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フィリピンにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)

2024年05月30日

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■概要
フィリピンの特許出願の審査基準のうち進歩性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については、省略する。前編(本稿)では、進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義について、中編および後編では、進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点について、解説する。
(中編:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/39195/
(後編:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/39198/
■詳細及び留意点

1. 記載個所
 発明の進歩性については、フィリピン知的財産法第26条に規定されている。

第26条 進歩性
26.1 発明を請求する出願の出願日又は優先日において当該発明が先行技術に照らして当該技術の熟練者にとって自明でない場合は、その発明は進歩性を有する。
26.2 薬剤製品に関して、既知物質の新たな形式若しくは性質であって、当該物質の既知の効力の向上をもたらさないものの発見にすぎないもの、既知物質の何らかの新たな性質若しくは新たな用途の発見にすぎないもの又は既知方法の使用にすぎないもの(ただし、当該既知方法が少なくとも一種の新たな反応物を含む新たな製品を製造できる場合はこの限りではない)に基づく発明は、進歩性を有さない。

 進歩性に関する審査基準については、フィリピン特許審査マニュアル(以下、「フィリピン特許審査基準」という。)の第II部第7章「実体審査」第4節「特許要件」の第9項、第4節第9項の附属書1、第4節第9項の附属書2に進歩性に関する規定があり、その概要(目次)は、以下のとおりである。

フィリピン特許審査基準
第II部
 第7章 実体審査
  第4節 特許要件
   第9項 進歩性(9.1-9.10)
   第4節第9項の附属書1(進歩性評価のガイダンス)
    1. 既知の手段の適用であるか
     1.1 既知の手段の自明な方法での適用であって進歩性が否定される発明
     1.2 既知の手段の非自明な方法での適用であって進歩性が肯定される発明
    2. 自明な特徴の組合せであるか
     2.1 自明な特徴の組合せであって進歩性が否定される発明
     2.2 非自明な特徴の組合せであって進歩性が肯定される発明
    3. 自明な選択であるか
     3.1 複数の既知の可能性の中からの自明であって進歩性のない選択
     3.2 複数の既知の可能性の中からの非自明であって進歩性のある選択
    4. 技術的な偏見を克服しているか
    5. その他の例
   第4節第9項の附属書2(進歩性について)
    1. 課題解決アプローチ
    2. 4つのステップによる課題解決アプローチ
    3. サブテスト
     3.1 通常進歩性を否定する指標を提供するサブテスト
     3.2 進歩性を肯定する可能性のある指標を提供するサブテスト

2. 基本的な考え方
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項9.3

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、発明することが自明であったかという進歩性の考え方については、次のように示されている。なお、クレームにおける発明の進歩性の評価については、「課題解決アプローチ」を用いることが規定されており(中編「4-1.具体的な判断基準」参照)、自明であるかを判断する指標を用いた「サブテスト」が解説されている。

 発明を定義するクレームに関して検討すべき問題は、そのクレームの優先日において、公知の技術を考慮すれば、クレームの条件に該当するものを発明することが当業者にとって自明であったかどうかである。もしそうであれば、そのクレームは、進歩性の欠如となる。「自明」という用語は、技術の通常の発展を超えるものではなく、単に先行技術から明白または論理的に導かれるもの、すなわち、当業者に期待される以上の技術や能力の行使を伴わないものを意味する。進歩性を検討する際には、公開された文献をその後の知識に照らして解釈し、クレームの出願日または優先日において当業者が一般的に利用可能な全ての知識を考慮することが、正しい評価の仕方である。

3. 用語の定義
3-1. 当業者
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項9.6

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、「当業者」について、次のように規定されており、基本的には日本の審査基準と同じと考えられる。

 「当業者」は、関連する日付において当該技術分野における一般知識を有している通常の実務者であると、推定されるべきである。また、「先行技術」に属するすべてのもの、特に調査報告書で引用された文献にアクセスすることができ、日常的な作業や実験のための通常の手段や能力を自由に利用することができると推定されるべき者である。

 課題が、当業者に他の技術分野にその解決策を必要とさせる場合、その分野の専門家が問題を解決する資格を有する者(当業者)である。したがって、解決策が進歩性を有するかどうかの評価は、その専門家の知識と能力に基づいて行われるべきである。研究チームや製造チームなど、一人で考えるよりも複数人で考えた方が適切な場合もある。例えば、コンピュータや携帯電話システムのような特定の先端技術や、集積回路の商業生産、複雑な化学物質の製造のような高度に専門化された工程がこれに該当する。

3-2. 技術常識及び技術水準
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識」および「技術水準」に対応するフィリピン特許基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 フィリピン特許審査基準第II部第7章第4節第9項 付属書2、1.

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準によれば、技術常識(共通一般知識)とは、「その技術分野における通常の熟練工が知っているであろうこと、および標準的な教科書に記載されているであろうこと」とされており、日本の審査基準とは定義が異なる。

3-3. 周知技術及び慣用技術
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術」および「慣用技術」に対応するフィリピン特許審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 対応する記載はない。

(2) 異なる事項または留意点
 フィリピン特許審査基準では、「周知技術及び慣用技術」について規定はないが、実務上は「周知技術」とは、よく知られた教科書や標準的な辞書に記載されている技術をいう(第II部第7章第4節第9項9.7(iii))。

 進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については、中編および後編をご覧ください。

■ソース
・フィリピン特許審査マニュアル
https://drive.google.com/file/d/1vlZS7X81CdtRURtH9XSL8m44UiQtm0cJ/view(英語)
・フィリピン知的財産法(2013年法律第10372号により改正された法律第8293号2013年3月4日施行2015年版)
https://drive.google.com/file/d/0B2or2OrWYpIfN3BnNVNILUFjUmM/view?ts=58057027(英語)
※接続するとGoogleアカウントの選択が求められるので、アカウントを事前に作成しておく必要がある。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-tizai.pdf(日本語)
・日本の特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
■本文書の作成者
HECHANOVA & CO., INC.
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.01.04

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