第6章3.1(2)にこの記述があるので「実体審査」の項目で解説した。
5. 分割出願の期限と費用
(条文等根拠:審査指南第1部第1章5.1.2)
(1) 分割出願に適用する各種の法定期限、例えば、実体審査請求を提出する期限は、原出願日から起算しなければならない。既に満了した期限については、出願人は、分割出願の提出日から2か月以内、または受理通知書の受領日から15日以内に、各種の手続を補足することができる。
(2) 分割出願に対しては、新規出願とみなして、各種の費用を納付しなければならない。既に納付期限が満了した各種費用について、出願人は分割出願の提出日から2か月以内、または受理通知書の受取日から15日以内に、納付することができる。
6. 留意事項
「分割出願は原出願に記載された範囲を超えてはならない(実施細則第49条第1項)」との基準は、日本と同じく、新規事項の判断と同様に行なわれている。しかし、中国の審査実務において、新規事項に該当するかどうかの判断は、日本と比較して厳しい。たとえば、原出願の明細書に記載された実施例を概念化するようなクレーム(具体例+自明事項)を新たに分割出願として出願することは難しい。中国の実務上、原出願で削除されたクレームを分割出願として出願することが多く、その意味では、原出願の出願時に必要と思われる概念をできるだけクレームしておくべきであろう。
■ソース
・中国専利法(2020年改正)(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
・国務院専利行政部門ウェブサイト 専利および集積回路設計に関する支払手続ガイド(料金表)
(中国語)https://www.cnipa.gov.cn/module/download/down.jsp?i_ID=171803&colID=1518
※ 日本からの中国のサイトへのアクセスは、通信状況により接続に時間がかかるか、または接続できない場合があるので注意されたい。
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.06.19