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ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)

2024年04月18日

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■概要
ブラジルの特許出願の審査基準のうち進歩性に関する事項について、日本の特許・実用新案審査基準と比較して留意すべき点を中心に紹介する。ただし、ここでは、各技術分野に共通する一般的な事項についてのみ取扱うこととし、コンピュータソフトウエア、医薬品など、特定の技術分野に特有の審査基準については省略する。また、発明の認定・対比などについては、「ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点」を参照されたい。後編では、進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点について解説する。進歩性に関する審査基準の記載個所、基本的な考え方、用語の定義については、「ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)」(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/38706/)を参照されたい。
■詳細及び留意点

(前編から続く)

4.進歩性の具体的な判断
4-1具体的な判断基準

 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3. 進歩性の具体的な判断」の第3段落に記載された「(1)から(4)までの手順」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.9、5.20

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準によれば、クレームされている発明が進歩性を有するか否かを判断するためには、以下の3つの判断ステップが行使される。

(i) 最も近い先行技術を特定する、次に
(ii) 発明の特徴および発明が解決する技術的課題を特定する、最後に
(iii) 当該発明が当業者にとって自明であるか否かを判断する。

 そして、(iii)のステップでの判断対象について、次のように規定されている。

「審査中に判断されるべきものは、実在する技術的課題を解決するために、最も近い技術水準と明確に区別される発明の特徴を適用することの動機付けが存在しているか否かについてである。そのような動機付けについては、先行技術文献に明示的に記述される必要はない。」

4-2進歩性が否定される方向に働く要素
4-2-1課題の共通性

 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(2) 課題の共通性」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.22

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、主引用発明と副引用発明との間で課題が共通することが動機付けの根拠となるということが明確には記載されていない。しかし、複数の先行技術文献を組み合わせる際に、審査官は、複数の文献が発明に関連する特別な課題に該当するか否かについて評価しなければならないとされているので、課題の共通性は動機付けの根拠とされると考えられる。

4-2-2作用、機能の共通性
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(3) 作用、機能の共通性」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、これに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。

4-2-3引用発明の内容中の示唆
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(4) 引用発明の内容中の示唆」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.26

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、引用発明を組み合わせることに関する示唆が動機付けの根拠となることは、直接的には記載されていない。むしろ、次に示すように、組わせることの示唆を見出す必要はないとされている。しかし、逆に、これは示唆があれば進歩性が否定される有力な理由になることを意味すると考えられる。

 「技術水準において、複数の周知文献の組合せについての何らかの明示的な示唆、動機付けまたは教示を見出すことは必要ではない。動機付けは別の分野であってもよく、また、別の課題を参照する可能性もあり、または当該分野の専門家がこの組合せを実施することについて動機付けられ得る場合には、包含される複数の技術的な面の間に関連付けおよび関係を合理的に作成することが即座に可能となる。」

4-2-4技術分野の関連性
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(1) 技術分野の関連性」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.22

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、主引用発明と副引用発明との技術分野の関連性が動機付けの根拠となるということが明確には記載されていない。しかし、複数の先行技術文献を組み合わせる際に、審査官は、複数の文献が同様な近似する複数の技術分野から派生しているか否かについて、評価しなければならないとされているので、技術分野の関連性は動機付けの根拠とされていると考えられる。

4-2-5設計変更
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章・選択による発明(5.33)、構成要件間の関係の変更による発明(5.48~5.50)、構成要件の置換えによる発明(5.51、5.52)

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、設計変更の類型に関する進歩性の判断について、以下が規定されている。

・選択による発明
 発明が単に多数の周知の可能性の中での選択からなり、当該技術分野の熟練者により、通常の設計手順によってなすことができ、かつ、予想外のいかなる技術的効果も生じない場合は、その発明は進歩性を有しないものとなる。

・構成要件間の関係の変更による発明
 構成要件間の関係における変化、例えば、様式、サイズ、比率、位置、操作関係、方法における手順の順序変更などが、発明の効果、機能もしくは使用の変化につながらず、または発明の効果、機能もしくは使用の変化が予期できる場合には、その発明は、進歩性を有しないものとなる。

・構成要件の置換えによる発明
 技術的課題の解決において、周知の要素を対応する機能を有する別の要素と置き換えることが、何らかの予想外の技術的効果が観察されずに行われるときには、その発明は進歩性を有しないものとなる。

4-2-6先行技術の単なる寄せ集め
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(2) 先行技術の単なる寄せ集め」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.27

