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フィリピンにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

2024年05月30日

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■概要
フィリピンの特許出願の審査基準のうち進歩性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。前編では、進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義について、中編および後編(本稿)では、進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点について、解説する。
(前編:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/39191/
(中編:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/39195/
■詳細及び留意点

(中編から続く)
4-4. その他の留意事項
4-4-1. 後知恵
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(1)でいう「後知恵」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項9.9

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許査基準には、後知恵について次の規定があり、日本と同じ考え方がフィリピンの審査にも適用される。

 一見すると自明に見える発明でも、実際には、進歩性が認められる可能性があることに留意すべきである。新しい発明が、定式化されると、既知のものから始めて、一見簡単な一連の手順によって、どのようにしてその発明に到達するかを理論的に示すことができる。審査官は、この種の事後分析に注意する必要がある。
 審査官は、調査で得られた先行文献は、必然的に、どのような発明がなされるのかを事前に知った上で入手されたものであることを常に念頭に置いておく必要がある。審査官は、出願人が貢献する前に当業者が入手できたであろう先行技術全体を可視化して、当業者が行ったであろう現実の評価を行うように努めるべきである。

4-4-2. 主引用発明の選択
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項 付属書2、1.

(2) 異なる事項または留意点
 中編「4-1. 具体的な判断基準」を参照されたい。

4-4-3. 周知技術と論理付け
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(3)でいう「周知技術と論理付け」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項9.3a

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許査基準には、周知技術と論理付けについて明確な規定はないが、組み合わせの発明において個々の発明が自明である場合の考え方が示されており、日本と実質的に同じ考え方が審査に適用されると解される。

 クレームされた発明は、通常、全体として考慮されなければならない。したがって、組み合わせクレームの場合、組み合わせた個別の特徴それ自体が公知または自明であるから、クレームされた対象発明が自明であると主張することは、一般原則として正しくない。この規則の唯一の例外は、組み合わせの特徴の間に機能的関係がない場合、すなわち、クレームが単に特徴の並置を求めるものの場合である

4-4-4. 従来技術
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(4)でいう「従来技術」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項9.5

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許査基準には、明細書中の従来技術について次の規定があり、日本と同じ考え方がフィリピンの審査にも適用される。

 進歩性があるかどうかを判断するために、特定の発明が当該技術分野に及ぼす貢献を特定する際には、出願人自身が明細書の中で何を認識し、何が知られていると主張しているかをまず考慮すべきである。出願人自身が間違っていたと主張しない限り、公知技術に関するそのような認識は、審査官によって正しいと見なされるべきである。しかし、先行技術調査に含まれる先行技術は、出願人の明細書における視点とは全く異なる観点から発明を位置づける可能性があり得る(実際、この引用された先行技術により、出願人は自発的に特許請求の範囲を補正して、発明を再定義することになる可能性がある。)。クレームの主題が、進歩性を含むかどうかについて最終的な結論に達するためには、そのクレームの主題と先行技術との違いを判断する必要があり、その際に、審査官は、請求項の形式によって示唆される観点のみから進められるものではないことに留意しなければならない。

4-4-5. 物の発明と製造方法・用途の発明
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法およびその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項9.5a

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許査基準には、物の発明と製造方法・用途の発明との関係について次の規定があり、日本と同じ考え方がフィリピンの審査にも適用される。

 製品に対するクレームが新規、かつ自明でない場合、その製品の製造に必然的に関係する製造方法に関するクレームや、その製品の用途に関するクレームについては、自明性を調査する必要はない。

4-4-6. 商業的成功などの考慮
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項 付属書2、3、3.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、進歩性を肯定する指標の一つとして、商業的な成功を獲得することが、次のように記載されている。

