国別・地域別情報

アジア / 出願実務 | ライセンス・活用


中国における実用新案制度の概要と活用

2024年09月26日

  • アジア
  • 出願実務
  • ライセンス・活用
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
実用新案は、特許と比べると登録期間が短いものの、初歩審査のみ行われ、登録までの期間が短く、進歩性基準が特許より低い等の特徴を有することから、中国では、中小企業に多く利用されている。また、中国には特許/実用新案同日出願制度があり、この制度を利用して実用新案出願を先に権利化し、後に特許出願が登録要件を満たす場合に実用新案権を放棄することにより特許出願の権利化を図ることもできる。
■詳細及び留意点

(1) 中国における実用新案制度の概要
(i) 実用新案(中国語「实用新型专利」)の定義
 実用新案とは、製品の形状、構造またはそれらの組合せについて提案された実用に適した新しい考案(中国語「技術方案」)をいい(専利法第2条第3項)、中国の実用新案は製品のみを保護対象とする。

 ここでいう「製品」とは、産業的方法により製造されたもので、確定した形状、構造を有し、かつ一定の空間を占める実体をいう(専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第2章6.1)。

 また、専利法第2条第3項の規定に基づき、実用新案は物品の形状および/または構造に対して行われる改善でなければならない(審査指南第1部第2章6.2)。

(ii) 実用新案登録を受けることができないもの
 以下は、実用新案の保護対象に属さず、実用新案登録を受けることができないものである。

(a) すべての方法および人的に製造されていない自然に存在する物品(審査指南第1部第2章6.1)。
(b) 確定した形状がないもの(審査指南第1部第2章6.2.1)。例えば、気体状態、液体状態、粉末状、粒状などの状態の物質や材料。具体的には、例えば化合物、化学組成物、結晶体。
(c) 製品の特徴が材料の改良にあるもの(審査指南第1部第2章6.2.2)。例えば、製品の原材料の組成を記載した請求項。
(d) 製品の特徴がその製法の改良にあるもの(審査指南第1部第2章6.1)。例えば、製造方法の工程を記載した請求項。
 ただし、実用新案の請求項の構成要素の一部に、例えば樹脂、ゴムなどのような既知の材料の名称を記載することは認められている。また、実用新案の請求項の構成要素の一部に、例えば溶接、リベット締めなどのような既知の方法の名称を記載することも認められている。

(iii) 審査の順序
(a) 審査開始の順序
 一般的に、出願書類が提出された順に初歩審査が開始されなければならない(審査指南第5部第7章8.1)。
(b) 優先審査
 国家利益または公共利益に重要な意義がある出願は、出願人が請求し許可を受けた場合、優先審査が行われ、その後の審査過程において優先して処理される(審査指南第5部第7章8.2)。ただし、同一の出願人が特許と実用新案を同日出願した場合、通常、特許出願の優先審査は行われない。
(c) 遅延審査
 出願人は、審査の遅延請求を提出することができる(審査指南第5部第7章8.3)。遅延請求を行う場合は、出願人は、出願と同時に遅延審査を請求しなければならない。延期期限は、審査遅延請求を提出して効力が生じた日から起算して1年とする。ただし、必要な場合は、専利局は自発的に審査を開始して出願人に通知し、出願人が請求した遅延審査の延期期限を終了することができる。

(iv) 実用新案の初歩審査
 実用新案出願は、初歩審査を経て拒絶すべき理由がない場合、権利付与されることになる(専利法第40条)。初歩審査では、具体的には下記の該当する登録要件を明らかに満たしているかいないか等が審査される(専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第50条第1項第2号)。

(a) 公序良俗違反(専利法第5条)
(b) 権利付与されない考案(専利法第25条)
(c) 外国人等による出願(専利法第17条、第18条第1項)
(d) 国内で完成した考案の外国出願(専利法第19条第1項)
(e) 考案該当性(専利法第2条3項)
(f) 考案の新規性、進歩性、実用性(専利法第22条)
(g) 明細書等の記載要件(専利法第26条第3項)
(h) 請求の範囲の記載要件(専利法第26条第4項)
(i) 一考案一出願の原則(専利法第31条第1項)
(j) 補正における新規事項の追加(専利法第33条)
(k) 同一出願人の特許出願との競合(専利法第9条)

 2023年の実施細則の改正により、初歩審査において、審査官は、取得した先行技術に関する情報に基づいて、実用新案が明らかに進歩性を備えるかを審査できることとなり、進歩性に関する審査は無効審判における実用新案審査の規定(審査指南第4部第6章4)が参照されることになった(審査指南第1部第2章11)。
 なお、実用新案の進歩性がどのように審査されるかについては、今後の専利局における実務に留意する必要がある。

(v) 特許/実用新案同日出願制度
 中国には、出願変更制度は存在しないが、出願人は、同一の発明について特許と実用新案の両方を同日に出願することができる(専利法第9条、実施細則第47条第2項)。この同日出願制度を利用して特許と実用新案を同日に出願すれば、実用新案出願は初歩審査のみなので先に登録されることとなり、特許出願は、特許の登録要件を満たす場合に、出願人が実用新案権を放棄することにより、特許権を取得することができる。