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、先行技術の単なる寄せ集めによる発明に関して、次の規定があり、日本と同じ考え方が適用されると考えられる。

「クレームされている発明が、各々が日常形式で作動する一定の周知の要素の集合または
寄集めにすぎず、かつ、全体の技術的効果が、組み合わされた技術的特徴間の何らかの相乗作用または機能的相互作用を伴わない各部の技術的効果の総和のみである場合は、組合せによる発明は進歩性を包含しないものとなる。」

4-2-7その他
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」と異なるブラジル特許出願の審査基準の該当する記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.54

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性が否定される他の類型として、構成要件の省略による発明が、次のように規定されている。

・構成要件の省略による発明
「構成要件の省略による発明は、周知の製品もしくは方法の1または複数の要素が省略されている発明に関するものである。1または複数の要素の省略後に、その結果として、対応する機能が消失する場合、またはそのような省略が当該技術分野における専門家にとって自明である場合は、その発明は進歩性を有しないものとなる。」

4-3進歩性が肯定される方向に働く要素
4-3-1引用発明と比較した有利な効果
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(1) 引用発明と比較した有利な効果の参酌」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.30、5.34

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、組み合わせ、あるいは選択発明において予想外の技術的効果が生じる場合は、そのような発明は進歩性を有すると規定されている。

「組み合わされた技術的特徴が機能的に相互作用して、予想外の技術的効果を生じる場合、または換言すれば,組合せ後の技術的効果が複数の個別な特徴の技術的効果の総和とは異なる場合は、そのような組合せは、進歩性を有することになる。」
「発明が予想外の技術的効果を生じる選択から得られるときは、その発明は、(中略)、進歩性を示すものとなる。」

4-3-2.  意見書等で主張された効果の参酌
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 意見書等で主張された効果の参酌」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.15~5.17

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、意見書等で主張された効果の参酌については、次の規定がある。

「原則として、発明のいかなる技術的効果も、その効果が明細書に記載されているものから当該技術分野における熟練者によって認識できる限り、技術的課題の再定義のための基準として用いることができる。」 「発明の技術的効果を立証するために、審査請求の後であっても、技術的審査中に提示された結果/試験/試行などの場合には、出願人による意見書におけるそのようなデータの提示は、試験および試行によって明らかにされたものでなければならない。」

4-3-3阻害要因
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2.2 阻害要因」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.58

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、先行技術を組み合わせることを阻害する事情が進歩性を肯定する要素となる、と明確には規定されていないが、偏見または技術的な障壁を解消することが進歩性を肯定する理由であることが、次のように規定されている。

「あらかじめ存在する偏見もしくは技術的障壁の解消、または発明が先行技術によって統合された知識に反する経路をたどったことの立証は、進歩性の存在についてクレームを補
強することとなる。」

4-3-4その他
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2 進歩性が肯定される方向に働く要素」と異なるブラジル特許出願の審査基準の該当する記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.57、5.60

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性が肯定される他の類型として、構成要件の省略による発明が、次のように規定されている。

・解決されていない長年の技術的課題に対する解決策
「発明が長年のあいだ未解決の課題を解決する場合は、その発明は、進歩性を有するものとなる。」

・表彰を取得すること
「発明が技術的利点に関して何らかの表彰を受けるとき、それは、当該発明が進歩性を有することを意味する可能性がある。」

4-4その他の留意事項
4-4-1後知恵

 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(1)でいう「後知恵」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には、「後知恵」に関する明確な規定はないが、審査官の判断は、出願時の主題に関する熟練者の知識およびスキルに基づかなければならないとして、この行動を避ける必要性を定めている。

4-4-2主引用発明の選択
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.9、5.10

(2) 異なる事項または留意点
 日本の審査基準のように、主引用発明と副引用発明を選択するのではなく、ブラジル特許出願の審査基準では、審査官が判断の対象とする最も近い先行技術は、クレームされている発明に関する文献の1つ、もしくは2つの組合せ、または例外的に3つの文献からなるとされている。

4-4-3周知技術と論理付け
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(3)でいう「周知技術と論理付け」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準には相当する記載はないが、実務上は、当業者にとって自明でなく、予想外の技術的効果を有する発明であれば、それが周知技術に基づくものであるか否かにかかわらず、審査官は進歩性があることを示さなければならないとされている。

4-4-4従来技術
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(4)でいう「従来技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準にはこれに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。

4-4-5物の発明と製造方法・用途の発明
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法およびその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準にはこれに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。