 商業的成功は、発明が市場に出てから(通常、出願審査が終了してから)しか起こり得ない。したがって、商業的成功が出願日前の発明の設計に影響を与えることはあり得ず、通常、進歩性の論拠として使用することはできない。商業的な成功は、市場における幸運に恵まれることはもちろんのこと、例えば、最初に市場に参入したこと、巧みな商品位置づけ、優れた販売技術、効果的な広告など、様々な要因によってもたらされる可能性がある。しかし、商業的成功が、長年の欲求の充足のような他の要因と結びつき、発明の技術的特徴に由来することが証明できれば、それは関連性があると認められることはあり得る。

5. 数値限定
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項 付属書2、3.1、3.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、数値限定の発明については、複数の既知の可能性の中からの選択に関する発明の一類型として、次のように規定されている。

 発明が、単に多数の等しく可能性のある選択肢の中から選択することにある場合は、自明である。
 事例:発明は、反応混合物に電気的に熱を供給することが知られている既知の化学プロセスに関する。このように熱を供給する方法には、多数のよく知られた代替方法があり、本発明は、単に一つの代替方法を選択することにある。

 しかし、既知の範囲内で特定の操作条件(例えば、温度や圧力)を特別に選択することで、プロセスの操作や得られる製品の特性に予期せぬ効果をもたらす場合は、自明とは言えない。
 事例:物質Aと物質Bが高温で物質 C に変換されるプロセスでは、一般に、温度が50~130℃の範囲で上昇するにつれて、物質 C の収量が常に増加することが知られていた。クレームされている、63℃から65℃の温度範囲では、物質Cの収率は予想よりもかなり高いことが判明した。

6. 選択発明
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項 付属書2、3.1、3.2

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、選択発明については、複数の既知の可能性の中からの選択に関する発明の一類型として、次のように規定されている。

 発明が、単に多数の等しく可能性のある選択肢の中から選択することにある場合は、自明である。
 事例:発明は、反応混合物に電気的に熱を供給することが知られている既知の化学プロセスに関する。このように熱を供給する方法には、多数のよく知られた代替方法があり、本発明は、単に一つの代替方法を選択することにある。

 しかし、多数の公知の可能性の中からの選択であっても予期せぬ効果をもたらす場合は、自明ではなく、結果として進歩性が肯定される。例えば、発明が、幅広い分野から特定の化合物または組成物(合金を含む)を選択することにあり、そのような化合物または組成物は、予期せぬ技術的な利点を有する場合が該当する。
 事例:発明が、先行文献の開示で定義された可能性の全領域から置換基ラジカル「R」を選択することにある。この選択は、可能な分野の特定の領域を包含しており、有利な特性を有することを示す化合物をもたらす。しかし、先行文献には、当業者を他の選択ではなく、この特定の選択に導くような示唆はない。

7. その他の留意点
 日本の特許・実用新案審査基準の第III部第2章第1節「新規性」に記載されている、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定、およびこれらの発明の対比については、以下のとおりである。

7-1. 請求項に記載された発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第3節第4項

(2) 異なる事項または留意点
 「フィリピンにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」の「3.請求項に記載された発明の認定」を参照されたい。

7-2. 引用発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第5項

(2) 異なる事項または留意点
 「フィリピンにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」の「4.引用発明の認定」を参照されたい。

7-3. 請求項に記載された発明と引用発明の対比
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 「フィリピンにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」の「5-1. 対比の一般手法」を参照されたい。

8. 追加情報
 これまでに記載した事項以外で、日本の実務者が理解することが好ましい事項、またはフィリピンの審査基準に特有の事項ついては、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 特に記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 特に記載はない。

■ソース
・フィリピン特許審査マニュアル
https://drive.google.com/file/d/1vlZS7X81CdtRURtH9XSL8m44UiQtm0cJ/view(英語)
・フィリピン知的財産法(2013年法律第10372号により改正された法律第8293号2013年3月4日施行2015年版)
https://drive.google.com/file/d/0B2or2OrWYpIfN3BnNVNILUFjUmM/view?ts=58057027(英語)
※接続するとGoogleアカウントの選択が求められるので、アカウントを事前に作成しておく必要がある。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-tizai.pdf(日本語)
・日本の特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
■本文書の作成者
HECHANOVA & CO., INC.
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.01.04

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