(2) 中国における実用新案権の活用
(i) 中国実用新案権の権利行使のし易さ
 中国の専利法には、日本の実用新案法第29条の2のような「技術評価書を提示して警告をした後でなければ、侵害者等に対し、その権利を行使することができない」旨の規定は存在しない。また、日本の実用新案法第29条の3のような「警告や権利行使を行い、その後、実用新案登録が無効となった場合、技術評価書の提示やその他の相当な注意をしないで行った警告や権利行使により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる」旨の規定もない。

 つまり、中国の実用新案権は、日本の実用新案権に比べて、権利行使しやすい権利であると言える。

(ii) 実用新案権評価報告
 中国では、侵害の紛争が実用新案権に係る場合、裁判所等は、権利者または利害関係者に対し、国務院専利行政部門が関連実用新案権について調査、分析と評価を行った上で作成した実用新案権評価報告の提出を要求することができる(専利法第66条第2項)。当該評価報告は、実用新案権の侵害紛争の審理において証拠とすることができる。

 また、裁判所が受理した実用新案権に関する侵害紛争案件において、被告(被疑侵害者)が答弁期間(中国に経常住所がある場合15日、中国に経常住所がない場合30日)内に当該実用新案権に対して無効審判を請求した場合、裁判所はその訴訟を中止しなければならない(最高人民法院による専利紛争案件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定第5条)。ただし、実用新案権評価報告に、実用新案権の新規性、進歩性を喪失させる技術文献が含まれていない場合、裁判所は訴訟を中止しなくてもよい。

 上記の通り、実用新案権を行使して侵害訴訟が提起された場合、裁判所は実用新案権評価報告の提出を要求することができる。しかし、この評価報告は、裁判所が裁判を中止するか否かを判断する際の根拠として利用されるものに過ぎず、提訴時に必須のものではない。

(iii) 実用新案の無効審判
 特許と同じく、実用新案も、登録公告された後、何人でも無効審判を請求することができ(専利法第45条)、無効理由および証拠の使用については、特許と基本的に同様である。ただし、進歩性の判断に関しては、特許と実用新案における進歩性の定義が異なるため、以下の相違点が存在する(審査指南第4部第6章4)。

 特許の進歩性は、「既存の技術と比べて、その発明が突出した実質的特徴および顕著な進歩を有する」ことと規定されている一方、実用新案の進歩性は、「既存の技術と比べて、その実用新案が実質的特徴および進歩を有する」ことと規定されている(専利法第22条第3項)。したがって、実用新案の進歩性基準は特許の進歩性基準よりも低いといえる。

 両者の進歩性基準における相違は、既存の技術に「技術的示唆」が存在するかを判断する際の以下の二つの点で述べられていている。

(a) 既存の技術の技術分野
 特許の場合、発明の属する技術分野以外に、それに近いまたは関連する技術分野および当該発明が解決しようとする課題が当業者に対し技術的手段を模索せしめるその他の技術分野も考慮されるべきである(審査指南第4部第6章4(1))。

 一方、実用新案の場合、一般的には、当該実用新案が属する技術分野が優先的に考慮される。ただし、既存の技術に「明らかな示唆(例えば、明確な記載がある。)」がある場合、当業者に対し技術的手段を模索せしめる、近いまたは関連する技術分野を考慮に入れてもよい。

(b) 既存の技術の数
 特許の場合、1件または複数の既存の技術の組合せで進歩性を評価することができる。一方、実用新案の場合、一般的には、1件または2件の既存の技術の組合せで進歩性を評価することができる(審査指南第4部第6章4(2))。ただし、従来技術の「簡単な寄せ集め」からなる実用新案に対しては、状況に応じて、複数件の従来技術の組合せで進歩性を評価することもできる。

(3) 留意事項
・中国における実用新案権は、特許に比べて格別に権利行使しにくい権利であるという印象はない。また、実用新案権は初歩審査のみで登録され、一度権利になると、それを無効にするためには時間と費用がかかる。さらに、実用新案権の進歩性基準は特許と比べて低いものの、実際に無効審判を請求する場合、2件以内の無効資料で無効とすることは容易ではない。

 上記の状況に鑑み、模倣されやすい構造的特徴があり、(実用新案の保護期間は出願日から10年(専利法第42条第1項)であるため)ライフサイクルが短い考案については、実用新案の出願を検討する価値がある。

・中国における事業展開にあたり、抵触する実用新案権が存在すると判明した場合、権利行使される可能性があることに備えて事前に無効資料を調査し、準備すべきである。抵触する権利が重要な製品に係わるものである場合、無効審判を請求する方向で検討すると良い。相手に無効審判を請求した事実を知られたくない場合には、匿名で(無効審判は何人でも請求することができるため(専利法第45条)、実際に請求する企業名等を出さずとも、実在する個人の名前等で)無効審判を請求することも可能である。

■ソース
・中国専利法(2020年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
・最高人民法院による専利紛争案件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定(2020年)
(中国語)http://gongbao.court.gov.cn/Details/5de2cf9060d0b01e2b5686dfcfb6f6.html
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/interpret/20210101_2.pdf

※ 日本からの中国のサイトへのアクセスは、通信状況により接続に時間がかかるか、または接続できない場合があるので注意されたい。
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.06.21

■関連キーワード