4-4-6商業的成功などの考慮
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.59

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性の審査において検討される二次的な要因の一つとして、商業的な成功を獲得することが次のように記載されている、

「発明が技術のライセンス許諾のような商業的な成功を達成するときに、その成功が発明の技術的特徴に直接的に関連している場合、それは、当該発明が進歩性を有していることを意味することができる。ただし、成功がセールスや広告などのその他の要因に依る場合は、この基準は、進歩性の評価のための根拠として使用されてはならない。」

5数値限定
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.34

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、数値限定発の発明について、進歩性を有する場合について、次のように規定されている。

「発明が、方法における温度および圧力のような、既知の範囲内の操作条件の特別な選択を包含し、かつ、そのような選択が、当該方法の操作または結果として生じる生成物の特性に対して予想外の技術的効果を生じる場合は、進歩性を有する。」

 ブラジル特許出願の審査基準では、例えば、次の事例が記載されている。

「物質AおよびBが、高温で、物質Cへ変換される方法。50℃~130℃の間での方法は周知であるが、先行技術では、110℃~125℃との間の温度が使用されている。以前には実施されていなかったクレームされている63℃~65℃との間の温度範囲において、物質Cは予期された値よりも相当に高い収量となり、かつ、一段と高い純度を有するものとなった。」

6選択発明
 日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.31、5.32

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、クレームされた選択発明の効果が先行技術の効果に比べて優れているときに、その選択発明は進歩性を有することが規定されている。なお、このような効果を示すために、補足データを提出することができるとされている。

「選択特許における進歩性を判断するうえで、選択される要素または小帯域は、単に技術水準からの任意な選択ではなくて、技術水準に対する貢献を提示するものでなければならない。」
「発明の選択において進歩性を判断するために、先行技術には下位群の状態には予想外の技術的効果が存在していることが示されていないことを証明するのは、出願人の責務である。補足データが進歩性の立証のために受理できることに、留意すべきである。」

7その他の留意点 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「新規性」に記載されている、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定、およびこれらの発明の対比については、以下のとおりである。

7-1請求項に記載された発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.5、5.6

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、審査官によるクレームされた発明の検討について、次のように規定されており、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用されると考えられる。

「クレームされている発明は、前置き部分および特徴付け部分の要素を斟酌して、全体として検討されなければならない。」
「審査官は、進歩性を評価するために、技術的解決策自体だけを検討するのではなく、発
明が属する技術分野、解決される技術的課題および発明によってもたらされる技術的効果も検討しなければならない。」

7-2引用発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準にはこれに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。

7-3.  請求項に記載された発明と引用発明の対比
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.13

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、審査官の、クレームされた発明と最も近い先行技術との比較に関する手順について、次のように規定されており、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用されると考えられる。

「審査官は、発明の明確に区別される特徴を解析し、かつ、発明によって解決される技
術的課題を客観的に判断するものとする。したがって、審査官は、最初に、最近似な技術水準と比較してクレームされている発明の明確に区別される特徴を判断し、かつ、実際に発明によって解決される技術的課題を判断しなければならない。」

8追加情報
 これまでに記載した事項以外で、日本の実務者が理解することが好ましい事項、またはブラジルの審査基準に特有の事項ついては、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
 ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.61

(2) 異なる事項または留意点
 ブラジル特許出願の審査基準では、発明が創造される仕様について次の規定がある。

「発明が創造される仕様は、それが困難であるか、または容易であるかの方法に拘らず、発明の進歩性の評価に影響を及ぼさない。偶然に創造される一部の発明が存在するが、大抵の発明は、発明者による創造的な作業の結果ならびに科学的研究および長期の作業経験の結果である。」

■ソース
・ブラジル産業財産法
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf(日本語)
・2013年12月04日決議124号(ブラジル特許出願の審査基準第1部)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-tokkyo_kijun.pdf(日本語)
https://www.gov.br/inpi/pt-br/assuntos/arquivos-dirpa/resolucao_124_diretrizes_bloco_1_versao_final_03_12_2013_0.pdf(ポルトガル語)
・2016年7月15日決議169号(ブラジル特許出願の審査基準第2部)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-kijun_tokkyosei.pdf(日本語)
https://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/patentes/legislacao/legislacao/bloco-ii-patenteabilidade-resolucao-169-2016.pdf(ポルトガル語)
・日本の特許・実用新案審査基準
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/allbm.pdf#page=203
■本文書の作成者
Licks特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.12.06

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